324−2.おもしろい本は



得丸久文(2000.10.13)

******************************
 私がこれまで読んだ本の中で、とくに面白かったもの、心に残っ
たものをご紹介したいと思っていましたので、まとめてみました。
便宜上短い説明文をあわてて書きましたが、本を読めばもっと違っ
たことを感じることでしょう。

 全体を通じてロマン派的であると感じましたので、浪漫派の読書
案内とさせていただきましたが、ロマンがなければ人間としてさび
しいと思いますので、ロマン派を自認される方もされない方も、参
考にしていただければと思います。

 本の内容について異論や文句のある場合、すでに亡くなっておら
れる著者も多いですから、ある程度のことは私で対応を試みますの
で、どうぞお気軽に批判をおよせ下さい。

  もちろん知識は本だけから得られるものではありません。みなさ
んの日々の実体験も大切だと思います。

1 SF
  SFに描かれた空想は、50年たつと実現する。ロボット、クローン
人間、などなど。SFは私たちの想像力を豊かにしてくれる。おそら
くみなさんもお好きな作品や作家があるでしょうが、私のお勧めは

1) 小松左京 「果てしなき流れの果に」(ハルキ文庫、早川文庫JA)
* 著者の処女長篇SF。果てしない時空間の中を逃亡追跡するロマン
と静かなエンディング。

2)    広瀬正  「マイナス・ゼロ」(集英社文庫?)
                「タイムマシンの作り方」所収の掌編「もの」ほ
か* 足指の退化した未来人が、遺跡から鼻緒のない下駄を発掘し、
それがなにかをめぐって熱い議論を交わす「もの」。広瀬正の時間
SFは味わい深い。「マイナス・ゼロ」は傑作。

3)    ジョージ・オーウェル「素晴らしい新世界」(旺文社文庫?)
* クローン人間、見るスポーツ、麻薬常習化、悲劇が理解されなく
なる、など現代の文化状況を予見したかのようなオーウェルのディ
スユートピア

2     ドキュメント
 事実は小説より奇なりというように、自らの経験を綴ったドキュ
メントはおもしろく、感動的である。また、修羅場でどのようにふ
るまうとよいかを教えてくれる。

4)    石光真清の手記 「城下の人」、
                      「曠野の花」、
                      「望郷の歌」、
                      「誰のために」 4册とも中公文庫
* 西南の役、日清、日露、ロシア革命を自らの目で観察した陸軍退
役軍人(実は諜報活動を行っていた)の人間味あふれる手記。

5)    近藤紘一 「したたかな敗者たち」
                「戦火と混迷の日々」
                「サイゴンからきた妻と娘」
        「パリへ行った妻と娘」ほか 文春文庫
* ジャーナリスト近藤紘一の目は暖かい。サイゴン陥落を扱った「
したたかな敗者たち」、カンボジア人外交官と結婚し二人の子供を
授かりながら民主カンボジアの時代に家族を全員失った日本人内藤
泰子さんの体験を聞き書きした「戦火と混迷の日々」、大宅賞受賞
作「サイゴンからきた妻と娘」、最初の奥様との哀しい思い出のこ
められたパリを町を描いた珠玉のエッセー「パリへ行った妻と娘」

6)    石川好  「ストロベリーロード」(集英社文庫?)
* 雑誌「エコノミスト」に連載された石川好の原体験。

7)    エリ・ヴィーゼル 「夜」(みすず)
* エリ・ヴィーゼルは、アウシュビッツの生き残り。収容所での臨
死の体験を綴ったのが「夜」。

8)    ソルジェニーツイン 「収容所群島」1ー6(新潮文庫)
* 厚さゆえに読者に恵まれない本だが、ソビエトの収容所群島の歴
史を生き抜いた人々の智恵と勇気のこもった本。第三巻に登場する
日本人抑留者コンドウ大尉以下の捨て身の戦いは見事。

9)    藤原てい  「流れる星は生きている」
* 子供を連れて満州から引き上げたときの体験。

3    小説
 感受性を高めたい。

10)    永山則夫「捨て子ごっこ」
* 結局反省すること不十分にして処刑されてしまった永山則夫だっ
たが、彼の小説に描かれた生気ある世界は評価に値する。

11)    セリーヌ 「夜の果の旅」(中公文庫)
* 偽悪的ともいえるセリーヌの多感なリアリズム。

12)    隆慶一郎 「影武者徳川家康」
* 天下を平定した徳川家康は、実は彼の影武者だったというロマン
。しかし彼は天下を平和に保とうとする強い意志をもっていた。

13)    アゴタ・クリストフ 「悪童日記」(早川)
* 「収容所群島」があまりに読まれないために、収容所で得られた
教訓を小説化したもの(と私は受け取った)

14)    幸田文 「流れる」
* 主人公の女性の心に世界を写しとって描写する。その流れが見事。

15)    水村美苗 「私小説」(新潮文庫)
* アメリカ好きな両親に連れられて、ニューヨークで孤独な少女期
を過ごした著者の心の描写。

4    日本人(科学、法律、宗教)

16)    角田忠信 「日本人の脳」(大修館)
* 日本人は左右の脳の使い方が特異なのではないか。

17)    中川剛  「日本人の法感覚」(講談社現代新書 絶版)
* 忠臣蔵が好きな日本人は、独特の法感覚をもっている。日本人の
法意識を明らかにした好著。

18)    加地伸之 「沈黙の宗教 儒教」(ちくまブックス)
* 我々は仏教徒だと思っていたが、実はそれは限り無く儒教化した
仏教であって、儒教こそが我々の意識を支配する死生観を構成して
いる。

19)    岡倉天心 「茶の本」(講談社学術文庫)
* 岡倉天心は本書をそもそも英語で書き、西洋人の文明化を図った
。邦訳と原文。

20)    内村鑑三 「代表的日本人」(岩波文庫)
* 西郷隆盛、二宮尊徳、上杉鷹山、中江藤樹、日蓮の五人を代表的
日本人として英語で紹介した。その邦訳。

21)    石田一良 「カミと日本文化」(ぺりかん社)
* 神道についての多角的な考察

22)    鈴木大拙 「禅」(ちくま文庫)
* 禅について英語で書いた入門書の邦訳。

23)    松居桃婁 「微笑む禅」(潮文社)
* 自らの悟りの体験に根ざして、天台小止観をわかりやすく紹介し
た本。

5    評論ほか

24)    入江隆則 「日本がつくる新文明」
*  著者は世界は江戸化するという。時空間的にはそうなったが、
意欲や思想に欠けるのではないかと私は思う。

25)    関曠野  「国境なき政治経済学へ」
* 関さんのロマン主義と論理にはいつも学ぶべきものがある。

26)    多田茂治 「石原吉郎 昭和の旅」(作品社)
* シベリア抑留から帰還して詩人となった男のすさまじい人生を描
いた本。

27)    渡辺京二 「逝きし世の面影」(葦書房)
* 江戸時代こそが文明と呼べるものだった。明治以降の日本はそれ
を失ったということを、当時日本を訪れた外国人の見聞録から再構
成した本。

28)    近藤紘一・古森義久 「国際報道の現場から」(中公新書)
* なぜ日本のベトナム報道は間違ったのかを分析した本。日本のジ
ャーナリズムの体質は今なお一向に改善されていないと思う。

29)    長田弘 「私の20世紀書店」
* 詩人で晶文社を経営する長田弘が、20世紀を代表すると感じた世
界の文学を100册選んでていねいに紹介している。

30)    宮崎市定 「アジア史概説」,「西アジア遊記」
* 宮崎さんの本はもっとほかにも面白いものがあるのだろうが、私
の読んだ中からはとくにこの2册を推薦する。

31)    桶谷秀昭 「昭和精神史」
* 文学を通じて昭和初期の日本人の心の様子を描いた本。まるで運
命的であるかのように大平洋戦争へ突入していくが、庶民の心は澄
み切っていた。

32)    アンダーソン 「想像の共同体」
* 民族があるから国家があるのではなく、国家を正当化するために
民族という概念が利用されたことを明らかにした本。

6    古典
 古典として生き残るものには、それ自体に生命力がある。

33)    吉田松陰 「講孟剳記」(講談社学術文庫)
34)    「論語」、
35)     「孟子」

以上

コラム目次に戻る
トップページに戻る