2114.「憎しみ」に対する日中の違い



中国の戦勝記念より「憎しみ」に対する日中の違い

 靖国問題で、中国政府や中国知識人の発言に必ず含まれる言葉に
「中国人民が深い憎しみを抱いてるA級戦犯が、合祀されている現在
の靖国神社に首相が参拝することは、被害者である中国人民の心を
深く傷つけるものである。」とある。また、歴史教科書問題でもに
似たようなフレーズが出てくる。

 この部分に私は日本と中国の「憎しみ」に対する観念の違いをみ
る。「憎しみ」という感情は人間には必ず存在する。それをどのよ
うに位置づけ、どのように対処するかが違うのである。まず、中国
人の持つ「憎しみ」は、その対象を行為とそれを実行した人間に分
離しない。これに対し、日本人は行為と人間を分離する。どういう
事かというと「罪を憎んで人を憎まず」である。このため刑事罰の
量刑が中国は重く、日本は軽い。さらに、ある意味において「憎し
み」を肯定的にとらえるか否定的にとらえるかが違う。中国では肯
定するが故に永遠にその対象人物を許さず、何らかの方法で憎しみ
をはらす事が必要になる。日本では否定するが故に、憎しみの対象
を行為のみとし「死ねば、人は全て仏様」として憎しみをここで終
了させる。

 以上は、正義とか正しい行為とは次元が違う。文明の違いである。
死者に対する感情が極端に違う国家が隣国にあることを日中双方と
も理解しないと、今の歴史論争は永遠に続く。たぶん中国側から見
れば、世界最高の文明である自分たちの価値観は正しく、永遠に確
認作業は続くという認識だろう。日本側から見れば、いつまでも被
害者・加害者のことに拘るのかとなり、そして、中国は自分たちの
行為を棚に上げて、他国の内政に干渉する覇権国家であるとの認識
になる。この場合、中国が民主主義国家になっても解決しない事に
なる。

 世界的に見て「憎しみ」は困難な問題である。ただし、「憎しみ
」を国家として肯定し、他国に要求する事は近代文明国では許され
ざる行為である。近代文明の価値観の一つに「有限責任」がある。
どのような重大な責任・責務でも無限ではなく、限り(物質・時間
とも)があるとする価値観だ。これは、「憎しみ」の連鎖による被
害を最小限にする事が全ての人々に有益である為だ。

 数ある問題も一個一個解決することで友好状態になれるとして、
靖国参拝問題は分詞すれば解決するという考えもある。しかし、問
題の根は何ら解決しない。行為を判定する価値観を他国と共有し、
その価値観に基づいて全ての行為を判断してるとは思えない現在の
中国に対し、一方的思いこみでの譲歩は間違ったサインを発するこ
とになる。靖国参拝問題は、両国間の価値観の違いを両国の一般人
まで浸透させることが、第一歩と考える。隣国ゆえ、時間がかかる
解決法だが、他者との違いをはっきりと認め合わなければならない
のではないか。

佐藤 俊二
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ナゴルノカラバフ紛争 未来志向で解決   
  
 アゼルバイジャン外相 マメドヤロフ氏に聞く
 ウィーンを訪問中のアゼルバイジャンのエルマル・マメドヤロフ外相は七日、本紙との
 会見に応じ、隣国アルメニアとの対立が続くナゴルノカラバフ紛争の解決の見通し、欧
 州統合プロセス、米空軍基地のアゼルバイジャンへの移転問題、十一月に実施予定の議
 会選挙、カスピ海のパイプライン完成の影響、対日関係などについて語った。
(聞き手=ウィーン・小川 敏・世界日報掲載許可) 

日本の安保理常任理入り支持
 
マメドヤロフ外相 
 ――アゼルバイジャンとアルメニアの間ではアリエフ大統領とコチャリャン大統領の首
 脳会談や外相会談が行われるなど、外交交流が活発になってきた。両国間最大の難問、
 ナゴルノカラバフ紛争の平和解決で進展はあったのか。
 残念ながら、大きな前進があったとは言えない。アルメニア側は依然として、紛争の解
 決に向け柔軟性に欠ける。アルメニアの侵攻後、アゼルバイジャンの約20%の領土が
 他国の占領下に置かれている。占領地では少数派のアゼルバイジャン系国民は迫害され
 ている。わが国がアルメニアに要求している内容は、過去のすべてをお互いに許し合う
 時を迎えているということだ。多くの犠牲者が出たが、未来志向で解決していこうとい
 うものだ。カフカスの三つの独立国家、アゼルバイジャン、アルメニア、グルジアは相
 互連携している。わが国はアルメニアが国際法の原則を尊重、順守することを期待して
 いる。具体的には、主権国家の領土統合の尊重だ。

 ――アゼルバイジャンではナゴルノカラバフの武力解放を要求する国民の声が高まって
 いると聞く。

 わが国の社会でそのようなムードがあることは事実だ。一九八八年に紛争が始まって以
 来、長期間、紛争の解決がなされていない。約百万人の国民が国内難民の状況下に置か
 れている。彼らはナゴルノカラバフの故郷への帰還を願っている。だから、武力を行使
 してでも占領地を解放すべきだといった雰囲気がある。政府は「平和外交が限界にきた
 場合、次の政策を考えなければならないが、幸福なことに平和外交は進行中だ」として
 いる。アルメニアとの間では首脳会談や外相会談が開催され、米国、フランス、ロシア
 も仲介役を演じてくれている。交渉の枠組みも構築済みだ。紛争の平和解決の道はまだ、
 閉ざされていないと確信している。

 ――次期外相会談が来月開催されると聞いた。

 検討中であり、決定されてはいない。首脳会談で協議された内容や提案を分析しなけれ
 ばならないし、和平交渉の共同議長との協調などが控えている。

 ――アゼルバイジャンの主要外交路線は北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(E
 U)への統合促進だが、実現性はどうか。

 われわれは決して非現実的な国民ではない。五、十年で実現されるとは考えていない。
 実現時期は決定していない。国家の発展概念として、EUとNATOへの統合意思を掲
 げているのであり、これがわが国の主要外交政策だ。わが国は欧州の一員である。また
 ソ連邦の一員から同連邦の解体、そして独立といったプロセスを経てきた。わが国は現
 在、新国家建設のプロセス下にある。最も重要な点は国民の大多数が政府の方針を支持
 しているということだ。

 ――米国はウズベキスタンのハナバト空軍基地をアゼルバイジャンに移動する計画と聞
 く。移動時期はいつか。

 それは米国とわが国の間で議題となっていない。私は今年七月、ワシントンを公式訪問
 したが、米政府からそのような要請は受けていない。米国がわが国に空軍基地を移転す
 る計画があるなら、わが政府に必ず打診するはずだが、これまでのところは全くない。

 ――ロシアのイワノフ国防相が六月、二〇〇八年までにグルジア駐留ロシア軍の一部を
 アルメニアのロシア空軍基地に移転すると述べた。カフカス地域が米ロ中の間の支配権
 争いの舞台となっている感がする。

 わが国の立場ははっきりしている。願われているのは、紛争ではなく協調ということだ。
 ロシア軍がグルジアの駐留軍の一部軍器材のアルメニア移転を決定したことは遺憾だ。
 紛争地域の一方の当事国に軍需品を補充することは、平和プロセスを阻害する行為であ
 り、主権国家の発展を支援するものではない。われわれは和平プロセスを促進するだけ
 ではなく、紛争地域の非軍事化も考えなければならない。

 ――アゼルバイジャンで十一月、議会選挙が実施されるが、グルジア、ウクライナ、キ
 ルギスの政変のように、政情の大きな変化が予想されるか。

 ウクライナやグルジアのような政変はわが国では起こらないと確信している。わが国の
 政情はそれらの国とは違うからだ。世論調査を見れば、アリエフ大統領は国民の支持を
 得ている。大統領は国民経済の発展に多く貢献しているからだ。次期選挙については、
 大統領はその重要性を理解し、公平で自由な選挙の実施に向け努力している。

 ――カスピ海のパイプラインが五月に完成したばかりだ。ロシア、イランを経由せずア
 ゼルバイジャンのバクー、グルジアのトビリシ、トルコのジェイハンへのパイプライン
 (BTC)完成は経済的ばかりか、政治的な影響も与えるのではないか。

 パイプラインの完成はわが国の発展に非常に大きな意味を持っている。日量百万バレル
 を世界の原油市場に向けて輸出できれば、どれだけの経済的恩恵を受けるかを考えてみ
 てほしい。経済が発展すれば、政治的にも力を増す。原油輸出だけではない。ガスパイ
 プラインの完成、輸出が始まれば、さらなる恩恵が考えられる。アゼルバイジャンは世
 界のエネルギーの安全に貢献することで、政治的重みも加えられる。原油高騰が続く今、
 カスピ海のパイプライン完成は大きな意義がある。経済・政治的安定が地域で実現され
 れば、その地域紛争の解決にも寄与するだろう。

 ――最後に、対日関係について。

 両国関係は非常に安定している。関係は年々深まってきた。駐日大使を任命したばかり
 だ。新大使は今月中に東京に赴任する。アリエフ大統領が来年第一・四半期にも日本を
 公式訪問できる方向で外交調整が進められている。エネルギー分野で日本企業が多数、
 わが国に進出している。バクーには多くの日本レストランがある。私を含め、バクー市
 民は寿司(すし)が大好きだ。

 ――日本は安保理の常任理事国入りを目指している。アゼルバイジャンの立場はどうか。
 わが国は日本の常任理事国入りを支持している。 
       Kenzo Yamaoka
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EU・中印サミット、経済関係強化で協定合意   
   
 英首相、2国関係も重視 
 欧州連合(EU)議長国を務める英国のブレア首相は今週、中国とインドを相次いで訪
 問し、経済発展が著しい両国との関係強化をアピールした。EUは経済のグローバル化
 と自由貿易推進の観点から両国との関係強化を重要視している。b 
(ロンドン・行天慎二・世界日報掲載許可) 
 ブレア首相はまず五、六日、北京で開催された第八回欧州連合・中国首脳会議にEU議
 長国として出席。同サミットでは、EUと中国の経済貿易問題を中心に、地球温暖化防
 止や宇宙開発協力、エネルギーと運輸などに関する協定が合意された。同時に、同首相
 は英国と中国の二国間関係に関しても貿易と投資の促進、スポーツ・文化交流などの分
 野で、関係強化を図った。
 ブレア首相は五日に行われた胡錦濤国家主席との会談後に「欧州諸国と欧州国民の繁栄
 のために、中国とEUの経済的結び付きを増すことの中心的な重要さをわれわれはすべ
 て理解している」と語り、今後世界第二位の経済大国になると予想されている中国の存
 在を重要視した。ただ、同首相は「経済協力に対して政治的協力もマッチすることを確
 認しなければならない」と述べ、温家宝首相との会談では中国国内の人権問題や環境問
 題も取り上げた。

 ブレア首相には英国主要企業の幹部四十五人が同行し、中国側と約二十億ドル規模の契
 約を結んだもようだ。また、サッカー元監督やバレー・ダンサーなどスポーツ・芸術関
 係者も同行し、中国との文化交流に尽力した。両国関係は今月にノッティングガム大学
 の中国キャンパス開校、七月から英国への中国団体旅行者の優遇など、民間レベルでの
 結び付きも順調に進展している。

 七、八日のインド訪問では、「インド・EU戦略的パートナーシップ」における新共同
 行動計画で合意し、経済協力と並んで対テロ対策、平和維持などの安全保障面を含んだ
 政治的協力関係強化がうたわれた。今回のサミットで、インドはEU共同開発の旅客機
 エアバス四十三機の購入を発表したほか、EUが二〇〇八年に運用開始する予定の衛星
 利用測位システム(GPS)「ガリレオ」計画への参加も決定し、EUと緊密な関係を
 築こうとしている。
    Kenzo Yamaoka
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ネパール 毛沢東主義派が停戦声明   
日時:  2005年09月09日 18:05:03   [ヘッダ表示]  [テキスト保存]  


   
 統一戦線の構築目指す
 王制打倒を掲げ武力闘争を展開するネパールの反政府武装組織「共産党毛沢東主義派
 (毛派)」が三日、「停戦声明」を発表した。同日から三カ月間、政府や軍、警察など
 への攻撃を停止するとの内容だ。「停戦声明」は今年二月、ギャネンドラ国王が非常事
 態宣言を出して全権掌握した後、初めてのこと。
(ニューデリー支局・世界日報掲載許可) 
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 「停戦声明」を発表した毛派の最高指導者ダハル議長は、その中で同国の最大政党ネパ
 ール会議派(NCP)が綱領から「立憲君主制支持」を削除するなど、王政への反発を
 強めていることを評価。「毛派の停戦」が「政治危機終焉(しゅうえん)へ向けた契機
 となる」と指摘した。
 毛派は、ギャネンドラ国王が今年二月に非常事態宣言を出し、首相・内閣を解任、言論
 統制を敷いた上で全権を掌握してから、政府への武力対決姿勢を強めていた。

 毛派はこうした武力強行路線にいったん歯止めを掛けることで、ギャネンドラ国王への
 揺さぶり戦略に出たもようだ。伏線は既にあった。毛派は人民共和制国家の樹立を目指
 していたが、年初、各政党に対し「複数政党による共和制」と変更し、統一戦線の構築
 を目指そうという動きを見せていたからだ。

 毛派が統一戦線構築に熱心なのは、昨年の教訓が大きく影響している。

 国土の三分の一を実効支配する毛派ゲリラは、ネパール国軍九万人に比べ三万人といわ
 れているが、それなりの訓練を受けたのは一万人未満で、さらにリーダーとして人を動
 かす力量を持っているのは五百人程度だとされる。その毛派は昨年九月にカトマンズを
 包囲するまで至ったが、同派が抱いていた期待は物の見事に外れた経緯がある。という
 のもカトマンズ包囲にまでこぎつければ、市民が立ち上がり、もろ手を挙げて毛派を迎
 え入れると思っていたが、それは夢想でしかなかったからだ。結局、毛派はカトマンズ
 市内には足を踏み入れることすらできなかった。

 こうしたことから毛派とすれば自派だけで、ギャネンドラ国王を追い詰めるのは難しく、
 他の政治勢力と統一戦線を組むことで政治的圧力を強めていきたい意向だ。

 折しも先月末、中心政党であるネパール会議派の党大会で、これまで党是としてきた
 「立憲君主制」を党綱領から削除することを正式に決定。王政打倒が旗印の毛派とすれ
 ば、「渡りに船」となった格好だ。

 毛派は王政打破、貧困撲滅などを掲げて一九九〇年代半ばから反政府テロ活動を開始。
 実質支配地域は西部を中心に国土の三分の一になるとされる。これまでに一般市民を含
 め六千―七千人規模の死者が出ている。
    Kenzo Yamaoka
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「中ロ接近」に警戒強める米国   
   
 元政府高官「強力な反米ブロック」と強調 
 中国とロシアが合同軍事演習などを通じて関係強化を進めていることに、米国は警戒を
 強めている。両国の接近の背景に、米一極体制を牽制(けんせい)する意図があるのは
 明らかなためだ。この動きに対抗するため、米国は日本やインドとの関係を一層重視す
 るものとみられる。
(ワシントン・早川俊行・世界日報掲載許可) 

日印との関係強化で対抗か、戦略爆撃機売却を注視 
 米国の警戒感に火を付けたのは、中ロ両国と中央アジア四カ国で構成される上海協力機
 構(SCO)の動きと、先月初めて実施された合同軍事演習だ。
 SCOは七月の首脳会議で、「反テロ連合国は中央アジアの軍事施設の使用終了期限を
 設定すべきだ」とする共同宣言を採択し、キルギスとウズベキスタンからの米軍撤退を
 要求。対テロ協力を旗頭にしていたSCOは反米的色彩を強めた。

 ウズベクは同国南部にある米空軍基地の閉鎖を決定。イスラム過激派が急成長している
 中央アジアで拠点の一つを失ったことは、米国にとって大きな痛手といえる。

 一方、中ロの合同軍事演習では、海上封鎖や上陸作戦などを行っており、台湾への武力
 侵攻を想定していたことは明らか。米外交専門家からは、中国は台湾有事が発生すれば、
 ロシアが中国側に立つ可能性があることを米国に示す狙いがあったとの見方が出ている。

 また、ロシア側は中国に兵器輸出を拡大する好機と位置付けた。訓練には、中国が購入
 を打診している戦略爆撃機ツポレフ95や爆撃機ツポレフ22Mも参加。米国防総省は
 先月公表した中国の軍事力に関する年次報告書で、中国軍の近代化に強い警戒感を示し
 たが、核攻撃能力を有する爆撃機の売却が実現すれば、米国内の「中国脅威論」がさら
 に高まることは避けられない。

 ブッシュ政権一期目に国防副次官補(アジア・太平洋担当)を務めたピーター・ブルッ
 クス氏は、今回の軍事演習を「アジアから米国の影響力を削(そ)ごうとする、ポスト
 冷戦時代最初のリアルな行動」と評した上で、「拡大する中国の政治的、経済的影響力
 がロシアの軍事力とくっつけば、潜在的に強力な反米ブロックとなる」と強調する。

 米国が神経を尖(とが)らせているのは、中ロが他国を巻き込みながら協力関係を拡大
 させている点だ。SCOは昨年のモンゴルに続き、インド、パキスタン、イランの準加
 盟を承認し、これらの国々は軍事演習にもオブザーバーとして参加。また、中ロにイン
 ドを加えた三カ国の合同軍事演習も行われる見通しが強まっている。

 そんな中、米国内では「中ロ接近」にどう対抗するかという議論が交わされ始めている
 が、専門家の間で一致しているのは大きく次の二点だ。

 第一は、日本、インドとの関係強化だ。米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の米ロ
 関係専門家であるアリエル・コーエン上級研究員は、ワシントン・タイムズ紙への寄稿
 で、「米国と日本は中ロに焦点を置いた軍事演習や情報収集を行うかもしれない」との
 見通しを示す。

 日米間では現在、在日米軍の再編協議が重要な局面を迎えているが、こうした中ロの動
 向も十分考慮されるものとみられる。

 一方、インドとは今年七月、原子力協力の完全実施で正式に合意した。核拡散防止条約
 (NPT)に加盟していないインドへの原子力協力に消極的だった米国が「政策転換」
 に踏み切ったのは、中国をにらんだ動きとの見方が強い。インドをめぐる米国と中ロの
 間の綱引きは、今後さらに活発化しそうだ。

 第二は、ロシアを米国側に引き寄せることだ。ブルックス氏は、ロシアが歴史的に中国
 を警戒してきた経緯を踏まえ、「米国はロシアと長期的に良好な関係を発展させる可能
 性を無視してはいけない」と指摘する。

 特にロシアには中国人の流入によって「極東・シベリアが乗っ取られる」との懸念があ
 り、「中国の極東への拡張によって、十−十五年後に中ロ両国は政治・経済的に対決す
 る」(イシャエフ・ハバロフスク地方知事)との見方も出ている。

 米国はこうしたロシアの複雑な対中感情を利用できるとみている。ただ、ロシアのプー
 チン政権は、さまざまなリスクを覚悟した上で中国との関係拡大を推し進めているもの
 とみられ、「中ロ離間策」がうまくいくかどうかは不透明だ。
       Kenzo Yamaoka
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トルコのEU加盟、交渉開始時期が決裂   
   
 困惑する議長国英国 楽観できない水面下の交渉 
 トルコの欧州連合(EU)加盟交渉開始を十月三日に控えて行われたEU非公式外相会
 議は、交渉開始にゴーサインを出すことで合意できずに閉会した。EU加盟国キプロス
 を承認しないトルコのEU加盟に反対するフランスや、加盟そのものに疑問を投げ掛け
 るドイツなど、加盟交渉開始には、幾つものハードルを越える必要がありそうだ。
(パリ・安倍雅信・世界日報掲載許可) 
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 英ウェールズのニューポートで二日に開催されたEU非公式外相理事会は、トルコの加
 盟交渉を予定通り十月三日に開始することで合意できずに閉会した。EU議長国英国は、
 昨年暮れに交渉開始時期で加盟国が合意していることから、新たな条件を加えることは、
 道義に反する、と困惑を隠せない様子だ。
 合意に至らなかった最大の理由は、昨年五月にEUへの加盟を果たしたキプロスをトル
 コが国家として承認していないことだ。フランスのドビルパン首相は「EUの加盟国を、
 国として承認していない国と、加盟交渉をするわけにはいかない」と述べ、トルコのキ
 プロス承認が加盟交渉開始の条件と主張している。

 トルコは、EUの十五加盟国と関税同盟を締結していたが、今年七月、締結国を昨年五
 月に新加盟した十カ国に拡大する外交議定書に調印した。その中にはキプロスも含まれ
 ていたわけだが、トルコは「調印はキプロスの国家承認を意味しない」という宣言文を
 盛り込み、あくまでキプロスを承認しない方針を表明した。

 トルコ加盟に最も積極的な英国のストロー外相は理事会後、「やるべきことが残されて
 いる」と述べ、トルコのキプロス承認問題に対して、加盟国の意見調整に乗り出す決意
 を示した。ただ、同問題には、表面には表れない加盟各国の本音があり、水面下の意見
 調整も容易でないことが指摘されている。ストロー外相は「加盟国は、大筋で合意して
 いる」と述べ、加盟国に対して、トルコの加盟交渉を予定通り行うことへの決定的な異
 論は存在しないはずと指摘し、自信を見せている。外相理事会では、トルコが関税同盟
 で、EU二十五カ国との間で調印しながら、その一国を承認しないとするトルコの態度
 の合法性から話し合われた。

 交渉開始にブレーキを掛けているギリシャ、キプロス、フランスは、一年間、交渉を延
 期し、その間にトルコが、キプロスに対して、どのような政策転換を行い、EU加盟国
 を納得させるような改善をするか審査すべきだと主張している。それに対して英国は、
 キプロス問題は、トルコのEU加盟問題と切り離して考えるべきだとの意見を持ってい
 る。

 具体的な議論としては、トルコが関税同盟でキプロスを含むEU二十五カ国と調印しな
 がら、キプロスの航空機のトルコ乗り入れは拒否されたままという問題がある。キプロ
 スは、トルコが航空機乗り入れを拒否している問題に対して、EUの執行機関、欧州委
 員会に早期に改善するよう要求している。

 フランスのドストブラジ外相は「問題は法的問題ではなく、政治的問題だ」と述べ、
 「家族のすべてを認めない人が、その家族に入ることはできないということだ」として、
 政治的解決の必要性を強調した。フランスのシラク大統領も「加盟プロセスの後戻りは
 できないが、十分に時間をかける必要がある」と慎重な姿勢を崩していない。

 昨年、欧州では、トルコ加盟問題が大きな争点となった。欧州メディアは「トルコは欧
 州の価値観を共有できるのか」(仏ルモンド紙)、「なぜ、欧州はトルコに“イエス”
 と言わねばならないか」(英国経済誌エコノミスト)など、決して、前向きとは言えな
 い論調が欧州内を飛び交った。

 イスラム根本主義過激派によるテロの脅威にさらされていることや、欧州内のイスラム
 移民の若者が、テロリスト予備軍となっている実情なども影響している。さらにはトル
 コがEUに加盟すれば、七千百万人の人口を抱えるトルコは、将来的にドイツと並ぶ、
 EU最大の大国となることで、EUの政策決定に大きな力を持つことも懸念材料になっ
 ている。
 一方、トルコの国内総生産(GDP)は、EU二十五カ国平均の25%でしかなく、ど
 の現加盟国より低い。失業率も高く、加盟すれば、欧州財政を圧迫し、豊かな大国への
 大量の移民発生も懸念材料と言える。すでに中・東欧からの労働人口の移動を食い止め
 る課題を抱える大国にとっては、治安問題と重なり、深刻な問題になりかねない。

 地理的に中東と接するトルコを、欧州と位置付けることに異論を唱える声も少なくない。
 歴史的に見ても、東西文明の十字路的存在のトルコを、欧州と位置付けること自体、無
 理があるという意見も少なくない。欧州憲法制定のための評議会議長を務めるジスカー
 ルデスタン元仏大統領が昨年、「トルコは欧州ではない」と発言して波紋を投げ掛けた
 こともあった。

 最大の問題とされるイスラム教問題では、欧州はすでに千二百万人のイスラム教徒を域
 内に抱え、宗教の自由を保障していることから、キリスト教クラブとは言えない。その
 一方、政教分離を明確に打ち出していることからすれば、イスラム教が政治に大きな影
 響力を持つトルコが、政教分離を明確化できるか懸念する声は大きい。

 加盟交渉が開始すれば、EU側はトルコ国内の基本的人権、民主主義、政教分離の原則
 などの徹底について、今まで以上に厳しい条件を付けることも予想される。トルコは、
 「ほとんどの条件はクリアしている」と主張しているが、犯罪に関する司法の在り方、
 民主主義の成熟度などに疑問を投げ掛ける意見は、欧州各所から聞かれる。トルコとし
 ては、キプロス承認問題で交渉開始が遅れることは避けたいところだが、そのためにキ
 プロスを承認することも考えにくい。ストロー外相は、フランスやギリシャなどと粘り
 強い交渉を行い、意見調整を図りたいところだが、楽観視できる状況とは言えそうにな
 い。

 トルコのキプロス承認問題 キプロスは、一九七四年に、ギリシャ併合賛成派を嫌うト
 ルコ系住民の保護を名目に、トルコが出兵、北部にトルコ系住民が移動し、南北に分断。
 一九八三年以来、北部のトルコ系住民支配地域は、北キプロス・トルコ共和国として分
 離独立を宣言。

 現在のキプロス共和国は、南北分裂後のギリシャ影響下の南キプロスだが、トルコはキ
 プロス共和国と名乗ることを承認していない。二〇〇四年に国連が仲介に入り、連邦制
 をもととした再統合案を提示、南北キプロスで国民投票が行われたが、南キプロス国民
 の反対多数で否決された。

 その後、EUは北キプロスに対して経済支援検討を開始する一方、南のキプロス共和国
 は予定通り、昨年五月にEU加盟国となった。EUは、分断したままのキプロスを加盟
 国に受け入れる一方、将来的な再統合も視野に入れている。
    Kenzo Yamaoka

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