314−3.持続可能な開発は可能か?



柳太郎&YS/2000.10.05
★★サステナブル・ディベロプメント=持続可能な開発は可能か?★★
            ==(2) ==

☆予測される自然観の対立
YS  ところで柳太郎さん。日本では吉野川可動堰問題などのように
    一時的に盛り上がりはしますが、まだ環境主義が根付いていな
    いように思います。これはどうも日本人の自然観によるところ
    も大きいのではないかと思うのですがどうですか?

    現在の環境問題は西洋的な自然観が前提にあるように思います。
    このあたり私自身も抵抗を感じることがあります。温暖化問題
    にしても、何か人間のおごりのようなものが見隠れしているよ
    うに思えてなりません。

柳太郎 面白い視点だと思います。確かに、日本人にとって「自然」は
    「そこにあるもの」で、また「あるべきもの」であり、「あっ
    て当然なもの」なのかもしれません。歴史的には、それぞれの
    神が自然に宿していると考えていたことにも、この感覚が見ら
    れるように思います。その分、四季の移ろいには敏感でも、
    「自然」というもの自体には無頓着なように見えます。

    西洋的な感覚だとこうではないと思います。人間社会と自然を
    切り離して意識し、人間の力によって制御されるべき対象と捉
    えられてきた側面があるのではないでしょうか。特に、科学万
    能主義的な思想はこれを反映しているように思います。

    話は変わるかもしれませんが、私はイギリスに滞在した時にい
    くつかのイギリス人家庭の中で暮らしていたことがあります。
    その時に思ったのは、彼らは犬や猫を家族のように扱うとはい
    っても、所詮それらは「動物」(人間よりも下等な生物)という
    意識を強く持っているということです。下等な故にそれらは人
    間に従うべきものであるのです。ですから彼らは人間(Human
    being)と動物(Animal)をはっきりと区別しています。人間は動
    物の中の一種ではないのです。自然に対してもそのような感覚
    を持っていてもおかしくはないかもしれません。

    ですから、環境問題も人間がどうにかコントロールして、「人
    間が暮らしやすい」環境作りをしなくてはならないという人間
    中心的な発想になるのでしょうし、その考え方の度合いが日本
    人よりも強くなるのかもしれませんね。

YS  今朝子供と「お母さんと一緒」を見ていたら、♪小さい秋♪が
    流れていました。この曲って良く聞くと凄いですね。おそらく
    西洋人にはこの繊細さは理解できないでしょうね。

    同様に私の好きな言葉に「足るを知る」があります。今年1月
    の日経新聞で在日アメリカ商工会議所前会頭のグレン・フクシ
    マ氏が、日本人の「もったいない精神はアメリカ人には理解で
    きないだろう」と書いていました。私も「足るを知る」をアメ
    リカ人に懸命に説明しようとしましたが、英語力の問題もあっ
    て見事に挫折した経験があります。

    この繊細な自然観は日本特有のものでしょうか?柳太郎さんに
    お願いがあります。韓国に友人がたくさんいらっしゃるようで
    すが彼らはどのような自然観を持っていますか?
    
    年末に「神々が宿る島」バリ島に行く予定です。
    最近特に偏った主張が目立つようになってきました。日本人の
    アイデンティティーを見直す中で、この自然観の特殊性を殊更
    に強調しすぎるきらいにあります。極めて偏狭なナショナリズ
    ムではないかと心配しています。このままいくと自然観の対立
    からハンチントンの罠に陥りそうな気がします。

柳太郎 私の印象に残っている曲に♪ふるさと♪があります。これは、
    長野オリンピックの閉会式で杏里さんが歌っていたのですが、
    彼女の歌唱力だけではなく、その歌詞に様々な季節の情景が
    (暗黙に)込められていることにふと気づいたわけです。これは、
    たまたまビデオに録画しておいたものだったので、何度も見返
    してしまいました。このように、日本の歌には様々な季節観が
    込められているものが多いのだと思います。

    イギリスにいる時に、韓国人の友人と「この国には季節が無い
    ね。」ということを話していたことがあります。このきっかけ
    になったのは、私が秋が一番好きなのですが、イギリスの秋は
    ちょっと物足りなく感じたためで、その時に感じたのは、彼ら
    の季節観は日本人のものに近いなということでした。ただ、私
    は韓国語が分からない為、この感覚がどのように文学や歌に反
    映されているのかは分かりません。(この点に関しては知り合
    いのイギリス人が、イギリスの季節は「春から夏に変わったと
    思ったらすぐ秋になり(夏は無いと同じで)、秋が来たらすぐに
    冬になる(秋も冬も感覚的に差が無い)」と言っていました。)

    日本人の季節観はやはり独特なのかもしれません。しかし、そ
    れを「外国人には理解できないもの」といった考え方になるの
    は、その人の心が偏狭である証拠でしょう。日本の文化を理解
    しようとしない外国人にとってはこの感覚は理解できないもの
    でしょうが、日本人よりももっと日本人らしい外国人もいるわ
    けですから。逆に、海外に出た日本人が「日本人はこうだから
    おまえらの考えは理解できない(または、理解しようとしない)」
    というのも、結局はこれを逆さにとった偏狭性の表れでしょう
    ね。

    このような考え方を日本国民の多くが持ち排他的な感覚になっ
    てゆくとしたら、ハンチントンの罠に陥ってゆく要因のひとつ
    になるようにも感じられます。

    もし「日本人が自然をこよなく愛する民族だ」などと主張する
    ならば、他の国の人たちにもその感覚を理解してもらう努力を
    しつつ、他の国の事情も研究してどのように自然を守っていく
    かというような行動に出るべきでしょう。
==============================
YS&柳太郎/2000.10.08
★★サステナブル・ディベロプメント=持続可能な開発は可能か?★★
            ==(3) ==
☆環境と企業経営
柳太郎 近年、日本企業では環境問題に取り組む姿勢が顕著になりまし
    たが、ここには人々の意識の変革がそうさせた面と、企業の環
    境問題への取り組みがさらに人々の意識を変えていくという面
    との相乗効果があるのではないかと思うのです。もちろん、企
    業にとってはイメージアップの要因になっていることが重要で
    はあるわけですが、多国籍企業などは環境問題を人々に意識さ
    せるという点で「政府以外の意思決定機関」としての役割を果
    たしてきているように思うのです。このような企業の環境への
    取り組みに関してはYSさんの方が詳しくご存知でおられると思
    うので、その辺を具体的におっしゃっていただけますでしょう
    か?

YS  「地球に優しい」を呼ばれる自動車メーカーやOA機器メーカ
    ーとはこれまでに随分と一緒に仕事をさせていただきました。
    イメージアップという面は無視できないでしょうね。ただ現場
    段階で実際に研究開発に携わっている方々は相当ユニークな連
    中ですよ。しっかり信念を持って日夜地道に努力されています。

    優秀な経営者ほど環境技術が日本にとって21世紀の生命線に
    なることをしっかり認識しています。この点で基幹産業である
    自動車産業を例に取ってみましょう。

    10月2日に米環境保護局が2001年型乗用車の燃費ランキ
    ングを発表しました。1位がホンダ・インサイト、2位がトヨ
    タ・プリウスでともに日本のハイブリット車です。6位にホン
    ダ・シビックHX(マニュアルタイプ)、7位にスズキ・スイ
    フトが入っており、トップ10は日本車と独フォルクスワーゲ
    ン社の乗用車が占めました。特にホンダは2年連続で最優秀燃
    費車に選ばれたことになります。日本の自動車分野での環境技
    術は世界的にみても依然として高い水準を誇っています。

    日本の自動車メーカーの環境への本格的な取り組みは、197
    0年にさかのぼります。この年、アメリカでマスキー法(大気
    汚染防止法)が制定されました。当時世界で最も厳しい排出ガ
    ス規制とされたマスキー法を世界で初めてクリアしたのがCV
    CCエンジン搭載のホンダ・シビックです。1973年の発売
    以来これまでのアメリカでの販売累計は550万台を超えてい
    ます。

    1969年、ホンダは人気車種に欠陥が見つかったことから、
    会社存亡の危機に立たされます。起死回生のため20代の技術
    者を中心に『低公害エンジンプロジェクト』を立ち上げますが
    先発大企業の技術の「改良」を試みる若手に対し、独自技術の
    開発にこだわる社長・本田宗一郎との激しい格闘があったよう
    です。そして4年後、F1レースで培ってきた「ガソリンを徹
    底的に燃焼させる」技術を一般エンジンに持ち込み、全く新し
    い方法で低公害化を実現します。

   「これで世界一の自動車会社になる」と喜ぶ社長に、若手は「私
    たちは社会のためにやっているのだ」と反発します。この言葉
    を聞いた本田宗一郎氏は「自分の時代は終わった」と、まもな
    く社長の座を降りることになります。

    テレビでも幾度も取り上げられたエピソードですが、日本の環
    境技術史の面でも再評価する必要があるように思います。

    ダイムラー・クライスラー誕生に端を発した世界的な自動車業
    界の合従連衡もその要因のひとつとして環境技術の獲得にある
    ことを見逃してはいけません。日産や富士重工、スズキ、三菱
    自工などが相次いで海外企業の傘下に入りましたが、「新生銀
    行方式」や「山一證券方式」、見向きもされない「ゼネコン業
    界」とは似て比なるものと思います。

    特に日本の場合、企業合併、買収、提携において「する側」と
   「される側」の単純な議論が繰り返されてきました。結果として
    国境を超えたパートナーシップに結びつくこともあります。特
    にルノー・日産の仏日連合は、お互いの文化がもっと深く融合
    できればこれまでにないコンセプトの車が出来上がるような気
    がします。

    各社とも開発にしのぎを削る燃料電池車は、ハイブリット技術
    なしには実現できません。このあらたなグローバル・スタンダ
    ードは2010年頃から本格的に始動するでしょう。

    また自動車以外でも包装容器リサイクル法、家電リサイクル法
    への対応から家電メーカー、OA機器メーカーが環境技術に対
    して本格的に取り組みを始めています。

柳太郎 なるほど、日本企業は様々な形で環境保全というスローガンを
    掲げ、実行していると思います。ただ、ひとつ気になるのは海
    外、特に途上国に出た日本企業のあり方です。私は、製品自体
    は環境保全になっていても、製作段階で環境を汚染していては、
    両者が相殺してしまい、結局は意味の無いと思うのです。

    例えば、日本は大量の二酸化炭素等の排出国ですし、一部の廃
    棄物が海外に流れ出てているといった話もあります。さらに、
    環境基準が緩い途上国に進出している日本企業はその基準に合
    わせて大量の排水や煤煙を出しています。

    これらが、日本が「環境破壊大国」とレッテルを貼られる理由
    のいくつかですが、やはり環境を汚しながら「環境にやさしい」
    製品を作ることには意味が無い。この点で、日本の企業ならび
    に国民は、表向きの環境保全だけでなく実際の中身ももっと知
    る必要があるのだと思いますね。

+++++++++++++お知らせ+++++++++++++++
信州の有名なお医者さんから下記情報をいただきました。(YS)
         『世界銀行パブリックフォーラム』
       「グローバル化時代の貧困との闘い」ご案内

9月26日から28日までチェコのプラハで開かれた世界銀行・IMF年次総
会における大きなテーマは、ますますグローバル化する世界における貧
困との闘いでした。今回、世界銀行上級副総裁兼最高財務責任者 ギャ
リー・パーリンの来日を機に世界銀行では、プラハでの議論の報告も含
め同テーマでパブリック・フォーラムを開催することと致しました。当
日は、パーリンからの講演に加え、コメンテーターの方々からも様々な
角度からグローバル化が開発に及ぼす影響についてご意見を伺う予定で
す。皆様とグローバル化についての意見を交換すると共に、21世紀に向
けた貧困緩和について更に議論を深化することができれば幸いです。

つきましては、ご多忙のところ恐縮ですが、奮ってご参会頂きますよう
ご案内申し上げます。お申し込みは、ご機関・所属名、お役職名、お名
前、ご連絡先(住所、電話、FAX、Email)をEmailにて
thagimoto@worldbank.org宛に10月16日までにご連絡ください。


 日時  2000年10月20日(金)午後1時30分〜3時30分

 場所  富国生命ビル28階ホール(千代田区内幸町2−2−2)
 (営団地下鉄 千代田線・日比谷線・丸ノ内線 霞ヶ関駅)
 言語  英語・日本語(同時通訳がつきます)
 参加費 無料

 プログラム
 13:30−13:45 開会の辞
 小和田恒 世界銀行総裁上級顧問
(財団法人 日本国際問題研究所理事長)

 13:45−14:15 基調講演
 ギャリー・パーリン 世界銀行上級副総裁 兼 最高財務責任者

 14:15−14:45 コメント(各10分)
 上田善久 大蔵省国際局審議官
 アラジ・アマドゥ・ティアム 在日セネガル共和国大使
 脇坂紀行 朝日新聞論説委員

 14:45−15:30 質疑応答

 15:30 閉会

 本件連絡先
 世界銀行東京事務所 萩本(電話03−3597−6650、FAX03−3597−6695)

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