297−1.クジラをめぐる日米「目くじら」論争



YS&柳太郎/2000.09.19

柳太郎 一つ気になる話題が。今回の河野外務大臣の訪米で、日本の捕
        鯨に関してアメリカとのやり取りがあったようですが、以下の
        点で結構注目されるところではないかと思います。

        1. 理論的側面: レジーム理論による、捕鯨規制の影響力と
                          WTOの兼ね合い。

        2. 倫理的側面: NGOによる、アメリカ議会への圧力が大きい
                          と考えられること。

        3. 日本の外交: ここで、アメリカに対して強く出ることが、
                          対アメリカ、対アジア、対ヨーロッパ外交・
                          戦略にどのような影響をもたらすか。

        前に、環境問題や捕鯨問題に関してBBSで指摘したことですが、
        これらが今後の日本の外交を大きく左右する要因になるのでは
        ないかと思います。

YS  これ以上悪化すると思いますか? というかこの問題が長期化
    すると思いますか? 結局米大統領選向けパフォーマンスに終
    わるような気がします。しかし日本政府には戦略という発想が
    あるのかどうか非常に不安になる要素は感じています。

柳太郎 確かに大統領選に向けてのパフォーマンス的要素が強いのです
    が、私が関心をもっているのは、なぜこれがパフォーマンスに
    なりえるかという点です。

    つまり、この裏にある、動物愛護団体、環境NGO等の動きが、
    今後の国際世論に対してどれだけ左右するかという点で興味が
    あります。つまり、今回の大統領選においてはこれらの団体を
    意識したパフォーマンスであることは明らかであるとは思いま
    すが、これが大統領選だけではなく、今後のアメリカの政治に
    与える影響力といった点で、まだ先があるような気がします。

    今回、アメリカが200海里水域内での日本の操業を将来にわた
    り全面禁止とあっても、これは実質的に影響はないと新聞記事
    にはありました。ですから今回の件はパフォーマンスの域を出
    ないでしょう。が、今後の動きがこれだけで済むものなのか、
    注目しているわけです。

    また、文化の相違といった点でも注目しています。日本や韓国
    またはノルウェーなどでは、鯨を食べる習慣がありますが、そ
    れがない地域では「野蛮な行為」として受け取られます。特に、
    ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアなどではそれが顕著なので
    しょう。オーストラリアなどで、鯨が湾に入ってくる光景を人
    々が高台から眺めている光景を目にしますが、これはある種の
    神秘的な存在として鯨を見ているからだということです。(神の
    使いがやって来たというような感覚)

    日本人の場合は、それとは違う意味で鯨に感謝しています。こ
    れを彼らは理解できない。そして、鯨を食用にすることを全面
    的に禁止しようとしているわけです。ここを日本がしっかりと
    主張していかなくてはならないと思います。この意味で、日本
    の今回のアメリカに対する態度には興味があるわけです。です
    が、おっしゃる通り、日本政府はもっと戦略的な形でこれを進
    めるべきだ思います。

    捕鯨問題における私の関心は、上記の「NGOや環境保護団体が政
    治に与える影響力」および「文化の相違と不理解」の2点です。
    ですから、これか今後さらに尾を引く問題ではないかと考えて
    います。

YS  こと捕鯨問題に限定すれば長期化しない理由として、アメリカ
    国内の制裁アレルギーにあります。かって米ソ冷戦時代にソ連
    のアフガニスタン侵攻で、当時のカーター米大統領は、米国産
    小麦の対ソ禁輸を発表しましたが、農民の圧力で、撤回せざる
    を得なかった苦い経験があります。この時の教訓が尾を引いて
    いるはずです。

    すでにアメリカの食品業界や農業団体は、対日制裁が米国農産
    物の日本向け輸出に響く可能性について、懸念を示しているよ
    うです。この分野にまで波及すれば大統領選への影響はマイナ
    ス要因が上回るはずです。従って現在アメリカ側も制裁品目の
    特定に頭を抱えているのではないでしょうか。

    ただし柳太郎さんの御指摘どうり、「NGOや環境保護団体」
    を巻き込んだ今回の捕鯨問題に象徴される構図は、これから日
    本を悩ませることになるでしょう。今回の日本政府の対応にも
    アメリカ側への主張はある程度打ち出せていますが、「NGO
    や環境保護団体」へのアピールが聞こえてきません。従って味
    方がないままひとり大声をあげているようなものです。

    ところで捕獲した鯨はやっぱり食べちゃうんでしょうか?
    私にとっては鯨って小学校の給食で食べた記憶ぐらいしかない
    ので残念ながら多くの日本人がこの問題で「目くじら」を立て
    る感情が今一つ理解できないところがあります。
    
    
柳太郎 先ず、アメリカの「制裁アレルギー」ですが、YSさんのおっし
    ゃる通り、一方の筋が通ればもう一方が通らなくなるという点
    で、アメリカ政府の頭痛の種でしょう。ですから、カーター政
    権時代の件も例として的を射ていると思います。ですが、今回
    は状況が違うように思います。NGOなどの団体は、政府や企業な
    どに対して常時目を光らせプレッシャーを与え続けます。これ
    に対処していかなくてはならないのですから、一時的な処方箋
    では通用しなくなるように思えます。

    また、なぜ捕鯨問題がこのように取りざたされているのでしょ
    うか?? 
  
    確かに現在の日本人がどれほど鯨のお世話になっているかと聞
    かれれば、ほとんど無しと言えるのではないでしょうか。少な
    くても、一般人には身近に感じられない食品であることは確か
    であると思います。私の場合はなおさらです。しかし、その食
    文化をなくしてしまう理由もないわけです。他の理由として私
    なりに考えたのは、

    1. (日本の)国家としての意地
    2. マスコミによる意識の増幅

    であると思います。

    1に関しては、あまり意識されていないかもしれませんが、国
    際関係上でよく見られるものです。自国の意志を他に「委ねる」
    、または「譲る」事は、独立国家としての地位と権威に関るこ
    となので、些細なことであっても意地になることがしばしばあ
    ります。

    2に関しては、マスコミが繰り返し伝えたり、時に必要以上に
    大きく取り上げることで、国民の問題意識が増幅されることを
    さします。案外意識していないことですが、国民意識の形成が
    このようになされることがあると思います。今回の例では、捕
    鯨問題が「日米または日本とヨーロッパ・オセアニア諸国の対
    立」として刷り込みが(自然と)行われています。それは報道の
    あり方にも因ると思います。例えば、捕鯨問題が日米関係に発
    展したという報道がなされても、捕鯨で生計を立てる人がどれ
    ほどいて、捕鯨無しではどれだけの社会問題が起こるとか、
    「鯨を食さなくなる」ことが日本経済にどれだけ影響を与える
    かなどといったことは議論されていなかったのではないでしょ
    うか。結局、捕鯨問題=「日本」対「反捕鯨国」といた図式だ
    けが刷り込まれてきたのではないでしょうか。

    またそれが、反アメリカ・ヨーロッパ感情に訴えていくわけで
    す。これは、実は日本だけでなく韓国でも見られるようです。
    私の知り合いの韓国人は、今回の捕鯨問題を「日本・アジアの
    文化 対 ヨーロッパ文化」といった図式で見ているようです。

YS  日本だけに限ったわけではないようですが、マスコミも含めて
    感情が全面に出てきがちですね。冷静にどちらがメリットがあ
    るかの視点で語られるケースが非常に少ないように思います。
    
    この視点で将来を考えれば、対象はヨーロッパ文化ではなく、
    環境主義に移行してくるでしょう。従って図式は「日本・アジ
    ア文化 対 環境主義」となるでしょうね。その場合、かなり
    の部分で「理想的意志」が作用してきます。ただし、この図式
    の方が手法によっては理解を得られやすいはずです。

    日本側とすれば妙な意地にこだわらず、将来を見越して速やか
    にそのステージに議論の場を移していく方が有利だと思います。
    理由は、現在多くのNGOや環境保護団体の鉾先がアメリカの
    グローバリゼーションに向けられているからです。今ならお友
    達になれるかもしれません。

    問題は日本の政策決定者の想像力の欠如でしょうね。多くの方
    はこの点で30〜40年ほど遅れているようですね。いまだに
    NGOなどを生涯相容れない敵とみなしている方が大勢いるよ
    うです。

    そんな方のために下のホームページを参考にされることをお勧
    めします。

    http://www.whitehouse.gov/PCSD/
    http://www.whitehouse.gov/PCSD/Overview/index.html
    http://www.whitehouse.gov/PCSD/Members/index.html

柳太郎 鯨に限って言えば、正直のところあまりこだわる必要もないの
    だと思います。日本政府はきっとこれを認識していると思いま
    す。ただ、ここで譲歩すると他の漁業にも響いていくことを恐
    れているのではないでしょうか。他国の日本食の不理解により、
    他の魚(鯨は魚ではないですが・・・)の漁獲量を制限されては
    たまらない。日本政府が恐れているのは正にここでしょう。
    
    「科学的調査・根拠」にこだわるのは、これを回避する為だと
    思います。そのようなルール作りをし、国際的に公平な調査を
    行う機関を将来創設することで、日本の食文化はある程度守ら
    れていく。(これが理論的側面です。)この観点からすれば、日
    本も戦略的に行おうとしているのだと思います。

    ところでYSさんは、NO.280−1「マックとマクドのグ
    ローカリズム(4)」でも少し触れられていますが、インター
    ネットを使って「日本食を世界に広めよう構想」を実際に行お
    うとしていますよね。日本の食文化を守る為に有意義であるの
    でしょう。やはり、日本は「特殊」ですから、世界に理解を求
    めなくては逆に衰退するしかないような気がします。生魚や魚
    料理を食べなかった人たちが食べるようになれば、魚を保護し
    ようという意識は生まれても、漁獲禁止とはならないはずです。
    このような「理性的意思」は共通項を持つことから生まれるも
    のであると考えています。

YS  「日本食を世界に広めよう構想」は現在新規事業として企画書
    を作成中です。同時に食に関連する食品・酒類、調理器具メー
    カーなどにアプローチを始めています。それにしても会社が大
    きくなればなるほど決定が遅くて困っています。このあたりに
    年功序列の弊害も出てきているのかもしれません。 

    私は大酒飲みなので帰宅途中もついつい近くの居酒屋さんに寄
    り道してしまいます。先日、横に座った年配の方から鯨料理の
    レクチャーを何時間にもわたって受けました。漁港に近いとこ
    ろの出身の方でそれはそれは親切丁寧に教えていただきました。

    私はこんなお話を聞くのは大好きです。伝えていく方法は時代
    に応じていろいろあるように思います。この年配の方のお話も
    ぜひ世界にお伝えしたいと考えています。

   ★今後の予定
    
    ・サステナブル・ディベロプメント(持続可能な開発)は可能か?
    ・らいおんハートとジェンダー論  

    議論に参加下さる方募集中。特に・は男二人だとむさ苦しいの
    でおつきあいいただける女性はいませんか?

コラム目次に戻る
トップページに戻る