得丸です。 東京で3年続けた鷹揚の会の読書会は、最後に福田宏年著 「時が紡ぐ幻 近代芸術観批判」(集英社、1998年)を2回にわた ってとりあげることでひとまず終わりとします。 (12月19日 前半、1月19日 後半、港区生涯学習センターにて) その後は、「アトリエ ことばの力」と名前を変えて、言葉の もっている力を最大限引き出すための技法の習得と、概念の整 理を行うつもりです。 たとえば詩の言葉です。 詩の言葉というのは、概念になる前の言葉ではないでしょうか。 だから、意識のどろどろとした部分がそのまま表現となってい て、力を持っている。 意味を追い掛けるのではなく、言葉そのものとそれらの連なり の喚起するイメイジを、あるがままに感じてみませんか。 土曜美術社出版販売から最近出版された「現代詩の10人 アン ソロジー 坂井信夫」(2000年、2500円、ISBN 4-8120-1249-X C0392)所収の詩を読んでいて、そんなことを思いました。 僕の気に入った詩をひとつご参考までに紹介します。 実際に声に出して詠んでみてください。なんだかわからないけ ど心地よい気分になります。自分がくらげになったような、自 分自身が海の中をただよっているような、、、 詩のことばは、日頃概念と格闘して疲れている脳みそを、やさ しく包み込んでくれます。 ******************************************************** くらげ うばわれるものもなくあたえるものもなく しおみずはたえまなくながれこんできてはな がれさり付着する夜光虫をこばむことなく からみつく藻からのがれしみこんでくるやみ をすいこみ るいるいとした屍魚たちのうえ をすぎけだるい触手をうごかしては浮游ぶつ をくらい ただようところはいつもふるさと でありうずもれた貝にみつめられることなく すべてをうけいれることによってすべてを こばみ しおみずとともに祈りをはきだしう みだすこともなく ころすこともなくきのう はきょうでありきょうはあしたであり瞬間は 永遠でありしおみずにあたたかくつつまれ ひとでのゆびさすほうへとかぎりなくただよ い おびやかされるものは類のみでありしお みずとともになみだをながし散乱するうろこ のあいだをぬけてみずよりもとうめいになり しおみずはいつもゆりかごであり ちちも なくははもなく飢えだけがどこかへどこかへ とただよわせ うけつぐものもなくのこすも のもなくかかわりをもつものはあたたかいし おみずとつめたいしおみずのみであり ねむ ることもなくめざめることもなくむげんには いつづけるなまこにむごんのあいさつをおく り おびただしいかにのむくろにわかれをつ げ ひかりがおしよせればしずみ うみなり におびえてはなにものもかんかくすることな くきずつき なみのきらめきをのがれ そら のしずけさをきくためにうかびあがり うみ へびの痕をはるかにみつめ ながれこむしお みずにたましいはあらわれ ただようために ただよい ふたたびあうものはなにもなく ****************************************