213−2.天皇制議論の続き



天皇制を廃止するのであれば、その次の制度は大統領制
ということになるでしょう。大統領は天皇(立憲君主制での
国家君主)とちがい行政権の最高実権者、責任者です。

ところが欧州にある有力国家二カ国ドイツとイタリアでは
大統領は国家の象徴であり、行政権の最高実権者で責任者
ではありません。もちろ大統領ですから選挙(両国とも国会議員
による投票)で選出されます。しかしあくまでも大統領は日本の
天皇と同じく「国民統合の象徴」としての制度で、「立法」「司法」
「行政」のいずれの権力も持ちません。

アメリカ、フランスの大統領制から比べると、敢えて選挙で立憲君主
を選ぶような制度、あるいは世襲でない立憲君主とも言えます.
一見まわりくどい感じがします。
この制度の理由を考察するに、両国に共通することは第二次世界大戦
の「枢軸国」であったということです。
枢軸国側では選挙で当選後に人気を得た為政者が終身国家元首
になるという状況でファシズムになり暴走しました。
つまり「最高行政権力」と「国家の象徴」が一極に集中したために
敢えて両者を分離できるようにし、暴走が起こらぬように創った
制度と思われます.国会議員による間接選挙とはいえ、民意を
反映した大統領という存在が、行政の最高権力者である
首相の任命を行うことによって、最高行政権力の首根っこを押さえて
いるのです。
もちろん両国の制度は、丁度日本国憲法が時折「占領憲法」と
いわれるように、米英等の連合国の占領政策の意向を大きく受けて
いる可能性はあるとは思います.

さて、日本の天皇制が継続されることは最終的に連合国側が
反対しなかったので現行の「象徴天皇制」があるのですが、
この点についてはドイツとイタリアのごとく権力の一極集中による
暴走を防ぐ(意地悪い言い方では集中を防いで弱体化)という
意図があるのではないでしょうか。

ただ日本の「象徴天皇制」は実際は現行憲法以前に1000年以上
の歴史(実質的に)を持ちます.平安時代以後、後醍醐天皇以外に
天皇親政を行った天皇はほぼ皆無です。明治憲法でさえ立憲君主
国家に典型の「象徴天皇制」と考えられます。もちろん天皇の名を
利用して軍部の暴走がありましたが、天皇が政治権力をしていない、
また行使出来ないのは明白です。

なぜ日本人は、あるいはその時代時代の為政者は天皇という
存在を倒して新しい君主になろうとしなかったのでしょうか、
あるいは自分が強権者になれても天皇を名目だけでも残したのか?

やはり天皇という国家権威の頂点(単なる象徴ではあっても)を
残すほうが不要な戦が起こらず平和になり、対立による無益な消耗
が起こらないという智慧であると感じられます.
確かにそのことによって日本では人口が半減するような大きな戦争
はありませんでした。欧州や中国大陸では王朝交代等の戦では
人口が半減以下となることは珍しくなく、消耗からの回復は大変で
した。

もしも日本の歴史上の為政者達が天皇制を打ち倒して、新しく
君主として君臨していたら、王朝交代のたびに人口半減のような
激しい消耗が起こって、とうてい文化など残せなかったのでは
ないか。
天皇制(象徴天皇制)とは、日本において平和という大きな安定
をもたらし、経済や文化に大きく貢献していると思います.
また日本人は平和ボケとはいわれますが、平和ボケになれるほどの
強度に安定した土壌があってこそで、いまのような国際競争時代
では国際無知、非常識はよくないとしても「平和ボケになれるほどの
安定した歴史環境」は自己嫌悪することではない。

東京都 原田
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(Fのコメント)
Fの見解と同じ趣旨であるので、全面的に賛成です。中国の王朝交代
期は、日本の文化レベルが上がる時期に重なっています。
それだけ、沢山の中国の知識人が逃げてきたのです。日本の天皇制に
よる安定は、日本文化を育み、育てたのです。

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