307−1.エシュロンについて



 2000年4月19日(Mainichi Shimbun)

プライバシー保護のルールを エシュロン盗聴

 世界の市民の生活が監視されている。米国が主導し、英、カナダ
、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏5カ国で編成する通
信傍受機関(暗号名エシュロン=ECHELON)が世界の電話、ファクス
、Eメールを盗聴していることが明らかになってきた。だが、米英
は「国家機密だ」として詳しい実態を明らかにしない。このままで
は各国がエシュロンに対抗する盗聴網の強化に走ってしまう。国境
を越えた監視社会が到来する。市民の立場に立ったプライバシー保
護のための国際的なルールづくりを急がねばならない。

 「電話では伝えられないので手紙で連絡します」と最近の私は急
ぎの用でなければ重要な情報を手紙で送っている。エシュロン機関
の取材を始めてからロンドン支局の電話を取るのがいやになった。
エシュロン機関に参加する英政府情報本部(GCHQ)が外国の報道機
関の電話、ファクス、Eメールを盗聴している可能性があるからだ。

 4月9日の英日曜紙サンデー・テレグラフに興味深い記事が載った。
GCHQの盗聴担当職員は約4000人。24時間体制で世界の電話や無線通
信を傍受しているが、職員の聴覚障害が深刻化。「耳鳴り」に悩む
職員の治療費などが年間で50万ポンド(約8500万円)に達するとい
う。

 英政府にとって「痛い話」かもしれないが、盗聴される側にとっ
ては「聞き捨てならない話」である。

 エシュロンはフランス語などで「はしご」を意味する。1947年に
米英の秘密協定で発足し、その後にカナダなどが加わった。英語圏
5カ国が横並びで協力し合う狙いがあるのだろう。冷戦時代には共産
圏の通信を盗聴していたらしい。ところが、冷戦終結後にフランス
などの企業情報が漏れ、契約が米国企業に奪われているという苦情
からエシュロン機関への疑惑が噴き出した。

 「はしご」からはずされたフランスやドイツなど非英語圏諸国の
不満を受けた欧州連合(EU)が調査に乗り出している。EUは今年に
入って正式に米国と英国に質問状を送った。米英は「不正なことは
していない」と答えたが「通信傍受は国家の経済的安定を維持する
ための正当な行為である」と開き直る姿勢も見せている。

 EU各国は米国の産業スパイ行為を怒るが、私が心配するのはエシ
ュロンの驚異的な盗聴力の方だ。主に人工衛星を使って商業衛星や
地上の電信施設を流れる通信を傍受する。その情報を世界の中継基
地を通じて米国家安全保障局(NSA)に送る。そこでは各国の重要人
物や組織の名前のほか、「核兵器」「スパイ」「爆弾」など不穏な
言葉を辞書のように記憶した電算機が毎分300万もの通信情報を解析
できるという。

 昔から各国の情報機関は他国の通信情報を傍受したり、暗号の解
読に精を出してきた。しかし、それは目的や対象を絞った盗聴行為
であり、いわば「一本釣り」のやり方だ。ところが、エシュロン機
関は不特定多数の通信を網(ネット)ですくいあげる。これは各国
の安全保障上の情報収集として暗黙のうちに認められてきた盗聴活
動の概念を超えていると思う。

 EU加盟国である英国はEU内部の批判を静めるために各国に脅しを
かけている。「米英に盗聴活動の実態を公表せよと迫るならば、他
国の盗聴活動も明らかにしてもらおうではないか」。この脅しにEU
加盟国の政府はひるみ始めた。おそらく、EUの追及はしりすぼみに
なるだろう。

 そうなれば、各国はエシュロン機関に対抗する盗聴システムづく
りに突き進むことになる。盗聴用衛星を打ち上げ、地上に多数の中
継基地を設置する。核軍備競争と同じように盗聴力競争も「力の論
理」が支配するようになる。すでにフランスはドイツと共同で衛星
を打ち上げて世界各地に基地をつくる計画を進めているという。

 EUの論争から推察できるように、そもそも各国政府も情報機関
の盗聴を正当化したいのだ。自国民に対する盗聴は傍聴法をつくっ
て正当化させている。日本でも昨年8月に通信傍受法が成立した。
政府による通信傍受は国民が政府を信頼していることが前提だが、
個人情報を扱う情報機関や警察の職員は信頼できるのだろうか。
通信の秘密を悪用しないだろうか。

 ましてや、エシュロン機関のような外国の情報機関も越境して個
人の通信を盗聴できる時代になった。日本での電話の内容も米国の
盗聴用電算機に吸い込まれているのだ。エシュロンの疑惑は各国政
府に任せていてもらちが明かないだろう。個人のプライバシーをど
う守るのか。市民の一人一人が政府を問い詰めていくしかない。
市民の個人生活を監視する組織を市民の側から監視できない限り、
安心して電話もかけられなくなるだろう。
図越
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 岩波書店の月刊誌「世界」2000年10月号にて、エシュロンに関す
るルポルタージュが掲載されていました。

題字は、「ルポ 日本は、通信監視システムの共犯者であり被害者
だ 通信諜報包囲網・エシェロンの実態 日本のビジネス・外交情
報は筒抜け」

となっています。

なお、「エシェロン」と記されていますが、英語では、eshelonです。
「エシェロン」の方が正しいようです。しかし、新聞の記事などで
は、「エシュロン」と発音されています。

充実したエシュロン資料集を紹介します。
http://members.easyspace.com/angriff/spy/echelon/
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2000-02-24

■通信傍受疑惑で報道官 「産業スパイを任務としてない」 
 米国主導の通信傍受システム(エシュロン)で商談などを盗聴さ
れ被害を受けたと欧州の企業などが主張している問題で、米国務省
のルービン報道官は23日、「米情報機関は産業スパイを任務とはし
ていない」と述べ、疑惑を否定した。
 エシュロンには米国家安全保障局(NSA)のほか、英国、カナダな
どが関与。冷戦中は旧ソ連や中国などの秘密通信傍受を主な任務と
していた。米国の民間組織、米国家安全保障公文書館が1月下旬、機
密扱いを解かれたNSAの文書を公開し、青森県の米軍三沢基地も傍受
の拠点だった可能性が浮上した。

 文書はインターネットで一般に公開され、欧州では「企業盗聴に
よって自国企業の利益誘導を図った疑いがある」と米国などを批判
する声も出ている。ルービン報道官は「NSAは私企業に機密情報を提
供することは許されていない」と述べたが、エシュロン自体には言
及を避けた。
図越
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 質問は、インターネットは、米国の策略かどうかということです。
 つまり、インターネットの発展過程において、「エシュロン」は
どのように関わったかです。

 資料としては、下記に示した『インターネット自由自在』P53に
「表3.1インターネットの発展過程」があります。

「10数年前に米国国防総省によってインターネット技術が解放され
た」ということを、私は、どこかで聞いたのですが、この裏づけが
全くできません。これがもし事実だとするならば、「エシュロン」
をもってしてその真相が明らかになったと言える。つまり、インタ
ーネットの本質は、「エシュロン」(全世界的諜報活動)が狙いで
あったということだ。

ここに記した、「10数年前」という5文字は、はっきりした出所
原典を示すことはできない。私のあいまいな記憶をもとに記したた
めである。

そこで、書棚にあった文献にあたってみた。
 岩波新書『インターネット』村井純著 1995年
 岩波新書『インターネット自由自在』石田晴久著1998年
 『インターネット革命』 大前研一著 1995年

 上記の村井純氏は、日本にインターネットを持ち込んだ第一人者
として著名である。現在、慶応義塾大学教授である。

『インターネット』のP46では、インターネットは、そもそもは
、1969年にアメリカのARPA(アーパ)ネットという実験が最初
で、それが1980年に始まったCS(コンピュータ・サイエンス)
ネットの計画を経て、いまのインターネットに至っていると、記さ
れている。
さらに、ARPAネットというのは、国防総省の一機関であるというこ
とから、インターネットは軍事ネットワークから発展した、とよく
言われます。しかし、それは正しくありません。国防総省の一機関
ではありましたが、高等研究の一環としてコンピュータ・サイセン
スを研究するためのネットワークだったのです。

『インターネット自由自在』P60においても、ARPAはアメリカ国防総
省の高度研究計画局(Advanced Research Project Agency)の略称
で、ここが研究資金を出したのでARPAネットと呼ばれましたが、軍
事とはまったく関係ありません。と記されています。

つまり、私が、上記の3冊を拾い読みする限りでは、「10数年前に
米国国防総省によってインターネット技術が解放された」という記
述は発見できませんでした。
図越
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(Fのコメント)
 インターネットは、原爆攻撃によるネットの部分破壊があっても
生き残ったネットが正常に動作する目的で、開発された軍事利用目
的のためのものでした。しかし、軍事より研究者が先に利用し、
1995年に一般開放した途端、爆発的に利用者が増大したのです。

当初は、インターネットとNSAは関係なかったが、情報取得には
便利なことも確かで、外国との通信は、名前の解決のためにDNS
を通る必要があり、そこでトラヒックの補足が可能です。しかし、
私でも、海外と1日何十通とメールしていますから、全部を補足す
るのは、大変なはずです。そして、秘密にするものは、暗号化しま
すから、皆がエシェロンを知ったことによるエシェロンのダメージ
は、大きいと思います。経済系の通信まで、暗号化する動向ですか
ら。

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