273−1.マックとマクドのグローカリズム(3)



YS/2000.08.19
        -----カーギルの世界戦略-----

◆カーギルの世界戦略

 カーギルは1865年に設立された世界最大の穀物商社である。マク
ミラン&カーギルファミリーが所有するプライベイト・カンパニーであ
り、今日でもその実体は秘密のベールに覆われている。

 1999年現在で全社売上が456億ドル、60カ国1000拠点を
構え、従業員数も85,000人を有する。

 1960年代以降、食糧関係を中心に多角化を進め、種子加工、ハイ
ブリット種子開発、大麦モルト製造、肉牛肥育・牛肉処理加工、製粉事
業などを世界各国で繰り広げている。さらに陸上・河川運輸、鉄鋼生産、
金融部門などへも新たに参入している。

 日本でもカーギル・ノースエイジアを設立しており、97年には、倒
産した山一証券の子会社である山一ファイナンスと食品商社の老舗であ
る東食を買収しており、日本での足場を固めつつある。

 人工衛星や最新の情報通信手段を駆使して、気候監視ネットワークを
地球規模で張り巡らせながら、収穫状況を正確に分析し世界の穀物市場
を掌握している。

 このカーギルの世界戦略自体が、そのままアメリカの食糧安全保障戦
略となっている。それは、PL480号を発展させたウィリアムズ・レ
ポートとして今なお生きている。

◆ウィリアムズ・レポート『相互依存世界における米国の国際政治政策』

 日米再逆転の原点として日本の政財界人は「ヤング・レポート」を取
り上げるのが習わしとなっている。1984年、レーガン政権のもと「
大統領産業競争力委員会(PCIC)」が設置され、当時のヒューレッ
ト・パッカードの若きCEOジョン・A・ヤングがモルガン・スタンレ
ーやインテル等の幹部と共にまとめあげたものである。

 日本ではそっくりそのまままねをして政権が変わるたびに名称が変わ
る「経済戦略会議」「産業競争力会議」や最近の「産業新生会議」「I
T戦略会議」の設置を行うのが流行のようだ。

 日本の研究者の多くも見逃しているようだが、このヤング・レポート
のさらなる原点が存在する。「ウィリアムズ・レポート」である。ここ
にアメリカの国益を最優先にしながらグローバル・スタンダードの合意
を引き出していく相互依存戦略の原点が見出せる。

 相互依存戦略とは、単独でリーダーシップを発揮するのではなく、共
通の利害を持つ日本や欧州諸国を仲間に引き入れ、自己の主張を全面的
に盛り込む形でスタンダード化する戦略である。この仲間をしっかりつ
なぎ止めているのが先端技術と食糧戦略である。

 ウィリアムズ・レポートは1970年、ニクソン大統領により「国際
貿易投資委員会」が設置され翌71年にまとめられたものである。委員
長の名を冠してウィリアムズ・レポートと呼ばれるが、正式には『相互
依存世界における米国の国際政治政策』と題するもので全3巻、193
8ページからなる膨大なものである。

 A・L・ウィリアムズ(IBM)を委員長に、F・J・ボーチ(GE)
、R・C・ガーステンバーグ(GM)等と並んでカーギルの副社長W・
R・ピアースが主要メンバーとなって作成にあたり、アメリカのとるべ
き重要な二つの戦略領域として最新鋭兵器を含めた先端技術産業とアグ
リビジネスとを鮮明に打ち出した。

 そして、さらに重要な点はこの時期に政府と財界が相互に結合しあい、
アメリカの実質的なリーダーシップの担い手としてインナー・サークル
の形成が行われている。

 現在もカーギルの取締役会には、駐日大使を務めたこともあるマイケ
ル・H・アーマコストが1996年より就任しており、政府とのパイプ
役を担っている。
 
 アーマコストは1982年から84年までフィリピン大使を経て、8
9年から93年まで日本大使を務めた。とりわけ日本とのつながりが深
く日米協会や松下グループが設立したパナソニック財団の理事を務めて
きた。

 米国家安全保障会議(NSC)上級スタッフや国務省での長い経験か
ら政府関係者との強力なネットワークを持っている。現在1927年に
設立されたアメリカでもっとも古いシンクタンクであるブルッキングス
研究所の所長を務めており政府の政策決定に大きな影響を与えている。

 他に民間企業ではアメリカン・ファミリー生命保険やアプライド・マ
テリアル、TRWの社外取締役、シンクタンクではアスペン研究所、ア
ジア財団の理事を務めてきた。また外交問題評議会(CFR)やビルダ
バーグ会議のメンバーでもある。

 日本ではその存在に言及した論文はほとんど見かけないが、アメリカ
・イギリスには、上流階級のみが参加できる特権的なクラブが存在する。
イギリスでは、MCC、ブルックス、ホワイツ、プラッツ、ブードルズ、
カールトンなどが、アメリカでは、ボヘミアン、センチュリー、デュー
ケーン、リンクス、メトロポリタン、パシフィック・ユニオンなどが著
名である。

 アーマコストはこの中のボヘミアン・クラブのメンバーでありまさし
くインナーサークルの中心にいる。

このアジアに詳しいアーマコストの視線の先には広大な中国の姿がある。

◆次なる標的『中国』

 2000年5月24日、中国に最恵国待遇(MFN)を恒久的に供与
する法案が、米下院本会議で可決された。米上院での審議は、9月初旬
から始まる予定である。

 クリントン政権は中国の世界貿易機関(WTO)加盟をめぐる米中協
議が妥結したのを受け、中国へのMFN恒久化を決断し、激しい攻防の
末にに下院を通過した。しかし、中国による大量殺傷兵器の輸出をけん
制する関連法案の扱いをめぐり共和党内の調整が手間取っていることや
同法案に反対するアメリカ労組の反発が再び盛り上がりを見せており、
ゴア副大統領の選挙戦に影響を及ぼし始めている。

 同法案への支持を訴えロビー活動を展開していた米経済界は、総じて
歓迎を表明しており、巨大な中国市場が開放されることで、コンピュー
ター、保険、農業など幅広い分野での恩恵を期待している。

 グリーンスパン米FRB議長は、下院銀行委員会のリーチ委員長(共
和党、アイオワ州選出)への書簡の中で次のように主張している。

「中国経済を世界市場に取り込むことは、世界的により効率的な資源の
配分につながり、中国とその貿易相手国の生活水準向上につながる。」

 先のマクガヴァン上院議員の発言と重ね合わせると味わい深い。日本
はこの言葉の持つ意味を身を持ってかみしめることができる数少ない国
のひとつである。

          マックとマクドのグローカリズム(4)につづく

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