2237.小泉政治の残した破壊と夢



質問   
 新しいニースや新しい視点からの分析で展開されるコラムを大変
参考にさせていただいている一読者です。No.2229で、我欲を捨てた
祈りという興味深い提案をされていますが、もっと具体的な方法や
実現可能な実践などを書いていただけるとありがたいと思いました。
個々人が考えなければならない問題だと思いますが、筆者のお考え
が示されるとより深められるのではないかと思いましたので。
どうぞよろしくお願いします。   群馬県  渕上京子  
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(Fのコメント)
渕上さん、ご愛顧、ありがとうございます。今後もコラムの質を上
げていくように努力をします。

それと、S子さん、具体的な提案をお願いします。

私Fは座禅をして、グレートサムシング(神)との会話を楽しんで
いますが、この座禅の状態では私欲が入り込まないようです。自分
の欲を生活の全場面で無くすことはできないので、限られた祈りの
時間だけ、自分から離れて地球上の全ての生物にとって良い状態を
思うことではないでしょうかね。
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「小泉政治の残した破壊と夢」

小泉首相の退陣が9月に迫った。
この政権が行った事を一言で表現すれば、旧来の日本社会、戦後体制の破壊にあった
といえる。
道路公団民営化、公共事業縮小と不良債権処理、特殊法人改革、年金改革、地方分権
三位一体改革、郵政民営化等、また外交面では、北朝鮮拉致問題の打開、中国韓国へ
の弱腰外交の是正、日米同盟の強化、憲法改正への道筋等によって閉塞感を破り国民
に「夢」を与え、それが高支持率に繋がっている。

しかし、破壊後の建設の確固とした見取り図は無かった。また、そのために破壊もあ
る分野では中途半端に終わった。
この結果、国民の将来不安は解消されず、改革の具体的なメリットが不明確であると
共に、天下りポストが増え官僚が焼け太りする等の逆行が見られ、都市と地方や個人
間の格差が拡大し凶悪犯罪が増加した。
一連の改革の流れから憶測すれば、今取り組んでいる公務員改革も表面的な数合わせ
と妥協に終わる可能性大と見るのは穿ち過ぎだろうか。
外交面では、拉致被害者の一部帰国だげでの終結懸念、アジアにおける外交的孤立、
主体的な対米関係模索の放棄を招いた。

一方、「抵抗勢力」の首謀格とされたK議員を例に取れば、公共事業を通した積極財
政によって景気快復を図り地方の疲弊を解消する事等を持論としていたが、先の解散
総選挙で自身の選挙でも死にもの狂いのドブ板選挙で辛うじて当選する等、その主張
は国民に受け入れられなかった。
民主党は、選挙戦略の拙さと主張の曖昧さもあり大敗を喫した。

より根本的には、何故彼等は負けたのか。
夢を与えられなかったからだ。
苦境からの脱出に対して差し延べられる「救済」の手と、「夢」とは違う。
弱者もある意味贅沢なもので、弱者対策だけでは満足しない。
小泉自民党が地方やいわゆる「負け組」の若者からも支持を受けて先の総選挙で大勝
したのは、曲がりなりにも夢や希望を語ったからである。
郵政民営化、小さな政府論で全てが良くなると。
その夢や希望が本物であるか、幻影であるかはまた別の問題である。
人は夢や希望なくば生きて行けない。

しかし、その裏に貼り付く具体的な国家社会像、ビジョンが無ければ夢は何時かは醒
め、やがて過酷な現実に直面する事になる。

今後日本にとって、国民生活における自己責任の範囲と国家社会が保障する範囲の明
確化、これを背骨とした年金・介護・医療の社会保障全般、公的規制、行政機構、特
殊法人、道路等のインフラ整備、郵政、教育、地方分権等を含む諸分野の中身を大胆
に切り分けて行く事が不可欠である。

外交においては、米国や中国等各国を相手にあるいは結びあるいは牽制して国益を確
保しつつ、新しい国際秩序を構築する戦略性とその中で責任を果して行く覚悟が必要
とされる。

国民の意識転換と真のリーダーの出現が待たれる。
小泉政治が残した破壊と夢に酔っていられるほど、内外を取り巻く日本の情況は実に
甘くはない。

                                   以上
佐藤 鴻全
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■「石油は大義」か。安倍晋三氏に問う

◆安倍後継
 「日本にとって石油の確保は死活問題であり大義である。それ故イラク戦争を支持
する事は正しい選択である。」(安倍晋三氏、イラク戦争当時)

小泉首相の9月退陣を前提に、次期総理総裁予想が喧しい。
各社のアンケート調査では次期総裁に相応しい人として安倍氏がダントツのトップと
なっている。
首相の意中の人も安倍晋三氏である模様だが、来年の参院選では先の衆院選大勝の揺
り戻しで自民党の苦戦が予想されるため、森前総理の目論み通り安倍氏を温存し繋ぎ
の総裁で乗り切る事になるかもしれない。

さて、いずれにしても国民的人気が無い者が2、3年先の次期衆院選の顔として党内
から支持される事は無く、安倍氏が次代を担うリーダーと目されている事は間違いな
い。
それ故、今、安倍氏の総理総裁としての資質について検討してみるのは必要な事と思
われる。

◆大義と国益
冒頭に上げたのは、イラク戦争当時に官房副長官としてのテレビの討論番組での安倍
晋三氏の発言(主旨)である。
イラク戦争とそれへの日本の支持の是非自体については大きく議論の分かれる問題で
あり、ここでは敢えて問わない。
日本にとって石油の確保は死活問題である事は議論を待たない。
筆者がここで問題としたいのは、石油の確保を「大義」とした安倍氏の言語感覚と思
考パターンである。
安倍氏は一体、「大義」という言葉をどう定義しているのだろうか。
筆者は石油の確保は、死活問題であると共に「国益」の領域に属するものだと考え
る。
石油の確保が大義であるのなら、その目的のため先の大戦で日本が仏印に進駐した事
やサダムフセインが湾岸戦争でクエートに侵攻した事やヒトラーが生存権を主張して
周辺諸国を併合した事も大義となりかねない。
これらは、国益に属しこそすれ、大義ではない。
安倍氏の言葉からは、外交戦略についてギリギリの考察をして苦渋の発言をする形跡
は一切なく、単純な米国追従しか感じ取れなかった。
国際関係において「大義」とは、国益を越えたもの、個々の国の利害を超えて広い地
域の秩序を構築、維持するための理念でなければならない。

例えば、米国の唱える民主主義は大義たり得る。
その歴史的評価は別として、先の大戦で日本が唱えた「アジア解放の大義」もその理
念だけ取り出せば大義たり得るだろう。
ただそれが、例えば石油の確保といった国益と渾然一体となり、軍事的侵攻(多くの
場合言い掛かり的な開戦理由を伴う)に繋がり勝ちであるのは歴史の例に事欠かな
い。

イラク戦争に端的に現れている様に、米国も国益と大義を渾然一体として考えてい
る。
その結果、現在多くの兵士を死なせ、莫大な戦費を使い泥沼にはまり込んでいる。

◆外交戦略として
政治家としては国民の支持を取り付けるために「国益」と「大義」を一体として考え
る誘惑が常に働くのはある意味自然な事である。
しかし、近代の歴史の失敗例に学ぶなら両者は用語としても概念としても峻別すべき
である。
でないと外交戦略の目的が不明確となり、事態について適切な判断が出来難くなる。

外交戦略は、国益と大義を峻別した上で関係各国の国益と力関係を考慮しながら、そ
れらを立体的に組み立てて立案すべきである。
それが、周囲の支持を得ながらリーダーシップを確立する事に繋がり現実的な外交戦
略となり得る。

日本は今、隣国中国の経済的勃興と軍事的拡張、長期的に見た米国のアジアからの軍
事的撤退等々により難しい外交を迫られている。
次期総理総裁に名前を出される各氏も、外交戦略的なものを持っている様子は希薄で
あるが、安倍氏は日朝ピョンヤン宣言の際、北朝鮮の不誠実を理由に調印を拒否し帰
国するよう小泉首相に諫言する等、気骨のある数少ない政治家である。

安倍氏には、ブレーンと共に外交戦略を練り上げて、次代を担うリーダーとして是非
ともそれを国民の前に堂々示して頂きたいものである。

                                   以上
佐藤 鴻全

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