2570.東アジア戦略展望



東アジア戦略展望。         虚風老
   
 
利益にならん戦争はどこもせんよ。

日本人の保守というより、右の論壇は、反共の流れから、反大陸中
国=台湾派のバイアスがかかっておる。
また冷戦構造が習慣化し、その言を翻せないモノもおる。
また、隣国に強国が勃興する事自体に、漠然とした不安感を感じる
モノがいる。
もう一つは、漢民族の尊大な中華思想と態度が、相手の体制がどう
あろうと気に食わない。
という場合もあるな。

で、米国と中国が戦うというシナリオにとびついてしまうのじゃな。

左側は左で、力の構造に注意をはらっておらなすぎるようにおもえる。
一応「国」が責任を持てるのは、自国の法とその強制力の及ぶとこ
とろなんじゃから、
そして、法は「生命・財産」を守るためにあるんじゃからね。
国が、自国のために戦略を立てるのはあたりまえじゃ。
だが、自国の利益は国際関係や地球という環境の上に乗っておる。
だから、これがうまく機能するかたちの中でしか、自国の利益は追
求しちゃあいかんのじゃ。

では、力という面で、日本にとって、今重要なのは、米国と中国と
の関係に集約されるから、
両国が、戦争になることの両者の利益と不利益をあげてみればよか
ろう。
また、中国と日本がどういう場合に戦争になるかケースを挙げてみ
ればよかろう。

中国と日本が戦争になれば、必ず米中の戦争になる。もちろん「安
保条約がある」という理由だけではないぞ。
日本が、中国の手に落ちた場合における<不利益>が、米国にとっ
て、大きいからじゃ。
中国が日本を手に入れた場合(理由は問わず、戦争によって)
東アジア〜東南アジアは全圏、中国の支配下になるじゃろう。当然
この場合台湾は併合、朝鮮半島も冊封体制に組み込まれることにも
なる事態を越えてすすんでおる。
つまり、アジアの成長センター、工業ネットワーク地帯群、大消費
地から、米国が駆逐される。米国は、グァム−ハワイラインまで後
退し、しかも西太平洋からインド洋までの、「海洋権益」も失う。
マラッカ海峡も、中国の支配下におかれる。中国が外海洋まで侵出
してくる。

東南アジアは、日本と中国のバランス、華僑及び若干のインドの力
及び米国の関与によって保たれている。
東アジアが、成長センターになったのは、ここは日本が関与したか
らである。
というのは、植民地時代第一次産品だけをつくることを強要され、
産業というものは、破壊されこそすれ、育てなかった。(英国はイ
ンドの繊維産業を破壊して、依存せしめ、2等国に落とした。=英
国の植民地経営をみよ、ついでに、「保護国」というのがどういう
意味で使われその後どうなったかを見よ)
また、この地域にあった資本は華僑・印僑ともに商業資本である。

ここで、重要なのは、この地域に日本が、「産業資本」およびイン
フラ整備を投下して、潜在需要を「有効需要」化せしめたことであ
る。しかも、短期投資ではなく、長期の投資といっていいであろう。
東アジアを市場化するためには、この場所にいる人達が唯一売れる
モノ「労働力」を買い上げたのである。(一次産品だけではなく)

資本を投下したとしても、産業連関=産業の裾野の多様化、それに
伴う多様なサービス産業の興隆=中産階層の形成がなくては、流し
た水(金)が、一直線に、流れて(単純消費)しまっては、終わり
なように、繁栄に寄与しない。水上の大金持だけでは、有効需要を
拡大しないのである。(逆にシンガポールは、この手のサービス・
金融を一手に引き受けることで特異な繁栄をした)
じゃあ、なぜ、もっと世界中で、産業資本が投下されないのかとい
えば、それは<逃げられない>からである、ロシアがサハリン2で
やったことは、記憶に新しいと思うが、むkしから、ユダヤ人など
は、領主に理不尽な財産の没収をうけたりしてきた。また、政情不
安定な場所では、生産設備を作ったところで、全部損という場合が
ある。三井のイラン石油プラント。だから、金融システムは、資本
が「逃げる」ことを前提につくられているといえるかもしれない。
傷を負わない(深めないうち)に撤退できるかが、ユダヤ金融の要
諦じゃろう。ちなみに、
わしは、金融というのは、<情報産業>だと思うておる。
データだけしか扱わないし、データの加工(差を見つけ、利用する
)、決済。が、本質じゃろう。そして生産しているのは、「信用」
じゃしね。(どの金融の教科書にもそんな視点では書かれてないが)

また、米国債の大半を日中が持っていることは周知の通りである。
この両者の経済及び、日本の科学技術、中国の大量の人的兵力が合
体することは、まさに「世界覇権競争」になり、米国の対抗勢力に
なってしまう。

だから、この場合中国−日本−台湾−朝鮮半島全部を巻き込んだ全
面戦争になる。
東アジアは金の卵を産んでいる鶏なんじゃ。
それを潰したくはなかろう。

つまり、台湾・朝鮮半島が、中国圏に入るのとは、わけが違うので
ある。

では、中国が、米国に戦争を仕掛ける利点はあるであろううか?
これもない。実際に米国と戦った場合、海上要路は全部押えられる。
(輸入資材が入ってこない。当然だか、欧州は中国の味方にはつか
ない。)
三峡ダムは破壊される。制空権は簡単に奪われる。中国は軍事的に
絶対に勝てない。

中国は絶対に米国と軍事衝突したくないのである。負けなくても、
絶対に勝てない。
米国に対するすべての国がとれる戦略は「勝つ」ではなく「負けな
い」というのが、目標になる。

しかし、米国にとっては、「勝てない」ことは「負け」に等しいの
である。

米中の衝突する不安定要素は、3つあった。
1、中国が共産主義を、旧ソビエトがしたように、強力に周辺国に
    押し付けながら伝道(支配下におき=赤化帝国主義路線)した場合。
2、北朝鮮と米韓が衝突し、それに同盟条約に従って、参戦した場合。
3、台湾の独立に絡んだ場合。
4、世界覇権を争った場合。
1は、中国自体が共産主義をすてて、(権力構造としての共産党は
残っているが)市場経済主義に参加しているので、無くなった。
と同時に昔は、いずれの国も、土地=領土が「富」の源泉であった
が、農は、土地という生産性の制限がある。
今は、産業活動−(生産−市場開発)が富の源泉である。領土的膨
張の動機は低下したといえよう。
人・モノ・金が展開され、流動循環し、そこに多種・多数関与する
ことが富みを生む。
この意味で、ロシアやインドとの領土紛争はその3つのモノが流通
するのに障害になるので、整理されたわけじゃ。しかし、(人・モ
ノ・金)は世界展開をみせている。ロシアはたくさん中国人が入り
過ぎてうとましくおもわれている。
日本人というのは、海外にはエリートか観光客しかいない(帰国す
る)が、中国人は、そこらの人が商売をして定住してしまい家族も
よびよせる。商の民と呼ぶのにふさわしいの。

2、今回重要なのは、北朝鮮で軍事紛争が起きた時に、中国は軍事
行動としては、米国と戦わないということがはっきりした点である。
紛争が起こった場合にしろ、おそらく「国連軍」=システム管理軍
(平和維持部隊)として参加するであろう。
だから、北朝鮮と日米間という枠での戦争はありうる。2〜3週間
でカタはつくが。。。
ただ、韓国の被害とその後の処理は目も当てられないくらい大変じゃ。
結局、絞め殺す時は、相手が「暴れられない時」をねらって、きゅ
っと首を挿げ替え、北朝鮮に集団指導体制をとらせ、核及び大量破
壊兵器をなくさせ、
6ヶ国協議枠で管理し、中国と韓国が兵人を出し、アメリカとロシ
アが、オブザーバーをだして、日本が拉致問題と、第二次世界大戦
の時の補償問題と引き換えに資金をだす。そして中国式改革解放の
システムに乗せるという形しか、落としようがないじゃろう。

3、台湾の独立は、認めないというのは、強固なラインである。
(親台湾派は、これをもって、日・米は、中国とぶつかるはずだと
している。ときどき、日本と台湾は運命共同体みたいな論調をみる
が、そんなことはない)
そして米国も台湾関係法はあるが、台湾の独立に待ったをかけている。
(台湾の独立ごときで、米中戦争=全面東アジア戦争にまきこまれ
たくない)
また、台湾の経済も大陸と深くつながっている。
台湾にとって、政治的には独立したまま、経済的には大陸と結びつ
くのが一番利益があがるだろう。
中国も、米中戦争になるリスクをとってまで、台湾を併合する利益
がないんじゃ。(台湾が独立を強行しないかぎり)
つまり、この場合中国も経済等の結びつきを大きくしていくことに
戦略的価値がある。(馴化戦略)
で、台湾が、大陸と一緒になることはあるかといえば、それは、大
陸中国が、多党化した時しかないじゃろう。
そうなると、台湾は別の価値観(共産党に対して不満を持つ人々)
を持つ人間を糾合して、思想的に逆浸透することができる。米国も
このラインを通じて中国の政治に影響をふるえるから、これを認め
るであろう。

4世界覇権を争ってというのは、究極の状態であるが、それまでに
は、力の変動がたくさんあるので、遠い先であるし、どのような国
際力学関係が構築されているかは、今の状態からは、見ることがで
きないとしか言えんじゃろう。

また、単純に日本を中国が攻める力があるかといえば、無い。
海があるからのう。
強大な陸軍を保有しておっても、海を渡らねばならん。人や戦車や
大砲をドンブラコと運ぶわけじゃ。その上兵站もずーっと運びつづ
けねばならない。
中国に、そんな海軍力はないよ。足の長い、戦略爆撃機・及び戦闘
機を大量保有もしてないしの。だいたい、人民軍ちゅうやつは、自
分で事業をするような変わった軍隊じゃしね。

それに、日本の海上自衛隊の力は掛け値なしに世界で2位である。
また、海上支配は、制空権による。制空権なんて、中国にとれると
思うかね?
空母群というのは、移動する制空権=制海権なんじゃよ。

ここ穴はミサイルしかないが、
で、ミサイルをただ打ち込んでどうするの?
何か利益が生じるのかね?
逆にいえば、日本にも中国(北朝鮮に対してさえ)にたいして軍事
力の投射能力がない。
米国が介在しなければ、そもそも、全面戦争はできないのであるわいな。
(船が何隻かというレベルのトラブルはあってもね)

で、日本がとる戦略は、何か?
米国か、中国かというレトリックに騙されてはいかん。
アジアに関与して、アジアの中で重みを持つことが、アメリカに日
本を重視させ、アメリカの力を日本の為に使わせることができるの
であるんじゃ。
中国に対抗しつつ、中国と決定的な対立に持ち込まないことじゃ。
ライバルであっても、エネミーじゃいかんのじゃ。
その為には、感情的な言いあいはマイナスにしかならない、感情は
計算を飛び越えるからのう。

また、米国との関係を良好にしていることが、日本の地位をアジア
に重みをもたせ、日本に不足している力、軍事力と政治力を補填さ
せるんじゃ。
米国の対中戦略は、結局、中国の野放図な拡大を防ぎながら、安定
化させ、世界システムに組み込むことになるじゃろう。(このライ
ンが、日本の利益と一致するじゃろうしの)
「抑止しながら関与させる。」

インドと仲良くするのは、米国の戦略(イスラム・中国への対抗ポ
イント)とも一致するし、日本の戦略としてもいい筋である。
インドを「産業生産」で期待するのは難しいが、それは、逆に日本
と補完関係にできるということでもあるな。日本にあるのは、「産
業技術」を高度に磨き上げる力といえるかもしれない。
インドに期待できるモノそれは、論理情報処理能力である。日本人
は<論理>というのには一般的に弱い。
この理由は、別の時に述べようかの。
ところが、印度人の一部は抽象論理能力がすごくて、コンピュータ
プログラマとしてすでに日本にもたくさん入ってきている。おそら
く金融工学の分野に進出しても、すごいであろう。日印間には、感
情のもつれがないしの。

日中が棲み分けできるとすれば、低中技術加工は中国にやってもい
いが、高度・中心的技術は移転しないことであろう。もし企業人が
、国というものを考えるなら、それらと、それらに付随する周辺技
術を、日本国内に育成し、残しておくべきじゃろう。そうしないと
、いつか軒をかして母屋を取られるという、企業にとってもマイナ
スのフィードバックを受けることになる。あまり目先の利益ばかり
を追求して、自分達の依って立つ地盤をこわしてしまったら、足元
をすくわれるぞ。
中国はさっそく、外資系会社への優遇税制を見直したしの。

自分の気盤となる足場、下請けや、社員をちゃんと育てよ。それし
か将来はない。
世界を狩り場とみるか、田んぼとみるかは大きな文化の違いである
とともに、戦略の違いでもあるといえるじゃろう。今進められてい
る、「米国流」は狩り場とみるやりかたである。
鵜の真似をする鴉になっても、トータルで(時間的な見方でも)の
成果はでない。
チームで得点して、貢献に応じて分配する。それがなければ、「日
本式」の角を矯めて殺してしまうぞな。日本社会は<協働による連
帯>がなけれ、砂のような世界になってバラバラになるおそれがあ
る。そうなると、国益ではなく、みんなが個人益しかみない、利己
主義の刹那的快楽主義に堕ちてしまうじゃろう。もう一部ではそう
なって、親殺し子殺しに走っておる。そうなれば、国力なんていっ
てられない。
もしかしたら、再教育すべきなのは、教師だけではなく、テレビの
デレクターや、プロデゥーサーじゃなかろうか?

国力とは突き詰めれば、構成員全体で発揮できる力じゃからね。

                      虚風老


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