YS/2000.07.21 伝家の宝刀『瑕疵(かし)担保特約』 ■解体する旧長銀グループ 山田恭一そごう社長は、長銀が米リップルウッド・ホールディングス を核とする投資ファンド「ニュー・LTCB・パートナーズ」に譲渡す ることが決まったとき、安堵感をにじませながら、「メーンバンクの承 継先が決まったことは大変、喜ばしい」と語る。 9600億円以上の負債を抱え、会社更生法適用の申請をした信販大 手のライフ妻鹿社長は、かって「長銀から資金繰りなどの約束を得てお り法的手続きのなかで、再建を急ぎたい」と述べていた。 ふたりの社長は、日本長期信用銀行が外資系の新生銀行へと生まれ変 わったことへの認識が甘かったようだ。長銀がメーンバンクを務めた上 場企業の倒産は、2月の中堅不動産エルカクエイ、5月の信販大手ライ フ、そして同じく5月に第一ホテルと続き、そして今月そごうが民事再 生法の適用を申請する。 特にライフ破綻の引き金をひいたのは、新生銀行が借り換えを拒否し、 それを受けて予定していた第三者割当増資にGEキャピタルが応じなか ったことである。このGEキャピタルは、米リップルウッド・ホールデ ィングスを通じて新生銀行に出資している。 会社更生法適用申請後、新生銀行がライフ買い取りに名乗りを上げ、 さらには新生銀行の経営権を持つ米リップルウッド・ホールディングス が第一ホテルの再建スポンサー候補になった。 結局のところ、倒産させてただ同然で買い取る「新生銀行方式」が公 然と行われている。ちなみにニュー・LTCB・パートナーズの長銀買 収金額は、最終処分特価10億円であった。そして、おいしいおまけ付 きであったことが、そごう問題で明らかとなる。 ■伝家の宝刀『瑕疵(かし)担保特約』 7月12日、そごうは民事再生法の適用を東京地裁に申請、倒産した。 この問題で、公的機関の預金保険機構は6月30日、約2000億円 のそごう向け債権を新生銀行から買い取り、うち970億円分の放棄を 決めた。買い取りは、政府が一時国有化した長銀を新生銀行に売却した 際の瑕疵担保特約に基づいている。 瑕疵担保特約は、長銀の保有する債権を譲渡先に円滑に引き継いでも らうため盛り込まれた契約であり、債権価値が3年以内に2割以上目減 りした場合は、国に買い戻しを求めることができる。そごう問題でこの 伝家の宝刀の威力を思い知らされるのである。 一般的にアメリカでは譲渡後の損失について、国と譲渡先が2次損失 を「8対2」といった割合で分け合う「ロスシェアリング契約」を採用 しているが、日本では来春の預金保険法改正で導入されるものの、長銀 譲渡では採用できなかったため、民法の規定にある「瑕疵担保」の考え 方を採り入れた。 8月にソフトバンク連合に譲渡される予定の日本債券信用銀行にも採 用が決まっている。 倒産したそごうを巡る国会の集中審議が7月18日、参院金融経済活 性化特別委員会で行われ、国にそごう債権を引き取らせた新生銀行、主 取引銀行である日本興業銀行、債権放棄による救済を認めた金融再生委 員会に対し、与野党から責任を問う声が上がった。 参考人として出席した新生銀行の八城政基社長は「瑕疵担保特約は、 金融再生委員会から提案があったものだ。(野党が求める)特約の廃棄 は極めて困難だ」と反論し、同行の収益基盤を考えると、やむを得ない 判断であることを強調した。そして、瑕疵担保特約などによって二次損 失を被らない条件がなければ、旧長銀を買わなかった、との見解を示し た。 ■二次損失をめぐる駆け引き 長銀が特別管理下の置かれたのは1998年秋である。その譲渡先候 補として、米リップルウッド・ホールディングス以外に仏バリバ銀行、 オリックス=J・Pモルガングループ、中央信託=三井信託グループ等 が名乗りを上げた。金融再生委員会は、この中で金融技術面でオリック ス=J・Pモルガングループに期待していたようだが早々に離脱してし まう。 最終的に米リップルウッド・ホールディングスと中央信託=三井信託 グループに絞り込まれ、その駆け引きの焦点が二次損失問題であった。 米リップルウッド・ホールディングスは、二次損失については、一定 の理解を示していた。これに対して中央信託=三井信託グループは、二 次損失のすべてを政府が負担すべきとの主張を繰り返した。 二次損失の補填を認めること自体、金融再生法になく、大蔵省主計局 も将来の財政負担増を嫌い難色を示す中で、民法上の規定にある「瑕疵 担保」責任の原則を援用することで決着することになる。 事実、金融再生委員会では、綿密な試算を行い、決着案に対して中央 信託=三井信託グループ案を採用した場合5000億円程度の国民負担 増となるばかりか、中央信託、三井信託両行とも受け入れできる程の経 営基盤を有していなかったことが調査によって明らかとなる。 また、1999年9月に柳沢伯夫金融再生担当相は、長銀の譲渡先選 定問題で米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長、サマ ーズ米財務長官、そして因縁のバーゼル銀行監督委員会議長を兼任する マクドノー・ニューヨーク連銀総裁と相次いで会談している。 当時「受け皿銀行は日本だけでなく国際的視野に立って検討すべきだ」 との意見が、米ウォール街など金融界に根強く、おそらくこの時に米リ ップルウッド・ホールディングスへの譲渡について最終確認が行われた とみるべきであろう。 国有化期間が500日近くに達しようとしている間に不良債権は倍以 上に膨れ上がる。責任追求を逃れる為に、新生銀行の八城社長が明言し たように「瑕疵担保特約は、金融再生委員会から提案があった」として も不思議ではない。 綿密な試算を行った際に、そごうあるいはセゾングループの国民負担 は当然のことながら予測していたはずである。 ■ポール・ボルカー元FRB議長登場 新生銀行が外資系として生まれ変わったことを甘く見たもう一人の偉 いさんがいる。西村日本興業銀行頭取である。日本経済新聞によれば、 興銀のそごう再建計画に理解を示さない新生銀行の態度に業を煮やした 西村頭取は、ある人物に新生銀行の八城政基社長への説得を依頼した。 ある人物とは、またまたポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FR B)議長である。ボルカー氏は新生銀行のシニア・アドバイザーに就任 しているが、国際会計基準委員会(IASC、本部ロンドン)評議委員 会委員長でもある。その人物に「欧米とは異なる日本の金融事情を理解 して欲しい」と訴えた。 八城社長は、あっさりと「私どもへの投資家グループには欧米の有力 金融機関が10前後入っており、細かく精査して条件を決めた」と語る。 ■先進的なノウハウ 大人になりきれないこの国のスタイルを微笑ましく見守ることにしよ う。自分でなにひとつ決めることができない奥ゆかしさを誇りにしよう。 当時の越智通雄金融再生委員会委員長は、新生銀行に対し「他の大手 銀行の参考になるような経営をしてもらいたい」と語り、外資の先進的 なノウハウを活用した新生長銀への期待を表明した。 外資の先進的なノウハウとは、4兆円もの公的資金を投入しながら、 新生銀行の将来のキャピタル・ゲインに対する課税権は日本にはないこ とを意味するのだろうか。 政府保有分の6000億円のリターンしかなくとも献身的に税金を払 い続けていくのである。誰にとっていい国なのか結論は見えている。 ■最新情報 7月21日付け日本経済新聞によれば、新生銀行は今年5月に会社更 生法の適用を申請したライフ、第一ホテル向け債権約1800億円に対 して預金保険機構に買い取りを請求する意向を明らかにした。 新生銀行債権はライフが約1250億円、第一ホテルが約550億円 で新生銀行首脳は「債券額が大きく、裁判所による更正計画で大幅に債 権がカットされると、銀行の収益に深刻な影響が出るため、権利を行使 する」としている。 そしてまもなくセゾングループ「西洋環境開発」の特別清算における 買い取り問題が続きそうだ。それでもまだ終わりそうにない。その次は ・・・・・・・。 =参考・引用= 日本経済新聞・朝日新聞 他 糸瀬 茂の「経済コラム」 http://www.tv-tokyo.co.jp/nms/column/itose.html 文芸春秋5月号『長銀売却 初めて暴く「国辱」の真相』 小田準 選択7月号『銀行襲う「第二の激震」』 その他多数 ============================== YS/2000.07.22 新日債銀の伝家の宝刀基本合意書 (結構怒った方がいいかもしれません。) 日債銀買収に係る基本合意書の概要(抜粋) http://www.fsa.go.jp/frc/news/n121.html 9 .貸出関連資産の瑕疵担保 @ 日債銀買収時において機構は新生日債銀に貸出関連資産を売却・譲 渡したものとみなす。〔第7条1項(1)〕 A 実行日から3年目の応答日又は平成15年9月末日のいずれか遅い方 の日(以下「行使期間満了日」という)までに、当該資産に瑕疵があ り、2割以上の減価が認められた時は、新生日債銀は当該資産の譲渡 を解除する権利を有する。〔第7条1項(1)〕 B 解除の場合、機構は当該資産の返還後、最終契約に定める方式によ って算出される額を新生日債銀に払い戻す。〔第7条2項(1)〕 C Aの「2割以上の減価」とは、同一債務者に対する全貸出関連資産 のその時点での簿価(その時点での引当金控除後ベース。以下、同じ 。)の総額が、それら貸出関連資産の当初簿価の総額に比し2割以上 減額していることを言う。〔第7条1項(4)〕 D Aの「瑕疵」とは、当該資産に関し金融再生委員会が「適」と判定 した根拠について、日債銀買収時から行使期間満了日までに変更が生 じたか、又は真実でなくなったことが判明したことを言い、変更また は真実でなくなったことが日債銀買収後の専らソフトバンク・グルー プ又は新生日債銀の責めに帰すべき事由によって生じた場合は「瑕疵」 に含まれない。〔第7条1項(3)〕 E 金融再生委員会が「適」と判定した根拠が明示されていない場合( 例えば正常先の債権は原則として「適」と判定されている)等におい て、当該債務者に一定の客観的な事実が発生した場合には、新生日債 銀はそれを「瑕疵」と推定することができる。〔第7条1項(3)〕 (注) 例:正常先の債権について日債銀買収後から行使期間満了日までに元 本又は利息の3カ月以上の延滞が発生している場合には、新生日債銀 は「瑕疵」の存在を推定できる。 ============================== 切れ味鋭い伝家の宝刀 ライフ買収に4グループ名乗り・アイフルなど(7月22日 日経) 会社更生手続き中の信販大手ライフの買い手として米GEキャピタル、 アイフル、オリックス・スルガ銀行、米シティ・新生銀行グループなど 日米4グループが最終的に名乗りを上げたことが21日、明らかになった。 ライフは5月、負債総額約9400億円を抱え会社更生法適用を申請したが、 クレジットカード会員530万人分の買い物債権、無担保融資残高600億円 など合計1兆円近い個人総資産を保有している。各グループともライフ を傘下に収めることで、リテール(小口金融取引)事業を拡充する狙い だ。 日米4グループは米GEキャピタルとアイフルが単独で手を挙げてい るほか、米シティグループ・新生銀行はプロミスと、オリックス・スル ガ銀行は米アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)とそ れぞれ企業連合を組んだ。4グループは24日から1グループごとに1週 間ずつデューデリジェンス(資産・負債の適正評価手続き)に入る。最 終的な事業計画、条件を提示し、管財人と東京地裁が9月にも最終決定 する。 =参考= ニュー・LTCB・パートナーズ(新生銀行の親会社)に出資する企業 メリルリンチ、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター、ペイン ・ウエバー、『GEキャピタル』、『シティートラベラーズグループ』、 メロンバンク(米)、ABNアムロ(蘭)、ドイツ銀行、ロスチャイル ド銀行(英)などである。