2333.外交戦略としての靖国問題



外交戦略としての靖国問題

 中国からの歴史カードのうち教科書問題は日本国内の賛同者の激
減により、効果がなくなってきている。複数の教科書から地方自治
体が選ぶ方式は民主主義先進国では当然の行為に対し、国家による
統一教科書の強要は賛同国を得にくい。また、内容に対して他国か
らの検閲行為は、どの国も取り合わない。これに対し、靖国カード
は同じようにはならない。なお、歴史カードに反応する国家は中国
と韓国以外にシンガポールがある。シンガポールはリ・クワン・ユ
ー元首相が強烈な反日感情の持ち主で、中国の反日教育を上回る事
をしていた。そして、シンガポールが東南アジアでの情報発信機能
として優れていることに気を付ける必要がある。

 過去の歴史カードは、中国にとってコスト無しの極上の外交カー
ドだった。このカードは日本国内が勝手に反応するがゆえに成立し
ていた。しかし、物事には副作用が発生する。この場合は、時間と
共に日本国内のナショナリズムの高揚と反中国感情となって現れた。
こうなると、中国にとって、靖国カードは外交戦略上逆効果しか生
まなくなる。

 まだその現実に気づいていない中国は、中国の拡大する経済を利
用した経済的揺さぶりと中国国内の反日教育により強化してしまっ
た国民感情を武器にした戦術を繰り返している。これにより、靖国
カードの有効性を再構築できると考えているように見える。また、
これに呼応する日本の政治家とマスコミが存在するために問題を見
えなくしている。日本の政権が交代期を迎え、次期政権に近隣諸国
との友好関係を優先するように誘導する論調が多く見られるが、相
手国の外交目的を無視したこのような一方的価値観の押しつけは非
常に危険なものである。

 中国が靖国カードを執拗に繰り返す目的は、日本を中国の風下に
置き、資金と技術を中国に投下させる事と日本を国際的に孤立化さ
せることだ。靖国カードは、韓国を日本から引き離す効果が極めて
大きい。また、日本のイメージを軍国主義国家のようにすることが
できる。繰り返せば、イメージは勝手にふくらむものだ。

 中国は世界を多極化させ、その最強極になる野望を抱いてると考
えられるときに、小泉首相の「個人の心の問題」というだけでは日
本は中国の戦略に対応できない。靖国カードを完全に無効にするに
は、靖国を戦没者慰霊施設として外国首脳に献花してもらえば決着
が付く。イメージとして靖国を米国のアーリントン墓地と同じ目的
の施設と認識させることだ。そして、今は絶好のチャンスを迎えて
いる。中国は、一見日本が受け容れやすいようにみせるためと米国
への影響力を増大させるために、A級戦犯だけに絞ってしまってい
る。そして、同盟国たる米国もA級戦犯のために献花できないとし
ている。つまり、献花できない理由はA級戦犯だけである。その他
の歴史問題は、外国首脳の献花にたいして問題にならない状況にな
っている。たぶん、中国はA級戦犯問題が解決しても歴史問題の一
つとして靖国を利用し続けるだろうが、外国首脳が靖国に献花して
しまえば、逆効果しか生まない。

 次期政権は、靖国カードを復活させる事なくこの問題を解決する
ことが重要である。その場合の手段は、戦没者団体のトップを政権
首脳の意向を実行する人物にすげ替え、多少強引であってもA級戦
犯の分離をはかることになるだろう。現在のトップは、既得権益の
代表格の人物で国益を考慮する事を期待できない。

 東京裁判の非合理性は、幾らでもあるだろうが、所詮、戦勝国が
大義名分を得るための儀式にすぎない。そして、日本政府は東京裁
判を公式に受け容れている。今までのコスト(東京裁判の受入と小
泉首相の靖国参拝の継続)を無駄にする事を政治家に熟慮してもら
いたい。

佐藤俊二

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