2540.現代の廃藩置県



現代の廃藩置県(道州制の論議)

 道州制への移行とは、現代版廃藩置県である。明治維新時の廃藩
置県は幕藩体制(完全地方自治体制=行政・財政・治安等の独立)
を中央集権国家にする体制変更だった。武力を持った200以上も
の一国一城の主人たちが、たった一枚の紙切れの命令に従ったのは
その主人たちに受け容れる事情があったからだ。たしかに、武力に
おいて薩長連合軍の前に抵抗は困難だった。しかしながら、その最
も大きな理由の一つが財政危機だった。何故なら、武力に訴えよう
にも軍資金が無く近代的武器の購入が出来なかった。また、江戸末
期の商品経済が発展した経済に対応していない各藩の財政は大きな
赤字を抱え、藩内統治が行き詰まっていた。つまり、殿様達は自己
の生活が保障され、殿様を辞めることに大義名分がつけば、廃藩置
県を受入る状態だった。
 
 小泉元首相が実行した構造改革は、戦時体制(統制経済)からの
離脱だった。純粋な資本主義ほど貧富の差が拡大する。また、統制
経済の比護の下で精神的廃退に陥った部分は取り残されて疲弊した。
その一つが地方経済だ。しかし、地方の疲弊を「バラマキ行政(公
共事業や多すぎる公務員&凖公務員)」で癒やしても効果がない。
「バラマキ行政に頼る精神的廃退を断ち切れば良い」でも片づかな
い。
 
 人口で考えると判ることがある。東京の世田谷区の人口は約80
万人に弱である。都道府県で80万人前後または以下の県は「石川
県、鳥取県、島根県、徳島県、高知県」の5県である。これに世田
谷区に隣りの杉並区の50万人を加えた130万人では「秋田県、
山形県、富山県、石川県、福井県、山梨県、和歌山県、香川県佐賀
県、大分県、宮崎県」の10県である。さらに隣りの練馬区65万
人を加えると約195万人では「青森県、岩手県、三重県、滋賀県
、奈良県、岡山県、山口県、愛媛県、長崎県、熊本県、鹿児島県、
沖縄県」の13県となる。東京23区のうち、住宅3区の合計人口
以下の県が28県となる。つまり過半数の県はこの住宅3区の人口
に対し、住宅3区にはない空港や港、音楽ホールや競技場などの巨
大公共施設を建設し維持している。そしてこれらの利用目的はほ
とんど同じである。この重複投資に堪えられる地方は存在しない。
 
 国会を通そうとしている「道州制法案」は北海道をテストケース
としてる。北海道は人口が566万人でスケールメリットを出せる
と名義がたち、かつ反対する殿様がいない。さらにバラマキ行政の
免罪符にもなる。姑息な法案である。今必要なのは、過去のバラマ
キ行政の跡始末と負の遺産たる各施設の活性化だ。
 
 テストケースとするなら九州にすべきだ。九州の人口は1,344
万人。九州を1単位とすると非常に効率が良い。中国沿海部に近い
利点が活きてくる。一つの港に設備投資を集中し高率化をはかる。
空港を旅客中心と貨物中心に分け、24時間対応の国際空港とすれ
ば、対応する工場やオフィスが今以上に進出することになる。これ
らを出来なくしている規制解除の権限やこれらを実行するための権
限(新たに創る権限も含め)中央から地方へ委譲しなければならな
い。そして、これらの施設を国家財政で補助してはならない。グロ
ーバル経済では資金を自ら獲得しなければならない。獲得できる魅
力溢れた構想と実行力がトップにあれば、資金は獲得できる。中国
やインドの発展はこの事を証明している。中国沿海部には資源もイ
ンフラもなかった。存在したのは人と土地だけである。日本のODA
によって初期インフラを整備したのは事実だが、日本国内での公共
投資は中国へのODAより遥かに巨額だ。中国は地方トップに権限
と責任を大幅に委譲した。かなりのことが地方単独で出来る。この
自由が世界から投資を呼び込んだ。ただし、権限を監視する議会や
マスコミ、市民運動が無い弊害が腐敗と統治の困難を招いてもいる。
 
 現代の殿様達(知事)は財政を100%自分達の責任とは感じて
いない。この居心地の良い地位に安住している知事会に道州制の審
議の主体を托しても結果がしれている。現在の論議をきいていると
、判官贔屓と同じで義経が地方で頼朝が中央と決めつけ、中央から
地方へ権限と財源を委譲すれば良い結果を生むと安易に流れている
ように思える。三位一体の問題と道州制は同一線上に存在する。
初めに、三位一体で財政責任を知事が完全に負う制度に変更し、速
やかに道州制に移行しなければならない。当然オープンな論議をす
れば、国民はこの流れを理解し、選択する。
 
 今後の地方のトップは地域の歴史も違い、各々違う感情を持った
地域を束ね、完全独立した地方自治を実行しなければ意味がない。
これはかなり困難な仕事であるが、やらなければ日本の将来は開け
ない。
 
佐藤俊二


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