369−1.アトリエ ことばの力



得丸です。

東京で3年続けた鷹揚の会の読書会は、最後に福田宏年著
「時が紡ぐ幻 近代芸術観批判」(集英社、1998年)を2回にわた
ってとりあげることでひとまず終わりとします。
(12月19日 前半、1月19日 後半、港区生涯学習センターにて)

その後は、「アトリエ ことばの力」と名前を変えて、言葉の
もっている力を最大限引き出すための技法の習得と、概念の整
理を行うつもりです。

たとえば詩の言葉です。

詩の言葉というのは、概念になる前の言葉ではないでしょうか。
だから、意識のどろどろとした部分がそのまま表現となってい
て、力を持っている。

意味を追い掛けるのではなく、言葉そのものとそれらの連なり
の喚起するイメイジを、あるがままに感じてみませんか。

土曜美術社出版販売から最近出版された「現代詩の10人 アン
ソロジー 坂井信夫」(2000年、2500円、ISBN 4-8120-1249-X
C0392)所収の詩を読んでいて、そんなことを思いました。

僕の気に入った詩をひとつご参考までに紹介します。

実際に声に出して詠んでみてください。なんだかわからないけ
ど心地よい気分になります。自分がくらげになったような、自
分自身が海の中をただよっているような、、、

詩のことばは、日頃概念と格闘して疲れている脳みそを、やさ
しく包み込んでくれます。

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くらげ

うばわれるものもなくあたえるものもなく 
しおみずはたえまなくながれこんできてはな
がれさり付着する夜光虫をこばむことなく
からみつく藻からのがれしみこんでくるやみ
をすいこみ るいるいとした屍魚たちのうえ
をすぎけだるい触手をうごかしては浮游ぶつ
をくらい ただようところはいつもふるさと
でありうずもれた貝にみつめられることなく
 すべてをうけいれることによってすべてを
こばみ しおみずとともに祈りをはきだしう
みだすこともなく ころすこともなくきのう
はきょうでありきょうはあしたであり瞬間は
永遠でありしおみずにあたたかくつつまれ
ひとでのゆびさすほうへとかぎりなくただよ
い おびやかされるものは類のみでありしお
みずとともになみだをながし散乱するうろこ
のあいだをぬけてみずよりもとうめいになり
 しおみずはいつもゆりかごであり ちちも
なくははもなく飢えだけがどこかへどこかへ
とただよわせ うけつぐものもなくのこすも
のもなくかかわりをもつものはあたたかいし
おみずとつめたいしおみずのみであり ねむ
ることもなくめざめることもなくむげんには
いつづけるなまこにむごんのあいさつをおく
り おびただしいかにのむくろにわかれをつ
げ ひかりがおしよせればしずみ うみなり
におびえてはなにものもかんかくすることな
くきずつき なみのきらめきをのがれ そら
のしずけさをきくためにうかびあがり うみ
へびの痕をはるかにみつめ ながれこむしお
みずにたましいはあらわれ ただようために
ただよい ふたたびあうものはなにもなく

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