2072.山岡コラム2



中国外交と軍の影響力−編集委員 黒木 正博   
   
 反国家分裂法」に見る強硬路線/背景に「天安門」後の愛国運動
 「中央公論」八月号が「中国、このいびつな隣人」という特集を組んでいる。 

 中国の動向とくに対日関係では、東シナ海のガス田開発や原子力潜水艦の日本領海侵犯、
 さらに大規模な反日デモといった具合に、国交回復以来の緊張状態、いや最悪の関係に
 至っているといってもいい。それだけに、従来の「日中友好」スローガンさながらに小
 手先の対応で問題を取り繕うことは限界に来ている。 

 といって、それぞれが民族主義やナショナリズムを前面に出し、自国益至上主義を追求
 して性急な対応に走ることも避けねばならない。同特集で岡崎久彦氏が「外交である以
 上、まず、相手の状況、目的そして戦略を冷静に見定めてから判断する必要がある」
 (「中国外交硬直化の背後に垣間見える軍の影」)との指摘は至当だろう。 

 その中国だが、岡崎氏は「最近の中国は外交のみならず、政治的行動全般が、おかしく
 なってきている」という。その端的な例が、三月の全国人民代表者会議(全人代)での
 「反国家分裂法」の成立だ。胡錦濤・国家主席(党総書記)が名実ともに最高の実力者
 のポストである党・政府の軍事委員会主席を継承する上で、同法の成立は、軍の側から
 出された実権引き継ぎの条件ではないかと推測する。 

 つまり、軍や強硬派が中国の実権を握っており、胡政権は今後台湾についても甘い態度
 を取らないことを法的に義務づけられているというわけだ。 

 こうした中国の強硬路線はどう形成されてきたのか。岡崎氏によれば、その発端は一九
 八九年の天安門事件であり、この全国的な民主化運動に対して軍による制圧という荒療
 治をとった”小平は後継に江沢民氏を選んだ。江氏は事態収拾だけでなく、事件後の社
 会的求心力の育成に着手するという役割を求められた。これがいわゆる「愛国運動」で
 あり、それは日本を題材に行われたという。 

 日清戦争の百周年と日本降伏の五十周年になる一九九五年をピークに、反日運動の形で
 愛国運動は展開されたが、問題は「ナショナリズムをひとたび政府が主導して煽動する
 と、その後、収拾するのが難しくなる」ことだ。ナショナリズムに基づいた強硬論なら
 善、軟弱論は悪という雰囲気の中で外交をしているから硬直し、動きが取れなくなって
 いると指摘する。 

 では日本はどう対応するか。岡崎氏は「これは相手にしないのが正しい対応」という。
 ナショナリズムを利用した攻撃は一種のムードであり、ある期間しか続かないから続け
 ていてもムダであることが分かれば持続できなくなるからだ。 

 冷静さという観点からすれば理解できるが、外交はすぐれて「内政」問題でもある。相
 手にしないことが即、何もしないということではないが、国民への不断の啓蒙や説明責
 任、理解を求めるという政治の力強いメッセージが欠ければ、不満から対外強硬論が台
 頭しかねないだろう。 
×     × 
 一方、同じ特集の中で、遠藤誉氏「『新抗日戦争』に燃える青年たち 胡錦濤も手を焼
 く“憤青”の実態」が、別の観点から中国の課題を説いている。 

 先の反日デモでは、若者のインターネットによる参加呼び掛けが大きな特色だった。遠
 藤氏は、冷戦後、中国では一部に「排他的で狭隘な愛国的民族主義者」を生み出す機運
 があり、「ネット上の抗日戦争」に激しく燃える「憤青(憤怒青年)」という新人類を
 生み出す土壌を形成していった、とその背景を分析している。 

 その転機が天安門事件だったとするのは、先述の岡崎氏と同様だが、違うのは当初から
 「反日」ではなかったという点だ。 

 むしろ事件に抗議して経済制裁を行った西側諸国の中で、最初に制裁を解いたのは日本
 であり、対日感情は良かった。それが反日に転換したのは歴史教科書問題や台湾問題が
 浮上し、靖国問題などが追い打ちをかけたという。 

 その点は異論があるが、現代中国が「一人っ子政策」が産み落とした「小皇帝」たちの
 わがままぶりに手を焼いており、政府が「素質教育」というものを設けモラル向上に懸
 命になっている現状は注視する必要があるだろう。 産経新聞
       Kenzo Yamaoka
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中国の軍事的脅威(米国防総省年次報告書)   
   
  今年の国防総省(ペンタゴン)による中国の軍事力に関する報告書は、今までの年のも
 のよりやや厳しい。19日に発表された報告書は、中国は台湾のような比較的小さな近
 隣の国や地域だけでなく、やがて、「地域で作戦行動を取っている近代的軍隊」──こ
 れは、ペンタゴン用語では米国を指すのだが──をも脅威にさらす可能性があると結論
 付けている。
 「中国の軍事力拡張のペースと範囲は既に、地域の軍事バランスを危険にさらすほどの
 ものになっている」とペンタゴンは結んでいる。後で否定されたものの、中国の高位の
 将軍が、1週間前に、米国が中国政府による台湾攻撃に介入するようなことがあったら、
 中国は米国の都市に向けて核兵器「数百基」をぶっ放すだろうという脅し文句を言った
 後だけに、この報告書は必要な警告である。

 報告書の大部分は、言葉を慎重に選んで、中国が、近隣の国と地域および米国を脅す手
 段を構築しているやり方を細かく記述している。第一に、中国は、アジア太平洋地域に
 おける米海軍の支配に挑戦しようとしているらしく、その海軍、潜水艦、そして、巡航
 ミサイルの能力を強化しようとしている。中国は、核ミサイルの兵器工場をつくってい
 て、すでに、「米国のほとんど全土」を攻撃する能力を持っている。中国は、高度な航
 空機システを購入しているし、また、人民解放軍を専門技術面で向上させ、近代化する
 方向に動いている。中国の国防費は今年900億ドルに達する可能性があるが、これは
 中国が公表している支出の約3倍である。この支出を上回る国は米国とロシアだけであ
 る。

 台湾が依然として中国の軍事作戦の焦点であるが、「一部の中国の軍事計画立案者は、
 台湾の先を見越した戦略的展望について調べている」のである。事実、数人の中国の軍
 事戦略家は、台湾を目的としてではなく、大洋への軍事力拡張の手段と見ているようで
 ある。軍事科学院政治委員の温宗仁将軍は最近、台湾問題は「中国の台頭に対する国際
 的軍事力による妨害打破にとって、考えられているよりもはるかに大きな意味を持って
 いる……突然鎌首(かまくび)をもたげるためには、中国は、未来に向けた長期的発展
 を視野に、大洋に潜入し、大洋から抜け出さなければならないのだ」と語った。

 ペンタゴンの報告書は、衛星攻撃兵器、コンピューター・ネットワーク戦闘能力、台湾
 に対する核および電磁パルスのオプションを開発するための中国の動きを詳述し、また、
 海からの上陸作戦の可能性を検証している。報告書の中でしばしば言及されているよう
 に、結論から心配なこととして浮かび上がってきている事実は、米情報機関の中国の軍
 事力やその意図についての知識が非常に不足しているということである。もっとも恐る
 べき内容は、私たちがまだ知らないところにある可能性があるのだ。

 この報告書が大勢の著者が参加して、その総意の下に作成された文書であることは、指
 摘しておく価値がある。タカ派や、ハト派、その他もろもろが、てんでんばらばらの思
 いで綱引きに参加すると、そういった綱引きの結果は、何が要点なのか分からないもの
 になることが多い。だから、主流派がますます明確な視野をもって中国の脅威を認識す
 ることが重要になってくる。この報告書は連邦議会でも丁寧に読まれなければならない。
 (世界日報掲載許可)
    Kenzo Yamaoka
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中国人民元改革を読み解く   
   
 切り上げは小さな一歩/国際市場の主要プレーヤーに
経済評論家 鳴澤 宏英
国際競争力に見合う選択措置   世界日報掲載許可

 今回の人民元改革(対ドル相場の2%強の小幅切り上げ)について、かねて温家宝(ウ
 ンチャパオ)首相は、@主体性、A制御可能性、B漸進性――の三つの基本原則を示し
 ていた。

 まず第一の主体性とは、米国等からの外圧を排除し、改革はあくまで中国自身の判断で
 行うとの強い意思の表明である。仮に九月の胡錦濤(フウチンタオ)主席の訪米直前で
 は、いかにも米国への手土産との印象を与え、主体性の原則に反する。それを前倒しし
 て、夏休み入り前に、市場の意表を衝いて発表したのは、主体性とともにサプライズ効
 果を狙ったものと考えられる。事実中国政府、中銀(人民銀行)は人民元の為替調整は
 不可避と認識し、そのタイミングおよび実施の手順について検討を進めてきた。それが
 今回実行に移されたのである。

 第二の制御可能性は、大幅な為替調整が為替市場ひいては中国経済を直撃し、収拾困難
 な事態を招くのはぜひとも回避すべき―との判断である。そこで初動の第一歩は2%強
 の小幅な切り上げというおだやかな方法(地震の震度は小さく対応可能だ)を選択した。
 つまり軟着陸を志向したのである。

 第三の漸進性は、今回の第一歩を手始めとして、必要に応じて段階的に為替調整を行う
 ことを意味する。以上三者はかねての基本方針を実行に移したもの。中国人民銀行の発
 表もこのことを裏書きしている。

 さかのぼって、人民元改革が不可避とされた背後事情について一言すれば、十年以上前
 (一九九四年)に、大幅切り下げの上、対ドル固定相場制(一ドル=八・二八元)を導
 入したが、その後の中国経済の飛躍的発展に伴い、人民元相場は、国際競争力に見合わ
 ない過小評価水準となった。その結果対外黒字の拡大、それに切り上げを期待した外国
 資金の大量流入が加わり、外貨準備は急増を続け、すでに七千億ドルを上回っている。

時代遅れの固定相場制を脱却

 このまま進めば、世界一の座をわが国から奪うのも時間の問題とみられる。中国当局が
 固定相場制防衛のためドル買い介入を続けた場合、対価として国内市場に投入される巨
 額の国内通貨(人民元)は、すでに生じている過剰流動性のとめどない増大を招き、不
 動産バブルなど危険な副作用を激化するのは必至だ。理論的には、この過剰流動性を、
 国内市場を対象とする売りオペレーションによって吸収する不胎化政策も可能なのだが、
 それにはおのずから限度があるばかりか、未成熟な国内金融システムの下では制約が大
 きい。残る対策は為替調整しかない。今回の措置は必然の選択にほかならなかったので
 ある。

 問題は切り上げ幅があまりにも小さかったことではない。今や国際経済における主要な
 座を占めるに至った中国として、いわば時代遅れの固定相場制度の殻を破り、グローバ
 ル経済の実態と整合的な新しい為替制度導入に一歩踏み込んだのは、当然の、しかし歓
 迎すべき動きであった。具体的には、ドルに加えて円やユーロ等の主要通貨で構成され
 る通貨バスケット(正しくは currency composite と呼ぶ)への方向づけを示したこ
 と。日米両国をはじめ国際社会が、今回の中国の決定を好意的に受けとめたのもこのゆ
 えにほかならない。

 今のところ、バスケット構成通貨の範囲、それぞれの占めるウェイトなど未知の部分も
 あるが、こうして中国が複数通貨を指標とする管理変動相場制への道を歩み始めたこと
 の意義は大きい。ドルへの全面的依存と異なり、バスケット制の場合、構成通貨の強弱
 を反映して、人民元相場の相対的安定度が高まる。のみならず、それは人民元が国際通
 貨に育つ前提条件を充足することにつながり、将来のアジア共通通貨ないしその前段階
 としてのアジア通貨単位(ACU-Asian Currency Unit)への道を開く意味もある。

為替調整期待でも注意が必要

 最後に人民元相場の先行き見通しについて触れておきたい。まず短期的には、相場の切
 り上げ幅は5%程度にとどまり、その衝撃は吸収可能なものにとどまるであろう。しか
 し、為替市場の通有性として、心理的要因(具体的には将来の期待感)が先行し、市場
 の圧力に催促されるかたちで切り上げ幅が合理的範囲を超えて大きくなることも考慮に
 入れておかねばならない。その場合は、国際的な通貨協力によって制動効果を挙げると
 いう選択もあり得るだろう。中期的には段階的、漸進的に、おのずから為替調整が進み、
 市場がみずから妥当とする水準に落ち着くことが期待される。

 ただ、その思惑が外れ、市場の暴力が否応なしの大幅な相場調整を招くとすれば、内部
 に多くの矛盾と弱み(貧富の格差、都市と農村との所得格差の拡大、死に体に近い国有
 企業、巨額の不良債権を擁する銀行システム等)をかかえる中国経済の場合、外国資本
 の流出を含めて、人民元の基盤の弱体化から、切り下げという逆方向の調整を招く「悪
 魔のシナリオ」もあり得ぬことではない。十分な注意と備えが必要とされるゆえんであ
 る。

    Kenzo Yamaoka
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6カ国協議/核と拉致問題で全力投球を   
   
  北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議が、一年一カ月ぶりに北京で再開される。今回の特
 色は、米政府が成果がなければ打ち切るとしており、最後の協議となる可能性のあるこ
 とと、「核保有」を宣言した北朝鮮が代価をつり上げる可能性が大きいことだ。わが国
 としては、北の核放棄とこれと密接にリンクした拉致問題の解決に全力投球することが
 求められる。
最終目標は半島の非核化

 米政府は成果のないマラソン協議に付き合うつもりはないが、進展の見込みがあれば長
 期交渉にも応じる構えを見せている。北の誠意ある対応を望みたい。

 協議の最終目標は韓半島の非核化だ。金正日総書記も「体制の安全の保証が貫徹されれ
 ば、核兵器を持つ理由がない」と述べ、条件次第では核放棄に応じる姿勢を明らかにし
 ている。

 だが、問題は今年二月に「核保有」を世界に宣言したことを背景に、北が放棄の代価を
 つり上げようとしていることだ。「核保有国となった今日、六カ国協議を軍縮会議とす
 べきだ」と主張しており、従来の体制保証や経済支援に加えて核兵器を含めた在韓米軍
 の戦力削減や米国との相互核軍縮を求めてくる可能性がある。

 北は韓国動乱の休戦協定を平和協定に変えるべきだとし、核問題をテコに米韓軍事同盟
 を揺さぶろうとしている。しかしそのような姿勢は協議を混乱させるだけだ。

 注目されるのは米朝二国間接触の行方だ。昨年六月の第三回協議で米国は、北が核放棄
 に取り組めば、協議参加国が段階に応じて見返りを与えることを提案した。

 その第一段階は、北がすべての核計画の放棄を約束し、具体的計画で合意すれば、米国
 以外の国が北に重油を提供するというもの。今回も米国は、まず北の核放棄宣言を引き
 出すことを望んでいる。これによって北の真意を確かめ、協議の出発点にすることがで
 きるからだ。

 第三回協議の米案でも、北の核放棄宣言を引き出せば、第二段階で監視受け入れと、そ
 の見返りとしての暫定的な安全保障、第三段階で完全な核放棄措置の履行と、その代償
 としての外交関係正常化と経済協力が提案されている。

 今回の協議でも宣言さえ引き出せば協議継続の道が開かれ、検証などの具体論は次回協
 議につなげることが可能となろう。現実的で賢明な姿勢といえよう。

 問題は米案の非核宣言が、ウラン濃縮計画を含むすべての核計画を対象にしていること
 だ。核兵器への転用が可能な高濃縮ウラン生産計画について、北は一度は認めたが現在
 では「計画は存在しない」としている。また、濃縮ウラン計画を含む平和利用目的の核
 開発の権利を主張しており、米案とのミゾは深い。

 北は拉致問題は解決済みとして、六カ国協議での協議に反対しているが、日本は同問題
 が解決されなければ、北が核放棄に同意しても経済支援に参加できないことを鮮明にす
 べきだ。国内世論が許さないし、日朝平壌宣言でも核問題と懸案事項の解決が経済支援
 の前提となっているからだ。米政府も拉致問題提起で日本を支持している。ひるむ必要
 は全くない。

リビア式核放棄しかない

 協議進展のカギは金総書記の決断に懸かっている。米政権は北朝鮮の現体制の擁護はし
 ないが、主権承認と不侵攻の意思表明はできるとしている。このままでは北朝鮮は孤立
 し、経済的にさらに崩壊へ向かう。生き残りにはリビアに倣っての核放棄しかないこと
 を認識すべきだ。
       Kenzo Yamaoka
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核保有国として臨む北−6カ国協議   
   
 従来より大胆な要求も 
 北朝鮮の核問題解決を目指す六カ国協議が二十六日、北京で開始される。昨年八月の第
 三回協議以来、約一年一カ月ぶりの再開である。今回は過去三回の協議と異なり、協議
 の終了期日を明示しないでの協議。何らかの合意が達成されるまで、粘り強く協議し続
 けるという関係諸国の意欲と決意がうかがわれる。
(ワシントン・横山裕史・世界日報) 
 今回の六カ国協議で、北へのエネルギー・経済支援を代償にした北の核放棄への突破口
 が開かれることへの期待が高まっている。半面、協議がこれまで以上に難航する要因も
 ある。
 過去一年余りの間に、北朝鮮の状況も国際情勢もかなり変化した。北朝鮮は今年二月十
 日、ブッシュ政権が「北朝鮮敵視政策」を強めたとして、核兵器保有宣言を行った。過
 去三回の協議の際にも北朝鮮の核保有疑惑はあったものの、今回は初めて北朝鮮が核保
 有国の立場で協議に臨む。北朝鮮が、同じく核保有国である米中ロと対等という立場を
 取り、従来より大胆な要求をする可能性がある。

 国際的にも、核不拡散体制が行き詰まりに直面する難しい背景のもとに協議が開かれる。
 五月にニューヨークの国連本部で開催された核不拡散条約(NRT)再検討会議では、
 北朝鮮やイランの核問題への国際的コンセンサスを構築し、これらの国への核放棄への
 圧力を強める狙いがあった。

 現実には、そこに行く前に、核軍縮、核拡散をめぐる先進国と開発途上国の対立が先鋭
 化し、コンセンサスづくりは失敗に終わった。核拡散防止体制の権威が弱まる中で、関
 係各国は北朝鮮に核放棄を要求しなければならない。

 ブッシュ米大統領は金正日総書記を「ミスター」付けで呼び、ライス国務長官も「北の
 主権を尊重、北攻撃の計画はない」と発言した。北朝鮮はこれを、「敵視政策」の転換
 と受け止め、協議に応じたことになっている。米国は北が協議復帰を拒否し続ける場合、
 対朝柔軟路線に見切りをつけ、北の核問題を国連安保理に付託する現実的可能性があっ
 た。日本でも拉致問題の進展がない状態で経済制裁の機運が盛り上がりつつあった。時
 間稼ぎのために、協議に応じた可能性も否定できない。

 北朝鮮は、拉致問題にこだわる日本と核問題解決を最優先する米韓中ロの立場の違いに
 付け込んで、日韓米を分断するような動きを強めている。米国は協議で拉致問題を主要
 議題にしたい日本の立場を支持しているが、韓国は核問題打開のチャンスを逃さないよ
 う、拉致問題を含めた他の問題は持ち出さすべきでないと言わんばかりの姿勢を取って
 いる。

 米議会を中心に北朝鮮の人権抑圧や日本人拉致を問題にすべきだという声が高まってお
 り、米国が人権問題を持ち出すことも考えられる。

 また米国は北朝鮮のプルトニウム抽出、ウラン濃縮という二種類の核開発計画を問題に
 しその放棄を求める方針を崩していないが、北はウラン濃縮による核開発まで問題にさ
 れることをよしとしていない。協議が暗礁に乗り上げる材料はいくらでもあり、予断を
 許さない。

    Kenzo Yamaoka


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