2576.基軸通貨ドル弱体化について



基軸通貨ドル弱体化について

 古今東西、経済はグローバルな経済環境にオープンに対応してい
るほど良好である。古くはシルクロード諸国や古代ローマ帝国・イ
スラム帝国であり、日本では戦国大名による一国経済体制に対抗し
た織田信長の楽市楽座が証明している。そして、グローバル経済を
より発展・活性化する手段は共通決済手段としての基軸通貨の存在
である。さらに、基軸通貨の発行元は、政治が安定しているオープ
ンな経済強国、交易の保護者、外交強国であり、それらを担保する
軍事強国である。つまり、何時でも誰でも自由に交換・交易できな
ければならない。世界経済が一体化した近代200年間は英国のポ
ンド、次に米国のドルが、基軸通貨となっている。では、現状はど
のような状況だろうか。

 通貨とはそもそも誰もが、その価値を認めることによって成立す
る。通常は一国の政府が独占して発効する。つまり決済手段として
の他の通貨を政府が排除することによって価値を国民に認めさせる。
また、発効元の政府はその価値が毀損しないような政策をしなけれ
ばならない。毀損することを放置すればハイパーインフレを引き起
こすか、国民によって実質的に他国の通貨に代替えさせられる。

 消極的であろうとも通貨価値を認めるとは、言い換えれば発行元
を信用することである。そして、多数者が信用している基軸通貨は
、たとえ発行元を感情的に嫌っても拒否できるものではない。とこ
ろが、最近、主要各国の外貨準備に占める米国ドルの割合が低下し
ている。米国ドルの信認が揺らぎ始めている。米国の財政赤字と国
際収支の赤字が増大し、改善の見込みが薄いからだと言われている。
しかし、二つの赤字は1960年代からの出来事だ。二つの赤字説
が正しければ、1980年代のドル安時に米国ドルの基軸通貨とし
ての地位が崩壊していなければならない。実際は違う。今でも基軸
通貨として存在する。なぜなら、当時の米国ドルは、唯一の基軸通
貨で代替えできる通貨が存在しなかったからだ。

 このため、米国は自国の国際収支の赤字を是正する為に米国民に
痛みを強いる政策を取らず、安易なドル安政策により米国ドルを毀
損させた。そして、毀損したドルの損害は米国ドルを保有する諸外
国につけ回した。諸外国とは当時の日本やドイツを中心としたヨー
ロッパと資源国だった。また、米国は二つの赤字が存在してもオー
プンな経済・社会を維持することにより諸外国からの資金が流入し
、グローバル経済の中心として先進国中で一番の経済成長をとげる
ことに成功した。

 ところが、現在では決済手段としてだけ考えれば、ユーロがある。
米国ドルに対抗する経済規模を持つユーロが誕生し、機能している。
ユーロは加盟各国に厳しい財政規律を課し二つの赤字を防いでいる。
この貨幣価値の毀損をさせない政策は、各国の外貨準備にユーロを
加える条件を満たしている。また、ユーロ圏との取引額に応じユー
ロを外貨準備とすることは合理的である。前回のドル安政策の被害
者だったヨーロッパが、対抗手段を創ったのである。

 最近の米国は対外戦争の戦略的失敗による国力の浪費及び基幹製
造業の弱体化により、国際収支の改善の兆しが薄い。保護主義の台
頭を感じさせる政治動向は、オープンな経済・社会という政策に陰
りを感じさせる。このため、米国への資金の流入が減少する可能性
が高くなっている。前回と同様に、米国は米国ドル安政策での毀損
を他国につけ回し、国力回復を図る時期を狙い始めている。

 最近の日銀の発表によると日本の外貨準備にしめるユーロの割合
が急増している。今まで、米国ドルの買い支え役だった日本とは思
えない対策だ。通貨マフィアの動向から判断し、民間でもそれなり
の対策をしなければならないシグナルと思う。

 しかしながら、基軸通貨発行元の条件(安定した政体、オープン
な経済強国、交易の保護者、それらを担保する軍事力)から考察す
ると、基軸通貨が米国ドルからユーロになることはありえない。
しばらくは、この状態(米国ドルの毀損を他国に押しつける政策)
を繰り返すだろう。日本は、米国の通商政策の一方的な被害者にな
ってはならないように適切な金融政策を取らなければならない。
つまり、低金利による円高の阻止と外貨準備に占めるドルの低下だ
。低金利ができるとは、国内投資対象が規制により乏しいせいでも
あるが、豊富な資金を持っている結果でもある。変化するグローバ
ル経済に対応した規制緩和&制度造り(単に規制緩和するだけだと
、泥棒・強盗の類を招き寄せることになる)による経済成長を高め
ると伴に、当分の間、米国の金融政策の犠牲にならないことが肝心
と思う。

佐藤俊二


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