341−1.社会主義と共産主義



 ほそかわです。
 NO.334−2に関して、お送りします。
 社会主義と共産主義という言葉は、以下の二つの意味で使われて
いると思います。

(1)マルクス主義における社会の発展段階の名称
(2)社会的な思想・運動の名称

(1)に関して、K様@モスクワのご説明は、要を得て、わかりや
すいものと思います。及ばずながら、(2)に関して補足させて
いただきます。

◆社会的な思想・運動としての違い

 社会主義と共産主義は、社会的な思想・運動としては、一部
は重複し、一部は異なります。複雑なのでうまくできるかどうか
わかりませんが、整理を試みてみます。

 社会主義(socialism)とは、社会的不平等の根源を私有財産
に求め、それを制限ないし廃止し、生産手段の社会的所有に
立脚する社会を作ろうとする思想または運動といえましょう。
18世紀以来、現在までさまざまな社会主義の思潮があり、マル
クス主義はその一つということができます。

 共産主義とは、communismの訳語です。これは、私有財産制
を全面的に廃止し、生産手段を社会の共有にすることによって
経済的平等を図り、人間社会の諸悪を根絶しようと説く思想また
は運動といえましょう。
 コミュニズムとは、コミューン主義の意味です。コミューンとは、
産業化の中で解体した共同体の共同性と、市民社会で発達し
た個人性を併せ持つような、自由と平等が共に実現された高次
の共同社会といったイメージと思います。フランス革命後、コ
ミューンの実現をめざす思想・運動にもさまざまあり、1848年
2月革命やパリ・コミューンはその観念の坩堝だったといえましょ
う。その中からマルクス主義が最も有力になったため、今日では、
共産主義といえばマルクス主義と同一視される傾向が強いです。

◆社会主義と共産主義の歴史
 
 古くはトマス・モアが、社会主義の思想的先駆者とされます。
もっともそれは「ユートピア思想」といわれるような夢想的・社会
風刺的なものでした。実際の社会運動としては産業革命により
労働者階級が発生してから発展しました。初期の運動に影響を
与えたのはオーエン、サン・シモン、フーリエらの思想です。彼ら
は、マルクス・エンゲルスにより、「空想的社会主義者」と蔑称で
呼ばれましたが、独自の要素もあって再評価されています。
特にサン・シモンの「産業主義」は、20世紀のレーニン=スター
リン主義・ファシズム・先進国ビューロテクノクラシーの源流とも
見られています。

 マルクスとエンゲルスは、「空想的社会主義」に対比して、「科
学的社会主義」を標榜しました。マルクス主義者は「共産主義」
とも自称し、彼らの党派は「共産党」とも「社会民主党」とも称し
ましたから、混同しやすいのです。
 マルクスの時代に、国際的な社会主義組織(第1インターナ
ショナル)が結成されましたが、このころは、さまざまな社会主義
運動が並存していました。無政府主義、アナルコ=サンディカリ
ズム、キリスト教的慈善思想など。
 その後、社会主義運動は、主として議会を通して平和的に目標
を実現しようとする「社会民主主義」と、暴力革命によって社会
変革を行なおうとする「共産主義」の二つに大きく分かれて展開
しました。

 西欧では、第1・第2インターナショナル系の政党が議会主義化
する一方、ロシア革命の成功によって、第3インターナショナル
(コミンテルン)が結成され、暴力革命主義を復活させました。
後者すなわちマルクス=レーニン主義が、「共産主義」の主流と
なります。
 「社会民主主義」としては、欧州には、第1・第2インターナショ
ナルの系統を継ぐ政党が存続しています。そして、暴力革命主義
をとる「共産主義」と区別として、これらを「社会主義」という場合
があります。
 その一方、旧ソ連を「社会主義国」と呼んだり、「共産主義国」と
呼んだりしますので、混乱しやすいのです。

◆我が国の場合

 私の理解では、我が国の場合、現在の「社会民主党」つまり
旧「日本社会党」は、西欧的な意味での「社会主義」政党でした。
日本共産党は、ソ連に本拠を置くコミンテルンの日本支部として
創設されました。その理論は、ロシア経由の後進国革命の理論
です。これに対し、旧社会党は、先進国革命の理論としてのマル
クス主義の側面を代表していました。

 旧社会党には、1960〜70年代には党内の有力勢力に、労農
派マルクス主義と構造改革論がありました。前者は共産党から
離れた山川均の系統です。日共の二段階革命論に対し、一段階
革命論を説きました。先進国の党派の中では最左派に位置し、
議会主義でありながらも、かなり行動的でした。後者は、イタリア
共産党から輸入されたもので、武装蜂起・内乱型でなく、議会制
民主主義に基づき、構造改革の積み重ねによって社会主義革命
を実現しようとするグラムシ系の理論です。
 また、旧「民主社会党」は社会党の右派が、より穏健な議会
政党となったもので、欧州の「社会民主主義」政党の多くに、近い
ものでした。

 旧社会党・民社党は「共産主義」には反対し、日本共産党とは
一線を画していました。その違いは、暴力革命・一党独裁への
警戒です。この一線は、決定的な違いです。
 日本共産党は、マルクス=レーン主義の共産主義政党ですが、
これをくらますためか、「科学的社会主義」という用語を多用して
います。そのため、話がまた、ややこしくなっているのです。旧社会
党・民社党が「非科学的社会主義」というわけでもないので。
 最後になりますが、不破委員長は、近年、マルクスは議会を通じ
た変革の道をも説いていたことを強調し、レーニンへの原理的な
批判を一定程度行っています。それが今後、脱「共産主義」化に
まで進むのか、それとも単なる欺瞞的な選挙戦術なのか、注目さ
れるところです。
 
 誤解・不足等あろうかと思います。ご教示いただければ幸いです。

ほそかわ・かずひこの<オピニオン・プラザ>
http://www.simcommunity.com/sc/jog/khosokawa

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