209.BIS規制について



柳太郎(R)& YS
      国際戦略BBS(2000/05/01〜2000/05/04)より 

YS 日本の国際化は望む望まないの問題ではないように思います。長
   銀や日興証券などの金融機関、日産や三菱自動車などの基幹産業
   の現状こそが今直面している逃れられない現実です。

R  最近の他の例を挙げれば、国際会計制度の統一における日本の立
   場でしょう。日本は最初の段階の選考委員に人員を送り込めませ
   んでした。この理由が、西洋諸国の陰謀であるとか、日本の会計
   制度の構造的問題のせいだとかという、理由は何であれ、国際化
   から日本はもう逃れられないのです。そして、今後日本の意見が
   反映されなかった場合、日本は孤立する事はできないので、制度
   の抜本的な見直しを迫られるでしょう。日本国内の構造が国際的
   な力により変えられていく訳です。もちろんこの逆も起こり得ま
   す。この流れはもう止められません。この地球規模の
   「力の作用」がGlobalizationと呼ばれるものなわけです。

   これが国際政治経済上で日本に対して顕著に利用されたケースが
   88年のバーゼル合意(BIS規制)です。(これについては英語でも多
   くの文献が出ていますが、日本語での面白い本としては「BIS規制
   の嘘」(東谷 暁:1999)を挙げておきます。)


YS 私自身は、BIS自体の独立性は今なお保たれているとの判断か
   らアメリカのみに限定して論じることに無理があるように思って
   います。むしろ、日本の特殊性を主張し勝ち取ったはずの譲歩案
   自体に問題があり、結局は日本の非常に重大な政策上の失態だっ
   たとみています。厳しすぎるでしょうか。

R  YSさんのおっしゃるのは「含み益」を8%の中に入れるよう要求し、
   それが結果的に認められ、そしてそれが後に日本経済に打撃を与
   える事となったという事ですよね。確かにその通りなのですが、
   問題は、BIS規制を設けた理由がどこにあるか、8%という数字が
   アメリカ・イギリスよりも日本に厳しい内容であった。そしてこ
   の2国間の合意が意外にもスムーズであった。それにより、日本
   は同意せざるをえない状況になった。日本の銀行の力が落ち込ん
   でから、最近アメリカでBIS規制撤廃論が上がった。という事を
   考えると、やはりBIS規制自体は極めて「政治的」に映ります。
   証明するのは難しいでしょうが。

YS アメリカがイギリスと協調して根拠なき8%なる設定をしたこと
   について、日本がメインターゲットであったことは、まぎれもな
   い事実だと思います。 従って、その戦略に負けたことも含めて、
   日本政治の失態だったと思っています。国際政治の場にあって
   「知らなかった」とか「予測できなかった」 などいくらなんで
   も通用しないでしょう。 やはり厳しすぎますか?

R  厳し「すぎる」かというと、そうですね、「少し」厳しすぎるか
   もしれません。というのは、90年いつどのように、そして本当に
   バブルがはじけるかどうかなどとは誰も「正確に」予想できなか
   ったからです。

   ただ以下の点ではYSと意見が一致するはずです。

   国際政治経済上では、やはりその時代背景が関連してきます。ま
   ず、その当時の国際マクロ経済において重要視されていた考え方
   の一つが、「政策協調」だったと思います。マクロ経済安定化の
   為には主要国間での政策の一致が不可欠だという訳ですが、もち
   ろんこれは表向きの(特にアメリカの)言い訳です。これが可能に
   なるもう一つのその当時の理由として、「冷戦体制」が重視され
   ます。つまり、ここで国際政治上の「安全保障」と国際経済上の
   「マクロ経済政策」が絡み合います。さらには、日米間の貿易摩
   擦、日本経済の自由化、および日本脅威論などをどうおさえるか
   といった問題が日本を悩ませます。日本脅威論は、アメリカだけ
   ではなく(ヨーロッパの)金融センターとしての地位を脅かされて
   きていたロンドン、工業国としての地位を脅かされていた西ドイ
   ツでも見られたはずです。ですから、アメリカ・イギリスは日本
   を封じ込む為にすんなりと嫌いなはずの「規制」を盛り込む事に合
   意し、日本もそうしなければならない状況に追い込まれた訳です。
   日本には拒否するという選択肢はなかったはずです。唯一当時の
   状況から考えて「ましなもの」にしようとする試みが「含み益」
   を8%に入れるというものだったのでしょう。結果的にはこれが
   日本経済の足かせとなりますが。

   さて、私が考える問題は日本の行政指導のあり方です。何かと口
   を出すはずの日本のお役人が、80年代後半に、日本の銀行(大手ば
   かりではなく、地銀までもが)どんどん海外に進出し、極端に低い
   利益率で大量に融資を重ねていた事実に口をつぐんでいたという
   事です。銀行員に理性を求めるのは無理な事が80年代の債務危機
   で指摘されていたのにも関わらず、アメリカの銀行がやったよう
   な無茶な融資に似たような状況を日本の銀行がしていることに日
   本のお役人は口を挟まなかった。この時だけは、規制の無い自由
   な金融市場を賞賛していたのではないか?それとも日本の銀行は
   健全だと思い込んでいたのか?いずれにせよ、彼らにはしっかり
   と「お勉強」をしてほしいものです。つまり、「戦略」に欠けてい
   たとしか言いようが無い。歴史から学ぶ姿勢が無いのではないか
   と疑いたくなるぐらいです。欧米では歴史的経験から、その後の
   あり方を考えていきます。つまり、戦略を練っていくには歴史を
   知らなくてはならないという事です。日本にはこれが欠けている
   のではないか、だから政策における戦略性に乏しいのではないか
   という気がします。

YS 残念なことに国際会計基準においてもまた同じ失敗を繰り返そう
   としています。日本企業に与える影響はBIS規制以上のものと
   なるでしょう。誤解されることも多いのですが、私は規制撤廃論
   者ではありません。日本種特性から、規制は必要と思っています。
   ただし常に時代変化を見越して、規制自体を柔軟に設定すべきと
   思っています。これが1980年代以降うまく機能していません。
   というよりそれまでアメリカがうまく設定してくれていたのに、
   調子にのって自分でできると過信してしまったのが失敗だったよ
   うです。もう日本の政治システム自体を見直さないと取り返しの
   つかない状況に陥ると思います。おそらく多くの政治家や官僚の
   大半は国際会計基準という言葉すら知らないのが現状でしょう。
   どなたか反論下されば非常にうれしいのですが・・・。


*88年のバーゼル合意(BIS規制)について*

BANK FOR INTERNATIONAL SETTLEMENTS
http://www.bis.org/
参考文献
「BIS規制の嘘」(東谷 暁:1999)、
「マネー敗戦」(吉川元忠:1998:\660:文春新書)
「金融行政の敗因」(西村吉正:1999:\710:文春新書)
「バブルの歴史」(エドワード・チャンセラー\2400:日経BP社)

日本国内では、現在の金融システム問題に対し88年のバーゼル合意
(BIS規制)を 元凶とする向きが多い。吉川氏や石原都知事などは、日
米問題から第二の敗戦と位置付け新たな嫌米主義的な論調で支持を得
ている。これに対し、元大蔵省銀行局長の西村氏は比較的冷静な視点
で分析している。チャンセラーは17世紀のオランダから20世紀の
日本、アメリカまでの金融投機を世界史的視点で描いている。

*国際会計基準について*
「NO.167最近の経済問題について」参考 

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