2442.安部次期首相の影響力について



安部次期首相の影響力について

 安部氏の外交戦略を「世界の常識に照らし必要が生じた場合、日
本は核武装する選択肢を排除しない。と他国に思わせる」と想定し
た場合を考察してみた。

 戦後、日本の外交的勝利の一番は「日米安全保障条約」と「沖縄
返還」と私は思っている。「日米安全保障条約」は、その負担と受
益価値に於いて当時の国力を反映しているにしても、その後の日本
の繁栄を考えれば日本にとって大きな利益だったと判断できる。
そして、戦争で獲得した領土を返還しない事が世界の常識(もし、
領土返還が日常的に行われたら、日常的に紛争が始まる危険が高い
)にもかかわらず、「沖縄返還」はそれ相応の負担が生じているが
、大きな問題を発生させずに成功した。また、その負担も安全保障
の視点から見れば、日米同盟の強化に役立ってきた。

 この外交の勝利を獲得した時期までの戦後の首相たちは、日本が
核武装することを他国に意識させていた。外交交渉に於いて、隠れ
たカードとして大きな力を発揮させていたのだ。つまり、交渉決裂
は日本が単独行動をするために核武装する可能性を相手は意識させ
るカードとして用いた。このカードは相手にとって、交渉を拒否で
きない劇薬だ。

 このような国家観を持っていたのは佐藤元首相までなのだ。田中
元首相以後は、勝手に自国の選択肢を縛り、外交力を極端に落とし
た。なぜなら、武力を伴わない外交など相手国にとって、いくらで
でも外交攻勢をかけても構わないと相手となる。もし、限度を超え
た外交攻勢をすれば、日本が核武装することを考慮しなければなら
ないとすれば、相手の行動を牽制できるだけでない。相手の行動を
促す事もできる。例えば、中国が北朝鮮の核実験阻止に積極的に動
かなければならない動機の一つになる。日米同盟も米国側から弱体
化させると、日本が核武装をする動機付けになる。米国がイージス
艦3隻を日本に派遣することもその一つだ。日本の周辺国にとって
日本の核武装は、その国土の脆弱性から攻撃的・破滅的なものにな
ることを想定しなければならない。

 安部氏は過去の発言等より「国家主権」を強く意識した人物だ。
他国の安全保障関係者にとって、小泉首相の発言・行動からは、日
本が核武装する可能性は低いと断定できた。しかし、安部氏に対し
ては状況によっては考慮しなければならないと判断してると思う。

 この戦略は大きなリスクを伴う。他国は、日本の核武装を阻止す
るために、日本の国力を弱体化させる戦略・提携・行動を起こす危
険性が大きい。どの相手に、どこまで意識させるかは、単純な戦略
・戦術の上にはない。あからさまな一歩を踏み出すことは、海洋国
家である日本の破滅を招く。隠れたカードを確かめる行動・発言を
相手国は、実施してくるだろう。この場合、即座に挑発行為に抗議
し、次なる確認行為を潰さなければならない。隠れたカードはあく
まで隠すべき存在でなければならない。核武装は、現在の世界では
代償が大きすぎる。世界的広がりと長期的視野に立ち、安全保障と
経済成長の両立を図らなければならない。

 今までの安部氏の存在は核武装への抵抗感が少ない一人の副官で
あり、外交カードとして、力は弱いが安全パイでもあった。しかし
、有力な次期首相候補としてその存在が大きくなるにつれ、諸外国
の対日外交姿勢が変化した事を考慮すると、安部氏は9月以降にど
のような発言・行動をするのだろうか。

 佐藤俊二


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