北方領土とロシアとの外交



(読者からの質問)
  いつも興味深く読ませて頂いています。大学生のM.Tと言います。
実はメールを読んでて、自分が根本的なことが分かっていなかった
ので、伺いたいと思いました。

 それは、日本政府が北方領土にこだわる理由は何でしょうか。また
北方領土の返還は、日本にとってどれくらいのメリットがあるのでし
ょうか。なんとしてでも、北方領土を返してもらう必要は、どんな所
にあるのだろうかと考えてしまいます。何もわかってませんが、
よろしくお願いします。

M.T
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(読者からの意見)
F様

明けましておめでとうございます。
以前中国の件でメールさせていただいた転石太郎です。
今年もビシバシご教授をお願いします。

さて、今回は北方領土返還とロシア援助のお話です。

Fさんは返還してから援助すれば解決するとおっしゃられますが、
現在の日本において、それは不可能なのではないでしょうか。
それが出来るのなら、以前の3.75億米ドルの融資は無かったはずです。
もっとうまく時を捕らえた政策をしていたのではないでしょうか。
それが出来なかったのに、それからいくらもたっていない現在なら
出来るというのはいくらなんでも無理があります。

ロシアが金を必要としているとか、そんなことより、
今日本に優秀な外交官がいないと言うことが問題なのではないですか。
つまり、日本側に問題があると思うのです。

今融資の話をすれば、絶対に金だけ出して終わりになると思います。
それを避けるためにも、日本は今絶対に北方領土と融資について
ロシアと話をしてはいけない。うやむやにし続けるべきだと思います。
そして、いつか日本にまっとうな交渉能力が付き、
ガツンと言える人材がでてきたときに初めて口を開く。
「4島を返してくれる?」と。

現在モスクワにいらっしゃる方も
議会や世論は返還反対で完全に一致しており、
北方領土返還はとても考えられないとおっしゃられているのです。

これを覆す力が今の日本にあるはずもありません。

毎度稚拙な意見で失礼します。ご教授をお願いします。

               転石太郎
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(Fからの回答)
 まず、予測の修正がせまられている。ロシアの新安保概念が判明し
た。この概念からすると、北方領土返還は難しい情勢になっている。
 しかし、まだ諦めてはいけない。やはり、ロシアとしては、軍事費
を1.5倍にするなど、チェチェン紛争や米国との対応で資金が不足
しているからです。
 米国はチェチェンの隣のアゼルバイジャンの石油権益を守るため、
ロシアとは戦争できないが、資金協力は絶対にしない。国際石油資本
を守るために。

 また、北方4島は、辺境の地でかつ、地下資源もない地域です。
ロシアにとっても、あまり価値がある土地ではないのです。
一方、地域住民は日本訪問により、日本の豊かさを知っている。これ
らの条件があるので、この返還問題を新安保概念の外とできれば、
まだ可能性はあるが、難しいかもしれないですね。

 明確に千島列島でない2島を買うと明言するか??これだと2島
返還はできる。または、日ロ共同管理地域として、二重国籍化をする
かでしょう。地域住民の権限を留保することが必要でしょう。そうす
れば、可能性がある。
 しかし、インフラがほとんどない地域ですから、公共投資は相当な
額が必要です。しかし、日本の他地域に公共投資するより、全然いい
ですよ。

 なぜ、北方領土にこだわるか?の質問ですが、国家は、固有の領土
と国民が財産です。古来の領土を守ることができないと、そこに権益
を持つ人を保護できない。このため、領土問題は国として見た場合は、
対外関係として一番やるべき仕事なのです。勿論、ロシアが強大で
返還の可能性がないと、現実解を別途思考する必要がありますが、今
はチャンスです。エリティン前大統領は、返還することも考えてい
ましたから。
 返還のメリットはあまり大きくないが、この地域は、漁業資源の
宝庫です。イクラやコンブが産する。また、漁船の拿捕が無くなるが、
資源の乱獲になる可能性はありますね。旧島民もほとんど死んでし
まったために、返還後、地元に戻る人はすくないでしょう。しかし、
国家としては、やるしかないのです。

 日本外交は、戦後「ぬるい」外交をしてきたため、国際的な力関係
や複線・多次元外交等ができなくなっているのです。
 国家としての生き残り戦略も、あいまいになっている。このような
現状を修正してもらうために、このコラムがあるのだと規定していま
す。

 転石さんの意見も、もっともな面がありますが、その時の相手の
状況やトップの意見等を勘案して、外交をしないとやはり相手のある
ことですから、日本の利益だけを追求できないのです。
 外交は相手の動向を読むことが、そのために必要です。難しいです
が。

 勿論、数年前は現地の住民も、モスクワの政府・議会関係者も、
返還反対でした。現在、現地の住民は、返還賛成派が出てきている。
日本になった方が豊かですから。

 現在、ロシアは超大国(オランダと同程度の国力、中国より国力が
ない)でもないのに、超大国の米国型の戦争形態でチェチェン戦争を
しています。これはトンでもなく金のかかる戦争です。

 チェチェン共和国サイドには、サウジという資金提供者がいて、
対戦車ミサイル等をどんどん提供されているのですよ。タリバンが
その兵器の訓練場所を提供して、イスラム全体でロシアと戦争してい
るのです。恐らく、ゲリラの半数以上はアフガンゲリラでしょう。
また、アフガンゲリラの半数が、イスラム圏全土からの多国籍の人
です。

 このため、ロシアは、今後この補給ルートを叩かないと戦争終結が
できないのです。それと、資金不足がおき、ルーブルの下落が起きて
民衆の生活が苦しくなると、プチンは選挙ですので、選挙に勝てない
可能性があるのです。そのような事態を避けたいはずです。このため
、どうしても戦争資金が必要です。転石さんがロシアの指導者であれ
ば、どうします??

 とうとうトルコが乗り出してきました。カフカス地域安定のためと
いうがグルシアはトルコの保護国状態ですから、ここの安全のためで
しょう。
    F
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(共同通信からの引用)
01/14 22:46 国防力強化と領土保全強調 ロの新安保概念が判明

 【モスクワ14日共同】ロシアのプチン大統領代行が署名した新
しい「国家安全保障概念」の全容が十四日明らかになり、国防力強
化で「大国ロシア」復権を目指すとともに、「ロシアに対する領土
要求」を主要な国際的脅威と位置付けていることが分かった。  
 十四日付のロシア紙、独立新聞が全文を掲載したもので、新概念
は北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大、コソボ紛争後の状況
を踏まえ、米国主導の「一極支配体制」に対抗しようとするプチン
路線を明確にしている。                   
 また、チェチェン紛争を念頭に領土保全の重要性を強調しており
、今後、日本との北方領土をめぐる交渉にロシアがより強硬な姿勢
で臨むことを示唆する内容となっている。
 ロシアの安保概念改訂は一九九七年以来。新概念は、ロシアへの
脅威として「西側諸国が米国主導の下、重要な国際問題を軍事力で
解決する体制を創設しようする傾向」を指摘、欧米への警戒感を表
明している。                        
 また、軍事力の強化、特に兵器の近代化を急務とし、「空からの
攻撃」「地域紛争における侵略行為」に対抗できる軍事力を平時で
も維持する必要を強調。ロシアの国益を守るため、世界の戦略的地
域にロシア軍を展開する可能性にも触れている。
 核兵器の使用について改訂前は「軍事攻撃され、独立主権国家と
しての存在に脅威が生じた場合」としていたが、新概念では、領土
侵攻にも核兵器で対抗し得ると核使用の基準を下げた立場を示し、
具体的には、「侵略に反撃するのに他の手段が尽きた場合か、他の
手段が無効と分かった場合」と規定している。         
 プチン大統領代行は、国防の基本方針となる新軍事ドクトリンの
最終改訂案に二月末にも署名する予定だが、この文書も米国への警
戒感を強めた内容となっている。
(了)  000114 2245
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(共同通信より引用)
01/15 22:43 カフカス安定化協定を提唱

 【モスクワ15日共同】タス通信などによると、グルジア訪問中
のトルコのデミレル大統領は十五日、冷戦終結後、紛争が絶えない
カフカス地方の安定化のため「カフカス和平安定化協定」の締結を
提唱した。                         
 同大統領は協定の具体的内容について言及を避けたが、コソボ紛
争後のバルカン地方の安定と復興のため、バルカン諸国や欧州連合
(EU)が昨年六月に採択した「南東欧州安定化協定」と同様の協
定を意図しているという。                  
 ただ、デミレル大統領は、ロシア連邦軍の軍事作戦が続くチェチ
ェン共和国については、今回の安定化協定の対象にはならないと述
べ、ロシアの内政には干渉しない姿勢を強調した。
(了)  000115 2243

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