2158.日本の理想的な国とは



日本の本来の理想姿は何であったかと問い、現在の日本を見直す
ことが必要である。               Fより

日本はやっと、バブル崩壊後の苦難な時期を過ぎた。ここからは
日本が古来からの理想像を追い求める国造りをするべきである。
この理想の国家像は何であったかを再度考えるべきである。欧米の
あり方は、日本の理想像からすると、おかしいという思いがあるが
、その根本の思想にある。これは別の機会で論じるが、まず日本の
理想像は何か

日本の国家の思想像は、中国思想の影響を受けているが、
第1に、聖徳太子が制定した「和」の思想でしょうね。国民が皆、
平和に暮らしていくができるようにする。内部の紛争は話し合いで
解決することである。平和と話し合いの精神である。政権交代も選
挙などの平和的手段で行う。外部の敵に対しては、日本全体が一丸
となって向かう。

第2に、国民生活に過度に政府が介入しない。税金も過度でないレ
ベルにする。過度な行政を嫌う。国民がやる気を出すようなバラン
ス感のある堯舜の政治である。それと、財政規律が必要。過度な貧
富の差も嫌う。国家としての中庸と言うポジションが重要。

第3に、困っている人には手を貸す仕組みを備える。過度なレベル
ではなくて、本当に困っている人だけに、福祉的な恩恵を与える。
これにより、社会的な平等感を増すし、治安が良くなる。

第4に、循環システムを確立して、自然との調和を持った社会にす
る。里山や用水池、廃品回収などの仕組みを備える。

第5に、海外からの移民、特に技術や文化を持っている人たちを、
日本は積極的に受け入れることが重要である。中国や朝鮮からの旧
王族や貴族の移民を受け入れて、日本文化は一層の発展をしている
。秦氏の存在や五山文化など。日本の文化に別の要素を足していく
ことが出来ている。中国や朝鮮は旧王朝の文化を否定したために、
国内では破壊されて、日本に残っていることが多い。

第6に、日本のアイデンティティを守るために、他国から干渉を排
除したり、他国の文化を導入するなど、巧みな外交を行う。

というようなポイントが日本の理想的な国家像ではないかと思える。

これに従って、現在の日本を見ると、財政規律ができていない。
この問題点があり、どうこの問題を解決するかを、まず考える必要
があるが、治安や平和や福祉をしないという政治はありえない。

この観点からすると、防衛経費や警察、河川や道路、交通機関など
の防災経費を削減すると国民への被害が大きくなるために、削るこ
とは難しいと思う。本来の国の役割はこの機能である。そして、安
全保障面から米国との同盟は重要であるし、ある面で米国に譲歩す
ることも必要である。国の基本。

もう1つ、福祉、特に年金などの制度を維持するためには経費が必
要になる。特に今後老人人口が増えるために、老人を全員福祉対象
と見ることが出来ない。高所得者には年金を出さないなどの対策が
必要であるが、維持することは絶対必要である。人口が減少するた
めの対策にも、経費が必要になる。優先順位が次に高い。

次に、循環システムがある、日本の自然観にあった仕組みを維持す
ることは重要である。この仕組みは縄文時代からの自然信仰からの
物であり、日本やケルト、インディアンなどしか残っていない文化
である。森を大切にすることが自然を取り戻すことになる。
日本が、世界のために維持しなければならない思想であり文化であ
る。この役割に無職者を当てて、救済を行うことができればいいと
思うが??

このような優先順位をしてから、国の財政を見ると何を守るべきか
が分かると思う。

農家に過度な補助金を出したが、跡継ぎがなく衰退した。これは企
業を農業から排除したからで、企業を早く農業生産に関わらせる必
要がある。農業が衰退すると国土の農山林の維持が出来ずに、循環
システムの基盤を失うことになる。日本の農業政策が農民保護とい
う面しか考えない弊害が、今大きくなっている。この転換を図るべ
きである。農地法があるために、都市から退職者を誘致することも
できない。農業を農民しか出来ない現状は、農村に住む価値を減少
させている。早く、この現状を改善するべきである。

政府金融機関などの優先順位の下位の機関を減らして、要員を減ら
すことは必要である。行政機関の要員を一律に削減することはいけ
ない。警察官などを今以上に削減するのは反対である。本来国が果
たさなければならない機能は強化するべきである。FEMA要員を
削減して、カトリーナの災害を招いた米国と同じことをしてはいけ
ない。

また、ある程度の累進制は必要であると見る。米国文化のマネをし
て金持ちを優遇する累進制緩和には反対である。もし、金持ちが日
本から出て行くと言うなら、行けばいいではないか。勝者が全てを
取るという米国文化を無条件で持ち込むのは間違いである。貧富の
差をあるレベルに押さえる中庸という考えが必要だ。

このために累進制があるので、企業や個人の儲けが大きい時に財団
などに出資されて、国際的なことや文化的なことに金が回るように
して、日本文化を高かめるべきである。今後も日本企業は世界的に
ビジネスするために儲けが大きくなる。世界で活躍するトヨタやホ
ンダを見れば分かる。

それと機会の平等性を日本は大切にしている。このため相続税も高
い。このような税金はそのままにするべきである。これにより、今
後の高齢化社会では相続税により財政基盤を確立できるチャンスが
ある。そして、なるべくなら、消費税は10%程度を上限とするべ
きである。
==============================
「負担増でも社会保障維持・充実を」が7割 内閣府調査(ASAHI)
2005年10月24日21時12分

 たとえ負担が増えても社会保障制度の維持・充実を求める人が7
割近くにのぼることが、内閣府が24日に発表した「高齢社会対策
に関する特別世論調査」で分かった。現実の政策は巨額の財政赤字
や小泉政権の「小さな政府」志向を背景に、負担を抑えるため年金
や医療の給付を削減する方向で進んでおり、国民の意識とのズレが
目立つ結果になった。 

 調査は全国の20歳以上の男女3000人を対象に9月に実施し
1896人から回答を得た。 

 社会保障制度の水準や負担のあり方を尋ねたところ「たとえ現役
世代・将来世代の税や保険料の負担を増やすことになっても、現在
の水準はできるだけ維持すべきだ」とする回答が44.4%を占め
、「より充実を図るべきだ」(22.0%)と合わせて66.4%
だった。一方、「負担を増やさないためには、水準が下がってもや
むをえない」は22.2%だった。 

 年齢別に見ると、「維持・充実」の合計は、社会保障の恩恵を最
も受けている70歳以上で最も少なく61.2%。逆に20〜29
歳で73.4%と最も高かった。今後「高齢者に対する施策を充実
すべきだ」とする人も全体で53%にのぼり、「若い世代をもっと
重視すべきだ」の23.0%を大きく上回った。 

 調査結果について内閣府の担当者は「消費税何%など具体的な負
担増の姿が示されたときに国民がどういう反応を示すかは、もう少
し詳細な調査をしなければわからないだろう」と話している。 
==============================
「ODA、首相直属に」経財諮問会議の民間議員が再編案(ASAHI)
2005年10月28日01時21分

 政府の経済財政諮問会議の民間議員は27日の会議で、政府系金
融機関について、国際協力銀行の解体を示唆するなど踏み込んだ再
編案を提言した。政府や関係機関内で分散した、政府の途上国援助
(ODA)などの海外経済協力事業は「集約して首相直属とする」
としている。谷垣財務相と中川経済産業相が提言を批判したのに対
し、小泉首相は「財務省と経産省がいかにこの改革に抵抗している
かがわかる」などと述べ、両省に改革案の提示を指示した。 

 会議で現行の各機関と事業の重要性を強調した谷垣、中川両氏を
、小泉首相は「政策金融改革は最初は一指も触れさせないと言って
いた。郵政民営化も同じだった」と一喝。「発想を変えてもらいた
い。民がどうやったらできるかを考えて、財務省も経産省も案を出
せ」と指示した。政府は11月中に再編案をまとめる予定だ。 

 提言は、各機関からのヒアリングに基づく「所見」として示され
た。政府系金融の機能を「民間金融では対応できない部分だけ」と
する原則を明記し、政府として継続すべき分野と撤退すべき分野を
列挙。各機関を名指ししてはいないが、具体的な再編イメージを色
濃くにじませた。 

 国際協力銀の主力業務である円借款など、海外経済協力分野は継
続対象とされた。ただ、外務、財務、経済産業など各省庁に分かれ
た無償援助とともに「『顔の見える』外交との観点から、関連業務
を集約し首相直属とする考えはどうか」と指摘。同銀のもう一つの
主力業務である「貿易・投資金融」は撤退すべき分野に分類してお
り、提言通りだと同銀は解体されることになる。 

 そのほかに継続対象としたのは「零細・中小企業」(所管は国民
生活金融公庫など)と「インフラ整備」(日本政策投資銀行)、「
農林漁業」(農林漁業金融公庫)、「沖縄政策」(沖縄振興開発金
融公庫)。 

 撤退すべき分野は大企業向け融資(政投銀など)、中小企業組合
金融(商工組合中央金庫)など。これらは「完全民営化または廃止
」を打ち出し、商工中金の民営化・廃止も示唆した。公営企業金融
公庫の自治体向け金融には、「資本市場を活用しつつ新たな仕組み
を考える」と共同債券発行新機関への衣替えを促した。 

 首相は会議後、記者団に「改めて抵抗の強さを感じた。これだけ
選挙で大きな期待を受けているのだから、そろそろ抵抗を変えても
らわないとね。自民党も、各役所も」と述べた。 
==============================
次の首相誰でも避けられず 消費税増税で財務相 [共同通信]

 谷垣禎一財務相は23日、民放のテレビ番組で、消費税の税率引
き上げについて「(次の首相が)私かどうかは分からないが、誰に
なっても避けて通れない道と思う」と述べ、来年9月に自民党総裁
任期が切れる小泉純一郎首相の後継者が社会保障費の財源確保のた
め消費税増税を決断するとの認識を表明した。

 谷垣財務相は「ポスト小泉」の有力候補の一人。消費税について
小泉首相が「任期中は引き上げない」との立場を貫く中で、小泉首
相の次を狙う他の有力候補は、消費税問題を含む重要政策での明確
な態度表明を迫られることになりそうだ。

 谷垣財務相は「2007年度に向けて税体系全体の見直しに結論
を出さなければならない。消費税もその中で方向を出さなければな
らない。議論を年が明けたら始める必要がある」とし、本格的な議
論に着手する必要性を明確にした。

 税率の引き上げ幅については「社会保障をどれくらいにするかと
いう議論を詰めなければ答えは出ない」とし、社会保障などの負担
水準見直しの中で議論を進めるべきだとの認識を示した。

 情報技術(IT)投資費用の一定割合を税額控除するなどの企業
向け大型減税措置については「景気回復に(既に)相当効果があっ
た。終わりにしてもいい」と明言し、産業界などが求める期限延長
は必要ないとの認識を表明した。所得税と個人住民税の定率減税に
関しては全廃が基本方針との考えを重ねて示した。(共同)

(10/23 13:21)
==============================
「失われた10年」から復活しつつある日本企業   
   
  前回は日系企業間の買収問題を取り上げたが、実はいま外国企業の買収に乗り出してい
 る日本企業も数多いことを英『フィナンシャルタイムズ』紙が伝えている。 

 同紙は、日本の企業が「失われた10年の遺産」を振り払い、再び獲物を探し始めたと表
  現。日本が90年代半ばから続く不況を脱しつつあるとする。
 実際、ここ最近の日本企業の動きは活発だ。
  ここ数週間で、三菱グループは再び活発になり<三菱重工は>、アメリカの原子力発
  電所設備製造工場であるウェスティングハウスを英国核燃料公団から購入しようとし
  ている。

 他にも、電子部品メーカーのスミダコーポレーションがスイスのメーカー、サイア・バ
 ージェスに対して敵対的な株式公開買い付けを実施。花王が英高級化粧晶会社モルトン
 ・ブラウンの買収を発表するなど、買収案件が相次いだ。さらに遡れば、富士写真フイ
 ルムがイギリスのインク会社セリコール、王子製紙がスイスの写真用紙大手イルフォー
 ド・イメージング、三井住友海上保険が台湾の損害保険会社・明台産物保険股ふん有限
 公司をそれぞれ買収した事実を同紙は掲載。日本企業の本格的な再生が進行中で、買収
 した件数は、05年前半だけで31%の増加だという。

 ほとんどの欧米メディアは、この傾向を80年代後半から90年代前半にかけての日本企業
 による買収と比較するが、同紙も例外ではない。

 1989年に日本の三菱地所がアメリカの聖像であるニューヨークのロックフェラーセンタ
 ーの持ち分51%を取得した際には、米国中が震撼した。

 当時日本企業は、ロックフェラーセンターの他に「アメリカの魂」といわれたコロンビ
 ア映画などを多数買収し、多くのアメリカ人から反感を買った。同紙は、80年代の買収
 は勝利の記念としての資産のみを目的としていたが、現在進行中の買収は企業の中心的
 なビジネスに焦点が当てられているという。

 いわば成長した日本企業の買収活動復活に対して、アメリカ社会も危機感を募らせてい
 るというわけだ。一方で同紙は、今年上半期の日本企業によるM&A(企業の合併・買収)
 総額が5兆1570億円だったのに対して、海外企業の買収は4980億円にとどまるとも指摘
 する。

 アメリカや他の国が80年代の恐怖感を思い起こすには時期尚早といえる。過度の不安を
 抱いてはいないものの、活発な企業買収を見せる日本企業に対して、過去に苦い経験を
 持つアメリカは警戒し始めている。
(週刊ポスト 世界の読み方より・竹村健一)
       Kenzo Yamaoka
==============================
景気の先行き

消費者心理は依然として低迷/原油高でスタグフレーションの懸念も
 内閣府の外郭団体である経済企画協会が今月中旬発表した民間シンクタンク38機関の
 経済予測調査によると、今年度の実質国内総生産(GDP)成長率は全機関平均で前月
 調査の1.95%から2.30%に上方修正されました。これは、設備投資や個人消費
 に対する強気の見方が増えたためです。

 この点については、今月上旬発表の9月日銀短観でも明らかになっています。ただし、
 先行きについては過度に楽観視することはできないでしょう。同短観で最も注目される
 大企業製造業の景況感(DI)は前回6月調査比1ポイント改善したものの、先行きに
 なると1ポイント悪化する見通しです。水準をみても、今回は19ですが、これは昨年
 9月調査の26からはかなり低いです。

 大企業製造業のDIが昨年9月のピークを回復するのは至難の業と思われます。景気の
 現状を見ると、企業の設備投資は積極的ですが、個人消費は雇用・所得環境が若干改善
 しているものの、9月の消費者態度指数が前月比2.9ポイント低下の45.3と3カ
 月ぶりに悪化するなど、消費者心理は依然として低迷状況を抜け出ていません。

 政府は「景気は踊り場を脱出した」との判断ですが、国内の慎重なエコノミストの指摘
 するように、国内の経済情勢は横ばい状況というのが妥当なところではないでしょうか。
 先行きを見ると、米国では原油高を背景としたインフレ懸念と連邦準備制度理事会(F
 RB)による金融引き締めの強化予想、景気減速懸念が台頭してきています。これを反
 映して、ダウ平均など株価もやや軟弱気味に推移しています。

 このため、米国向けを中心とした輸出の動向が気に掛かるところです。また、米国の株
 価動向が日本の株価動向にも影響を及ぼせば、日本の景気の頭を押さえる要因にもなり
 得ます。さらに、目を離せないのが原油価格の動向です。

 石油問題専門家の中原伸之前日銀審議委員(東燃=現・東燃ゼネラル石油=元会長)は、
 通信社とのインタビューで「来年の原油輸入金額は6兆−7兆円増え、これは消費税3
 %分の負担になる」と指摘し、「来年の経済はマイナス成長となり、スタグフレーショ
 ン(不況下の物価高)のリスクがある」と懸念しています。原油価格高騰による輸入増
 は日本経済にとっては原油輸出国への所得移転になるため、景気には大きなマイナス要
 因です。

 このほか、政策要因として今後は年金保険料の引き上げと同給付水準の引き下げ、定率
 減税の廃止・縮小などいわゆるサラリーマン増税の影響も考慮に入れなければならない
 でしょう。

 2002年2月を底に回復に転じた景気も、そろそろピークから下降局面に入る可能性
 もあります。実際、前述の民間シンクタンクの予測でも、来年度の成長率は1.78%
 増と今年度よりもスローダウンする見込みです。景気は慎重な見方が妥当なところと言
 えましょう。(野村道彰)世界日報掲載許可
      Kenzo Yamaoka
==============================
見直すべき国土政策/京都大名誉教授 岸根卓郎氏に聞く   
   
 理想は農都融合社会システム
農林水産業を核に/かけがえのない自然を保護
混沌の中にも調和美を追求/生かしたい「間の感性」

 台風や地震など自然災害が起こるたびに、防災対策が声高に叫ばれる。だが、根本の国
 土政策について語られることは少ない。都市と農村の乖離(かいり)など課題は多く、
 抜本的な見直しが必要だ。“国のかたち”はどうあるべきか。長年、新しい国土政策の
 ビジョンを提言してきた岸根卓郎京都大名誉教授に聞いた。

(聞き手・池田年男・世界日報掲載許可)

 ――全国総合開発計画に代わる新しい「国土形成計画」を検討する国土審議会計画部会
 が、計画策定のヒントをつかむため、来月から全国各地の自治体や住民らに対する聞き
 取り調査を始めるとのことです。国土計画なるものを久々に耳にした思いですが、一般
 国民の関心も低いのではないですか。

 今の政府は郵政改革ばかりで、もっとほかに重要なことがあるのにそれを忘れているか
 のようです。国土政策もその一つです。政治家は国家百年の大計を示す責任があります。
 ところが大局的な見地がなく、相変わらず目先の経済効率ばかり追い掛けている。郵政
 改革したら経済は良くなるとか何とか。

 マスコミ報道にも問題があるでしょうね。その時々に脚光を浴びるテーマや話題は大き
 く扱って注目を集めても、報道されなくなったら、まるでなかったことのように国民も
 忘れてしまう。

 ――以前、岸根さんは当時の国土庁の求めに応じ、国土計画の私案を「新しい国づくり
 を目指して」という本にまとめて提出しました。その提言は具体的に政策に反映しまし
 たか。

 いや、二十一世紀を見据えた国土政策だと大きく評価はされましたが、残念ながら実際
 にはあまり具体化していないですね。というのは、同じシステムでも、自動車や家電製
 品のようにニーズがほぼ一致して普及も早い工業システムと違って、社会システムの場
 合は必ずニーズとアンチニーズの関係が生まれます。つまり利害の対立です。空港建設
 がいい例でしょう。土地利用をめぐって必ず反対運動が起きますし、実現にもっていく
 のが非常に難しい。民主主義社会ですから、やむを得ないですが。

 逆のいい例は中国です。中国も都市化、工業化が東海岸に集中して西の方が過疎になり、
 国土問題で頭を痛めていました。先に紹介された私の著書こそこれを解決するビジョン
 だとして北京政府と北京大学が翻訳し、国土企画院が政策に採用しました。あの国は共
 産党一党独裁ですから、決まった政策の実行は早い。着実に成果が上がっていると聞い
 ています。その点、社会システムは民主主義の国ではなかなか実現しません。

 ――その書物で強調したことは何ですか。

 まず、世界的な都市化現象について指摘し、この問題を改善しなければいけないと警鐘
 を鳴らしました。わが国も、東京一極集中に見られるような、膨張の一途をたどる大都
 市のこれ以上の巨大化と、それがもたらす周辺農村のスプロール化(都市が不規則に虫
 食い状態で郊外へと拡大していくこと)現象をこのまま放置していいわけがない。わが
 国の国土政策の最重要課題は実にここにあると指摘したのですが、今も状況はそう変わ
 っていないですね。

 ――都市と農村との調和がなく、全く無定見、無秩序なままに開発されたりして、日本
 の国土のありさまは寒心に堪えません。

 一般的な傾向としては、人口が五十万人までの都市では、雇用は増加し生活環境も安定
 していますが、百万人に達すると、雇用は増加しても生活環境が低下するため、都市の
 質は全体としてはかえって下がり始めます。

 さらに、人口が二百万人を超えて増加し続けると、生活環境が悪化するばかりか、人間
 疎外や家庭内暴力や凶悪犯罪などいわゆる社会のアノミー現象、つまり病理現象が生じ
 て都市の質は基本的に悪化していくとされています。実際、多くの大都市では、社会の
 アノミー化によって安らぎやゆとり、優しさなどの高度な感情はほとんどはぐくまれず、
 むしろ圧殺されているかのように見受けられます。

 人口が一定水準を超えて増加し続けると、都市の利点である知識や文化の集積、産業の
 発達、社会資本の形成といったプラス面が次第に損なわれるようになる。そればかりか
 精神的な生活環境も大きく悪化し、都市の質はあらゆる面で基本的に著しく低下してい
 くということです。昨今の殺伐とした世相はそのことを端的に証明しているのではない
 でしょうか。

 ――国土政策への提言において打ち出した基本理念は何ですか。

 従来の「物と量と効率」中心の国土計画から、「心と質とゆとり」中心の国土計画へと
 進化・発展していかなければいけない。そこで、私が提示した新しい国土計画では、そ
 の基本理念を「自然―空間―人間システム」「農都融合社会」と名付けました。

 つまり、自然と完全に融合した、物心共に豊かで教養に富んだ優雅で気品のある自然融
 和社会の創出です。もっと具体的に言えば、農林水産業を核にして、かけがえのない自
 然を保護し、国土の保全と国民の精神的安定に寄与し、それに最先端産業の商工業を融
 合させる。国家に活力と国民に物的な豊かさを保証し、さらにそれに学園を融合させる
 ことによって、学術と文化の振興を図るという構想です。

 ――これまでの国土政策を大きく見直す内容ですね。

 社会機能というものは総合的・有機的なもので、機能を分けて考えることはできません。
 ところが従来の国土計画では、その社会機能を人工系の都市機能と自然系の農山村機能
 に分離・遮断して、都市に対しては都市計画を、農山村に対しては農山村計画を、とい
 うふうにそれぞれ相互の関係を無視して別々に立ててきました。欧米流の細分化の思想
 と同じ発想です。そのため、今のような住みにくい歪(ゆが)んだ社会が形成されるよ
 うになったと思っています。

 いうまでもなく、社会は本来、多種・多様な機能が交錯し絡み合っている、いわば混沌
 (こんとん)社会です。ですから、新しい国土計画の基本理念は、そういう現実認識に
 立って、混沌の中にも全体的調和美を追求するものでなければなりません。

 ――基本理念では、自然と人間の間に不可欠なものとして空間を重視していますが。

 自然と人間とを結ぶ空間の重要性ですね。日本人は風や波でさえも自然の呼吸とみて、
 その合間に風情を感じる。こういう日本人特有の「間の感性」あるいは「間の思想」が、
 余白そのものに意味を持たせる日本の書道となり、京都の龍安寺の石庭に代表される日
 本庭園となり、さらには時としての間に芸術性が見られる能や歌舞伎などの伝統芸能と
 なって現れてきたと言えます。

 その点、西洋建築などは、空間という空間はすべて彫刻や壁掛け、飾り棚、机などの調
 度品で埋め尽くされ、何もない空間が許されないような考え方があります。日本建築で
 は、大気の行き交う縁側や実用とは全く無縁な床の間など、自然と渾然(こんぜん)一
 体となった「無の空間」が好まれ、尊ばれる。

 ですから、日本人にとって「間」とは、あるべきものが欠落したうつろな状態ではなく、
 逆に積極的に創造された「実存の状態」なのです。そういう「間」の効用も、新しい国
 土計画に不可欠な要素として見直すべきでしょう。

 ――まだまだ日本社会は都市優先、工業優先で動いているようですが。

 国というのは生き物ですから、その生体システム全体をコントロールする頭脳に相当し
 政治の中枢も集まる大都市と、手に当たるところ、足に当たるところ、それぞれがバラ
 ンスよく機能して初めて健全な国づくりができると思います。みんなが同じ方向に行っ
 てしまったら、それはダメになる。

 しかし、現状は依然として農業軽視の傾向がありますね。戦後わが国は一貫して工業立
 国を国是にして、工業・商業の一方的な発展を目指してきましたが、その結果が「工業
 栄えて農業滅ぶ」という言葉に象徴されるような状況となって現れました。

 農業を軽視した社会は健全ではありません。かねてから心配しているのは、日本は先進
 国の中で食糧自給率が一番低い。最近、世界的に異常気象が起きていますから、輸入先
 のアメリカやオーストラリアなどで異常気象が起こって作物が取れなくなるという事態
 も十分あり得ます。そうなると、輸入に頼っている日本はたちまち困りますよ。

 そういう意味でも、農業政策の見直しが急務だし、農の再建を国土政策の柱にしなけれ
 ばいけませんね。生命系産業としての農林業の役割と、農林業に生産の場を提供する農
 村、森林の役割ほど重要なものはほかにありません。

 農村の役割と都市の役割を有機的に結び付け、調和ある国土の発展を志向しなければい
 けません。自然環境、生産環境、生活環境の三つの基本的な環境が調和・融合した環境
 を、都市と農村の壁を超えて国全体として設計すべきです。


 きしね・たくろう 昭和2(1927)年、兵庫県生まれ。同26年、京都大農学部卒。
 同39年、京都大教授に就任。平成2年から同大名誉教授。佛教大教授も務めた。研究
 分野は統計学、システム理論、情報理論、国土政策学、哲学・宗教、環境論など幅広い
 学際領域。四全総の提案者の一人として、国土総合開発計画に参画し、農都融合システ
 ムを提唱した。「文明塾」も主宰し、内外に多くの信奉者を持つ。油絵、書、漢詩、大
 工仕事、庭いじりなど趣味も多彩。著書は『文明論』『宇宙の意思』『私の教育論』
 『環境論』ほか多数。

     Kenzo Yamaoka

コラム目次に戻る
トップページに戻る