2538.ダルフール紛争



ダルフール紛争について、検討しよう。   Fより

tomatoさんからも指摘を受けたが、国際戦略コラムの主要テーマが
大国に偏っていると反省して、少し、大国でない国の紛争を見てみ
よう。
そうすると、世界で一番人道上問題なのがダルフール紛争である。

ダルフール紛争はスーダン西部のダルフール地方で2006年現在も進
行中のスーダン政府に支援されたアラブ人によるジャンジャウィー
ドと呼ばれる民兵と地域の非アラブ人住民との間に起きている民族
紛争である。 この紛争で2003年2月の衝突以降、2006年11月時点で
の概算で20万人が既に殺害されたと言う。1956年の独立以来、
1972年から1983年の11年間を除いて、200万人の死者、400万人の家
を追われた者、60万人の難民が発生しているとされる。(ウィキペ
ディアより)

国境なき医師団の報告書を読んでもその悲惨さが分かるが、スーダ
ン政府の中心はアラブ系民族であり、非アラブ系民族を殺害してい
るジャンジャウィードを支援している。このため、大規模なPKO
派遣に反対している。また隣国チャドでもスーダン政府はチャドの
アラブ系住民のジャンジャウィードを支援している。

今までは、アフリカ連合(AU)のAU停戦監視部隊が7000人
展開しているが、それではフランス全土と同じ広さのダルフール地
方全体を監視できない現状があり、2万人程度の国連のPKO部隊
の展開が急務になっている。

しかし、この受け入れをスーダン政府は容認しないために、国連軍
の展開ができない状態になっている。また、国連難民高等弁務官や
ユニセフなどがスーダンと隣国チャドの難民に支援活動をしている
が、この支援活動自体を快く思っていないし、支援を邪魔している。

そして、国連職員や支援関係者が殺される事態が頻発している。治
安状態は良くないために、食糧を難民に届けることができないこと
になっている。

アナン国連事務局長も最後の仕事をして、スーダン政府と交渉した
が、芳しい結果を残せずに国連事務総長を辞めることになっている。

米国はソマリア紛争に人道的な理由で介入したが、この介入に失敗
してからは、アフリカの問題にはあまり介入しない方向であり、欧
州はスーダン中部にある資源を開発したために、スーダン政府に
あまり強く当たれない。このため、アフリカ系住民の殺害に対して
、国際社会はあまり重きを置いていないように感じる。このために
アフリカ連合の治安維持部隊に期待したが、そのAU軍は資金が不
足して、十分な活動が出来ない。

そして、死者20万人に達して、やっと国際社会は重い腰を上げか
けた所である。スーダン政府との対決を視野に強制的にPKO軍を
送り込むしかないように感じる。そして、ジャンジャウィードを武
力で圧倒しないと、この紛争の解決にはならない。
しかし、このような解決は難しいので、近い将来この状況が良くな
ると信じている人は、ごくわずかだ。という結論になってしまう。

イラク紛争などの中東問題があり米国はアラブ諸国の反発を今は受
けたくない、また日本もアフリカの問題であまり関心が無い。
このため、人道上の問題が出ているが、どうしようもないジレンマ
に突き当たりますね。
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ダルフールPKO派遣、再び危機 スーダンが合意転換(ASAHI)
2006年12月02日01時00分
 スーダン西部ダルフール地方の治安回復のために2万人規模の国
連平和維持活動(PKO)部隊を派遣する計画が、スーダン政府の
強い反対で危機にひんしている。アフリカ連合(AU)の平和安全
保障委員会(PSC)が11月30日、首脳級会議でAU停戦監視
部隊の駐留を来年6月末まで延長を決定。スーダン政府が基本合意
したはずの国連・AUの合同部隊についても、国連の関与は財源や
技術面の支援にとどめるとしたからだ。治安回復には、さらに時間
がかかりそうだ。 

 「世界最悪の人道危機」とも言われるダルフール問題をめぐって
8月、国連安全保障理事会がPKO部隊の派遣を決議した。しかし
、スーダン政府の受け入れ拒否で部隊展開のめどが立たない状態が
続いたことから、アナン国連事務総長が11月半ば、エチオピアの
首都アディスアベバのAU本部で安保理常任理事国やAU、スーダ
ン政府の代表らと協議。国連とAUが合同で平和維持部隊を派遣す
ることで、スーダンの「基本合意」を得たと発表した。 

 この時点では、ようやく国連によるダルフール危機への介入に道
筋がついたとみられた。 

 ところが、スーダンのバシル大統領はその後、再び国連部隊の展
開や、国連の指揮権を認めない方針を表明。30日のPSCの会合
では、「国連の技術的助言や財政援助は受け入れるが、国連部隊は
必要ない」などの考えを示したという。 

 会合にはナイジェリアのオバサンジョ大統領や南アフリカのムベ
キ大統領らも出席したが、スーダン政府の意向は変えられなかった。
PSCの責任者は、12月末までだったAU部隊の駐留期限をさら
に半年延長し、「国連からは必要な分野で支援を受けることになっ
た」と述べた。 

 イスラム主義のスーダン政府は、ダルフールでの死者数を20万
人とする国連の見解を認めていない。バシル大統領は最近もダルフ
ールでの戦闘による死者は9千人以下で、治安が悪化しているとい
うのは欧米メディアなどが作ったウソである、との持論を展開した。 

 ダルフールでは、04年からAUが停戦監視活動を始めた。だが
、フランスと同じ広さの地域に約7000人しか展開していないう
え、資金や機材も不足しているため、AUは今年初めから国連への
任務引き継ぎを検討してきた。 

 内戦をめぐる交渉では、5月に最大の反政府勢力が政府との和平
に合意した。しかし、交渉を離脱した反政府勢力は新たな組織をつ
くって政府軍との交戦を続けている。 

 混乱はダルフールに隣接するチャドにも波及し、東部で馬に乗っ
たアラブ系民兵が黒人住民を襲う事件が頻発。チャド政府は11月
半ば、非常事態を宣言した。チャド東部で反政府勢力の攻撃も激し
くなっており、同政府は「チャドの反政府勢力をスーダン政府が支
援している」として国連の介入を求めている。 
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ダルフールの罠に捕らわれて
情報発信日 2006年11月27日 国境なき医師団
http://www.msf.or.jp/2006/11/27/5682/post_38.php

紛争が続くスーダンのダルフール地方、ザリンゲイ郊外にあるラマ
デカイ(Ramadeqai)避難民キャンプでの、ある日の昼下がり。ラマダ
ンの断食明けを間近に控えた人々は、10月の日差しに汗をしたたら
せている。あたりを覆う倦怠感が感じられる。

ザリンゲイ周辺のキャンプ4ヵ所には、現在約9万人の避難民が生活
している。2003年初めに紛争が発生して以来、仮設の避難所が人び
との住居となっている。だが1年半以上も避難所用資材の配布が途絶
えており、木や土、防水シートで作られた住居は汚れている。

政府軍に村を追われ、人びとは安全を求めてキャンプへと逃げ込ん
だ。しかし、同じ政府軍がキャンプを取り囲み、不安をまき散らし
て避難所を絶え間ない恐怖に陥れている。

現在、国境なき医師団(MSF)は保健省と協力し、ザリンゲイでベッド
数155床の病院を運営している。この病院では診察は無料で、ザリン
ゲイ市民と周辺キャンプの避難民の両方が利用できることになって
いる。だがこの利用にも問題が多い。

MSFの医療コーディネーターであるセブリーヌ・ラモンは次のように
語る。「キャンプは野外刑務所のようなものです。女性は薪を集め
に出ている間にレイプの被害に遭い、夜には武装した集団がキャン
プをうろつき、人びとに恐怖を与えています。男性は、歩いて20分
程度の距離にある市内の病院で治療を受けるためにキャンプを離れ
ることを恐れています」。

アクセス面での懸念はあるものの、この病院では毎月2千人近くを診
察している。そのうち約30人は、栄養失調関連の合併症を発症した
子どもたちである。性的暴行の被害者へも治療が行われるが、現在
治療を受けに訪れる女性の数は実際の被害の規模を反映していない。

セブリーヌ・ラモンはこう続ける。「9月にはレイプの被害者6人を
治療しましたが、治療を受けることを恐れているために、病院まで
来ることを拒んでいる被害者はさらに多いのではないかと見ていま
す。」

あらゆる患者が治療を受ける上で抱える困難は、援助団体が患者の
もとに出向く上での問題に起因する。2006年の初めから、MSFの活動
チームは安全を脅かす大小さまざまの事件に40回以上巻き込まれて
いるからだ。事件の多くは、スーダン政府の支配下にあるとされる
道路上で発生している。

治安が悪化した結果、フランスと同等の面積を持つダルフール地方
全体で、MSFはたった1本の道路しか使用できなくなっている。それ
以外の移送には、国連のヘリコプターや飛行機が用いられている。
MSFは現在もダルフール地方の12ヵ所で主要な医療プログラムを実施
しているが、郊外への移動診療などの必須プログラムの多くが中断
を余儀なくされている。

救命搬送もほぼ実行不可能となっている。例えば外科患者の場合、
MSFは最近まで、ニエルティティの診療所から60km離れたザリンゲイ
の病院へ、専用の車両で患者を搬送することができた。だが、9月に
搬送に利用する道路沿いで治安に関わる深刻な事件が起きて以来、
搬送サービスは中止され、患者は民間の移送手段に頼らざるを得な
くなっている。

セブリーヌ・ラモンはこう説明している。「MSFが搬送できれば1時
間で済むはずが、公共交通のトラックだと10時間もかかってしまい
ます。帝王切開の緊急手術が必要な女性患者の場合、搬送時間の長
さは深刻な結果を引き起こします」。

北ダルフール州のコルマでのプログラムのように、治安の悪化から
人びとへの医療ケアのアクセスが激減し、完全に閉鎖せざるを得な
くなったプログラムもある。9月に一連の襲撃を受けたMSFは、ちょ
うどコレラ発生の最中だったジェベルマラ山地のクトゥルムからの
撤退を余儀なくされた。

MSFの活動責任者ジャン=セバスチャン・マットは次のように説明し
ている。「ジェベルマラ山地にある反政府勢力の活動地域には、6週
間以上もアクセスできていません。それ以前には約500人のコレラ患
者を治療することができましたが、対処しきれなかった患者がさら
に300人から400人いたのは確かです。医療ケアを受けられなかった
ために死んでしまったかもしれません。コレラは短期間で治癒する
病気ですが、手当てを受けなければすぐに死に至ります。今日、死
亡率ははっきりとわかりませんが、深刻な数字であることは想像が
つきます」。

欧米諸国の支援を受けて2006年5月にダルフール和平協定(DPA)が
締結されて以来、ダルフール地方の状況は明らかに悪化した。戦闘
に加わる勢力の数は増大し、政府と反DPA派の新たな戦闘が勃発した
。それに伴って治安が悪化し、MSFは広大なダルフール地方で住民の
健康状態を調査することすらできずにいる。

国連平和維持軍が介入するという思い違いをめぐる最近の緊張の高
まりが、同地方での対立をさらに深めている。双方の論争には熱が
入り、それが現地での衝突を生んでいる。スーダン政府は、外国の
内政干渉だとして反発を強めている。NGOはこうした怒りの矢面に立
たされており、住民たちの多くは誤った期待を募らせている。

この緊張は、独立した公平な援助団体の結束をさらに強めることに
なった。

ジャン=セバスチャン・マットは次のように述べる。「ダルフール地
方北部へのアクセスはきわめて限られており、地域によっては人び
とがどのような状態にあるのか、水や医療、食料へのアクセスがで
きているのかということさえも把握できていません。政府も、さま
ざまな反政府勢力も、私たちが必要とするアクセスを認めてくれま
せん。私たちは四方八方から狙われているのです。望み通りの活動
ができないことは明らかです」。

高まる緊張や暴力の中に身を置いているダルフール地方の住民の将
来には懸念が多い。近い将来この状況が良くなると信じている人は
、ごくわずかだ。 


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