389−2.地域通貨の概念



エンデの遺言            YS
   
 ミヒャエル・エンデ 
「三つの鏡」(1)井上ひさしとの対談:子孫にしかける戦争(朝
日新聞社、1989年)より 

    ◆         ◆         ◆ 
「この悪循環の中では二つに一つを選ぶしかない。世界を破滅させ
ることではあるけれども今のままの方向で進みつづけるか、それと
も大量の失業者と経済破局を覚悟するか。私が見ている唯一の克服
の道は、本当に理性的な洞察によって、お金の制度自体がその内部
ですっかり変わらなければならないことに、経済界の人たち自身が
気づくことです」と叙述し、人間の消費欲求に応えるためではなく
、利子を獲得するために現在の資本主義経済ではすべての経済活動
が運営されていることを語り、その金融制度の改革案の一例として
、「第二のお金」(利子をとることを禁止するお金)を『世界恐慌
時』に取り入れたオーストリアのヴェーゲル(Woergl、ドイツ語を
知らない人のために補足説明をするとoe=oウムラウト、チロル地方
にある小都市)という町の話をする。

「それ(第二のお金導入)以前には、地域の住民の半分が失業者で
した。また町の金庫は空でした。第二のお金を取り入れて、公的な
オーストリア通貨と並べて使わせだしたところ、奇跡のように聞こ
えるかも知れませんが、一年後には全員が職を得て、町の金庫が豊
かになり、正規の通貨(オーストリア・シリングのこと)はなくな
っていました。

オーストリア政府はそのことを耳にしたときに、この第二の通貨の
システムをただちに禁止しました。つまり、大抵の資本家たちはそ
んな考えが世間に広まるのを妨げる方向に強く動いたんです」 
   ◆         ◆         ◆ 
「私たち現代の文化がこれまでの過去のどの文化とも違う点につい
て言いますと、これまでの文化はそのつど自己の尺度を、直前の文
化、あるいはもっと以前の文化から得ていましたが、今日の私たち
が持つべき尺度というのは、過去からくる尺度ではなくて、将来を
見越して、そこから今の自分はどう行動すべきかと見ていく尺度で
す」 
   ◆         ◆         ◆ 
「現代のように人類全体がどんどん近づきあい、お互いの世界が一
つになり、しかもともに成長していく度合いが増せばますほど、確
かに何もかもが同じになって、個々のアイデンティティを見失う危
険性があります。・・・私は世界がうんと多彩な色を持つことを願
っています。とはいえ、その多彩さを古い世界の、血縁的、遺伝的
な関連性から取り出してこられるとは思わないのです。砂時計の砂
が下に落ちたときにひっくり返しますが、かつての人間意識は本能
によって精神世界を知覚しつつこの世に降りてきた。その砂が下り
きって上方が空白になった今、正しく反転させるのです。」 
   ◆         ◆         ◆ 
『エンデの遺言』(根源からお金を問うこと)NHK出版より 

「マルクスは個々の資本家を、国家という唯一の資本家にとって代
えれば、資本主義が克服できると考えたのです。それはマルクスが
もっていたヘーゲル的世界観によるものでしょう。ヘーゲルは国家
を神のように敬っていましたから。マルクスの資本論を読むと、
そこでマルクスが一種奇妙な幻想的姿勢で書いているのに気づきま
す。まず世界革命からプロレタリア独裁が起こり、そこから新たな
人間が生まれる、とマルクスは書くのです。この新しい人間が無階
級社会を築きます。これをマルクスは根拠づけようとせず、あたか
も地平線の日の出を幻視するように書くのです。これはやはり幻視
で、実際には新しい人間は生まれず、生まれたのはまるで変わらな
い官僚主義でした。 
  
 マルクスの最大の誤りは資本主義を変えようとしなかったことで
す。マルクスがしようとしたのは資本主義を国家に委託することで
した。つまり私たちが過去の70年間、双子のようにもっていたの
は、民間資本主義と国家資本主義であり、どちらも資本主義であっ
て、それ以外のシステムではなかったのです。社会主義が崩壊した
原因はここにあるのでしょう。」 

 このシステムが必然的にもたらすことがはっきり見えるようにな
る前に、理性と理解により、この資本主義システムが改革されると
いう幻想を私は抱いていません。つまり、史上よくあるように、理
性が人を動かさない場合、出来事がそれを行うことになるのです。

人間が引き起こす出来事がそれを行う。その出来事は、私たちの子
孫がこの惑星上で暮らしていくことを難しくすると思います。彼ら
は私たちを呪うことでしょう。そしてそれはもっともなことなので
す。私が作家としてこの点でできることは、子孫たちが私たちと同
じ過ちをおかさないよう、思考し観念を生み出しことです。」 

そろそろ終わりが近づいてきたようです。 
得丸さんは「地域通貨はその答えではないような気がする。通貨は
ぼくたちの心の中にまで入ってこないような気がする。」と書かれ
ましたね。心の中に入るための補完的な通貨が地域通貨の概念です。 
現在相次いで地域通貨やエコマネーに関する本が出版されています。 
一度読んでみてはいかがでしょうか? 

女性の皆様はさぞかし驚かれたことでしょう。かなり異質なジェン
ダー論になってしまいました。 
未来の為になにを守っていくのか少しでも考えるきっかけになれば
幸いです。おそらくそれは性別を超えて、お互いに尊重し合い、協
力し合わないと守っていけないような気がします。壊す側になるの
か、守る側になるのか今一度時代が問いかけているように思います。 
エンデの遺言を紹介しましょう。 

「個別の問題だったものがだんだんとつながりその包囲の輪を縮め
てゆく。近代自然科学の問題から、社会心理、宗教、文化、経済と
、問題はみな関連しています。どれか一つの問題を取り上げようと
すると、他の問題も浮上して、すべての問題を同時に解決できない
ので困るのですが、実はそれをしなければならないのです。落城の
ときと同じで、どの城壁の窓から外を見ても、そこには包囲軍がす
でに迫っているのです。」 
  
「お金は人間がつくったものです。変えることができるはずです。」
==============================
どうなんでしょう        どばしようこ 
YSさん 

> 心の中に入るための補完的な通貨が地域通貨の概念です。 

ですが、どうも今のところ、地域通貨の利用者の具体的な姿がどう
も浮かんでこない、というのがわたしの個人的な感想です。 

YSさんは利用されているのでしょうか。 
どんな感じでしょうか。 
奥さんやお子さんの反響は? 
==============================
Re:どうなんでしょう(地域通貨) YS

 地域通貨は昨年5月のNHK衛星放送『エンデの遺言』で一気に
関心が高まったようです。 
私の方は以前から興味を持っており、アメリカ・ニューヨーク州の
「イサカアワー」なんかを調べていました。もちろん番組の方も見
ましたよ。現在「イサカアワー」の会員は1200人を超えている
んじゃないでしょうか。 

「つむぐ」ための努力は世界でさまざまな試みが行われています。
特にアメリカの「タイムダラー」はボランティア・サービスに限定
した地域通貨です。1980年に創設され今は全米38州の160
前後の郡で実施されています。 
このボランティアの範囲も時代を追うごとに拡大しつつあり、話し
相手、買い物代行などの高齢者へのサービスや子守、育児などの子
供へのサービスなどが実際に行われています。 

ボランティア活動も最近教育基本法見直し問題で話題になっていま
すね。義務化するべきものではなく、自発的に取り組むことができ
るような意識を育てる教育が本来求められるべきではないでしょう
か。「タイムダラー」なんかはいいヒントになるように思います。

我家では現在試験中です。 
文房具屋さんで「おこずかいちょう」を買ってきて娘ふたりと私の
3人でゲーム的に試しています。 
「月日」「ことがら」「はいったおかね」「つかったおかね」
「のこったおかね」からなる単純な帳面ですが、算数の勉強にもち
ょうどいいようです。 

「かたたたき」や「ママのお手伝い」で私は赤字続きです。 
「折り紙」や「あやとり」の技術を習得することで逆転を目指して
います。 

実際にやってみて思うのは娘達が「何をしてあげればいいか」を考
えるようになりました。さまざまなサービスを考えてきます。赤字
解消のためにこちらも対抗あるのみです。 
かみさんも最初は冷めてみていましたが、最近はちょくちょく利用
しているようです。 

来年にはもう少しレベルアップを行い、効果があれば小学校にも
提案してみようと思っています。 
地域通貨はあくまでも補完的なものでしかありません。 
しかし、ばらばらになったものを「つむぐ」ための有効な手段のひ
とつであることは間違いないでしょう。精神論だけでは何も解決で
きないと思います。 

育児は損だと考える人がいます。でも子供が欲しくてもできない人
もいます。子供を亡くしたあとで「してあげたかったことができな
い」ことを嘆く人もいます。 
そうした人たちを「つむぐ」工夫は必要だと思いますよ。 

参考 
「地域通貨」?(第9部「共に生きる明日へ」) 
◆人々を結ぶ温かい「お金」 
http://www.kyodo.co.jp/kikaku/yutaka/yutaka9-1.html 

==============================
地域通貨やエコマネーはどのようにして決済が保証されるのだろう
か             得丸久文 

>得丸さんは「地域通貨はその答えではないような気がする。通貨
>はぼくたちの心の中にまで入ってこないような気がする。」と書
>かれましたね。
>心の中に入るための補完的な通貨が地域通貨の概念です。 
>現在相次いで地域通貨やエコマネーに関する本が出版されています。
>一度読んでみてはいかがでしょうか? 

富山でも市民活動家たちが一生懸命エコマネーの話をしています。

でも、まだ実現しない。 
だから試したことはないのだけど、僕なりに疑問があります。

エコマネーというものは、どのようにして決済が保証されるのです
か。日銀券との兌換性はあるのですか。 

つまり払う人ともらう人のアンバランスが生じた場合に、どのよう
にしてバランスを回復するのですか。
どなたか教えてください。 
==============================
Re:地域通貨やエコマネーはどのようにして決済が保証されるのだ
ろうか            YS   

 得丸様へ 

御質問の内容は下記URLを参考にして下さい。 

『エコマネー・マニュアル V0.0』の「第1章 はじめに知っ
て頂きたい知識」 
http://www.johoka.ne.jp/eco_money.html 

地域通貨自体あくまでも補完的なものです。 
一定の地域コミュニティでの経済循環を活性化させるためにあり、
現在のマネーとの互換性はありません。 

運営についてはLETS(カナダ、イギリス、フランス、オースト
リア、ニュージーランドなど1600地域に普及)の場合は、執事
と呼ばれる運営責任者と執事より運営を委託された記録調整官によ
り構成されるネットワーク組織があたります。 
またイサカアワーズの場合も市民によって設立されたイサカ・アワ
ーズ委員会(NPO)が貨幣を発行しています。 

研究対象としてはスイスのWIRを参考にされることをお勧めしま
す。地域住民と中小企業のために実施されてスイスの補完通貨制度
ですが、1934年に開始され現在の会員数は約8万人、年間取引
額も25億スイスフラン(2000億以上)に達しています。ここ
ではフランとWIRが平和的に共存しています。 
スイスといえばバーゼル・クラブ(国際決済銀行=BIS)のある
ところです。 
金融の総本山と呼ばれるこの土地で危機に対する備えとして活用さ
れています。 

「現代」1月号でも村上龍さんが「地域通貨の幻想と現実」と題す
るインタビューで同じようなことを書いていますが、地域通貨の取
り組みが「個」を造り出すきっかけになるかもしれないと思います。 
普通の会社人間だと「コミュニティーに提供できるサービスはあり
ますか?」と問われた時、ほとんどの方はきょとんとしてしまうの
ではないでしょうか? 
おそらく考えたことすらなかった問題です。 
「部長ができます」「課長をやっていました」「キャリアウーマン
でした」と答えても買い手がつきません。自分自身を振り返るきっ
かけになるはずです。 
またこれまでその価値が見過ごされてきたものが見直されるきっか
けにもなります。育児や家事などはその対象でしょう。 
ジェンダ−においても新たな視点を提起させるものとなるはずです。

例えば以前に書きましたが、我家には家型、ドーム型などひととお
りのテントがあります。 
私は子供達を集めて近くの公園でその設営方法を教えてあげること
ができます。集めた子供からはその報酬をいただきます。 
学んだ子供達はその親に教えることですぐに帳消しになります。 
そして家族揃ってキャンプに行くのかもしれません。 
私は子供達からいただいた報酬で、今度は自分の子供に教えるため
に折り紙教室に使うこともできます。些細なことですが、意外にキ
ャンプ場で悪戦苦闘している様子を見かけるので御利用いただける
人がいるのかなあとおもって書いてみました。 

いずれにせよもうひとつのお金はあってもいいように思います。 
しかし得丸さんに一言申し上げたいのですが、否定するにはそれな
りの勉強は必要ではないかなあと思います。 
どうでしょう。 
==============================
地域通貨の制度はなくても、心だけ活かすってことはできるかな 
                   得丸久文 

 YSさん、 

地域通貨は通貨ではなく、補完的あるいはシンボリックなお金とい
うわけですね。ばらばらになったものを紡ぐための手段だというこ
とですね。 

大切なのは、紡ごうとする心。 
だとすると、制度抜きにして、その心だけを前面に出すように意識
が変われば、地域通貨なしでもよくなりませんか。 

制度に依存するのではなく、必要なときに必要なことをするよう自然
と体が動くこと、それが大切な気がします。 
==============================
Re:地域通貨の制度はなくても、心だけ活かすってことはできるかな
>できますよ。それは遊び心かもしれません。 YS

 得丸様 
おっしゃるとうりだと思います。 
しかし残念ながら「つむぐ」工夫を考えないといけない時代になっ
たのではないでしょうか? 
私自身は地域通貨の信奉者ではありません。工夫のひとつに過ぎな
いと思います。また地域通貨の持つ限界もすでに見えてきました。
大きな欠点が閉鎖性です。従って地域通貨自体のグローバルな連携
が必要です。ここに大きな矛盾を抱えています。 
ただしインターネットは使えるのかもしれません。 

私は日本人女性は最後の含み資産だと思うことがあります。 
だから古臭い制度に利用されて欲しくないと思うのです。 
世紀の変わり目にこのことを問いかけてみたかった。 
選択肢のひとつとして地域通貨もあります。 
もっといい方法があるのかもしれません。 
ただし精神論だけでは何も変わらないと思います。 

いったんバラバラになったものを「つむぐ」ことは難しいですよ。

コラム目次に戻る
トップページに戻る