348−2.「二重国籍論」への疑問



辻本
  本コラムでは二重国籍への積極的な賛成の意見が見られます。
しかし私はその考えに疑問を持ちます。抽象的な国名ではリアリテ
ィに欠けますので、日本と韓国という、いま外国人参政権で問題に
なっている国で論を進めたいと思います。 
 日本は1985年に国籍法を改正し、それまでの国籍取得の父系
主義から父母両系主義に変えました。従って父か母、どちらかが日
本人であればその子は日本国籍となりました。 
 一方の韓国では、昨年度に国籍法を改正したという話です。私の
手元に数年前の改正案がありますが、その通りに改正されたそうで
す。私は未確認なのですが、これを前提にします。 

 韓国の国籍法もそれまでの父系主義から父母両系主義に変わりま
した。これにより父か母、どちらかが韓国人であればその子は韓国
国籍となりました。 
 拙論(http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt)第19題にある
とおり、在日韓国人の結婚は8割以上が日本人を相手とするもので
、同胞どうしの結婚の割合は十数パーセントです。 
 とすると、この8割以上の在日は、その子が日本国籍と韓国国籍
の両方を取得できる二重国籍者となります。別に言えば、その子ら
は二重国籍となる権利をもっています。 

 しかし在日韓国人が日本人と結婚した場合、出生届を役所に届け
ると、その子は父または母の戸籍に登載され、日本国籍となります
。外国人登録されることはありません。次にこの両親が韓国大使館
あるいは領事館で所定の手続きを行なうと、韓国の戸籍に登載され
ることになり、韓国国籍となります。このとき初めて二重国籍とな
るわけです。 

 韓国大使館等で行なう手続きは、当然韓国語で行ないます。漢字
のないハングルです。韓国語を知らない在日韓国人がこれをしよう
とすると、通訳を雇わざるを得ません。韓国語を知らない在日韓国
人が日本人と結婚しても、将来韓国に帰ることはないし、言葉もわ
からないので、本国へのこのような手続きをすることはほとんどあ
りません。つまりかれらは二重国籍を取得できるのに、そういった
ことをする行動をしません。すなわち、二重国籍は可能であるが、
そういう選択をほとんどの在日韓国人はせずに、子どもには日本国
籍を持たせています。 

 また拙論にあるように、在日韓国・朝鮮人の帰化者数は毎年8千
人以上一万人に達します。60万人前後の在日韓国・朝鮮人の人口
からすればこれは大きな数字です。 
 つまりは在日韓国人は様々な選択があるなかで、大勢として日本
国籍を選択してきたし、これからもそうであろうということです。 

 二重国籍者は,二つの国からそれぞれ真正のパスポートを取得・
行使できることになり、従って個人の同一性判断が困難となります。
例えばある国にA国人として入国し、B国人として出国できること
になります。入国された国は、二つのパスポートを持つ人が同一人
物であることの確認が難しく、従って出入国管理が混乱することに
なります。ということは、国際スパイや工作員、国際犯罪者にとっ
てまことに便利なものだということになります。 

 また例えば、二重国籍者は自分の属する二つの国で別人と結婚
(いわゆる重婚)することができます。世界には男性に限り重婚を
認める国がありますが、日本を含めほとんどは認めていません。
しかし二重国籍者はそれぞれの国で婚姻届を出すことができ、その
国はそれを認めざるを得ません。つまり合法的に重婚が可能となり
ます。 

 あるいはまた二重国籍者が第三国の人と結婚すると、その子供は
三重国籍、四重国籍となる可能性が出てきます。そうすると更に多
くのパスポートを持つことが出来るし、更に多くの重婚が出来るこ
とになります。 
 極端な例を出しましたが、二重国籍の問題点を分かりやすくする
ためです。 
 戦前の国際連盟でも、戦後の国際連合でも、国際法委員会で無国
籍と二重国籍とを解消させる旨が決議されていたと記憶しています。 
 国家が自国民の範囲を決める国籍は、それぞれの国で事情が異な
るので、国際交流が盛んになると、二重国籍の発生は避けられませ
ん。しかし、国家が国家たる以上は、二重国籍を解消し、単一国籍
にしようとすることは当然のことと思います。 
 日本では二重国籍者は22歳になるまでにどちらかの国籍を選択
せねばなりません。韓国も同様です。おそらく多くの国は、このよ
うな二重国籍の歯止めをしていると思います。 
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村上と申します。 

 少々付け加えたく思います。 
 まず、御推測の通り、韓国国籍法は、1997年12月13日に改正され
ております。 
 それから、 

> うる覚えの記憶ですが、日本・韓国のように父親によって
国籍がきまっていた国は、成人までに国籍を選択する傾向にありま
すが、欧米のようにその国に生まれれば自動的に国籍を取得できる
国では、国籍選択があるように聞いていません。 

 ヨーロッパの国籍法では、外国の国籍を取得した場合、自国の国
籍を「放棄」(la renonciation)することで、国籍の選択ができます
(たとえば、ベルギー国籍法22条)。また、単一国籍主義は、現在
、日本、韓国などごくかぎられた国でしか採用されておらず、ヨー
ロッパ、アフリカ、南米などは、積極的に二重国籍を認めており、
これが世界的傾向であるといえます。 

>欧米についてはよくは分かりませんが、二重国籍者に対し旅券を
二重に出さないなどの措置はとられているのではないですか。 

 二つの国のパスポートを持っていることはよくあります。たとえ
ば、わたしの友人の一人は、アルゼンチンとイタリアの両方の国籍
とパスポートを持っております。 

 失礼いたしました。 
Taro MURAKAMI 
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二重国籍の問題が問題! ふる@鶴川 (BBSより)
解説:辻本さんとふる@鶴川さんは、数回の論議をしていますが、
ここでは、最近の反論のみ採録します。詳しくはBBSで見て下さ
い。(管理人Tより)

 > 、他国における婚姻の事実は取り消せるものではありません。
つまり民法上の重婚はそのまま残ることになります。 

 重婚の場合、重婚を受けた相手の配偶者の気持ちが重要です。
重婚であることを罪に問えるのは、事実上、重婚を受けた配偶者に
よる告発です。当局は、犯罪の関係でもない限り、重婚の事実を知
り得ることはないからです。 
 重婚であっても配偶者が婚姻関係を継続することを望めば、罪に
問うことよりも他の婚姻関係の解消を求めて、別の婚姻関係の解消
を配偶者に求めると思われます。 
 逆に、自分との婚姻関係の継続を望まず、配偶者を罪に問うなら
ば、自分の婚姻関係の取消を求めます。日本ですと婚姻関係の取消
は裁判所に取消を請求します。この請求をできる者は、当事者・親
族、および、検察官が請求します(民法第744条)。 
 なお、婚姻の登録に限らず、違法や悪意の登録であっても、取消
を求めなければ登録事項がその事実のみで無効にならないのは他で
も同じです。 

> 日本の刑法は日本国内に居住するすべての人に適用されます。
外国人も例外ではありません。逆に一旦国境の外に出ると,当然の
ことながら日本の刑法は適用されません。いわゆる国外犯に該当す
る以外は、日本国内では違法でもその国で合法なら、何ら罪に問わ
れることはありません。 

 おしゃるとおり、言葉が足りませんでしたが、このケースは二重
国籍者であっても日本にいる限り、日本の刑法が適用されることを
指しています。複数の国籍を有することで有利がないことを意味し
ています。 
 国際私法を専門にしている修士出身の知人にも確認したのですが
、「二重国籍者に有利な点があるか?」の問いに対し、複数国籍を
有するだけ、その国の法律に従わなければならない点が増えるので
不利な点が生じるだろうとの回答でした。国外犯のケースが国籍を
有する国の分だけ増えるわけですね。 

>  その「ちゃんと機能して」いるとおっしゃっていますが、それ
を保証する組織あるいは機関というものは具体的に何なのですか。
実際には各国の裁判等(各国家の公権力)でしかないと思うのです
が。もしそうであるなら、それは「国を超えて調整する」ものでは
ありません。 
  
 それは、国際私法を勉強されるとご理解いただけると思います。
我が国では「法例」に従い、国を越えた民法上の取り扱いを処理し
ます。 
 もっとも、日本での民法上の処理のようにすっぱり適用されるわ
けではなく、例えば、外国人との間にできた子供の親権や認知の争
いを日本の裁判所に提訴するとします。簡単に言えば「○○の事例
については、相手国の法律に従う・・・」などの調整ですので面倒
なことは否めません。 

>  徴兵拒否が罪になる国があります。単一国籍者では罪になるこ
とが二重国籍者では罪にはならない、というのはいつかは大きな問
題になると思います。 

 それが、二重国籍者の唯一有利な点ではないですか・・・ 
 生地主義の国(例:アメリカ)では、両親の国籍に関わらず自国
で生まれた子供に国籍を付与します。海外赴任の日本人の両親が、
アメリカで子供を産んで日本国籍の他にアメリカ国籍を得ることは
、ごく一般的です。 
 アメリカは徴兵を採用していませんが、仮に採用しているとして
先の子供が徴兵されることを嫌がり、アメリカ国籍を放棄すること
で何か問題があるでしょうか? 逆に、その子がアメリカに忠誠を
尽くして徴兵を受けることもあります。 

 <<おまけ>> 
1 日本人の人が海外の永住権を取得して日本国籍を喪失しても、
日本の相続権は喪失しません。日本の相続は血統主義ですから, 日
本国籍を喪失しても,日本の戸籍に記載が無くても血の繋りが立証
できれば相続権があります. 

2.日本人が重国籍となる例としては,次のような場合があります。
(1)日本国民である母と父系血統主義を採る国(例えば,エジプト
   )の国籍を有する父との間に生まれた子 
(2)日本国民である父または母と父母両系血統主義を採る国(例え
  ば,フランス)の国籍を有する母または父との間に生まれた子
(3)日本国民である父または母(あるいは父母)の子として,生地
  主義を採る国(例えば,アメリカ)で生まれた子 
(4)外国人(例えば,カナダ)父からの認知,外国人(例えば,イ
  タリア)との養子縁組,外国人(例えば,イラン)との婚姻な
  どによって外国の国籍を取得した日本国民 
(5)帰化または国籍取得の届出によって日本の国籍を取得した後も
  引き続き従前の外国の国籍を保有している人 
==============================
(Fのコメント)
 諸外国の日本人たちと付き合うと、いろいろな不便を感じている
ことがわかる。戦略を考えるのは、現状の技術的問題点を追求する
ことではなく、今後の日本をどうすればいいのかを論理的に考えて
、それに適合した憲法や法律を作り、他国とは条約等でそれを実現
することであろう。特に現代は、戦前の国際連盟の時代とは違い、
世界が狭くなっている。

 このような時代背景と、ITによる意見交換が日本地域以外の日
本語ができる人たちとも自由にできる環境にあるのです。このよう
な環境の変化により、国家概念が変化している。また、EUのよう
に、地域全体が統合化する方向にもあるのです。

 海外日本人の活動範囲を広げるためには、日本国籍と住んでいる
国の国籍を持った方が便利であると在外日本人が思っている。その
国での職業やその他の権利が付与される。このため、二重国籍はい
い方法であるとのこと。日本にいる外国人の権利付与が最初ではな
い。どうも、この件になると、日本人は日本いる外国人の話にして
、被害者意識を駆り立てるようだが、それはおかしい。自分達の同
胞の権利取得の話にしてほしい。

 外交は相互主義である。一方的に権利を付与するのはおかしい。
在日韓国人に、選挙権があるなら、在韓日本人にも選挙権があるべ
きだ。しかし、片務的に日本は権利を与えようとする。これはおか
しい。それだったら、日本と韓国で条約を作り、相互主義で、在日
韓国人の希望者に、日本国籍を与え、在韓日本人の希望者には韓国
国籍を与えて、2重国籍を認めるようにすればいいのである。その
時、両国で国の権利行使をどうするか検討すればいい。

シンガポールや欧米諸国とも可能であろう。それは、日本とこれら
諸国とは利害対立が少ないのであるから。それと、欧米で二重国籍
を可能にする諸国が増えている。このため、このような諸国と条約
を作り、それぞれの国の権利範囲を確定する必要がある。技術面は
、解決可能である。特にカナダのような市民法がある国には、積極
的に二重国籍上の問題点を協議して、条約化する必要がある。これ
も相互主義の1つだ。シンガポールとは自由貿易協定を結ぶのであ
るから、国民の二重国籍化についても、協議する必要があると思う。
物の移動の自由化は、人の移動の自由化と平行して進むものである。

それより、日本国家の役割を日本国籍を持つ人の保護と規定してほ
しい。今は、日本の地域に住む日本国籍の人の保護と規定されてい
るように感じる。海外日本人保護が不足している。北朝鮮に拉致さ
れた日本人保護に積極的でない日本を私は嘆くが、在外日本人に対
して、日本政府は概して極端に冷たい。

世界にODAを振りまきながら、その国で日本人が殺されても、
抗議1つしない日本政府は、どうかしている。英国政府は、日本で
売春をしていたイギリス女性の失踪でも再三日本政府に抗議をして
いる。
この違いに憤然するのは私1人だけだろうか。日本外交は日本人の
保護をしていないと断言できる。日本人に有利になるようにするの
が日本政府の仕事であろう。日本にいる外国人に権利を与えるより
先に海外にいる日本人を助けるべきではないのか??

なお、外国人参政権については、朝日新聞のE−デモクラシィで
議論しているので、参考にしてください。
http://www.asahi.com/e-demo/

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