2154.日本国の刷新・再生



◯ 「日本国の刷新・再生」(39) ―21世紀研究会― (nss0510.txt)
                     n21cq@yahoo.co.jp

★★ 『構造改革に急いで着手すべき』★


★ 『要旨』
 1、構造改革を要する分野は多岐にわたる

 2、地方の抜本的な再編成が不可欠である、地方公務員の無給制も視野の内

 3、医療費は、年齢ではなく発生要因で区別し、医療費問題の最終解決法は
、国家管理をはずし、自由診療とすること

 4、政府は関与する金融機関を全て手放し、官は収益事業から、全面的に撤
退すべき

 5、官(議員・官僚・公務員)の無駄使いと既得権益を完全に払拭する手法
の導入が肝要




★ 『本文』

◇ 1、日本で構造改革を要する非効率な分野は、非常に多岐にわたります。
郵政民営化だけではありません。その幾つかに迫り、できる分野から着実に成
功させて行かないと、21世紀の間に日本沈没が確実に到来します。



◇ 2、日本の財政は国家・地方自治体共に、一段と悪化の一途を辿っていま
す。このまま進めば、崩壊する市町村が相当多数発生しても不思議ではありま
せん。現状は、地方分権や地方自立が可能な状況とは到底申せません。

 2-1、地方自治体の歳入に占める地方税収の割合は、全体では34%(2003年度
決算)ですが、地域により大きな格差があります。
低比率の市(国家依存度が非常に高い)―北海道と九州―(10%未満の市)
 北海道歌志内市3.4%、同夕張市5.7%、長崎県対馬市6.4%、福岡県山田市6.7%
、北海道赤平市8.5%、同三笠市9.2%、長崎県壱岐市9.3%・・・
高比率の市(自主財源が大きい)―愛知県と首都圏に集中
 愛知県碧南市71.3%、千葉県浦安市68.5%、愛知県東海市65.8%、同豊田市65.
5%、同刈谷市65.2%、同大府市64.2%、東京都武蔵野市64.0%・・・

 2-2、地方自治体に生じる将来の財政負担額(借金)の合計額が、2004年度
末で137兆円に達しています。前年度より2%増え過去最悪の水準を更新してい
ます。国家財政からの地方交付税の削減等に対応すべきなのに、地方自治体側
による人件費等の固定費の削減が進んでいないからです。

 2-3、人口に占める地方公務員の数(2004年4月)が高いのは、島根県3.57%
、次いで高知県です。低いのは埼玉県1.79%、次いで神奈川県です。約2倍の
開きがあります。

 2-4、愛知県富山村は人口218人の日本最小の地方自治体ですが、広義の公務
員比率が就業者の47%に達しています。歳入に占める税収の割合は4%に達しま
せん。つまり、雇用を官に、財政を国家(地方交付税・補助金)に依存してい
ます。

 2-5、地方組織を、平均人口60万人程度(日本全国を200の地方とし、都道府
県を廃止、国と地方の2段階制)の規模に拡大して財政力のバランスを確保し
た以後でないと、地方分権や三位一体等が成立する訳がありません。

 2-6、地方自治体、特に市町村職員の勤務内容を調べてみますと、民間人に
よる代替不可能な分野は皆無に近いです。従って、地方公務員を完全無給制に
移行し、国民が一定期間、交代制により無報酬で、地方公務員として勤務する
「徴員制」を断行することが可能であります。これは、地方自治体の人件費を
限りなくゼロに近づける抜本的な構造改革となります。

 (注) 徴員制: 18−70歳の正常な日本国民は、何処かの地方自治体で、一
定期間(3−5年間)、公務員として無報酬で勤務する義務を負います。その期
間生活に困る人(家庭)は、医食住無料の施設で暮らします。但し、1億円以
上を国家財政に寄付すれば徴員制から免除する制度を導入すれば、財政赤字の
解消に役立ちます。



◇ 3、厚生労働省が医療保険制度改革の試案を発表して、大きな話題となっ
ています。年々の医療費の膨張は、財政圧迫の大きな要因であり、早急且つ抜
本的な対応策が不可欠な情勢です。

 3-1、加齢による老化現象/自己の健康管理不全による生活習慣病(糖尿病
・高脂血症)/故意重過失等が原因で発生したケガ病気、これらの『A種』は
、本来の「病気」(保険対象)とは申せません。感染症(伝染病)/環境汚染
(石綿による肺癌)/遺伝/犯罪被害/事故災害(ケガ)/救急医療による病
気ケガ、これらの『B種』とは、本人の負担割合を完全に区別して対処すべき
です。

 3-2、癌等の病気で、原因がA種/B種と明確に区別し難いものもあり、当
然『中間』を設置する必要があります。本人の窓口負担割合は、年齢とは関係
なく、A種50%、中間35%、B種20%が考えられます。

 3-3、総額管理方式(国内総生産の成長率等の経済指標に連動して医療費の
総額を抑制)と、国民の健康とは関連性がなく、別の手法を探るべきです。

 3-4、いずれにしても、究極の医療費対策は、官主管による医療保険制度の
破棄、及び医師独占治療体系をやめて(医師免許制の緩和→廃止して)、完全
な自由診療とすることです。つまり、病気に関する国家の関与を原則として無
くすことです。諸般の事情で、医療を受けられない日本人(日本国籍を有する
人)に限り、施設に入ってもらって、無料の医療行為を受けることができるよ
うにします。



◇ 4、政府系の八つの金融機関は、総務・財務・農水・経産の各省と内閣府
の所管で利害が入り組んでいます。1945年の敗戦後の日本復興期には、これら
の政府系金融機関が大きなチカラを発揮しましたが、現在は、その役割を概ね
終了しています。

 4-1、政府与党は、次の方向で検討に入ったと言われています。
・ 個人・小企業向けとして、国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・沖縄振
興開発金融公庫の一部、→△△機関、
・ 中小企業以上向けとして、日本政策投資銀行・中小企業金融公庫・沖縄振
興開発金融公庫の一部、→◯◯機関、
・ 国際協力銀行(海外向けとしてそのまま)
・ 公営企業金融公庫は廃止して地方に移管、商工組合中央金庫は民営化、

 (注) 農林中央金庫は、以上の枠外のようです。住宅金融公庫及び特殊銀行
の色彩のあった長期信用の3行(興銀・長銀・日債銀)は、既に消滅していま
す。

 4-2、現存する複雑な政府系金融機関は、農林中央金庫を含め全部完全に廃
止すべきです。何かの非常事態(地震等の大災害・世界的な規模の大恐慌・世
界的な大動乱戦乱)等が発生した場合は、日本銀行・金融庁等が中核となり、
その時点に最適の金融機関を新設して対応すべきです。過去のしがらみに囚わ
れてお役ご免の政府系金融機関が存続し続けること自体、国家国民として大き
なマイナスであります。

 4-3、農協にしても、郵便局にしても、政府の関与を一切取り払って、完全
な「民営」にすべきです。僻地における資金決済(振込・送金・支払)手段と
してATM機器等を確保して置けば、それで十分です。国家・政府・地方自治
体等の官は、金儲け(収益を上げる事業)から一切手を引くべきであります。
もちろん道路公団は廃止し、道路は完全に無料とすべきです。



◇ 5、無駄使いと既得権益を完全に払拭する必要があります。経済人(企業
の経営者・従業員)は、無駄を無くすことに心血を注ぎます。しかし、官(政
治家・官僚・公務員)は、獲得した予算を完全に使い切ることを、至上命令の
ように考えており、そこに大いなる無駄使いが発生しています。

 5-1、官は前例主義を尊び、変化を好みません。既得権益にしがみつこうと
しています。国会議員の年金の如きは、当然「即廃止」です。議員年金廃止に
反対する人に対しては、次回の選挙では、党派を超えて断じて投票すべきでは
ありません。

 5-2、国会議員は、日本全体の代表であるという自覚が肝要です。従って、
自分の選挙区や関連する地域に公共事業を誘致しようと企画しただけでも、即
刻議員資格を剥奪する制度の導入が必要です。かかるシステムを早く導入して
おれば、四国に3本も橋を架けるような馬鹿な(無駄使いの)公共事業は発生
しなかった筈です。

 5-3、将来は議員・国家公務員も無給化の道を選択するとしても、当面は獲
得した予算を、創意工夫により節約できた官僚と公務員を、優遇して昇進させ
、全部使い切った官僚と公務員は、昇進をストップさせ、且つボーナス面でも
徹底したマイナスの格差をもうけるべきです。余った予算は、翌期以降の非常
事態に備え留保する制度が重要であります。

(nss0510.txt完)

(日本刷新再生39★21世研5n10完)
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「良い国日本の再興」 日本戦略の研究会(日戦略研)
  2005年10月第3週               npslq9@yahoo.co.jp


★ 本日の表題
 郵政改革反対組の没落と義経主従の類似性、参議院無用への道
 日本は、高度技術立国を目指せ
 TBS対楽天問題を契機に、日本の上場会社制度を考える
 人権擁護法(人権条例)は、日本に合わない



★ 表題: 郵政改革反対組の没落と義経主従の類似性、参議院無用への道
 051018           担当: 菅 貞蔵 kntz0@yahoo.co.jp

◇ 郵政民営化法案に反対した自民党の人々、いわゆる「反対組」の精神的な
弱さが目立っています。自民党員の資格剥奪に怯えているからでしょうか、自
民党内の今後の立場や出世(役職/大臣に就くこと等)を懸念したからでしょ
うか、当初の意志意欲を完全に放棄して、為す術もなく降伏して、「賛成」に
回った感が強いです。

◇ 衆議院議員の議席を死守した人で反対を貫いたのは、新党結成の5氏(綿
貫・亀井・亀井・糸川・滝)及び野呂田氏(新党と統一会派結成)・平沼赳夫
氏に激減しました。参議院議員の反対者は当初22氏、欠席/退席/棄権は計8
氏でしたが、10月14日も反対を堅持した人は、新党の長谷川・荒井両氏(亀井
郁夫氏は棄権)に留まりました。

◇ 「反対組」の諸氏は、小泉純一郎氏の考え(郵政民営化法案が否決された
ら解散)を甘く(軽く)みて、事前の対応策や結束力が全く無いままに、「反
対」の投票に走ったと言わざるを得ません。

◇ 天下分け目の重大な投票は、「戦争」と同じです。死活(政治生命)が掛
かっているのです。断固として意志を貫くか、一応負けた(従う)振りをして
裏工作を継続して巻き返しを狙うか(捲土重来)、十分な多数派工作をして投
票(戦争)に臨むか、が肝要でありました。

◇ NHKの大河劇「義経」が放映されています。「義経主従」は、頼朝の本
意(貴族政治を変革して、武家政治を確立すること)が読めていなかったと推
測されます。義経が朝廷(貴族)から「官位」を受けた、つまり、武士が貴族
の下位に甘んじ続けるという事実が、頼朝の逆鱗に触れたのです。

◇ 義経主従は、屋島や壇ノ浦の海戦で、水軍を配下に収めて大勝利しながら
、鎌倉(頼朝)と対立した場合の対応策(義経主従の味方となるべき地方の地
侍や軍隊/水軍)を確保しておりませんでした。従って、腰越(鎌倉直前)で
、すごすごと京都(貴族の勢力圏)へ退散することとなりました。

◇ 亀井・綿貫両氏を中核とする守旧派(既得権益組)は、義経主従との類似
性を感ぜざるを得ません。観念的(反小泉的)な「反対組」の賛同を得たもの
の、小泉郵政民営化法案に対抗できる確たる代案、戦争(本格的な政治闘争)
の準備ができておらず、9.11選挙で同志(反対組)の多くを失いました(落選
させました)。

◇ 前項の落選組には、日本の将来にとって、有用且つ気骨のある人材が含ま
れており、単に「郵政民営化法案」に反対した一点のみをもって、将来の政治
生命を断たれつつあることは、慚愧の念に耐えません。

◇ 参議院の自民党議員が雪崩をうって、自ら小泉純一郎氏の軍門に下った事
態は、「参議院」の良識に汚点を残すものです。日本財政逼迫の折から、『政
党中心の参議院であれば不要』との論が高まる可能性を秘めております。




★ 表題: 日本は、高度技術立国を目指せ
 051018            担当: 岸田与志 qxd44@yahoo.co.jp

◇ 世界各地で河川の枯渇/地下水の汚染等が進み、「良質の水」不足が、深
刻となって来ています。21世紀は「良水争奪」の時代となります。海水の淡水
化(膜方式・蒸発法)や下水の再利用(汚水再生)の必要性が、緊急課題とな
りつつあります。

◇ カプセル内視鏡(超小型カメラを内蔵した小腸等の探査機器)、各種のロ
ボット(手術・介護・防犯・戦闘)、ナノテクノロジー(10億分の1メートル
の精度を扱う技術)を応用した加工/新素材開発、これらの将来需要は膨大な
ものです。

◇ 以上のような技術は、日本(人)の得意とする分野です。かかる分野を進
展させるには、先ず第一に、子供の関心を科学技術に向かうように教育するこ
とです。第二には、学校教育において、技術(理科系)の比重を「80%以上」
に高めることです。

◇ 完全な「無から有を生ずる」発明・発見には、ノーベル賞受賞者数の比較
等から見て、ユダヤ系の人等に一歩劣っているとしても、日本人が持っている
改良/応用の技術は極めて秀でており、おそらく世界第一位と申せます。

◇ 日本は、プロスポーツ・歌舞音曲・ドラマ・公共的賭博(宝くじ・競馬・
競艇・競輪・パチンコ)・福祉と依頼心(補助金等)・観光娯楽に走る傾向を
抜本的に削減し、本格的な「高度技術立国」を断固として指向しないと、21世
紀の熾烈な競争世界から抹殺されて行きます。




★ 表題: TBS対楽天問題を契機に、日本の上場会社制度を考える
 051018          担当: 丸野内三 m00573@yahoo.co.jp

◇ 楽天(インターネット大手、仮想商店街最大手、仙台の東北楽天イーグル
スのオーナー)が、民放大手のTBS(東京放送、横浜ベイスターズのオーナ
ー企業)の株式15.46%を、約880億円で取得して筆頭株主となりました。

◇ 楽天の三木谷社長は、TBS(村上社長)との間に「共同持株会社」を設
立し、インターネット(通信)とテレビ(放送)の融合を図り、互いの長所を
出し合って、更なる発展を企図していると思われます。

◇ TBS側は、特定の大株主や系列とは無縁の「放送大手」の地位に君臨し
ていたため、多少の防衛策(新株引受権等)は準備していたものの、抜本的な
対策は取っていませんでした。

◇ TBSの現経営陣は、MBO(management buy out、経営陣が中心となっ
て自社株式を買収し経営権を確保する手法、先般『ワールド』『ポッカ』が成
功裏に完了)を考え、上場廃止を視野に入れて検討しているとの一部情報があ
ります。

◇ しかしながら、前項のMBOを成功させ、上場廃止に持ち込むには、6000
億円程度の資金を現経営陣が調達する必要があります。TBSを取り巻く経済
界の現状から見て、その可能性は殆ど考えられません。

◇ TBSと楽天のメーンバンク(三井住友銀行)は、中立維持の姿勢にあり
ます。麻生総務大臣は、放送界を束ねる地位にありながら、当面静観する可能
性が高いと見られています。

◇ 日本の経済界・財界(トヨタ・みずほ・大和証券・全日空等々)は、楽天
寄りとの感じがします。更に、ゴールドマン・サックス(米系の証券大手)は
、TBSとの統合が不調の場合、楽天によるTBS株式のTOB(株式公開買
い付け)を全面的に支援する構えであります。

◇ TBSと楽天の環境を概観すると、TBSの現経営陣によるMBOは望め
ず、今後、何処までTBSの自主性を確保できるかが、焦点になると思われま
す。

◇ 日本の株式持ち合いシステム(金融機関・企業間の株式相互長期保有慣行
制度)が崩壊し、更に会社法の大改定が断行されました。これにより、日本の
上場企業は、東京湾や瀬戸内海から、太平洋に放り出されたのです。

◇ 上場会社の経営陣は、M&A(企業の合併・買収)の人食いサメが、常に
回遊していることの認識が、依然欠落しています。自社企業の乗っ取り/買収
を防ぐことは、最重要の課題です。




★ 表題: 人権擁護法(人権条例)は、日本に合わない
 051018            担当: 鈴木良吾 sqll5@yahoo.co.jp

◇ 人種差別等の人権侵害からの救済や予防を掲げる「人権侵害救済推進及び
手続きに関する条例」(鳥取人権条例)が、去る10月12日の鳥取県議会で可決
されました。5人の非常勤委員で構成する人権侵害救済推進委員会が、被害者
の救済申し立て等を受けて調査し、是正勧告等を行うことになっています。

◇ 片山知事は、採決に先立ち『運用を間違えれば、(逆の)人権侵害が起こ
るので、議会やマスコミがチェックしなければならない』と発言したと言われ
ています。県弁護士会は、『行政機関による人権侵害を引き起こす可能性が極
めて高い、申立人に対する反対尋問が保障されていない、一般市民の人権が逆
に侵害されかねない』等を理由に、反対声明を発表しました。

◇ 先般来、小泉純一郎氏は「人権擁護法」に意欲的であります。この法案に
反対する議員(平沼赳夫・古屋圭司・小林興起・城内実の諸氏等)の多くが、
たまたま郵政改革法案の「反対組」と重複していたため、今回の衆議院選挙で
、勢力を喪失しました。そこで、与党人権問題懇話会(座長古賀誠氏)は、活
動を再開する情勢となって来ています。

◇ 「人権擁護法」は、次のような致命的な問題点を内包しています。
 1、人権侵害の定義が曖昧且つ対象が広範囲であり、「表現の自由」を阻害
する恐れがある。
 2、人権委員会は令状無しで捜査・押収ができる等、権限が強すぎる。
  3、部落解放同盟・朝鮮総連・在日半島人等の一部の人に、悪用(乱用)さ
れる危険がある。
 4、メディア・言論界・学者・有識者・政治家・評論家・一般市民までもが
、不当な干渉/妨害を受ける可能性がある。
 5、人権委員会とその下部組織の構成員に対する「国籍条項」が明確でなく
、海外(外国人)に対する制裁発言等が人権侵害とされかねない。

◇ 「人権擁護法」が徹底して悪用されると、言論弾圧の独裁政治の原因を増
勢する可能性が高いと言わざるを得ません。『大いに賛否を議論し合い、最後
の採決は多数に従う、かかるルールが本当に重要であります。』人権擁護の美
名の下に、反対派の意見を抹殺させては絶対になりません。

(2005年10月第3週完)
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ポスト小泉   
  
 内閣改造・党人事で競争へ
次期首相の有力候補どう処遇
 総選挙で大勝以来、小泉首相は自民党でモテモテだ。この二十三日神奈川県で参院補選
 が行われる。神奈川は小泉首相のお膝元だ。絶対に負けられない。先週末の十五日は小
 泉首相も地元に帰って各所の街頭演説に立った。

 いや、小泉首相ばかりではない。小泉ファミリーや小泉チルドレンが総動員されて空前
 の豪華絢爛(けんらん)の応援陣が小泉改革の大合唱を繰り広げる見込みだ。これだけ
 でも驚くに足りるが、さらに党執行部ら首脳、各閣僚など号令一下、直ちに飛び出せる
 体制を整えている。

 選挙に限らない。郵政民営化は目出度(めでた)く成立したが、これも前国会の衆院僅
 差でパス、参院で無惨の廃案という最悪の状況と打って変わって今回は両院とも大差で
 可決成立となった。今や、小泉首相の求心力にわかに高まり、かつては抵抗勢力の巣窟
 といわれ、反対分子がとぐろを巻いていた党内は草木がなびくように小泉首相になびい
 ている。

 これは一つには来月早々に党役員改選と内閣改造がセットされているからだ。いま押し
 も押されもしないワンマンと化した小泉首相は人事でも小泉流を発揮する。派閥のボス
 の頭越しに一本釣りを試み、小泉好みの人材を党と内閣にちりばめるハラ積もりだ。

 小泉首相が頭を悩ましているのはポスト小泉の局面で誰を後継者に選ぶかだ。どれを見
 ても帯に短くタスキに長いうらみがある。その中で小泉首相が誰か一人を指名すると、
 洩れた連中が頬(ほお)を膨らませる。党内は動揺を免れない。党が麻の如く乱れる前
 兆だ。小泉首相といえども手に負いかねる。

 そこで、自薦他薦の候補者を互いに競争させ、生き残ったものがポスト小泉の座に座る。
 これなら透明度抜群で公明正大これに勝る手はない。その競争の最初の勝ち抜き戦が内
 閣改造での入閣だ。

 そのため森前首相が先日小泉首相と懇談し、内々小泉首相の意向を打診した。そこで判
 明したのが、安倍幹事長代理、谷垣財務相、麻生総務相、福田前官房長官などの起用説
 だ。この四人、そろいもそろって次期首相の有力候補が顔を並べることになる。

 しかし、たまたま小泉・森会談で名前の上がらなかった連中がヘソを曲げると同時にバ
 スに乗り遅れるなと慌てふためいている。たとえば与謝野政調会長だ。郵政民営化法は
 成立したが、小泉改革の将来の政府系金融機関の統廃合、公務員削減、国と地方の税財
 政見直しの三位一体改革などの課題が目白押しだ。総選挙前なら党内みんなそっぽを向
 いたものだが、党内各機関が一様に手を上げて小泉首相に協力を申し出ている。一種の
 おべんちゃら競争の気味さえあるが、総選挙で勝った小泉首相の権勢たいしたものだ。
 その中で「小泉改革は政調でやる」と与謝野氏の声が一段高く響いている。

 満つれば欠くる世の習いの通り、小泉首相のモテモテは結構だが、転ばぬ先の杖を忘れ
 ぬなかれだ。(I)世界日報掲載許可
       Kenzo Yamaoka
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シベリア抑留問題−見過ごせぬ邦人虐待   
   
 旧ソ連大統領に謝罪を要求した元朝日人
 サンデー世界日報は、去る十月二日の「人と歴史」の中に「昭和二十年八月九日、当時
 まだ有効だった日ソ中立条約を一方的に破り、ソ連が旧満州や樺太に攻め入り、約六十
 万人もの日本人将兵を拉致して強制労働させた。スターリンはシベリア開発のため日本
 人抑留者を大量に投入。森林伐採や鉄道建設、石炭採掘で牛馬のごとく使った」とある。

 終戦時、旧満州で邦人民間人を襲った暴行、略奪もひどく、八月十二日、辺境、興安の
 葛根廟では、邦人の婦女子約二千人の非戦闘員がソ連軍の機銃掃射で虐殺された。ソ連
 軍だけでなく、現地満州人、中国人、朝鮮人からも暴行、略奪が行われた。日本の統制
 を離れた満州治安軍の反乱部隊とソ連の戦車隊の来襲を受け「敵の手で辱められるより
 も」と、婦女子多数が男子邦人の銃によって命を絶った例もある。各地で日本人婦女子
 が連行され、自らの家族の前で暴行も受けた(これらは「正論」十一月号の帝京平成大
 教授、米田建三氏の論文に詳しい)。

在外邦人の惨状

 旧満州、朝鮮や中国戦線で日本軍が行ったとされる残虐行為はこれまで数々問題になっ
 ているが、上述のような終戦前後、旧満州などで邦人が蒙った残虐行為やシベリア抑留
 の方は案外、問題にされていない。こうした邦人被害は、第二次大戦自体が日本の誤っ
 た国策、つまり侵略に基づくものとの認識で、それなら仕方ないとされ、米田教授も
 「(旧満州)引き揚げ者の惨劇の責任を、日本帝国主義の報いと捉える論調が多いのに
 驚いた」と述べている。

 これまでこうした邦人被害にあまり触れず、主に日本の侵略や植民地支配、それに伴う
 差別や残虐行為、中でも従軍慰安婦問題を先頭に立って取り上げてきた朝日新聞の社史
 や、特定の朝日関連人の著書から問題点を拾ってみた。まず朝日社史昭和戦後編の冒頭
 の一部は、案外、知られていないが、「(終戦時)在外邦人の惨状」と題して次のよう
 な記述がある。

 「休戦ときくと即座に一部満軍に反乱が起った。満人の暴徒は群をなして日本人街にな
 だれ込み、掠奪、暴行がはじまる。不良支那人もこれに乗じて新京市内で日系約二百人
 の虐殺、所持品強奪が起った。(日本人は)地区毎に自警団を組織して自警に当ったが、
 疎開留守宅などは床板から窓框(かまち)まで運び去る徹底した掠奪ぶり。…八月も末
 になると日本人狩りと称して日本人一人に五十円から七十円の賞金をつけて支那人に拉
 致されるので昼でも自由な外出はできず、顔に膏薬を貼ったり、丸坊主にした女が恐る
 恐る市内へ買いに行く…。婦女子は悲惨で床下に隠れた妊娠七ケ月の母親とその娘が凌
 辱をうけ、母親はその場で自殺した例もあり、平壌市では毎夜、女は特殊慰安に引き出
 され、その内、数十名は飛行機で某所へ拉致された話もある。現在の満州、北鮮は全く
 暗黒街である」(原文のまま)邦人の惨状が率直に記載されている。

30万の抑留犠牲

 朝日新聞西部本社五十年史(昭和60年刊行)も「終戦の前後、ほとんどの日本人は苦
 難の連続だった。中でも外地に勤務していた社員の引き揚げは苦難の集約であった」と
 して満鮮特派員の体験談を載せている。

 清津支局員は「八月九日のソ連参戦以来、清津地区は間断ないソ連機の機銃掃射を受け、
 海からは艦砲射撃を受ける。私は鮮満国境に近い避難先に自転車を頼りに出発した。避
 難民の群れは満州側からきた人たちを含めて大集団となり、飢えに苦しみながら黙々と
 歩いて行く。女は暴行を避けるため、哀れな丸坊主…」。また安東支局長は満鮮各地を
 転々、売り食い、露天商で生活をつなぎ、病妻の自殺にも耐え、一年余で開城にたどり
 つき、旧京城府庁広報課の某氏の口ずさむ「リンゴの唄」をきいて感激したという。

 さて世界日報にかつて紹介した野田皓一氏は戦中、戦後にわたって朝日の経済記者を務
 め、戦後の昭和三十九年に退社してやがて野田経済研究所の所長、会長に就任、今も日
 本評論家協会員として健在だが、彼は戦時中、満州に出征し終戦後、当時ソ連のウズベ
 ク共和国に抑留された経験がある。彼は異国に眠る同胞に捧げる自叙伝として一昨年十
 一月末「大統領、謝って下さい!」を出版している(03年12月22日付書評)。

 野田氏はソ連抑留回想の冒頭に若槻泰雄・玉川大教授の次の言葉を引用している。「毎
 年夏ともなると広島と長崎で盛大な原爆慰霊祭がある。だが私はそのたびに、いつも思
 う。長崎で死んだ人の数は五万人とも七万人ともいうが、少なくともこれと同じくらい
 の日本人がシベリアの荒野に倒れており、満州などを含めればそれは三十万人にも達す
 る。われわれはシベリアに眠る数万人の霊に対しても長崎と同様、冥福を祈らねばなら
 ない。しかし、日本におけるこの問題の取り扱い方の冷淡さは、ほとんど不思議なくら
 いである」

 野田氏は、三年間抑留された中央アジア・ウズベク共和国で重労働にかり出された。
 「人々の心は抑圧され、荒涼としているように思えた。…このわけは何か。ものを言う
 とき、まわりを見回してから言ったり、お互いに注意し合うソ連人の習性を思い起こす。
 これは密告を恐れる陰惨な風習として私の心に残る。ソ連共産党治下の暗い弾圧政治を
 物語るものとして人々の記憶に長く残る。人間にとって一番大切な自由がない国の人心
 は荒涼となり、地獄のようになってしまう。中国の天安門事件のときも同じ思いがした」

ソ連の所業指弾

 野田氏が「謝って下さい」というのは平成三年四月十八日、折から来日中のゴルバチョ
 フ・ソ連大統領(当時)に対してである。シベリアに抑留された日本兵の遺族に同情の
 意を表する、というゴ大統領に対し、野田氏は「同情の意を表するというのは不満です。
 謝罪の意を込めた遺憾の言葉を述べていただきたい」と食い下がった。

 この謝罪を求めた言葉の底には、日ソ中立条約を一方的に破棄して満州に侵攻したこと、
 そして無防備な非戦闘員の日本人市民に対し、あらゆる略奪、暴行、強姦など悪逆行為
 をほしいままにしたこと、全面降伏した関東軍の将兵をソ連領内に連行し、長期間、強
 制労働に服させたことなど国際条約、国際法に違反したこと、さらに一般市民を多数ソ
 連領内に連れ去り、収容所に監禁したことなどソ連軍の不法、無法の所業を指弾したの
 だ。

 これに対し、ゴ大統領は「これについて自分が何か言うとソ連国内で論争や異論を生み
 ます。自分は同情の念を表明したい。元日本人捕虜にたくさんの敬意を払いたい」と、
 ゆっくり説得調で語りかけたという。

 野田氏は、自分の謝罪要求は一応の手応えがあった。このときは大統領から謝罪の言葉
 がなかったが、ソ連崩壊で、あとを継いだエリツィン・ロシア大統領は二年半後に頭を
 下げて謝罪らしき言葉を述べた、という。日本はこれまで第二次大戦の、いわば加害者
 として陳謝や反省を繰り返してきたが、ロシア(ソ連)は日本に対しむしろ加害者の面
 が強いのだし、中国や朝鮮にしても日本からの加害だけでなく、満鮮に残してきた資産
 も含めて日本側の被害面もあるのだからこの際、日本も主張すべきは主張することに転
 じたらどうか。十一月二十日にはプーチン大統領も来日の予定だ。世界日報掲載許可
      Kenzo Yamaoka
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■【正論】精神科医、国際医療福祉大学教授・和田秀樹   
   
 内閣改造でも中山文科相は留任を  ゆとり教育見直しに手緩めるな

≪従来と一線画す路線推進≫
 来る十一月二日に、総選挙に圧勝した小泉首相が内閣改造を行うという。

 今回の内閣改造では、「刺客」とされた候補者の去就や派閥の解体の加速などに注目が
 集まっているが、私がもっとも注目しているのは、文部科学大臣の人事である。

 何の数字の根拠もないのに、教育学者の観念論や自らの信念から、ゆとり教育政策を採
 り続け、結果的に日本の子供たちの学力を東アジア最低レベルにした(北朝鮮がまだ下
 に残っているようだが)文部科学省の官僚たちに対して、歴代の大臣は、その方針を追
 認するのみだった。

 確かに遠山文部科学大臣以降は、ゆとり教育批判が高まる中、学力向上路線を打ち出し
 はしたが、「確かな学力」などというあいまいなことばを使うのみで、施策は具体的と
 いえず、また「ゆとり教育」の撤回、見直しについても明確に方向性を出せずにきた。

 これに対して、現職の中山成彬文部科学大臣は、ゆとり教育の見直しをはっきり打ち出
 し、中央教育審議会にも、これまでのゆとり教育路線に批判的だったメンバーを参加さ
 せるなど、これまでとは一線を画する路線を打ち出している。中山氏の意志の強固さだ
 けでなく、もともと大蔵官僚であったというキャリアのために、文科省の官僚たちの理
 屈に簡単にだまされないだけの知性と経験を有しているということなのだろう。

 現実に大蔵官僚という立場にいれば、各省庁がさまざまな形での大義名分をもって予算
 案を提出するのに対して、その大義名分に反論しながら、予算を削っていく経験も少な
 くないだろうから、いくら上手に文科省の官僚が作文をしても、それを素直に信じない
 だけの知性や論理構築が可能なのだろう。

 お金を扱ってきただけに、観念より数字の裏づけを求めたのかもしれない。ペーパーテ
 スト学力は低下しているが、新しいタイプの数字では測れない学力がついているという
 ロジックは通じないということだろう。

 あるいは、自分はもともと大蔵官僚であるというプライドが、文科省の官僚をねじ伏せ
 る力量の源になっているのかもしれない。それとも、もともとの性格や信念の影響が大
 きいのかもしれない。

≪反対派官僚押さえる力量≫

 以上のことはあくまでも私の推論にすぎない。

 現状は、まだまだゆとり教育派の勢力が文科省にくすぶっており、また彼らのブレーン
 の権威ある教育学者たちがゆとり教育路線を改めていない以上、ゆとり教育の見直し路
 線は既定のものとは、まだ言えない。

 だからこそ、彼のような能力や知性、そして実行力や信念のある大臣をつけなければ、
 再びゆとり教育のほうに(多少名前ややり方は変えるだろうが)揺り戻しが起こりかね
 ないのである。

 実際、中山文科相は就任して一年と少しである。戦後だけでも六十人以上の文部大臣、
 文科大臣が就任しているように、このポストは毎年のように代えられている。

 しかし、教育行政が国の将来を規定するものであり、現時点でアジアの周辺国すべてに、
 子供の学力が負けていることが明らかになっている以上、これまでのように大臣待ちの
 人間に、そのポストをあてがい、一年かそこらで順番に交代させていく時代ではないだ
 ろう。

 ゆとり教育路線の見直しがはっきりし、また学力向上路線に方向転換した以上、その方
 向でかじ取りができ、反対派の官僚をねじ伏せられるような力のある人間が大臣である
 べきだ。

 実績といい、他に有力な候補が見当たらない現状に鑑(かんが)みれば、中山文科相に
 留任を願いたいし、次回の改造内閣でも小泉首相には、その判断をぜひ願いたいものだ。

≪教育政策の信任に応えよ≫

 小泉首相やマスコミの人々は、今回の総選挙が郵政民営化の可否を問う選挙であると考
 えているだろうし、今回の自民党の大勝は、郵政民営化が支持されたと単純にその理由
 を考えるだろう。

 私とて、その側面は否定しない。ただ、その一方で、これまでの自民党政権の、あるい
 は小泉政権の政策が信任されたという要素もあることは忘れてはならない。

 私自身、自民党に一票を投じたのは、教育政策のあいまいな、また日教組をバックにす
 る民主党より、現在の自民党のほうがその教育政策を信頼できると考えたからだ。

 私のような有権者も少なからずいることをご理解願って、小泉首相には中山文科相の留
 任をぜひ求めたい。(わだ ひでき)産経新聞
       Kenzo Yamaoka
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【正論】上智大学名誉教授・渡部昇一 スイスで相続税は何故安いのか   
   
 資源なき国が産業先進国たる訳 ≪代々の資本蓄積で繁栄へ≫
 カール・ヒルティ−『幸福論』や『眠れぬ夜のために』などの著者−のことを調べたい
 と思って八、九年前にスイスに行った。ヒルティの生家や、育った城や、ヒルティ関係
 の書物などを保存している老人などを訪ねて、いろいろ得るところがあった。

 そういう当初の目的とは別に、その時の偶然に得た情報が、スイスという国への理解や
 税制というものに対するわたしの考え方を大いに深めてくれたように感じている。

 「偶然の情報」というのは、ちょうどそのころに、わたしが訪問していたスイスのカン
 トン(州)が相続税をゼロにすることに決めた、というニュースである。

 そのころの日本の相続税は最高70%ぐらいだったと思うが、それが0%になるという
 スイスの話は「本当かいな」というものだった。案内してくれたスイス人に聞くと、

 「生きている間に税金を払ってきているのに、死んだらその財産にまた税金がかかるの
 はおかしい、と考える議員が州議会の過半数になっただけだ」

 ということで、別に大事件でもないといった口ぶりであった。

 スイスの相続税が低いとは前々から聞いていたが、ゼロとは驚いた。

 スイスは山だらけの小国である。山から金や銀や、ダイヤモンドなどが出るわけでない。
 湖はあるが、そこにタイやヒラメや、マグロやクジラがいるわけでない。大農場も大牧
 場もない。それなのに金融は言うに及ばず、薬品や精密機械のような巨大な資金を要す
 る産業の先進国たりえたのは、代々の資本の蓄積があったからにほかならない、という
 推測は素人にもできる。

 スイスより農業でも鉱業でも、漁業でも断然有利な日本で資本の蓄積も阻害しなければ、
 さらなる金融や先進的工業の発達が期待できるのではないか。考えてみると、明治以来
 の日本が急速に欧米先進国に追いつけた一因は、戦前は私有財産の継承が尊重され、資
 本の形成がすみやかに行われたのも一因であったろう。だからこそ日本が再び産業大国
 になることを不可能にしようとした占領軍が財閥解体をやったのである。

≪高税率国からは富が逃避≫

 今年の古書の学会はスイスで行われた。学会といっても古書の話であるから、研究発表
 のほかは、公立図書館や個人蔵書を見せてもらうのが主眼となる。

 スイスは個人の金持ちが多いから、個人蔵書でも有名なのがいくつかある。その中でも
 B家のものは世界的である。パピルスから始まって、ガリレオやコペルニクスやニュー
 トンなどの初版、聖書でもグーテンベルクやエラスムスなど、市価千万円単位、億円単
 位のものがいくつもある。楽譜でもベートーベンのもの、手紙ではゲーテのものなどが
 ある。

 ところが、これを蒐集した先代B氏のころ、チューリヒのカントンはこれを税の対象に
 すると言った。それでB家は相続税のないジュネーブのカントンに移住した。それで世
 界的なB家のコレクションは今はジュネーブで湖を見下ろす絶景の場所にある。

 これに懲りたかどうか知らないが、チューリヒのカントンも今では相続税はゼロにして
 いるそうだ。チューリヒのG家のコレクションも世界的なものである。それも見せてい
 ただいたが、G家は他のカントンに移住する気はない。私有財産が今では安全だからで
 ある。

 こんな実例を身近に見ると、ブッシュ大統領が二、三年前に「十年以内に相続税をゼロ
 にしたい」と言った意味が分かる。

 今は国境がどんどん低くなってきている時代である。世界的富豪は相続税の低い国に移
 動するであろう。B家がチューリヒからジュネーブに移ったように。すると高税率の国
 に残るのは、政治家と役人と、福祉対象者の比率だけがうんと高くなった人口というこ
 とになる。

≪税率下げは競争の時代に≫

 近頃、地方分権という言葉をよく聞く。地方がスイスのように相続税率を決めることに
 したらどうだろうか。たとえば、埼玉県や神奈川県が相続税をゼロにしたらどうだろう
 か。東京の田園調布や成城の土地の値段が暴落するかもしれない。

 しかし、それは笑い事ではない。世界は相続税率を下げる競争に入りつつあるという事
 実だ。アメリカの貿易赤字がいくら巨大でも、「相続税をゼロにする」と宣言すれば、
 世界中の金持ちがアメリカに移住してきて、そんな赤字などはどうでもよくなるのであ
 る。(わたなべ しょういち)産経新聞
      Kenzo Yamaoka

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