真珠湾とロックフェラーセンターとダイアモンド



YS/2000.2.26

「経団連新副会長に槙原氏固まる」   2/25 日経新聞朝刊
「三菱商事の槙原会長、新生長銀の社外取締役に」 
                                      2/24 日経新聞朝刊
「日債銀、ソフトバンク連合に譲渡」  2/25 日経新聞朝刊

21世紀を目前に控えた最後の年にふさわしいニュースが連日報道
され大忙しである。
今日本で進行していることは研究対象として格好の材料である。
終戦後の「逆コース」のメカニズムも明らかになるかもしれない。

上記記事のなかで日債銀の記事については無関係と思われる方が大半
であろう。ぜひ最新1月号の会社情報もしくは会社四季報のページ
をめくっていただきたい。

日債銀はソフトバンク、オリックス、東京海上火災保険を中心とする
企業連合の傘下に入る。東京海上火災保険は金曜会28社にも所属す
る三菱グループの中核企業であるとともにその取締役会には槙原氏も
名前を列ねている。

槙原稔氏は92年に三菱商事社長に就任、98年4月から会長を務
めており、三菱自動車工業、三菱電機、そして東京海上火災保険の
社外取締役を兼任しており、三菱グループの事実上の代表である。
また同氏は国際派としても知られ、米国IBM取締役も兼任し日米
財界人会議日本側議長、米欧日三極委員会、米外交問題評議会の
メンバーでもある。
特に米国IBMの取締役会は欧米財界人が結集しており下にあるよ
うな企業群の経営者が顔を揃えている。

American Express Company, Hoechst AG, Asea Brown BoveriLtd.,
Emerson Electric Co.,  BP Amoco,Morgan Stanley Dean Witter & 
Co.,
Mobil Corporation, Philip Morris Companies Inc.,
Atlantic Richfield Company,
Northrop Grumman Corporation, Ford Motor Company,
Royal Dutch Petroleum Company ,Akzo Nobel N.V., Bayer A.G.,
Philips Electronics N.V. , E. I. du Pont de Nemours and 
Company

1999年6月26日付け日経新聞朝刊の『米社の対日企業買収
ファンド、三菱商事、参加を表明――「長銀には関与せず」。』の
記事によれば「三菱商事は『九五年』にリップルウッドの米国での
ファンドに参加。
同社に約一〇%の出資もしていた。」また「リップルウッドを中心と
する投資グループが、政府の特別公的管理下にある日本長期信用銀行
の事業譲渡先の一つとして名乗りを上げている。」ことに対して
小島順彦常務は「今年春ごろ、リップルウッドから長銀関連の投資を
打診された」としたうえで「商社の事業との関連性に乏しく断った。
日本向けファンドも長銀との関係はない」と語ったとしている。

『九十五年』?????????????????????????

残念ながらリップルウッドのホームページにアクセスすることができ
ず確認が取れていないが、日経新聞の報道が事実だとすれば何か釈然
としないものがある。

1989年全米の政治家、財界人、学者が協力して産業再生に向けた
戦略をまとめていた。そのきっかけは数多くの識者が指摘しているよ
うに1998年の三菱銀行によるバンク・オブ・カリフォルニアの
買収であり、アメリカ側を最終的に本気にさせたのは1989年の
三菱地所によるロックフェラーセンター買収劇である。

確かにソニーのコロンビア・ピクチャーズ買収も話題となったがその
後の経過からその差は明らかである。95年ロックフェラーセンター
は破産を申請し売却されることになる。アメリカ人にとっては三菱
=日本であり「アメリカ人の魂を買った」との記事の見出しに私で
すらその後の日本の将来を予測できる程であった。

三菱グループは戦前から外資系企業との提携を積極的に行っており、
三菱電機は米ウェスチングハウスと三菱石油とゲッティオイルなど
が代表的なものであった。
戦後マッカーサー率いる占領軍により他の財閥同様解体分散する。
そして1947年独占禁止法が制定され経済民主化政策が推し進め
られた。しかしこの独禁法は2年後には改正され、その4年後には
骨抜きになる。この背景には米安全保障上の戦略転換と米投資権益
上の駆け引きがあった。

前者は朝鮮戦争を契機に芽生えた「アジアにおける反共の砦」と
しての日本の活用に向けた経済支援政策(朝鮮特需等)であり後者
はモルガングループとロックフェラーグループによる駆け引きである。
モルガングループの代表は戦前から駐日大使を務め、主要財閥の家族
や貴族階級、政界首脳との親交があったJ・P・モルガンのいとこにあ
たるジョセフ・C・グルーが交渉にあたり、ロックフェラーグループ
の代表は後に国務長官となるジョン・フォスター・ダレスであった。
ダレスは有力法律事務所サリバン・アンド・クロムウェルのパートナー
としてロックフェラー系石油会社に仕えロックフェラー財団の理事長
を務めていた。

当然のことながら従来路線に固持するマッカーサーとは共に大きな確執
が生まれたがその勝者は現在の姿が物語っている。

当時安全保障上の重要性から米国内では石油を制したロックフェラー
グループが政治的にも他を圧倒する勢力へと拡大しつつありおそらく
この時、三菱グループとダレスとのなんらかの接触があったものと
思われる。

三菱グループは財閥から企業集団へと形こそかえたものの見事に復活
する。戦前の外資系企業との関係を修復しつつロックフェラーグループ
のチェース・マンハッタン銀行と連係を深めながらクライスラー、
キャタピラー・トラクター、モンサントなどの有力企業と新たな提携
を結ぶ事となる。

現在日本国内の世論は「アメリカへの不信感」が大勢である。上記の
ような歴史を知るものにとって日本側に非があるように思えてなら
ない。おそらく相当槙原氏も米有力者からとくとくと説教されたで
あろう。

とはいえ「三菱は国家と共に歩む」従って「三菱の失敗は国民すべて
で補う」べきであろうか。

また得をするのは誰かと考えればどうもしっくりこない。「新生長銀
は5年後には業務純益5000億円。再上場が可能になればもうけは
2兆円を下るまい。」と予測するアナリストさえいる。

長銀への返済不能な公的資金投入額は4兆円。日債銀への国民負担は
3兆2000億円。合わせて7兆2000億円は何処にいくのかなっと。

物事はさまざまな視点から見る必要がある。好意的に考えれば槙原氏
自らが盾となりアメリカ側との融和をはかろうとしているとも受け取
れる。だとすればなおさら国民の前で金融再生委員会、与党自民党含
め真意を説明すべきではないだろうか。

それはアメリカ有力者も同様に望んでいるように思えてならない。
もしこの問題提起が素通りされたらパパの教育方針が間違いだったと
落胆するに違いないからだ。

「参考文献」

日本経済新聞
フォーブス日本版1999年6月号 三菱グループの堅忍不抜
ウェッジ1999年12月号

「日本永久占領」 片岡鉄也 講談社+α文庫
「軍隊なき占領」 G・デイビス/J・ロバーツ 新潮社
「米国の日本占領政策 上/下」 五百旗頭真 中央公論社

「マネー敗戦」 吉川元忠 文春新書
「金融行政の敗因」 西村吉正 文春新書
「三菱」 奥村宏 教養文庫
「新版 法人資本主義の構造」 奥村宏 教養文庫  その他多数

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