2475.タイ クーデター 現地からの続報



タイ クーデター 現地からの続報
From:得丸

各位、
タイに住んでいる友人から、続報をいただきましたので、お届けし
ます。

タクシン政権の批判にもうひとつ重要な面がありました。これも主
観的な論評ですが、今ほど国民が分極化されたときはないという指
摘です。

この分極とは:タイ経済の担い手である比較的裕福な主にバンコク
に居住する中流階級、それに対峙して主に農村に居住する人口にし
て過半数をしめる農民を中心とする階級、もうひとつは数は少ない
としても過激派をふくむ南部のイスラムの人たち。この分極化は社
会の安定を阻害する要素であり、経済のこれ以上の発展の大きなマ
イナス要因であるということは王を含む多くの有識者集団から度々
指摘されておりました。これをどのようにカジ取りするかが政治の
大きな課題であることは間違いなかったと思います。

クーデターが発生して少し余裕が出て、新聞にもいろいろな解説が
出始めました。多分この論調は以前と変わりがないことから見て大
きく検閲を受けているとは思えません。一言に言って、国民がこの
クーデターでほっとしたというのが正直なところかもしれません。
このようなクーデターはタイのみでなく世界にも類がないでしょう
。その意味ではタイの過去で多発したクーデターを知る国民は歴史
の現時点に立って安心感を持って政治の一齣として受け止めたよう
です。分極化は人心にも分極されたひずみを発生させていたのでし
ょう。このひずみに耐えかねていた国民各階層がいっせいに歓迎の
意を表し、成り行きを見守っております。

ことの起こりは、今だから分かることとして、クーデターの起こる
前夜市民団体は大規模なデモの組織を準備していたようです。それ
を察したタクシン政権はこれと対決する農民を地方からかき集めバ
ンコクへ向けて集結させようと準備していたようです。これが直ち
に流血になるかどうかは推測に過ぎないとしても場合によっては軍
が介入して発砲の危機にならぬとは限らなかったようです。軍だっ
て国民に発砲するのはいかなる命令であっても嫌だろうと思います。
少し大げさな説明だとしてもそのような雰囲気を持っていただろう
ことは容易に察せられます。首相の外遊中を狙ったのはタイミング
だったのでしょう。この対決は見事回避して、直ちに市民団体は任
務は終わったと宣言して解散しました。1992年の流血クーデタ
ーの時の闘争指導者であったチャムロン氏はこのクーデターに賞賛
の言葉を送っております。クーデターを起こした軍の中枢部にはご
く最近タクシンの横槍で就任した腹心の級友が含まれていました。
ここあたりの事情はやはり言葉が分からない外国人としては理解で
きないことでした。

各国の論調を見ますと、アメリカ・EUの、暴力革命であるクーデタ
ーは非民主的である、に尽きるでしょう。EUの論調は確かにその通
りで彼らの自らの歴史で学んだことだとおもいます。タイの国民の
発言にも残念ながら他に方法がないという一言をいれております。
しかしアメリカの批評は馬鹿馬鹿しいの一言です。他の国には平和
のためだとして平気で武力干渉をし、同盟国にはこれに加担を強制
する。どのような論理でタイを非難できるのかその頭脳構造を知り
たいものです。社会の分極化はアメリカはある意味ではタイ以上か
もしれません。その結果として犯罪はタイと比べ物にならないくら
いに多いでしょう。分極化された国民をどのように押し込めるかは
政治技術の問題です。

スハルト大統領を放逐したとたんに国の分極が顕在化したのはこの
最後の日にジャカルタを定年退職で脱出した私が深く感じるところ
です。その面では国民こぞって中流である日本には際立った社会の
分極化がないのはとてもよいことだと思います。もう一度このあり
がたさを噛み締めるとともにこれを守る政治を確立してゆくことが
必要でしょう。この日本の新聞の論調を見ていると、ひとごと、対
岸の火事ていどの内容でしかないものがほとんどです。日本にとっ
ては東南アジアは金儲けの場に過ぎないのかも知れません。

少なくとも新聞社の総局勤務の記者は駐在地の歴史・文化・社会を
勉強する暇を持つことが大切でしょう。いい加減なガサ記事を書か
ないでもらいたいとおもいます。クーデター慣れをしているタイの
国民は平然と受け止めているなどの表現はまことに不適切です。

分極化をタクシンのみが引き起こしたとは考えられませんが、その
タクシン政権がそれを解消する方向をとらずにむしろそれを利用し
て自己の権勢を確立することに利用していたと指摘されております。
健全な社会を構築するてめには乞食に施し物をするなと言われてお
ります。施しを善行だとする宗教とは異なる意見です。しかしこの
善行は一般受けをします。タクシンの一般受けする農村対策、金の
ばら撒き施政は有識者の目を曇らせておりました。日本からすると
国民所得が数分の一、そして国民の経済格差が二桁もあるかもしれ
ないところへ、世界の長者番付にも乗るようなタクシンが金をばら
撒くのは容易なことです。そしてそれを基盤にして職務に関連して
平気で自分の蓄財を試みていたのは目に余るところです。そしてつ
いにそれが命取りになりました。丁度マイクロソフトのBill Gates
に似ております。その当時何もなかった通信産業に種をまいたので
す。タイといえどもこれは大木に成りました。実業家としては多く
はない逸物です。農民に金をばら撒くだけではなく代議士の選挙基
金はほとんど彼のフトコロから出ていたということです。それある
ことか、彼が失脚したとたん彼の組織したタイ愛国党(日本の愛国
党・フランスの愛国党とは性格が全く違う)は早くも空中分解始め
ております。それにしてもこの秀才のメンタリティに精神病を思わ
せる行動が目に付くようになっておりました。一月ほどまえアメリ
カの大統領に彼の現状を説明して理解を求める手紙をだしたなどは
キチガイかと思わせます。自分では分からないのですね。破局に至
る直前も自分のポジションが把握できなくなっていたのは丁度ナチ
が最後まで自分の行動を正当化できたのと似ております。ファミリ
ーに目がなかったのはスハルトそっくりです。日本では首相がこの
ように精神分裂的になる前に官僚機構でストップが掛かり安心です。
田中角栄の娘さんが外務省からボイコットされたのも健全な官僚機
構の所作でしょう。タイの官僚制も日本ほどではなくとも相当堅固
です。しかし抜け穴も多くこの面が当面の憲法改正の主眼となると
思います。日本はこの面ではタイより相当優れた政治のチェック機
構を持っていると思います。大切にしたいとおもいます。

これからどうなるでしょうね。今は皆さん理想に燃えて次の政体を
模索しておるようです。軍は政治に色気を全く持っていないという
のは間違いないでしょう。前回のクーデターでは手ひどい仕置きを
受けたのを忘れてはいないと思います。戦車にかえて女性の兵士を
ガードに立たせるなど低姿勢です。しかしこれが長引くとどうなる
か。社会意識・教育程度は日本と比べても相当遅れております。日
本の自民党を見ていても情けないと思うのですが、まあ当分世界の
田舎である状態は続かざるをえないでしょう。しかしその中にあっ
て王そしてそのブレーンは”Economy of Self-Sufficiency"なる概
念を提唱しております。右肩上がりの経済は早晩行きどまりとなる
ことは間違いありません。そこで満足とは何かを設定する経済を打
ち立てる。それに満たないグループの救済に政治は全力を結集する
、そして人間の文化的な存在に不必要な無駄は省けという意味のよ
うです。河上肇の「貧乏物語」を思い出させますがこれは物語でな
く、現実の政治経済として提唱されております。私はこの哲学はな
にらかの形で次世代の存在を既定するだろうと考えております。
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考える機会を頂き、感謝。
From: 浅山

得丸様

有難う御座います、大いに関心在るところです。

お友達のメールに、浅学な小生が僭越ですが、触発されるところが多くありまし
た。下記の<>箇所がそうですが。一応民主主義の形態の中で、政治を形成する
世論、それを生かして仕える立場の人間、権力を握った時に、自分の都合の良い
方へ誘導したい欲望、すべて人間の弱い”業”のようなものが有りますから、たと
へ民主主義、いや民主主義だからこそ、必要な監視機構のような、分かりやすく
言えば、三権分立の原理などがスムースに機能するシステム、そして一番強いの
は国民が自由にものを言えて考えていく文化度の高低がその持続と継続を保証す
るものではないかと思います。

表現の自由などの保証など含めて、検証、再確認していくことも普段の努力とし
て必要でしょう。そのためには民主主義を守るための初等中等教育のシステム
も、いや言葉にすればするほど、果たしてそれで守れるのかの迷いが生まれます
が、未だ余裕があります。

北一輝の時代は軍国主義の時代、動かせられない状況、そして次に出てくるのが
絶望のニヒリズムでしょうか、そして次にと、、、。

しかし、今回のタイはそこまでは行って居ないようです、今タイを掌握している
軍人たちも民主主義教育を受け、常識を持っているのでしょう、いつでも民政に
戻すと言っています。だからクーデター即2.26ともなりませんし、金権構造
の為政者の悪知恵との対決方法、手段に官僚組織が押さえにならず、軍が動いた
という結果とも見えます。

グローバルな混乱に紛れ込む、要素を孕んだイスラムに近い国民を持つ状況、伝
統かつ崇敬を持つ皇室の存在、タイ独自のあらゆる背景から生じた今回の政治状
況。国政選挙の実施即、混乱の解決になるとは思いませんが、聡明な為政者を迎
え、三権に討論を深めれば、タイにとり、大いによい雨、即ち、雨降て地固まる
の東アジアモンスーン文明の知恵ではないでしょうか。

未だ、宿題とさせてください、
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<背景の進展とともに時代に合わなくなることも普通です。そして法は執行す
る政権の法解釈に大きく依存します。逆に法解釈が必要のない法律は法律でない
かもしれません。>

<タクシンは暫定内閣を組成して政権を引き続き担当した。そして一定
のプログラムで次の政権担当者を選ぶ行政的な措置をとることが義務付けられ
た。選挙が行われた。腐敗は始から見えていた。しかし腐敗を腐敗とするために
は一定の法的手順により認定が必要である。時間がかかる。うやむやにすること
は難しくない。もっと大きく憲法裁判所から選挙そのものが無効である判決が出
た。誰がどのように現行規定に基づき次の選挙を執行するかが大問題でした。タ
クシンはもてる政治力・金力を最大限に利用して、自己に都合のいいような選挙
管理体制を作ろうとする。それに対して野党・市民団体は法的な手続きを持って
対抗する。裁判に訴えたらそれだけで長い時間がかかる。判決が出たら振り出し
に戻る。国民はウンザリする。タイの社会の安定性はこのようなときでも安定し
た官僚機構が働いて超法規的な行動はできないようになっている。>

<タイの社会の安定性はこのようなときでも安定し
た官僚機構が働いて超法規的な行動はできないようになっている。市民団体がタ
クシンを追い出したところで、市民団体は行政に超法規的な要求は出来ない。出
来るとすれば、非常に限られた権限で王か、今回のような軍によるクーデター>

<国民の中にはタクシンの狂信的な支持グループが存在しま
す。誤解をいとわづ一言にいうと農民と低所得者層です。タクシンの選挙地盤は
ここにありここに金をばら撒き、迎合的な政策も繰り広げております。タイは世
界の中でも都市化率が非常に低い部類に属します。食えるからです>

< タイの不安定要素のひとつに、南部のイスラムの暴力があります。もちろんアメ
リカのイスラム対決政策のトバッチリです。タクシンの強権政治はこれにハード
な対決を取り続けていました>


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