2455.きまじめ読書案内 濱田政彦著「神々の軍隊」



きまじめ読書案内 濱田政彦著「神々の軍隊」
From: Kumon Tokumaru

思想を失った日本人は滅びるのみか − 精神の純粋さに写し描いた昭和維新の
心模様

きまじめ読書案内 濱田政彦著「神々の軍隊 − 三島由紀夫あるいは国際金融
資本の闇」

(三五館、2000年、2000円)

・ ブラジル化する日本

 8月最後の土曜日、浅草を通りかかったら、サンバ・カーニバルをやってい
た。裸に近い服装で、サンバの踊りに興ずるたくさんの若い女性の姿に、もはや
私は驚かないし、違和感もない。

 今回私は、このせつな的で、肉体的なお祭り騒ぎは、階級社会のブラジル同
様、日本にも希望がない、生きる望みがないということを表現しているのだと感
じた。

(ブラジルの印象 http://fuku41.hp.infoseek.co.jp/kak2/1210021.htm )

 実際、町を歩いていると、混血児の姿が多くなった。話す言葉は日本語なのだ
けど、みかけはアフリカや南米や欧米の子供たちが増えてきている。これもまた
ブラジル的だ。

 もちろん人はみかけで決まるわけではない。みかけがどうあれ、日本社会で育
つことによって、中身は芯のあるしっかりした日本人になればいい。また、周囲
はそういう気持ちで、この子たちを育てるべきである。

 だが、21世紀の日本人とは、どういう気質、どういう精神をいうのだろう
か。私たちが日本人であることを、とうの昔に失っているから、ブラジル化がお
きているのではないのか。日本人という言葉に、裏づけのない虚しさを感じなが
ら、浅草を後にした。

・ 明治維新から昭和維新、そして三島事件

 明治9年に熊本でおきた神風連事件、昭和11年の2・26事件、そして昭和
45年の三島事件。これら3つの事件の首謀者は、神の意向にしたがって、決起
した。時代錯誤な行動主義の根底には、日常的な発想では理解できない、狂気あ
るいは神がかりがある。

 距離をおいてみるとそれは狂気に見えるかもしれないが、決起したものにとっ
てはその狂気こそが、人間が失ってはいけない、日本人が失ってはいけない大切
なものなのだということを、本書はわかりやすく説明してくれる。

 たとえば、神風連事件を率いた太田黒伴雄の師・林櫻園の思想は、「神事は
本、人事は末」を信条とし、「為政者は神々の世界の神意を受け継ぎ、それをこ
の世に反映させることが役目(神政)であって、神意を取り次がず、私心でもって
政治闘争に溺れることは、神の世を乱す元である」というものだった。

 神意に基づく世は平和であったが、「人間が次第に私心に基づいた権力闘争
や、物に心を奪われるような『末』に走る生き物となるや、人々は彼岸の世界を
見る力を失ってしまい、神々は遠ざかり始め、人間世界は神々の良き原理を体現
できなくなってしまった」。

 明治維新は神意の政治を切り捨てた。廃刀令や太陽暦などによって、人々を神
から遠ざけた。神風連はそれに抗議したのである。

 2・26事件も、三島事件も、根本的なところは、同じである。ただ、時代が
経るにつれて、神意に基づく政治を理解できる人間の数が減っているために、ま
すます異常、気違い沙汰として、人々の理解を超えるものになってしまっただけ
のことだ。

・ 昭和維新の心模様

 2・26事件をめぐる物語に登場するのは、実際に決起した陸軍・皇道派の青
年将校たち、彼らに決起を煽りながらも実際は彼らを脅しの道具として財閥から
の資金援助を得て料亭遊びにふけっていた高級将校たち、やはり財閥から金をも
らいながら青年将校の動きを財閥に報告していた北一輝とその手下として金をも
らっていた西田税、皇道派よりも都会的であり大人であった陸軍・統制派、戦争
によって莫大な利益を得ることになった旧財閥・新興財閥、そして昭和天皇。

 本書は、昭和維新運動の資金提供者であり、「甘い汁」によって将校たちに料
亭の味を覚えさせ骨抜きにした新旧財閥の関与をはっきりと書いているところが
出色である。おかげで、それぞれの登場人物の本心がどこにあったのか、それぞ
れの人物が何を考えて行動したかがよくわかる。

 ほとんどの将校は、口では勇ましいことを言いながらも、実際には事なかれ主
義と自己保身に凝り固まっていた。2・26事件に参加した田舎者の青年将校だ
けが純粋な志に基づいて、私を無くして行動したのだということが浮き彫りになる。

 青年将校たちは、こどもじみた純粋さだけで行動し、大人の根回しや狡猾さを
欠いていたために、誰からも見放され、見事に失敗したということも含めて。

 それにしても、著者はよく調べて、心情投入して書いている。一人一人の心理
描写、心模様が、実にリアルに伝わってくる。2・26事件参加者ではないが、
対米開戦直前までアメリカで情報活動に携わっていた新庄健吉のことなど、読ん
で心を打たれた。

 北一輝と2・26事件の関係は、事件に北の思想教唆的な関与があったのでは
なく、財閥が情報収集のために北を使っていたという事実を闇に葬るために、あ
えて事件との関与をでっちあげて銃殺したとする歴史解釈は新鮮であった。

 本書自体、神がかり的な作品といえよう。本書は著者がまだ30歳になるかな
らないときの作品であるが、おそらく2・26事件参加者と心を通わせることに
よって、事件参加者の心を現代に復元している。

・ どうせ必敗ならばロマン主義

 これから私たちは、どこに向かうのだろう。

「滅亡に瀕している日本の中にあって、私はどうすべきなのであろうか? 今や
歴史の必然に身を委ね、最後の日本人として文明の最後を見届ける、悲壮な運命
を甘んじて受けようというまでの心境に達したが、なお一縷の望みを捨て切れな
いでいる。それは神話を失った民族が、失ったものの大きさに目覚めるときであ
る・・・・。」

 著者の描いた神風連事件、2・26事件、三島事件に共感し、自らを神の意向
に従わせて生きていくということが、はたして今できるのだろうか。

 1986年、世界人口は50億人に到達しつつあった。(実際に50億人に
なったのは、翌1987年7月11日だと言われている。)この50億人という
数字は、人類にとっては成長の限界であった。実際に、1986年は、株式のブ
ラックマンデー、スペースシャトル・チャレンジャー号の打上げ時の空中爆発、
チェルノブイリ(ニガヨモギ)原子力発電所の爆発、文明の終焉を感じるにふさわ
しい事件が多発した。

 それからはや20年が経過した。人口は65億人になり、異常気象は日常化
し、森林喪失、生物種の絶滅、海洋汚染はどんどん深刻化していっている。

 もはや文明は日本という一国家だけでなく、地球という惑星単位で滅亡に向
かっている。遅かれ早かれほとんど滅んでしまうのだ。だからこそ、もう私一人
の保身や事なかれ主義を忘れて、ひたすら神の意向に沿っていきてみようと腹を
決めるときなのかもしれない。

 どうせ滅びるのだったら、美しく滅びようではないか。

(2006.9.6)
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植物文様の展示会のご案内
From: Kumon Tokumaru

http://fuku41.hp.infoseek.co.jp/k8/180502.htm

4月にご案内した「植物文様」の作曲家 藤枝 守さんの
展覧会のご案内です。

お時間がとれるようでしたら、見てあげてくださいますか。

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「植物文様」展 うつろいのさま
ご案内

ギャラリー「千空間」におきまして、
『植物文様 展〜うつろいのさま』を開催することになりました。
今回の展覧会は、私の連作《植物文様》に基づきながら、
小川敦生さん、兼藤忍さん、倉島美和子さんという領域が異なる表現者との
コラボレーションとなっています。

今回の展示において、私が行なったサウンド・インスタレーションでは、
砂原悟さんのピアノ演奏による《植物文様ピアノ曲集》を
「千空間」で録音した音素材が用いられています。
この録音された音素材は、埼玉の奥武蔵にある私の小さなアトリエの戸外で
再生しながら録音されました。
その戸外でさまざまに響き合う鳥や虫の声につつまれた《植物文様》。
その《植物文様》の調べを、
ふたたび、8枚のパネルスピーカーによって
「千空間」にもどすような試みが行なわれています。
 
この展覧会では、砂原悟さん、鈴木理恵子さん、石川高さんによる
《植物文様》のミニライブがあります。さらに、
この展覧会の残響のように、会期終了後も、
原美術館で《植物文様》の公演が鈴木理恵子さんと砂原悟さんによって行なわれま
す。

《植物文様》の連作を始めて十余年が過ぎました。
これまでの集約であるとともに、
これからの新たな展開のステップとなる『植物文様 展〜うつろいのさま』に
ご来場いただければ幸いです。よろしくお願いします。

藤枝守

以下に、展覧会、ライヴの概要をお知らせします。
ギャラリー千空間のHPのアドレスを明記します。
http://www.senkukan.com/

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★★★「植物文様」展 -うつろいのさま-
会期:2006.9月16日 sat 〜 10月10日 tue
時間:11:00〜19:00
(ただし、9月16日、29日、10月7日はイベント準備のため、11:00〜18:00開廊)
定休日:水・木曜日、9月24日(日)
入場無料

★★★千空間ミニライブ(渋谷区代々木1-28-1、Tel/Fax. 03-5350-8330)
●9/16(土)19時 砂原悟「植物文様」ピアノ・ライブpart-1
古典調律がほどこされた1920年代のアップライト・ピアノ。
そのピアノがもたらすさまざまな響きの変容のなかに
《植物文様ピアノ曲集》が綴れ織りのように奏でられていく。
●9/24(日)16時 鈴木理恵子(バイオリン)+石川高(笙)「植物文様」デュ
オ・ライヴ
笙の響きにつつまれながら、ヴァイオリンの抑揚のなかに浮かびあがる
《植物文様》のメロディ。その縺れ合うメロディの綾が
ギャラリー空間のすみずみにいたるまで浸透していく。
●10/7(土)19時 砂原悟「植物文様」ピアノ・ライブpart-2
「ピアノ・ライブ part-1」とは、異なるセットによる
《ピアノ曲集》の綴れ織り。
また、初めての試みとして、
バッハが愛用したクラヴィコードという小さな鍵盤楽器でも
「植物文様」が演奏される。

各回チャージ:\2,500 要予約
(e-mail :talkingart@aol.com Tel/Fax:03-5350 -8330)

★★★10/17(火) 18時開場/19時開演 原美術館ザ・ホール 
¥3000 要予約(定員80名)
鈴木理恵子(バイオリン)+砂原悟(ピアノ)「植物文様」デュオ・コンサート
千空間に置かれたピアノが原美術館に転移し、
ヴァイオリンとともに《植物文様》の綴れ織りを生む。
美術館の中庭をのぞむ場で、「ヴァイオリン・コレクション」を中心に
小品の数々が編み込まれる。
上記料金にて、美術館で開催中の「アート・スコープ2005/2006」展を、
再開場18:00〜ご覧になれます。
お申込/お問合せ:原美術館ホール 03−3445-0669 info@haramuseum.or.jp 


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