368−1.オーストリアのジェンダー問題と社会保証



 チッペルレゆり 

オーストリアのジェンダー問題を少しご紹介しましょう。知り合い
などから聞いた話しで、正確な情報の確認は取っていませんが、 
2〜3年ほど前から、男性でも育児休暇が取れるようになりました。

日本で1年間育児休暇が取れるのは公立学校の教師だけだと思いま
すが、オーストリアはすべての職種で1年間の育児休暇が保証され
ているはずです。1年目は給料の70%が支給され、2年目の休暇
を望む場合は無給になるようです。育児休暇の後は、問題なくもと
の職場に復帰できるはずです。母親が育児休暇を取ってもよいし、
父親のほうが育児休暇を取ってもいいのです。 

また、もともと看護婦に加えて看護士、男性の幼稚園の先生もいま
す。看護の仕事は力のいる仕事が多いので、男性の方が都合がよい
場合がいっぱいあります。非常に合理的です。また、子供をそとで
遊ばせる場合など、男性の幼稚園の先生のほうが積極的に子供と一
緒に遊んでくれて、圧倒的に子供に人気があるようです。 

ただ、女性の社会進出となると、もともとローマカトリックのイタ
リアが近いため保守的なカトリックの勢力が強く、あまり目覚しい
女性の活躍が見られません。もともとアルプスの山国で農業国(牧
畜)ですし、ハプスブルグ家のマリア・テレジアに体現されている
ように、家事に専念する子沢山の女性が理想的な女性像として信奉
されているように思います。

また、国が豊かになったために社会制度がどんどん進み、医師の夫
婦などの場合に女性のほうが開業しようとすると、一家を支えてい
る他の男性医師の開業を優先するために許可が降りない、というよ
うなことがあるようです。これは、能力とは無関係に「オーストリ
ア人失業者を優先する」のと同じ傾向で、「扶養家族のいる男性を
優先する」ということでしょう。

教育を受けた外国人や女性の活躍の場は、特に田舎では少ないよう
です。オーストリアの大学進学率は10%程度で、高い教育を受け
た女性自体が少ないとも言えます。 

また、女性の政治家もけっこういますが、やはり、「女性の政治家
」としての扱いを受けるようで、男性と同様に扱われているわけで
はないと思います。外務大臣は女性で、女性らしい外交で外交摩擦
を和らげることを期待され、副首相のリース・バッサーはまさに前
自由党党首のヨルグ・ハイダーの人形です。最近、女性問題関係の
大臣に男性が就任したので「それはおかしいのではないか」と、物
議をかもしました。(^^; 

また、オーストリアには9ヶ月の兵役がありますが、軍隊に行けば
、無線技術や大型トラックの運転、軍用機の操縦などが選択で習え
る特典があるので、これも数年前のことですが、女性が軍隊に行け
ないのは「女性差別」だとして、女性から兵役志願がありました。

結局、女性には兵役の「義務」はないが、希望すれば男性と同じよ
うに兵役につけることになりました。別に署名運動や裁判や争いが
あったわけではなく、数人の要望が簡単に受け入れられて、入隊を
許可され、ついでに制度として定着してしまったように思います。 

このように、正当な要求であるなら例外が簡単に認められ、それが
自然に制度として定着していくシステムは、なかなかおおらかでよ
い面だと思います。社会が非常に保守的で自由がない面が多いだけ
に、どこかに突破口があり、かなり極端で大胆と思われることも許
可される場合があるのです。例えば町や村の建物は、周りとの調和
を考えて、同じようなデザインでなければ許可されませんが、どう
いうわけかその真中に、フックスやフンダートバッサーの極彩色の
流線型の建物が建ったりします。 

ヨルグ・ハイダーのような異色な政治家が突然現れて人気を得るの
も同じような現象と思われますが、今後このような傾向や社会は、
どのように変化していくのでしょうか?ヨルグ・ハイダーの提案し
ている高額児童手当政策は、ヒットラーの純血主義や「産めよ増や
せよ」政策と似ています。「子沢山」の主婦が信奉され、「働く女
性」は排斥されるでしょう。女性を働かせず、男性だけで大家族を
養うのは、経済的に無理な政策だと思います。

そこで、外国人労働者が奴隷の強制労働者のように使われることに
なるのではないかと思いますが、外国人は皆逃げて行くでしょうね
。勢い、税金が非常に高くなります。現在でさえオーストリアの租
税負担率はEUで最高です。これ以上社会保証を進めて、「国がお
金を支給してあげる」という嘘を続けても、国民は税金を払えなく
なってしまうでしょう。そんな社会は国民にとっても住みよい社会
ではありまえせん。

国民も税金の安い他のEU諸国に逃げていかざるを得ません。早く
有権者がそれに気がついて、真に民主的な政府を育てる方向に向か
わないと、この国の将来は危ういように思います。 

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