378−2.行く世紀,来る世紀



Mond

 今世紀も残り少なくなり世紀末的世相なのだろうか不愉快な事の
多い時代になってきている。いまから約20年前に「悪の論理」(倉
前盛道著)という本を読んで、21世紀に日本という国が残っている
のか不安になったことを覚えている。この本の中で著者は“エネル
ギーと食料と情報を握るものが世界を制す”とか、“ソ連は遠から
ず衰退する”など予言者めいたことを述べていた。またエンブレム
(家紋)地政学なるものを提唱してもいた。20年後の今日、これを
検証してみるのも面白いと思う。

 周知の通り、今世紀の主役はまさしくアメリカだった。概観する
と19世紀以来世界各文明を分割植民地化した西欧各国は最終段階に
至り覇権を賭けて第一次世界大戦を戦い、疲弊した。その少し前、
日本はその存亡を賭けてロシア帝国との日露戦争に勝利したが、こ
の戦いは西欧の世界分割競争が、分割される側からの反撃に合い頓
挫したことを意味し、西欧諸国の疲弊と厭戦気分のなかで非西欧世
界が復活する端緒となった。ここに登場するのがアメリカとソ連及
び日本である。アメリカは疲弊した西欧文明の後継者であり、その
目標は西欧文明の覇権を確立し地球上を単一の西欧文明のみにする
(西欧化=グローバリズム)ことである。ソ連は共産主義世界の確
立が名目だがその本心はロシア文明(ギリシア正教文明の後継者)
の世界化である。一方、日本は領土拡大が関の山で、日清・日露の
両戦役に勝利し植民地化を免れて、世界戦略も持たず夜郎自大に酔
いしれていた。

 アメリカの世界戦略はヒトラーがドイツに出現したことで確定し
た。欧州ではヒトラーの覇権を阻止しアングロサクソンの覇権を確
立する事とアジアでは日本の勃興を快く思わないシナ、一度は敗北
し復讐に燃えるソ連及び日本に植民地を奪われそうな西欧諸国を仲
間に引き入れて日本を潰すことであった。つまり西と東では戦争の
意味が違う。西は西欧文明内の覇権争い、東は異文明潰しの一環で
ある。
 昭和15年の自動車の総生産台数は日本5.5万台、アメリカ680万台
であった。当時の日米戦はマイク・タイソンに重症の肺結核患者が
殴りかかるような趣きがある。実際、南方戦線はアメリカ人の自由
気儘なインデアン狩り、バッファロー狩り以外の何ものでもなかっ
たことは彼らのカメラマンが残した数々のフィルムで明らかだ。
日本は“窮鼠猫を咬む”ように、アメリカを一発ぶん殴って、殺さ
れた。

 かくして第二次世界大戦なるものが終わってみればソ連と中国が
台頭してきた。アメリカはようやくアジアに於ける日本の地勢と役
割を理解し、「属国化」してその存在を認めた。アメリカの次の目
標はソ連である。ソ連つまりロシアは西欧文明に属さない。属した
い強い願望と独自性の中でもがいている国である。共産主義の衣は
独自性の強い表明である。冷戦時代が続いたがアメリカの圧倒的な
勝利の中、アメリカを一発も殴りもしないでロシアは沈没した。冒
頭の倉前氏の予言は成就されたのである。

 これでアメリカの一国覇権が確定したように見える。それが20世
紀末の状況である。
 果たしてアメリカの覇権は永続するのだろうか。それには大きな
疑問符を打つべきと思う。ドイツは再び東に勢力を拡大しつつあり
、中国もまた近代化しつつある。なにより、インドが台頭してきた。
アラブ諸国は十字軍以来の対立関係の中、テロルを武器に西欧文明
を目の仇にして復讐を考えている。非西欧文明諸国がまるで「モグ
ラたたき」でもしているかのように勃興してくるのだ。

 一方、アメリカの工業力はソ連との軍拡競争が崇ったのか確実に
衰退途上にある。マザーマシンの生産国は既に日本に移った。世界
中に散らばった日本系製造業の総体は既にアメリカを凌駕している。
アメリカ覇権の源は「金融と情報と圧倒的な軍事力」の独占にある。
冒頭予言のエネルギーと食料については技術の進歩により逼迫感は
なくなった。情報と軍事技術だけはアメリカは独占するつもりで、
日本へは陰に陽に圧力を加えている。それより重要なことは工業力
を失ってなおその力を維持する方法として金融により――石原慎太
郎氏に言わしめれば――“日本に稼がせて金融の技術力で吸い上げ
る”事を目論んでいることだ。しかし、こんなことは正気の沙汰で
はあるまい。アメリカの金融はいまにも転びそうである。衰退する
アメリカの選択肢はそれほど多くはない。一番確実な方法は圧倒的
な軍事力にものを言わせて世界を押さえ込むことである。「アッシ
リア合衆国」に変質しないことを切に願いたい。異文明国ユーゴス
ラビアに対する最近の軍事行動を見るにつけ、現実になってきてい
るのではないかと危慎される。

 最後になったが、エンブレムすなわち家紋が日本と西欧のみにあ
るのは両文明に於いてそれぞれ独自にかつ同様の“封建制社会”を
経過したからである。家紋は日本と西欧以外の文明にはない。シナ
にもコリアにもない。なぜ西欧以外で日本だけが近代産業社会化に
成功したのか炯眼の読者はこれで理解できると思う。これは我が日
本文明がシナ文明の多大な影響下に成長した朝鮮文明のような従属
文明ではなく、独自の発達を遂げた自律した文明であることを意味
する。関孝和に代表される微積分学などの日本数学の発達を考えて
もそれは十分主張できるはずだ。そしてこの20世紀にかけて日本が
いかに世界史に創造的に貢献してきたかに思いをいたせば、決して
野蛮な欧米文明の風下に立つべき文明ではないし、シナやコリアに
阿訣追従的迎合をこととして、日本人としての矜持を放棄したよう
な品のない行為を止めるべき事は今更言うまでもない。

Mond


コラム目次に戻る
トップページに戻る