344−2.現行憲法の論議



一物売り、本欄の愛読者です。T.K.生 於サイゴン
現行憲法につき、色々、論議されていますが、現行憲法には実質上
の大きな、また、明らかな欺瞞があります。

第一章、第一条に’主権の存する日本国民の総意に基く’との文言
がありますが、この憲法発布の昭和21年11月3日に日本国民に
主権があった等とは、到底、思えない。昭和20年8月戦争に完敗
して、無条件降伏後、連合軍が日本に乗り込み、日比谷に連合軍総
司令部を設立後、総司令部命令書が日本政府に対して、滝の如く
発行され、命令に反することが一切許されなかった時代に、即ち、
政府に主権行使の権限が剥奪されていた時代に、主権の存する国民
とはよくも云えたものだ。 勿論、選挙権は、当時も、国民にあっ
た。

これに代表された政府が主権行使出来ないことには、国民に主権な
どが有ろう筈も無い。
仮に、主権が当時にも、日本国民にあったとしよう。それなら、昭和
二七年4月の日本独立とは一体なんだったのか。
主権の返還ではなかったのか。主権に関係無い、独立などおよそ、
無意味な掛け声なり。

尤も、上記滝の如く発行された連合軍命令書(すべて英文)の中に
この憲法文案があり、これを翻訳した人間は緊急案件ゆえ、夜通し
酒を飲みながら翻訳したとも、伝えられているゆえ、本当に上記通
りの内容かは英文原案を見ないことには定かでは無いが。

ドイツにも連合軍は新憲法を押し付け様とした。ところが、ドイツ
国民はドイツ政府、国民に主権の存在しない状況下でドイツ国民の
名前で憲法など発布出来ないときっぱり断っている。止む無く、
連合軍はドイツ国家基本法として発布した。これには、但し書きが
つき、ドイツ国民に主権が回復された時に、この基本法は自動的に
その効力を失い、改めて、ドイツ国民が新しい憲法を発布すると云
う条件がついている。勿論、マックアーサーはこの事を知っていた
筈であり、素直な日本人をみて、日本人の精神年齢は12歳なりと
、言い放ったのは、あながち、罵倒だけではなかったかも知れぬ。

してやったと思ったのも微かの期間で、昭和25年6月朝鮮動乱の
勃発で、マックアーサーは日本が降伏時までに中国大陸、満州でや
っていた事の意味を、瞬時にして理解したと言われる。
即ち、ソ連の南下および中国大陸の共産化を、たった一国で押しと
どめていた事実を。
この後、直ちに、対日政策を改め、今度は憲法改正、軍隊を組織し
ろとの打診。吉田茂も、冗談じゃない、戦時中は日本の努力を徹底
的に邪魔して、あまつさえ、無辜の市民を焼夷弾、原爆で殺してお
きながら、今度は日本の立場がよく判ったから、今度は一緒になっ
て、共産軍と戦おうなどとよくも云えたものだとの腹が、間違い無
くあった筈だ。

絶対、嫌だと、頑張ったのも、意地があれば当然の話。
その後やってきたアイゼンハウアーに至っては、岸首相にアメリカ
は戦う相手を間違えたとまでいっている。半分冗談だろうが半分は
本音だろう。
その後、ダレスも、ケネディー司法長官も日本に改憲をせまってい
るが、アメリカがあくまで、日本に改憲をせまるなら、アメリカの
方から、現行憲法成立過程につき、日本国民に説明があって然るべ
きだろうと、日本側は突っぱねている。

二七年日本独立時に、日本政府は連合軍による占領行政の一切と東
京裁判の一切を認める事を独立の条件にされている。
したがって、日本政府はこれらに反する事を一切主張できない。
今も、そうだ。しかし、占領行政を終えて、即ち、主権を回復して
、既に、半世紀が経過しようとしている。
一昔なら、兎も角、今更、現行憲法をアメリカだけのせいには出来
ない。そんな事を云えば、アメリカにアホ扱いされるだけであろう。
 主権は、遥か昔に、返してやった筈だが、といわれればそれまで
の話。

尤も、この憲法には改正が殆ど不可能なくらいに困難な条件がつい
ている。しかし、改正が事実上出来ないような法律はそもそもその
法律自体が無効であるとの説がある。
法律はその時々の、民情、政情、または国際的相場というものも勘案
して作られる。尤も、非常に賢い方たちが作られるから、将来予見
できる事も十分勘案して作られる。
しかし、予見できなかった部分も、当然、後日、出て来る。これが
為実情に合わなくなった時の為に、合理的な、改正、または廃棄条件
が必ず付帯する。 憲法とて例外ではない。
現行憲法は、その殆どの内容が素晴らしいものである。全部改正す
る必要は、勿論、無い。憲法とは、国体を文章化したものである。
素晴らしい内容は変える必要は、全く、無いと思われる。ただ、国体
を文章化したものの中に、国体の自然権を認めない自己矛盾をはら
んでいるから、論議の元となる。 

後世に禍根を残さないように、現世代で、世界平和を希求した本当
に日本人による、日本人の憲法を作るべく時がきたと思われる。
T.K.生 於サイゴン  1ST/NOV. 2000   

コラム目次に戻る
トップページに戻る