242.日本の防衛どうするべきか



初めて、コメントを書きますので、
失礼な点がありましたら、お許しください。
私は、現職幹部海上自衛官です。この立場で、貴殿の記事に対する
感想を述べさせていただきます。

1 軍隊と保険の相違について
  確かに、一種の保険と言える面は否定できないが、その相違の
 最たる部分は、軍隊の戦争抑止効果である。
 保険には、事故を予防あるいは抑止する機能はないが、軍隊の役
 割のうち、戦争抑止は極めて重要であり、 機能しうる軍事組織
 を有し、実際にそれが有効に活動していることが、周辺の紛争生
 起の危険レベルを下げていることも、否定しえない重要な事実で
 ある。

2 一人前の軍隊組織の養成に何年かかるか。
  軍隊は、規模を縮小したり、増大したりは簡単にはできない。
 「軍は国家百年の計」ということをよく認識しなければならない。
  一例をあげるなら、空母については、設計に約10年、建造に
 10年必要といわれている。空母が就役した後、空母の艦内の人
 的、物的システムが有効に機能しうるようなノウハウが育つまで
 、多分、私の経験では、最低でも5〜10年は必要である。
  (かつて、ソ連は、空母のどんがらを建造しえたが、その
   運用には成功できなかった。)
 私は、水上艦艇の艦長を経験したが、海上自衛隊では艦長を教育
 するのに、約20年をかけている。1隻の艦艇が有効に機能する
  には、 多年にわたる試行錯誤による様々なノウハウの蓄積が必
  要であり、数十隻の艦隊を有効に機能させ、また、陸海空の軍事
  力を有機的に総合力を発揮させ、国防を全うすることの困難性は
  押して知るべしである。
 軍隊養成のスパンに比して、国際関係の変化の速いことをよく認
  識しておく必要がある。

3 何を持って、国と国との相互理解や友好関係と言うのか。
  日本人の国民性には、真っ正直であり、簡単に相手を信用し、
 相手も、自分と同じ考え方、思考形態をもっていると思い込み、
 物事の背後を勘ぐることができない点がある。
 まず、信頼在りきは、国際関係においても、真の理想の姿かもし
  れないが、欧米諸国、中国人等、日本以外のほとんどの民族は、
  まず、何事においても、疑ってかかることが思考の基盤にあるよ
  うであり、簡単には、本心を明かさないはずである。
 日本人のほとんどは、アメリカに対して最大の信頼を置いている
  が、アメリカでは、日本との新たな戦争についても、ちゃんと研
  究されている。
 それは、国防を感情論と別に考えているからである。
 相互理解や友好関係は促進すべきであるが、それは、感情論の問
  題であり、国防のための戦力は、数学であり、科学であり、経済
  学である。簡単には、感情論とリンクさせるべきではない。

4 南北朝鮮の対話は、日本にとって危険レベルを下げたか。
  南北朝鮮の友好関係が、日本にとって、望ましいかどうかは、
 簡単には、結論できない問題であり、もっと長期的に捉える必要
 がある。
 なぜならば、統一朝鮮が日本にとって、友好国になるかどうか不
 透明であるからだ。
 韓国が、「大洋海軍」を目標と掲げ、海軍を急激に増強している
 事実をご存知だろうか。
 私は、この動きは、朝鮮統一後をにらんだものであり、
 少なからず、海上自衛隊を意識してのものであると考えている。

5 軍備の自制=国防の自制
  繰り返しますが、国防を感情で感情論で捉えるべきではない。
 特定の軍隊に対して、日本の安全を全うするには、これだけの規
 模の軍隊が必要であるという計算がなければならない。つまり、
 国防計画には、仮想敵国の想定が必要不可欠であり、冷厳な計算
 が必要である。まして、周辺諸国が全く自制していない場合に、
 日本のみが自制してどうするか。必要な軍備は、どうどうと保持
 しなければならない。
 縮小するのであれば、明確な保障が必要である。

6 アジアは儒教文化圏ですから、お互いの信義を確立すれば、
  ある程度の抑止にはなるはずです。これは、本心ですか。
 国防に関して、ある程度の抑止になれば、よいのですか。
 こんな甘い考えで、日本の安全が全うされるのですか。
 国防には完全を期すべきではありませんか。

 伊 藤
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(Fのコメント)
 現役の自衛官の伊藤さん、ありがとうございます。私もやっと、
まともな議論ができるので、感謝しています。戦略以前の議論が多
く、この悲しい日本の現実に、絶望感を感じていた状態でした。
 伊藤さんの意見にほとんど同じですが、コメントします。

 1について、保険との比喩が一番分かりやすいため、使いました
が、保険と軍が同じとは思っていません。相違はその通りです。

 2について、軍の育成に長い時間が必要であることは、了解して
います。が、どのような軍の構成にするかが問題でしょう。
 軍の構成は、長期的国家戦略に基づいて、検討すべきですが、日
本は、この基礎的国家戦略の検討が不十分な状態になっています。
戦後、吉田内閣が、米国軍隊により日本を防衛し、日本は経済的に
米軍の支援を行う戦略で今まできたのです。しかし、冷戦後、日本
の戦略変更が必要になっているのです。そのため、この国際戦略コ
ラムが必要なのです。その中には、日本と米国との関係をどうする
かも検討するべきです。当面は日米安保しかないが。
 感情的な面、友好関係構築も必要です。政治の延長が軍事ですか
ら、政治的面では友好国が日本周辺にあり、その友好関係の国家と
利害の一致度が高いほど安全性が高いことになるはずです。
 国家間戦争防止の1つですからやるべきです。しかし、それによ
って、軍の構成を変更するべきではないが。

 3について、国や国民同士の利害度一致が高いほど、友好度が高
く、利害が相反すると、友好度が低くなる傾向があると考えられま
す。このため、利害の同一性をどこに見つけるかが問題です。
 このため、日本とシンガポールの自由貿易協定は重要でしょう。
他の諸国とも、自由貿易協定等の締結をするべきだと思います。

 中国とは、敵としての関係が成り立っていると考えられるので、
中国の経済性において、日本の敵国になるのは損ですよとの関係を
構成する必要があると思います。また、日本国内での反日的意見は
中国に誤解を与えるため、するべきではないが、中国を敵とする意
見も不要な反発が起こるため、日本としてはいつも友好関係の構築
を目指していますとの姿勢を示す必要があるでしょう。勿論、日本
人の特性を、国家指導者は頭に入れておく必要はあるが。

 4について、韓国の米国軍離れは確実でしょう。しかし、市場主
義を簡単に捨てることもできないはずです。韓国国民も豊かな生活
を犠牲にしてまで、日本と敵対できるか疑問です。豊かな民主主義
国の国民・企業は、国際的な市場で成り立っているため、そう簡単
に経済的利便性を捨てることはないはずです。しかし、用心は必要
なので、統一朝鮮が日本の敵になる想定は必要であるが。

 5について、敵以上の防衛をしようとすると、その連鎖が起き、
軍備の拡大が起きる可能性があり、単純に敵より強大になることは
やめるべきである。TMDなどのミサイル防衛機器の開発は必要で
あるが、攻撃性の強い兵器導入は何を守るかの明確な戦略が必要で
しょう。勿論、空中注油機などは、日本防衛に必要なものでしょう
が。

 6について、国防は、万全を期することは不可能です。敵の全て
の攻撃を封鎖するのは無理。このため、なるべく、地域全体を共同
で守る集団安保が重要になるのです。
 しかし、この構築は、信頼関係や、利害の一致が必要です。この
信頼構築に、儒教・仏教文化が必要だと思います。現時点では、
ASEANとの集団安保が現実的ですが。ASEAN諸国は中国の
反発を恐れ、中国抜きの集団安保に合意しないし、中国も周辺諸国
を脅すはずです。現時点で既に、アジアは日本より中国を恐れてい
るのです。日本のプレゼンスの低下が起きているのですよ。その
方向に今後、益々なっていくように思います。このため、集団安保
では、中国を抜きで考えられないのですが、台湾との関係があるた
め、難しい。ここは、台湾と中国の対話促進、中国と日本の信頼関
係構築をするしかない。もちろん、TMDなどのミサイル防衛を
前提にしていますが

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