284−2.生卵と責任



得丸です。

思想や概念を否定し、身体感覚を研ぎすまして、目の前にある生活
について熟思する、、、
島木健作「生活の探究」を読んで、私もちょっとスタイルを変えて
みようと思いました。

日常生活の中で感じたささいなことですが、みなさまのご意見を伺
ってみようと思い書いてみました。
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生卵と責任

イギリスに住んでいた時、たまに出張で東京にくると、ホテルの朝
食で熱いご飯に生卵をかけて食べるのが無性にうれしかった。生食
用に新鮮で小ぶりな卵が用意されていて、調子のいいときには二つ
、三ついただいたこともある。

イギリスでは、鶏卵の衛生管理がよくないのか、サルモレラ菌感染
の噂もあって、気安く卵をご飯にかけたりできる雰囲気ではなかっ
た。
熱いご飯と新鮮な卵は大変シンプルな組み合わせだけど、どんな高
尚なレシピをも凌ぐおいしさと、毎日食べても飽きない受け入れや
すさを持っていると思う。

しかしO157騒動の時以来、生卵が朝食に出なくなったのだ。
東京のホテルで生卵が朝食バイキングから消えた頃、そのホテルに
はシェフが客の好みのオムレツを焼いてくれるコーナーがあったの
で、私は「生のオムレツをください」とお願いした。シェフはすべ
て了解とばかりに、にっこり微笑んでまだ割っていない生の卵を黙
って手渡してくれた。

ところが次の日に行くと、もうそのようなことはできないのだった。
恐らく私が生卵を食べるところを他の客が見てオムレツコーナーに
殺到したか、支配人が見咎めて今後そのような便宜を振る舞うなと
言いでもしたのだろう。
あれから四年以上たつがこの夏訪れた奈良のホテルでも、卵焼きも
ゆで卵もスクランブルエッグもあるのに、生卵はない。ウエイター
にお願いしてみたが、断られた。

どうしてなのか。
そこに卵はあるのに。
生食は、誰の手も煩わせないのに。
そもそもO157感染は卵が原因ではなかったと記憶する。

卵かけご飯を食べるだけなら家に帰ってから食べるとか、外で生卵
を買ってきてホテルに持ち込みするとか、いろいろ手段は考えられ
るが、ホテル側がさしたる理由なく卵かけご飯を中止しているので
あれば、そろそろ復活してはどうだろうか。

私自身合宿先の民宿で生卵かけご飯のうまさに目覚めた。非日常空
間であるホテルや旅館で卵かけご飯の習慣を復活させることには、
日本の食文化の継承にとっても大きな意味があるように思うが。

もしホテル側が何か責任を恐れているのなら、タバコのパッケージ
に書いてある警告文のように「この生卵は新鮮で良質であると信じ
て購入しておりますが、卵かけご飯を召されるお客様は、御自分の
責任で安全性を確かめてから召されるようにお願いします。卵かけ
ご飯によっていかなる不都合がお客さまの身に生じても当ホテルは
一切責任をおいませんのでご了承ください。」とでもはり紙してお
く手もある。

ただこのような責任逃れの言葉はちょっと見苦しい。客が暗黙の自
己責任で生卵を食べる自由を認めてくれればそれでいいのだ。訴訟
マニアや悪徳弁護士は日本の精神風土には似合わない。
(2000.09.03)

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