217−1.ドイツ、オーストリア、イタリア、日本の国籍法について



Fさん、こんにちは。 オーストリアのチッペルレです。

「2重国籍」に関するコメントをありがとうございました。
ドイツ(オーストリア)、イタリア、日本と並べますと、ヨーロッパ
を縦に縦断して、日本に飛びます。この国々は第2次世界大戦で世界
中から孤立して敗戦した国々です。あまり知られていませんが、
ヒットラーはオーストリアの生まれで、オーストリアは17年間
ナチスドイツに併合されていました。この4国は歴史的に、民族主義
的で国家主義的な「血統主義国籍法」を守り抜いてきた国々であり、
現在少子化問題で、国連の移民勧告を受けている国々でもあります。

これはまったくの偶然とは思えません。閉鎖的で、外国や外国人を
受け入れない国は、外国や外国人からも受け入れられないという見本
ではないでしょうか?

私は実は、「外国人排斥主義」で悪名高い、ヨルグ・ハイダー知事の
州に10年近く住んでいます。偶然にも上記の4カ国と密接な関係を
持っていますし、ヨーロッパの移民問題や政権交代の渦中にいるので
、民族問題や国籍問題についていつも考えさせられています。

ドイツでは、「外国人受け入れ主義」の市民の力が「外国人排斥主義」
の旧政権を倒し、ドイツで生まれた外国人の子供にドイツ国籍を与え
、正当な理由がある場合は成人の二重国籍も認める「生地主義」の国籍
法を2000年1月1日に実現しました。東西融合による西側の負担
、高失業率、ネオナチなどの問題を抱えながらも、ドイツは国内の
異民族との平和的共存を目指し、国際的信用も得て、経済も急速に伸び
ています。

オーストリアには、バルカン半島の紛争や東ヨーロッパの自由化に
伴って、大量の難民が流入しました。それにくわえて1995年の
EU加盟で、急激な変化で社会がショック状態を起こしたのではない
かと思います。実はオーストリアは、1999年に「血統主義国籍法」
を「生地主義国籍法」に改正していますが、成人の「2重国籍」は、
母国側が認めない場合は認めていません。国民優先政策で国民が大切
に優遇される反面、裏を返せば、帰化しない(できない)外国人は
一生冷遇されます。閉鎖的な社会への反動から政権が変わりましたが、
「外国人排斥主義」を公然と掲げる自由党が入閣したので、新政府は
世界的非難とEU制裁を受けています。残念ながら、オーストリアに
は民主主義の政党がなかったということでょう。真に住民全体の声を
反映した政治をする政権が実現するまで、オーストリアは政権交代を
繰り返すかもしれません。「外国人排斥主義」の自由党を選ばなかっ
た、73%のオーストリア国民に希望を託したいと思います。

二重国籍についての旧政府の発表は、「2重国籍は必要ない」、
「ふたつの国に忠誠をつくすことはできない」というものでした。
両国が戦争をすれば、どちらにも忠誠を尽くすことはできないかも
しれませんが、平和な世界では、両国にいる家族の世話をすること
や、経済や文化の橋渡しをすることで、りっぱに「ふたつの国に忠誠
をつくす」ことができます。「戦争」を前提として国民のみを優遇し、
外国人を追い出して国際的信用を失墜するよりも、「平和」を前提と
して外国人をそのまま自国民として受け入れ、国際的信用の確保と
経済発展に努めるほうが賢い政策のように思えます。国内外国人だけ
でなく、海外の自国民にも2重国籍の権利を与えることで、世界経済
や外交面でも、結果的に自国に事実上の安定をもたらすことができる
と思うのです。旧政権がドイツのような国籍法を実現しなかったから
、経済を活発化することもできず、失業者が増えて極右派が台頭する
ような結果になったのではないかとも思います。

イタリアは、短期間2重国籍を禁止していましたが、今はまた容認
されています。
国籍取得条件も非常に緩やかで、イタリアで長く仕事をしている違法
滞在外国人に対する「正規化」なども、度々行われたようです。
イタリアにはどんどん不法入国外国人が流入しており、豊富な労働力
を反映して、イタリア経済も伸びています。

*イタリアのミミさんの場合、事実上「2重国籍」が可能なのでは
ないかと思います。日本の国籍法は、他国から譲渡された国籍に
ついては、2重国籍を認めているからです。イタリアは基本的に
2重国籍を認めていますから、例えイタリア国籍を取得しても、
イタリア政府が日本政府にその事実を報告しなければ、申請や届出
による国籍取得か譲渡によるものか日本政府が調査することは不可能
です。
その場合、イタリアの法律では2重国籍(またはイタリア国籍のみ)
、日本の法律では日本国籍しか持っていないことになります。

「2重国籍」というと、権利も義務も2倍のように感じられますが、
そうではありません。どちらの国に住んでも、単に「自国民」として
扱われ、まったく普通の権利と義務を持つだけです。両方の国に同時
に住むことは不可能ですから、必ずしも権利や義務が2重になるわけ
ではないのです。

6月4日のニューズウィークに日本の移民問題の記事がありました。
日本経済が労働力を必要としていることから、一番保守的と考えれる
農村から外国人花嫁の受け入れが始まり、彼らのほとんどが日本社会
にうまく溶け込んでいること、工場労働者を中心とする超過滞在外国
人家族の「正規化」が日本でも行われるかもしれないことや、
石原知事でさえ「正規化」の必要性を感じているという内容でした。

日本の国籍法では、国際結婚で生まれた子供は普通自動的に2重国籍
になりますが、相手国が2重国籍を禁止していない限り、成人しても
2重国籍を維持することが可能です。ただし、自らの意志で他国籍を
取得する場合は母国籍を放棄しなければならないことになっています。
「自らの意志」とは、非常に曖昧ですが、外国人であるために仕事の
制限を受けて、経済的理由からやむを得ず「国籍申請」する場合、
果たして「自らの意志」と言えるのでしょうか? 
日本の永住外国人であれ、海外の永住日本人であれ事情はおなじです。
「外国人排斥主義政策」により永住外国人を追い出すためか、国籍を
申請させようとしてわざと仕事を与えないのか真意はわかりませんが
、滞在国に家族がいるため出て行くこともできず、母国にも年老いた
親がいるため母国籍を放棄するわけにもいかない人はたくさんいます。
母国籍を放棄しないからといって、滞在国の仕事を制限し、母国から
の仕事も禁止して、わざとまったく働かせないのは、人権無視に過ぎ
ません。経済的に行き詰まって滞在国の国籍を申請せざるを得なくなっ
たとしても、それは「自らの意志」ではなく、「滞在国による強制」
です。 

なぜ「自らの意志」とみなされるのでしょうか?
各国とも、永住外国人を国民と同じように扱う制度を確立するか、それ
ができないならば、「2重国籍」を認めるべきだと感じます。永住外国
人に国籍取得の道を開かないのでは、「外国人に不親切な国」と思われ
てもしかたがありません。
新たに移民を招聘したり、外国人留学生を招いて優遇し、教育や仕事の
チャンスを与える前に、まずは、既に国内に住んでいる外国人が自由
に働ける環境を作ることが先決だと思います。本来非常に友好的な国民
なのに、国籍法のせいで外国人を受け入れられず、外国人にも受け入
れられず、オーストリアも日本も随分「損」をしているように感じます。
海外の日本人も仕事の面で苦戦しているようです。朝鮮半島の情勢も
変わりそうですし、大量の移民を受け入れる前に、そろそろ国籍法の
見なおしをするべき時期なのではないでしょうか?

今回の選挙で、国内の外国人問題や海外の日本人の問題を大きく取り
上げた政党はないようですが、日本経済を立てなおす鍵は、「外国人
受け入れ主義」や国籍法の見直しにあるように感じます。国民の選択
により、どのような政策がおこなわれていくのか、今後の政局を海外
から見守りたいと思います。

チッペルレゆり
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(Fのコメント)
 日本の現状はなかなか、欧米のようには進まないと思います。
やはり、日本から出て行った日本人を同胞と考えない習慣があるため
です。この習慣は江戸時代の海外日本人の帰国を制限した所から出て
いるのではないでしょうか?

 これを改めさせるのは、海外の日本人70万人が選挙に積極的に
参加して、海外日本人の権利を主張する必要があると思います。
そうすれば、日本の政治家も考えるのではないですか?

 まずは、海外日本人の権利を確保するため、日本人の世界ネット
を作ることで、その中から議員を国会に送りましょう。私も、その
運動に参加したいと思います。

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