233.新右翼だなんて



得丸様

 いつもメルマガありがとうございます。ジュネーブのTIです。
 昨日相次いで頂いたメールには、いろいろ考えさせられました。

 国連人権委員会では、東チモールの凄惨な人権侵害を止めさせよ
うとポルトガルが騒ぎ(昨年9月)、北朝鮮が執拗に「従軍」慰安
婦問題を提起し(常時)、欧米が教えを垂れて途上国が反発する、
そのような場となっている。

 15世紀頃まで問題でさえなかった東チモール問題、その問題化
のきっかけを作ったポルトガルは、かつて帝国主義者として人権を
踏みにじった贖罪意識でやっていたのでは毛頭なく、ポルトガルも
人権に関心がある、とEUの議長国として声を出していたに過ぎま
せんでした。

 慰安婦は、それ自体は個の尊厳をあまりに踏みにじった話ではあ
るけれども、それを巡る議論という面では、肝心な点が抜けている
ことを感じます。当時、女性を物品として扱ったのは日本社会だけ
なのか。植民地住民を「土人のように」扱ったのは日本国家だけな
のか。

 そして結局、同じ所に戻ってくるのです。極東軍事裁判は裁くべ
きものを裁いたのか。反省すべき者達は皆反省しているのか。
 人権委員会の場で、日本は、思想的には西側寄り、方法論的には
途上国寄りですが、西側諸国は思想と方法論とを区別する思考が得
意でなく、日本の立場を理解するのに苦しむようです。時々、日本
がイシューにより途上国を支持する意味が分からず、「日本は西側
の仲間のはずじゃなかったのか」ということを言う一本気な西側外
交官もいますが、僕は複雑な気持ちになります。日本が西側の仲間
だというのは、勿論政治思想を指しているのですが、かかる思想を
持つに到った経緯が経緯だけに、日本が却って方法論的には途上国
に同情を感じていることを、西側外交官は理解しているのか、と。
西側の方法論に与することは、東京裁判の全面的肯定を迫ることだ
という構造が見えているのか、と。

 ダウアーというMITの先生を御存知かも知れませんが、War 
without Mercy で太平洋戦争中の米軍の残虐行為を記述し、近著
Embracing Defeat で御都合主義の戦後処理過程を追った日本史研究
者です。米国人が自ら書いているところが良いのです。自国の主流
の論調に棹さすのは勇気がいります。特に、障害者を子に持つ大江
健三郎の生き様を批判するのも勇気がいるし、薬害エイズ被害者を
名指しで批判するゴーマニズムも勇気がなくてはできません。現代
の裸の王様は、正統性なき絶対君主ではなく、絶対的正統性を付与
された「弱者」であり、王様が裸だと叫ぶことは、民主主義精神に
基づく平凡な行為ではなく、ポピュリズムへの反逆だから。

ともあれ、ダウアーは極東軍事裁判の不条理を淡々と描きます。い
ろいろなものに蓋をして終わった極東軍事裁判。最後の蓋は、サン
フランシスコ条約11条です。
それはあくまで政治決着であり、正邪を裁いたものではありません。

 法的体裁を整えて責任者を合法的に処刑し、道徳的色彩を加味す
ることで日本人の誇りを破壊し、もって日本の屈服を確実にしよう
とした東京裁判の史観は、その目的から言って、民族の原点とはな
り得ません。しかし、逆に言えば、原点とはならなくても、戦争に
負け、政治決着を図った以上、不完全だろうと、いびつだろうと、
これを基準点とせざるを得ません。

 では、東京裁判を正史として位置づける史観を清算して、さりと
て負けた事実は変わらないから基準点自体は動かさないとすると、
何か打ち立てられるものがあるのか。

 米国より急進的な面もある現代日本の民主制度は、東京裁判史観
の押しつけの結果なのか、戦前自ら行った大政翼賛会政治・共産党
(やら大本教やら)弾圧への民族的アンチテーゼなのか。仮に米国
によってもたらされたと定義すると、不穏当な喩えですが、まるで
暴行された結果産まれた子が優秀だったので喜んでいるみたいな変
な屈辱感があります。他方、米国の民主制度の原点が、英国封建当
局による思想弾圧・政治参加否認への拒否にあり、このためアンチ
テーゼとして言論の自由、政治参加の自由が突出しているように、
現代日本の民主制度も、その内容を見る限り、戦時中の諸制度の全
否定として、日本人自身が血であがなったものと思えなくもありま
せん。自ら大正デモクラシーを経験した日本人は、民主制度そのも
のを外から強制されなければならないほど未開ではないからです。
実はダウアーの主眼もそこにあるのです。

 ついでに言えば、防衛庁編纂の詳細な戦史叢書を読んでいて、あ
の戦争の泥沼を招いたのは、悪の権化としての軍部というよりは、
優等生だが大局をわきまえない軍官僚達の官僚主義に基づく判断ミ
スの連鎖だという認識を持つに到ったのですが、中央官庁にとどま
らず、相次ぐ大企業の経営破綻に共通する官僚ことなかれ主義、こ
れこそが日本を戦争に巻き込み、アジアや欧米を道連れにした罪業
として根絶されるべきものでしょう。

 東京裁判が日本人に突き付けた、「他者との関係(侵略)におけ
る断罪」という矛先を、日本人の自己改造の契機として内面に転化
し、人類史上稀な民族覚醒の出発点として誇れる史観を打ち立て、
そしてその史観に基づいて自己改造を完遂(改憲も忌避せず)させ
ることはできないだろうか。そうすれば、日本の民族覚醒のために
多くのアジア人、欧米人にも血を流させてしまったことに思いを致
すことは、最早さほど困難なことではなくなるでしょう。逆に、い
つまでも変な屈辱感を払拭できずにいれば、結局は偏狭、無教養、
非理性的なことを良しとする思潮、いわゆる「右翼」に道を開けて
しまうでしょうし、少なくとも、軍国主義復活を自ら阻もうとして
いる日本民族の努力はいつまで経っても真正な誠意の発露として受
け入れられる素地を持ち得ず、戦勝国が道徳的優位性を振りかざし
て付け入ってくる隙を与え続けるでしょう。

 胎動が始まった正に今、正念場だと思います。初動が肝心です。
戦後50年に到っていない94年当時は仕方ないとしても、一昨年
の江沢民宮中晩餐会スピーチへの国民的反発以来続いてきたこの健
全な方向性を「新右翼」などという月並みなレッテルで陳腐化させ
てはなりません。教養豊か、物静かで説得力を持った論調の中核と
なられるべく、これからの御活躍をお祈りします。
 
TI
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敗戦の心の傷から目をそらしつづけた戦後をよんで
 
1、心はハードウェアの部分から・・・・最近読んだ本を思い出し
ました。落合信彦さんの「魂」です。あまり難しい本は読めません
が、この本にも、得丸さんがおっしゃるような、日本の問題がかか
れているように思いました。人の心を育てる、幼少期・・・・本当
に大切だと思います。
 
Uta.
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大江健三郎「恥」発言  
木村愛二です。

 大江健三郎の防衛大学校生についての「恥」発言の議論がありま
したが、私は防衛大学校の3期中退で、東大では大江の1年下でした
から、その発言以前、芥川賞の受賞以前の彼の姿も見かけています。
その当時の芥川賞受賞者には石原慎太郎もいますが、芥川賞そのも
のの評価も必要です。私は、どちらも商業雑誌のタレントとして見
ており、石原も大江も軽蔑しています。作品も、初期のものしか読
んでおらず、まるで興味がありません。

 その後、大江を天敵扱いする本多勝一とは直接、訴訟まで起こす
関係になりましたが、この種の商業タレントの発言に一喜一憂する
日本の自称文化人全体も、軽蔑の対象です。この考えは、実は、そ
れほど珍しいものではなくて、私は日本テレビにいましたが、メデ
ィアの世界で下積みの苦労をした人々の本心なのです。

 最初に、大江の知る人ぞ知る軽蔑すべき正体を記すと、彼は、
フランス文学科出身ですが、当時のアイドル、サルトルがノーベル
賞を拒否したのを賞賛しておきながら、自分は受賞に向けて醜い政
治工作を展開したのでした。彼こそが日本の「恥」なのです。

 私は、日本ばかりでなく、世界全体についても、いわゆる右も左
も、すべて間違いばかり犯してきた「赤勝て」「白勝て」時代の威
張り屋、党派的といえばもっともらしいが、金魚の糞が実情の低水
準と考えています。相手の足を引っ張るだけのマイナス・キャンペ
ーンは、アメリカの大統領選挙でやらせておけばいいので、もっと
発展的な思想を磨くべきだと思っています。

 現在、ある勉強会向けに、「いかに日本は負けたか!『産業・軍
事』日米戦史の裏の裏」と題し、長年貯えた資料の総集編を作成中
です。よかったら、講師に呼んで下さい。

 以上。

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木村愛二:Web雑誌『憎まれ愚痴』編集長
ある時は自称"嘘発見"名探偵。ある時は年齢別世界記録を目指す生
涯水泳選手。
E-mail:altmedka@jca.apc.org
URL:http://www.jca.apc.org/~altmedka/
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(久保さんからのコメント)
得丸さんいいなあ!バランス感覚があって。
久保
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(Fのコメント)
 TIさん、久保さんの言う通り、得丸さんの論には、いつも感心
しますね。
非常に、バランスよく、両サイドから認められる心理的分析がある。
今後も期待しましょう。TIさんの本論も、すごく説得力があり、
世界の国々が自己の利益で交渉していることが分かる。

 Utaさん、ありがとうございます。「魂」を読んでみます。
木村愛二さん、大江さんの一端を知りました。いつもありがとうご
ざいます。

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