2491.農産物の危機



小麦在庫が低水準になっている。この検討。   Fより

2001年の主要先進国の食料自給率(カロリーベース)は、
日本は40%、英国61%、ドイツ99%、米国122%、フラン
ス121%、豪州262%で、穀物自給率では中国95%、
米国127%、日本28%となる。

日本は世界から、特に米国と豪州から食糧を輸入している。この米
国での小麦在庫が低水準になったという記事を見て、危機感を持つ。
石油価格の高騰も中国が石油の輸入国になり、石油供給に余裕がな
くなって、上下動しているが、食糧も中国の国民所得が上昇すると
、高給な食材にシフトすることになる。そうすると、穀物を家畜の
餌として、中国は大量に使うことになる。牛肉1キロはトウモロコ
シ8キロと等価で、それだけ穀物が必要になる。

すでに中国は穀物輸入国になっているし、今後もその輸入量が増加
する。高級食材を世界から高値で買っている。その典型がレッドロ
ブスターで中国がほとんどを高値で仕入れるために、日本への補給
が無くなって、チェーン店がなくなっている。小麦も大量に中国が
買っている。

しかし、供給サイドである米国の食糧生産の拠点である中西部の農
業地帯は地味が落ちたことと、水がなくなったことで生産量が減少
している。豪州でも旱魃が起きているために収穫量が減っている。
温暖化の影響で気象変化が起きて、従来の産地がダメになっている。
日本でも同様なことになっている。北海道産の米がおいしくなって
きているが、従来の産地である新潟米がさえない。

この現象は世界的であり、今年の猛暑と干ばつが地球温暖化という
長期的傾向と関連しているとすれば、世界規模の食糧危機が迫って
いると容易に予測できる。

食糧安保の体制を日本も引く必要が出てきている。世界の穀物生産
のシフトなどを支援して、穀物の安定的な確保を考えていくことが
必要になっている。食糧の不足は即、飢餓に直面することになる。
真剣な取り組みが必要である。
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世界の小麦在庫、25年ぶり低水準に・米農務省見通し
(nikkei)
 【シカゴ支局】米農務省は12日に発表した10月の穀物需給で、世
界の小麦の期末(2007年5月)在庫量が25年ぶりの低水準になるとの
見通しを示した。干ばつに見舞われたオーストラリアの減産が影響
する。豪産小麦の生産量は1100万トンと、記録的な干ばつで被害を
受けた4年前とほぼ同じ水準を見込む。

 米産トウモロコシの生産量は単位面積当たりの収量減などにより
、前月比で大幅下方修正した。期末在庫率(07年8月末の在庫量を総
需要で割った数字)は前月の10.2%から8.4%に低下した。期末在庫
率が10%を割り込むと需給逼迫(ひっぱく)を示すとされている。
 (13:00) 
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財団法人 国際貿易投資研究所
http://www.iti.or.jp/flash61.html
岐阜県の食料安全保障に貢献する南米農業     
     国際貿易投資研究所 客員研究員
名古屋文理大学教授
内多 允
 
  
 日本各地でさまざまな形態の国際交流が行われている。近年は各
地域で地方分権が叫ばれ地域の独自性への評価が高まっている。ま
た、地域の発展策についても中央依存型から、地域が自主的に考え
て実行することが求められている。ここで紹介する岐阜県の食料安
全保障政策は、南米の農業との連携を取り入れているという点で、
全国で他に例を見ない特色を持っている。 

「全国初の食糧確保計画」

  日本の食料自給率 (農林水産省データによるカロリーベース) は
1965年度の73% から、75年度には54%に低下後は横這い基調を維持し
たが、85年度以降再び低下傾向をたどるようになり98年度には40%に
なった。この間に記録的な米が不作であった93年度には37%という一
時的であるとは言え、40%を下回ることもあった。98年度以降は、40%
を維持している。この自給率は主要な先進国の中では、最低の水準
である(表1)。食料の中でも日本の穀物自給率はさらに低くなる。
農林水産省の試算によれば(出所は表1と同じ)、世界173の国・地
域の中で穀物自給率(2001年)の日本の28%は130番目であり、OECD加
盟30か国の中では28番目という低さであり、人口1億人以上の国の中
では最下位を記録している  。

このように日本の食料自給率が低いと、地方自治体も食料不足の事
態に備えた独自の食料安全保障政策が必要になっている。岐阜県は
その対応策として1999年3月、「岐阜県民食料確保計画」を策定した
。同県はこれを策定した理由として、食料生産や消費構造は地域に
よって異なっていることから、地域の食料事情を知っている県が、
自らの課題として食料問題を考えることが必要であると指摘してい
る。岐阜県内の食料自給率は2002年度は40%であった。2004年度から
実施される「第2次岐阜県民食料確保計画」(3か年計画)では最終
年度(06年度)の食料自給率を45%に引き上げることを目指している
。さらにこれを13年度末には50%に引き上げようとしている。同計画
の基本目標には「平常時の健康食料の確保」と「緊急時の最低食料
の確保」を掲げている。安定的な食料供給を維持するために、食料
供給供給ルートの多元化に取り組んでいる。既に不作や災害に備え
て全農岐阜県本部(農協JAの経済部門)とは玄米(870トン)の備蓄
・供給協定を結び、県内で農地転用可能な土地のデータベースを整
備している。全農と契約した前記の玄米は県内33か所の低温倉庫で
保管され、災害時には知事の指示で出庫される手筈になっている。
ちなみに870トンという数字は最大約44万人の被災者に3日間配給す
る事を想定している。同時に県内や国内での食料確保が困難な状況
も想定して、海外からの供給源を確保すべく南米の農産物確保に努
めている。今の制度では、災害に備える自治体の食料備蓄は、自主
的な判断に委ねられている。 

民間が主役の南米農業との提携」

  岐阜県の食料計画の特色である南米との提携については、民間企
業が事業主体となっていることもユニークである。株式会社ギアリ
ンクスが民間企業でありながら、岐阜県の食料政策の一翼を担って
いる。社名は岐阜県の「ギ」とアルゼンチンの「ア」、それに両者
の連携を意味する「リンクス」から命名された。ギアリンクスは
2000年12月に岐阜県美濃加茂市で、発足した。同社の資本金(04年
2月現在)は7,550万円で出資者は334名に上っている。その経営方針
は純粋の民間企業でありながら公共性の高いNPO(非営利組織)の精
神でアルゼンチンで農場を経営して食料を確保する事である。
 
 ギアリンクスは2003年にアルゼンチンで3か所の農場を取得した。
その合計面積は1,247ヘクタールである。これは岐阜県の農耕地面積
(6万ヘクタール)の2%に相当する。同社が発足した頃の為替レート
はアルゼンチン・ペソとドルは等価であったが、農場を取得する時
の対ドルレートは2ペソ台に下落しており、同社にとって有利な価格
条件で取得していることになる。これらの農場のなかには取得前から
大豆や大根の栽培に着手している所もある。生産活動と並んで近隣
の日系農家との交流も既に始まっている。農場では有機栽培による
大豆や小麦等の安全な農産物の生産を行うことにしている。また、
現地農家に生産を委託して、雇用にも貢献する。県の計画ではアル
ゼンチンでの農業生産は異常気象などで1年程度の食料不足の事態が
起きた場合に備えるためであると、位置付けられている。アルゼン
チン農場の生産力は大豆で年間3,000トンから4,000トンと、見積も
られている。アルゼンチンの位置は日本と逆に南半球に位置してい
ることから、季節も逆の関係にある。従って、日本の不作が表面化
してから作付けできる有利さも無視できない。アルゼンチンの農場
が有機栽培による生産にこだわる理由は、県の食料計画に平常時に
おける健康食料の確保を謳っているからである。

 ギアリンクスは03年10月24日、アルゼンチンの隣国であるパラグ
アイで、日系農業共同組合中央会と食糧供給協定書を取り交わした
。この協定は日本が食糧危機に見舞われた時、ギアリンクスの要請
があれば同中央会は大豆や穀物を日本に供給することを約束してい
る。現地紙の報道(パラグアイの日本語紙『日系ジャーナル』03年
10月28日号電子版)によれば、中田・ギアリンクス社長は「最初は
1,000トン程度の輸入から始め徐々に増やしていきたい」と抱負を語
っている。パラグアイも南米ではブラジルとアルゼンチンに次ぐ大
豆生産国(02年の生産量は約327万トン)である。大豆をパラグアイ
の主要輸出産品に発展させたのは、日系農家である。現在も日系農
協は同国の有力な大豆生産の担い手であることから、輸入依存度の
高い日本としては心強い供給元であろう。


「もっと重視すべき経済安全保障のパートナーとしての南米」

  南米は現在の日本で最も重視されている経済安全保障のパートナ
ーとして、考える人は恐らく少数派であろう。確かに経済の現状を
考えると対外経済関係については重要なパートナーは米国であり、
中国等の東アジア諸国である。しかし、安定的な経済安全保障を構
築するためには、特定の国・地域への依存度が高すぎるリスクも回
避する事も必要である。例えば石油の輸入先が中東地域に偏ってい
ることによる日本の抱えている潜在的なリスクが大きいことは、改
めて事細かに説明するまでもないだろう。農産物についても同様の
ことが言える。工業分野については輸出や企業進出の対象地域とし
ては重要な東アジアも、日本への食料供給元としては期待できない
だろう。野菜や果物の供給は期待できても、穀物のような基礎食糧
については日本と同様に、輸入への依存度を高めている。特に中国
の農産物やその他の一次産品の輸入需要は、世界の素材価格の水準
を押し上げている。

 日本経済にとって重要な工業部門の海外におけるパートナーとの
関係のみに目を奪われていると、経済安全保障政策に思いがけない
落とし穴を見過ごしていることが懸念される。確かに南米は日本の
貿易や直接投資の規模に占める地位は低い。しかし、食料の供給源
としての南米の重要性にはもっと注目してよい。現に中国は食料を
含む資源の確保のために従来は関係が疎遠であった中南米地域との
経済取引を強化している。BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザ
が世界の牛肉や鶏肉の供給を不安定にしている。これによって、世
界各国は新たな供給源確保に迫られている。牛肉や鶏肉の供給に
ついても南米への期待が大きくなっている。特に、ブラジルは農産
物と並んで、食肉の供給国としての重要性が高まっている。

 農産物の供給源は現在の牛肉や鶏肉のように、思いがけない病気
の多発によって伝統的な輸出産地への信頼度が低下することもあれ
ば、国際情勢の変化によって供給が断たれる事も想定しなければな
らない。後者については輸出ではあるが、日本の農産物も経験して
いる。北海道のハッカがその例である。ハッカは医薬品や化粧品、
清涼飲料、歯磨き、加工食品の分野で必要な植物である。北海道の
北見地域では明治時代から栽培されるようになった。同地域は戦前
は世界中からハッカのバイヤーが買い付けに訪れた。ハッカの相場
は北見で決まるといわれ、最盛期(1930年代)は世界のハッカ需要
の70%を供給したと言われた。しかし、日米関係の悪化と太平洋戦
争によって輸出が途絶えると、生産は急減した。日本からの輸出が
途絶えると、ブラジルが生産国として進出した。戦後はさらに合成
香料の開発も加わって日本のハッカは世界の輸出市場からは姿を消
した。中南米諸国が米国にとって重要な一次産品供給源であること
ことも、第2次大戦中からのブラジルにおけるハッカ生産を拡大さ
せた事は言うまでもない。

 農産物の輸出産地の変貌についても、北海道のハッカのような極
端な事態は考えられないとしても世界の供給構造が変化しているこ
とに、注目する必要があろう。食肉と並んで、農産物についても当
てはまる。例えば、近年は世界の大豆輸出市場でブラジルやアルゼ
ンチンが、米国の地位を脅かしている。中国の旺盛な輸入意欲も、
国際相場の変動要因として無視できない。農産物についても、南米
諸国の中ではブラジルの生産力の向上が世界の輸入国からますます
注目されている。気象の影響も受けやすい農産物については、日本
と気象変化の周期が逆になる南半球との関係もリスク分散の観点か
ら重要である。

 岐阜県の南米農業との関係強化は、日本の経済関係が特定地域・
国に偏重することによるリスクを回避する観点からも評価できる政
策と言えよう。特に人間の生命に係わる食料の海外への依存につい
ては経済的なコストと並んで、特定国への過剰な依存によるリスク
を回避する国家戦略も求められる。  
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中国経済レポ−ト
中国の食糧危機は回避できるか?
     沈 才彬  『エコノミスト』誌臨時増刊10月9日号

問題再提起――誰が中国を養うのか?
食糧生産のピークは98年
関東1都5県の広さの耕地が1年間で消滅
2030年に4億〜5億人分相当の穀物不足
中国の食糧危機=日本の食糧危機

●問題再提起――誰が中国を養うのか?

 1994年、米国の民間研究機関・地球政策研究所のレスター・
ブラウン所長は「誰が中国を養うのか」という研究リポートを発表
し、中国の食糧問題に警鐘を鳴らした。

 このリポートによれば、人口12億(当時)を抱える中国は、今
後40年間に人口増加や食生活の向上で穀物需要が急増する半面、
工業化により耕地面積が逆に減少するため、2030年には3億ト
ン以上の穀物が不足し、大幅な穀物輸入国になる。
しかし、世界の穀物総輸出量は92年では約2億3000万トンで
、地球ではこれだけの穀物を中国に供給できる国はないとして、穀
物価格の高騰だけでなく、世界的穀物不足という深刻な食糧危機を
招きかねないと主張した。

 12年たった現在、ブラウン所長が警告した食糧危機はいまのと
ころ起きていないが、氏が指摘した中国の食糧需給アンバランスが
ますます深刻化していることは確かだ。
特に、3年前から中国は穀物輸出国から純輸入国に転落し、食糧不
足の厳しさを増している。
世界的な食糧危機の懸念は依然として根強く残っている。

 日本は世界最大の食糧輸入国であり、自給率は先進国では最低水
準の40%以下である。
「食の安全」という観点から見れば、仮に隣国の中国が大幅な食糧
不足になれば、日本にとっては決して対岸の火事ではない。

 それではなぜ中国は昔の食糧輸出国から純輸入国に転落し、いま
慢性的な食糧不足に陥っているのか。将来的に中国は本当に食糧危
機が起きうるだろうか。日本はいまからどう対応し、何をすべきで
あろうか。本稿は、これらの問題に焦点を当て、客観的に分析を進
める。

●食糧生産のピークは98年
 中国はかつて穀物(主にトウモロコシと米)の輸出大国として知
られてきた。
ところが、3年前から情勢が一変し、中国は穀物の輸出国から純輸
入国に転落した(図1)。
その背景にはいったい何が起きたか。
結論から言えば、それは需給バランスが崩れた結果にほかならない。

 03年、中国の総人口は98年の12億4761万人から12億
9227万人へと5年間で4466万人増えた。
言うまでもなく、人口の増加によって穀物の需要も増える。
また、国民の生活水準が向上しており、食生活の多様化による食肉
の摂取が増加し、家畜の飼料としての穀物消費も増えている。

 人口の増加、食生活の多様化などの要素によって、中国の穀物需
要が拡大している。
だが、穀物需要の大幅な増加にもかかわらず、生産量は98年がピ
ークで、その水準を回復していない。
特に03年に中国の食糧生産量は前年比約6%減の4億3070万
トンとなり、98年に比べ15%も減少した(図2)。
需給バランスが崩れた結果、トウモロコシや米など中国の穀物輸出
が減少し、大豆や麦(小麦と大麦)の輸入を大幅に増やし、穀物の
純輸入国に転落した。

●関東1都5県の広さの耕地が1年間で消滅
 それではなぜ穀物生産量が大幅減少したのか。さまざまな原因が
あるが、耕地の減少がまず挙げられる。

 03年、中国の経済成長率は10・1%にのぼったが、高度成長
と同時に、資源の「爆食」、環境破壊も深刻化している。
典型的な事例は各地方の工業開発区の乱立であり、04年8月時点
でその数は6866にのぼる。
その結果、耕地は大幅減少し、03年は2万5400平方キロも減
った。
1年間の耕地減少面積は東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、栃木な
ど関東地域1都5県の土地面積の合計(2万6053平方キロ)に
相当する。

 その後、「爆食経済」に対する反省もあり、中国政府は資源と環
境にも配慮する「調和の取れた成長」を唱え始め、開発区規制に乗
り出した。
04年末まで撤廃された開発区は4813に達し、その結果、同年
の耕地面積は8000平方キロ減、05年3620平方キロ減とな
った。
耕地減少のスピードは確かに鈍化したものの、減少傾向がなお続い
ている。
工業開発区の乱立のほか、砂漠化や水不足の深刻化も耕地減少の一
因と見られる。

 二つ目の理由は急速な都市化による農村の衰退である。
96年以降、中国の農村部人口は毎年1000万人ずつ減り、都市
部人口も毎年2000万人ずつ増え続けている。
95年に比べ、03年末時点で農村部人口は8・6億から7・7億
へと1億人近く減少し、都市部人口は3・5億から5・2億へと
1・7億人も増えた。

 1960、70年代の日本のように、農村部から都市部への人口
大移動が起きている。
この人口大移動は結果的に農村の衰退をもたらしている。

 三つ目の理由は所得格差の拡大に対する農民たちの不満および生
産意欲の減退である。
近年、都市部と農村部の所得格差は3・5倍(実質は6倍)に拡大
している。
中国の農村はまさに格差社会の象徴とも言える。
格差の拡大は農民たちの農村脱出を加速させ、農業の荒廃が一層深
刻化している。

 四つ目の理由は遅れた農業改革、低い農業生産性にある。
図3に示すとおり、中国の農林水産業従事者数は世界最大規模だが
、1人当たりの生産性は日本のわずか42分の1、米国の80分の1
にすぎない。

 増えつつある需要、減少し続ける生産。需給バランスの崩壊は中
国の穀物輸入を加速している。


●2030年に4億〜5億人分相当の穀物不足
 中国社会科学院の予測によれば、2030年に中国は人口のピー
クを迎え、総人口はさらに2億増加の15億人に達する見通しであ
る。
人口の増加、国民生活水準の向上、バイオ・エネルギー(例えば自
動車燃料用のバイオエタノール)の開発に伴うトウモロコシ需要の
急増、工業化の進展に伴う耕地面積の減少などを考えれば、2030
年に4億〜5億人分相当の穀物不足が起きる可能性が高い。
05年1人当たり穀物消費量390キロをベースに試算すれば、
2030年に最大2億トンの穀物が不足し、海外から輸入せざるを
得ない。
その場合、中国のみならず、地球規模の食糧危機発生の可能性も高い。

 現在、中国の胡錦濤政権は食糧問題に対する危機感を強めており
、04年から3年連続で中央政府第1号通達の形で三農問題(農業
、農村、農民)解決の必要性と農業改革の重要性を訴え、農業重視
の姿勢を示している。
また、今年からスタートした第11次5カ年計画も食糧生産量を
05年の4・8億トンから10年の5億トンへ、農民1人当たり純
収入を401ドルから512ドルへ増やすと同時に、5年間の耕地
減少面積を200万ヘクタール(2万平方キロ)にとどめるなど具
体的な数字目標を掲げている。
問題は胡錦濤政権の農業重視政策がいったいどれほど効果があるか
にある。

 実際、中国政府は農業問題において、二つのジレンマに陥っている。

一つは土地私有権を認めるかどうかのジレンマ。
農業改革のカギは土地の所有権にかかわっている。周知のとおり、
中国は社会主義国家であり、すべての土地は国が所有する。農民た
ちは土地の使用権はあるが、所有権はない。
土地私有権を認めない限り、農民たちの生産意欲を高めることは難
しく、三農問題の抜本的な解決もほぼ不可能と見ていい。
しかし、土地私有権を認めると、社会主義制度の根幹を揺るがしか
ねない。
土地私有権を認めるかどうか。中国はいま岐路に立っており、胡錦
濤政権はこのジレンマで悩んでいる。

 二つ目は工業化・都市化と農村弱体化のジレンマ。
05年現在、中国の農村部人口は7・4億人あり、総人口の57%
を占める。農村の余剰労働力もまだ1・5億人いる。
先進国の経験から見れば、農村余剰労働力の吸収も近代化の実現も
工業化や都市化の進展を抜きにしては語れない。
一方、工業化と都市化の進展は結果的には耕地の減少や農村の弱体
化をもたらしかねない。このジレンマをどう解くかが難しい課題だ。

 結論から言えば、中国政府は思い切った改革を行い、有効な農業
・農村・農民対策を打ち出さない限り、将来的には食糧危機が爆発
する可能性は高い。

●中国の食糧危機=日本の食糧危機
 日本は世界最大の食糧輸入国であるため、13億人の中国の食糧
不足は決して対岸の火事ではない。
近年、中国の石油、鉄鉱石など資源の爆食により世界の素材・エネ
ルギー価格が暴騰している。
もし中国が食糧危機に陥り、本格的に海外から食糧を大量輸入すれ
ば、地球規模の食糧争奪戦が起きかねない。
その場合、日本は食糧の安定的供給をどう確保するかが大問題となる。
この意味では中国の食糧危機=日本の食糧危機と言っても過言では
ない。

 中国語には「居安思危」という諺があるが、安全の時でも危機管
理対策をしっかり考えなければならないという意味である。
「食の安全」という観点から、われわれは次の二つの問題を考える
べきである。
一つは仮に中国で食糧危機が起きた場合、日本はどうすればいいか。
もう一つはそういう事態にならないために日本は何をすればいいか。

 今年6月、筆者はフジテレビの番組「報道2001」に出演した
際、もう一人の出演者、料理専門家の服部幸應・服部栄養専門学校
理事長は「バーチャル・ウォーター」と「フードマイレージ」とい
う概念を提起した。
「バーチャル・ウォーター」とはご飯1杯分の穀物を生産するため
にペットボトル135本分の水が必要となり、日本は穀物輸入を減
少することで間接的に中国などの国々の水不足解消に貢献すること
ができるという。
また日本の農産物の消費を促進するために、地産地消奨励の「フー
ドマイレージ」の概念を導入すべきであると、服部氏は唱えた。大
変ユニークな発想と思う。

 一方、筆者は日中利益共同体構築の観点から、中国の食糧危機を
防ぐために日本は何ができるかを考えるべきだと主張した。
日本は次の分野で中国の食糧不足解消に支援できると思う。
(1)中国の農業に日本の最新技術を導入し、生産性を向上させる。
(2)中国の若手農業経営者の育成を支援する。
(3)砂漠化阻止のために、中国の植林事業を支援する。
(4)中国の水不足を解消するために、技術で支援する(例えば汚
水処理技術、海水淡水化技術など)。
(5)中国に新しいビジネスモデルを導入する。

 実際、中国の農業改革にビジネスを通して参加しようという日本
企業のプロジェクトも始まった。
アサヒビールは中国農業改革を支援し、山東省莱陽市に1000億
円を投資し、今年5月に第1号モデル農園(100ヘクタール農地
確保)を開業した。同農園は日本の最新技術を導入し、付加価値の
高い安全・安心な最高の農産物を生産する。しかも種苗から生産・
加工・流通・販売の一貫システムを導入し、新しいビジネスモデル
を構築する。このビジネスモデルに知財権を付与して他地域への展
開も図る。まさに意義ある新しい挑戦である。アサヒビールの挑戦
は「共存共栄」という日中協力の新たなモデルケースになるかもし
れない。


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