2039.米国の状況について



ブッシュ大統領の支持率が落ちている。この状況を見よう。Fより

ブッシュ大統領としては、久しぶりのTV演説は、6月28日の東
部時間のゴールデンタイム、夜8時からのスピーチでした。これは
イラク戦争で米軍犠牲者が増加して、支持率が45%と低下したこ
とによる挽回策でもあったのですが、イラクの現状に至る大きな流
れの原点としては「セプテンバー・イレブンスの」があるのだとい
うことを、何遍も繰り返した演説で、ブッシュ大統領の演説として
は、失敗したようです。失望感がTVのコメントでも出ていました。

イラク終戦に持ち込もうと、イラク武装勢力と秘密会談を持ったり
、バクダットでは4万人のイラク・米軍が攻勢を掛けているが、ゲ
リラとイラク・米軍双方に大きな犠牲が出ている。特にゲリラの仕
掛ける自爆テロで大きな損害が出ている。米兵1700名の死者が
出ているという公式発表ですが、ドイツの陸軍病院を見ると7000
名以上の犠牲者が出ているという。米兵が負傷してドイツの病院で
死亡した場合、これは戦死者としていないようである。病死として
扱われるようで、犠牲者の数が大幅に違うことになるのでしょうね。

とうとう、英国のMI5の元諜報部員が、米国はイラクに大量破壊
兵器がないこととアルカイダとは無関係であると知っていて、かつ
攻撃を正当化するための証拠文書を捏造して戦争を開始したと暴露
した。当然、報道機関はこの事実を米政府の顔色を覗い、報道しな
かった。しかし、暴露内容を米ジョン・コンヤーズ下院民主党議員
が中心にインターネットで公開して、イラク戦争に関する真実も求
める56万のアメリカ人の署名を集めて、ホワイトハウスに提出し
たのです。

これを受けて大統領の支持率は低下し、かつラムズフェルド米国防
長官が、イラク武装勢力による反乱活動は何年も続く可能性がある
とTVインタビューで答えることになる。これを受けて、米国民の
58%がイラク駐留継続必要と回答している。

しかし、米政府としては米軍の犠牲者を増やさないように、戦争請
負会社の傭兵に危険な任務を任せて、かつ米軍の新兵が不足してい
るために、制約つきの徴兵制に戻したたいようである。しかし、今
の米国民の世論状況からすると徴兵制は無理でしょうから、世界的
に傭兵をかき集めることになるでしょうね。英国や南アなどの軍事
請負会社からどんどん要員がイラクに送られているようです。

米国の復興請負会社の工事を担当する要員も世界から集められてい
る。このためオーストラリアや欧州諸国の人がゲリラに拉致される
ことになる。

イランも対米強硬派のアフマディネジャド氏が大統領になるが、こ
の人がイラン大使館占拠事件で重要な役割を果たしていたというネ
オコン派の主張があったが、それはウソであるようだ。しかし、イ
ランは反米になることが確定した。また中央アジアでは中露を中心
とした上海機構が反民主主義を掲げて反米を主張し始めている。
反民主主義と民主主義の戦いに収斂していく動きが、鮮明になって
きている。インドは民主主義の陣営になり、イスラエルも中国への
武器輸出をしないと民主主義陣営になっている。

欧州連合では仏シラクの力が落ちて、独シュレーダー政権が苦境に
あり、英ブレア首相が相対的に力を得始めている。この面でも欧州
連合が露中への接近から民主主義陣営になりそうである。勿論、当
分、中国への武器輸出は止めることになった。

このように米国がイラク戦争を始めてから、世界の状況は反米、反
民主主義と親米、親民主主義陣営に分かれ始めている。
勿論、日本は親米であり、民主主義陣営である。地政学的にはシー
パワーとランドパワーの陣営に分裂してきている。韓国はどちらの
陣営になるか揺れているように見える。
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Wednesday, June 22, 2005
http://kikuchiyumi.blogspot.com/2005/06/move-on.html
やったぜMove On!

米国のジョン・コンヤーズ下院議員が、イラク戦争に関する真実も
求める56万のアメリカ人の署名をホワイトハウスに提出したこと
は、日本でも報道されたでしょうか。これはブッシュ大統領の失脚
にもつながりかねない、あるいはイラクからの撤退が早まることに
なるかもしれない大事件です。 この署名のうち、36万人はインタ
ーネットを使った全米最大のムーブメントであるMove Onが呼びかけ
て集めたものです。http://moveon.org

ことの発端はイギリスで大スキャンダルになったDowning Street Memo。
イラクへの攻撃を正当化するための証拠ねつ造に関して、ブッシュ
大統領とブレア首相の間でやりとりがあったことを、イギリスの諜
報部員が暴露したものです。しかし、アメリカのメディアはこのこ
とを報道しませんでした。

業を煮やした民主党下院議員のコンヤーズがリーダーシップをとり
、議会でダウニング・ストリート・メモのことを執拗に追求し、
ついに再調査に必要な署名を集め(そのために動いたのがMoveOn)、
これまで無視してきたメディアもついに動かざるを得なくなった、
というわけです。

それまでまったく報道がなかったこの件に関する報道は、コンヤー
議員とMoveOnの連携によって、一挙に全米で1600件を超えまし
た。

インターネットをこういう風に使えるようになれば、本当にいいで
すね。がんばれ、MoveOnとアメリカの草の根民主主義、そして良心
のある米国議員たち。それにしても、ホワイトハウスに出向いた民
主党議員団との会見を、ブッシュ大統領が拒否するとは…。ことの
成り行きを注視しましょうね。
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米世論調査、58%がイラク駐留継続必要と回答

 【ワシントン28日共同】28日付の米紙ワシントン・ポストは、
ABCテレビとの世論調査で、58%がイラクへの米軍駐留を続ける
べきと回答、撤退すべきとしたのは41%で、過半数がイラクの治安
回復のために駐留を続ける必要があると答えたと報じた。

 また44%がイラク駐留米軍の規模を現在の13万8000人程度にとど
めるべきと回答、「減らすべきだ」としたのは38%にとどまり、逆
に「増やすべきだ」としたのは16%だった。

 一方、イラク戦争を「誤りだった」とした人は51%で依然半数を
超え、56%が大統領の対イラク政策に不支持を表明。大統領支持率
は48%で過半数を下回った。 (00:41)
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米国防長官「イラク武装勢力の反乱長期化の可能性」(nikkei)

 【ワシントン=実哲也】ラムズフェルド米国防長官は26日、イラ
クで自爆テロが再び活発化していることに関連して、12月に実施す
る国民議会選挙に向けて暴力が激化する公算があるとの見通しを示
すとともに、「武装勢力による反乱活動は何年も続く可能性がある
」と述べた。

 米FOXテレビなどとの会見で語った。ラムズフェルド長官は
さらに、「米軍などイラク駐留の多国籍軍は武装勢力の反乱活動を
鎮圧するわけではない。われわれはイラク国民や治安部隊が反乱活
動にうち勝つ環境をつくる」と述べ、反乱鎮圧の主役はイラク治安
部隊であるとの考えを強調した。

 米国内では自爆テロの激化を受けて、イラク情勢に楽観的なブッ
シュ政権への批判や、米軍駐留の長期化を懸念する声が強まってい
る。長官の発言は、厳しい情勢認識を示すことで批判をかわす一方
、反乱の完全鎮圧まで米軍が駐留するわけではないとの認識を示し
たものといえる。 (12:11) 
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米、イラク武装勢力と秘密会談・武装解除打診と英紙

 【ロンドン26日共同】26日付の英紙サンデー・タイムズは、米政
府や米軍の当局者がイラク中部バラドで今月前半、反米武装勢力の
代表らと2回にわたって秘密会談を行い、武装解除の可能性などを打
診していたと伝えた。

 会談に参加した武装勢力の関係者2人が同紙に明らかにした。報道
が事実とすれば、好転の兆しが見えないイラクの治安情勢を打開す
るため、米国が軍事作戦による抑え込み一辺倒から、交渉による解
決を探り始めた可能性がある。同紙によると、米国防総省はコメン
トを避けている。

 一方、イラクでテロを主導しているとされるザルカウィ容疑者が
率いる「イラク聖戦アルカイダ組織」は参加しておらず、会談は反
米武装勢力の分断を狙った動きの可能性もある。

 同紙によると、会談には米側から軍高官と情報機関当局者、議会
スタッフ、外交官の4人が出席。武装勢力側は英国系警備会社の斎藤
昭彦さんを拘束、殺害したと発表したアンサール・スンナ軍、イラ
ク・イスラム軍などの代表らが出席した。 (17:42) 
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武装勢力、半年前より増加 イラクで米中央軍司令官

 【ワシントン23日共同】アビザイド米中央軍司令官は23日、
米上院軍事委員会の公聴会で証言し、イラクに侵入する外国人武装
勢力の数が「半年前より増えている」と述べ、駐留米軍による掃討
作戦が順調に進んでいないことを認めた。
 イラクでは武装勢力によるテロや攻撃が激化。チェイニー米副大
統領は先日、武装勢力の活動について「最後のあがき」との見方を
示したが、米軍指揮官自身がこれを否定した形だ。
(共同通信) - 6月24日9時47分更新
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戦略的な日本外交のすすめ   
  
 最近の反日運動に思う/希望的観測で外交動かすな
外交評論家 太田 正利
義和団の乱と北清事変の教訓  (世界日報掲載許可)

 「日本外交」そして世界における日本の地位はまさに正念場にあ
る。その一つの象徴が最近の反日運動とこれに伴う内政干渉とも思
える党・政府当局の日本に対する「要求」であろう。反日運動その
ものは一寸(ちょっと)沈静化してはいるが、何を契機に再燃する
か知れたものではない。これに対処する日本側の立場にも確固たる
ものがなく、国内では先方の立場を補強するかの如き言説をなす向
きもある。中韓両国にあっても国内問題の解決の困難さと表裏一体
で、内政の困難さを国民の注意を外にそらすことによって切り抜け
ようとする動機があるとも言えよう。盧武鉉政権の支持率が一時
上昇したといっても、畢竟(ひっきょう)長続きすることはない。
このような手法はいつまでも続けるわけにはいかないからである。

 清帝国の末期「義和団の乱」が起こったが、彼らの最初のスロー
ガンは「反清復明」だった。もともと清の皇帝は中国人、すなわち
、漢民族ではなく、漢民族から見ての「北狄」(北の野蛮人)たる
満州人だった。それでこの帝国を壊して漢民族の「明」に復そうと
いうことだった。このような性格の暴徒が猖獗を極めては清帝国は
たまったものではない。排斥然るべし。この標語が「扶清滅洋」に
変わっていったのだが、保守排外の清政府はこれを弾圧する理屈が
なくなったのみならず、この反政府勢力を逆利用して外国人を一掃
しようと試み、列国に宣戦した。多くの外国居留民は北京城壁内で
籠城した。
 日本を含む八箇国連合軍が救援に向かい、救出に成功(この間の
事情については、六三年の「北京の五十五日」という映画が面白い
)したが、この際の日本軍の精鋭さ、規律の正しさは各国軍に多大
の感銘を与えた。これが北清事変で、その後清朝はますます傾き、
やがて滅亡する。国内問題を外交問題にすり替えるなとの教訓であ
る。最近の反日運動も、日本の反発のほか欧米のプレスが一転して
中国批判に走ったのは中国にとっては計算外だったろう。

長期的視野に立った外交戦略

 今後の日本外交にはこのような「戦略的思考」が不可欠だが、
そのために必要かつ十分な条件とは何であろうか。まず、正確な国
際関係に関する現状認識であるが、同時に歴史的事実に関する客観
的な認識である。次いで、国際関係の処理にあたりギャンブルは駄
目だということ、国内問題解決のための梃子入れに外交を利用して
はならぬということで、まさに本稿で中韓の例に一寸触れた。最後
だが、極めて重要なのは「幻想ないし希望的観測」で外交を動かし
ては絶対にいけないということである。

 まず、歴史的事実に関する客観的な認識であるが、現在中韓(朝
)から日本の歴史認識の不足、むしろ先方が一途に思い込んだかに
見える認識を押しつけられている。事実、今まで日本政府の要路が
誤った事実認識のもとに必要以上に謝罪を繰り返してきた。南京虐
殺、強制連行、従軍慰安婦、創氏改名等々については、日本人こそ
果たしてその実態があるのか(多くの真摯な研究によりを含め検証
すべきであり、その結果は世界に向かって堂々と表明すべきである
)評価は別として事実関係には動かせないものがある筈である。

 次いで、幻想ないし希望的観測で動くなという点。日独伊三国同
盟や真珠湾攻撃はドイツが勝つという幻想ないし希望的観測に基づ
いていた。前大戦末期、日本はソ連が日米の仲介をしてくれるので
はないかとの希望的観測から対ソ交渉をしたが、まさに裏切られた
だけでなく、北方領土(ちなみにこの地は日露戦争の結果ではなく
、明治維新前から条約で日本領土と認められた土地であり、戦争中
ではなく、終戦後ソ連軍が侵攻して居座った土地である)まで占領
されてしまうことになった。

 ごく最近の例を見る。今月、金正日総書記が韓国の鄭東泳統一相
に対し、米の態度如何に係わるがとしつつも、七月には「六箇国協
議に参加する」意向を表明しているという。
 これを「歓迎する」論評も見られる。それはそれで結構なのだが
、どうも北の「時間稼ぎ」としか思われない点も多々ある。北の協
議参加は無条件ではなく、何時でも「前提条件が満たされないから
」中止すると気兼ねなく主張し得るのである。国際関係においては
あり得ることで、この際「騙された」と怒ってはいけない。「騙さ
れた方」にも責任がある。

世界の論理で国際PRをせよ

 日本はその場限りの問題解決(例えば靖国参拝を止めれば一時の
小康は得られる)を求めることなく、個々の問題についても長期的
な戦略思考で対処すべきである。「友好関係」樹立のためには時に
は激論が必要であり、「友好関係」は帰結であって出発点ではない。
このような場合、日本は国際的PRは一言にして「下手」である。
今や世界を相手に日本の立場を単に彼らの言語だけではなく、彼ら
の論理で発信すべきだ。今回の中国の反日運動が欧米の大メディア
に報道され、中国も一本取られた感じで、デモ規制に走らざるを得
なかったのである。同時に、日本人にとっては、敗戦後の虚脱時代
に刷り込まれた歴史認識から脱却する必要があり、必要以上に卑屈
な態度を基本にするのは、世界に対し、「謙譲」ではなく「卑屈」
さを印象付けることにもなりかねない。単に対中韓(朝)という狭
い見地だけではなく、文明世界の理解を得ることは個々の問題解決
にも役立つ。これこそ「戦略的日本外交」の目指すべきところであ
ろう。
       Kenzo Yamaoka
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安保・外交力の切り札   
   
 編集委員 黒木 正博 世界日報掲載許可
対外情報機関の創設を/「言論統制招く」は空理空論
 今や日本の対アジア外交が手詰まり状況にある。中国や韓国による「靖国」問題や歴史
 認識問題、さらにはわが国固有の領土である竹島や尖閣諸島に対する領有権主張など、
 かつてなく高まる対日批判に対し有効な対応を打ち出せないでいる。というより受け身
 の外交に終始した感は否めない。
 さらに対北朝鮮外交では、拉致問題に加え、弾道ミサイルおよび核開発の脅威という直
 接的な国家存立にかかわる喫緊の課題を抱えている。いわば、わが国自体の外交力は正
 念場に立たされているといってもいい。その処方箋(せん)はいろいろあるだろうが、
 等閑視されている課題の一つに諜報(ちょうほう)機能の問題が挙げられよう。

 その点で「中央公論」七月号の原田武夫氏「拉致問題解決の切り札は対外情報機関の設
 置だ」は、外交全般というより、むしろメディアを含む「諜報」の軽視ないし忌避とい
 った日本人の体質を指摘、諜報の重視とその専門機関の創設を訴えている。極めて時宜
 にかなった論文だ。

 原田氏は今年三月まで外務省北東アジア課北朝鮮班長として日朝外交の最前線に立って
 きたが、その過程で「日本外交の敗北」を痛感、辞職している。ここでは自らが携わっ
 てきた「拉致」問題を中心に対外情報機関の重要性を説いているが、もちろんこのこと
 は外交全般にも言えることである。

 拉致問題で言えば、一見、情報鎖国に見える北朝鮮側に、逆に情報をコントロールされ
 てしまっているのが、日朝関係の現状だという。直接、現地で情報を得る手段を日本が
 持たないからこそ、拉致問題をめぐって暗中模索を余儀なくされているというわけだ。

 現地から何らのバイアスもかけられることなく伝えられてくる第一次情報を獲得する手
 段としての「対外情報機関」を持たないのは、先進国の中では日本だけであり、これで
 は暗闇で手探りで相手と交渉するに等しい。

 こうした機関を創設するに当たって、必ずといっていいほど出てくるのは、「言論弾圧
 につながる」といった一部メディアや左翼勢力による短絡的な反応である。つまり、対
 外情報機関の設置は、国内では「防諜体制」の整備であり、「スパイ防止法」制定、ひ
 いては言論弾圧につながるという“論理”だ。

 が、これがいかに当を得ていないかは、思想信条・表現の自由が確立されている欧米諸
 国家の例をみても明らかで、原田氏も外交現場を目の当たりにした経験上からも、「空
 理空論」と切って捨てる。

 もちろん原田氏としても、対外情報機関の活動が時として各種自由権の制限を含み得る
 ことがあり、そのための「民主的コントロール」は不可欠との立場だが、それでもこれ
 に拘泥(こうでい)するあまり、真に国益に必要な対外情報を得るチャンスが失われる
 ことがあってはならないとする。言い換えれば、「表の世界」の雑音から対外情報機関
 を隔離することが重要になってくる。

 この機関の創設はまだ緒についていないが、その眼目は原田氏も強調しているように、
 現地諜報員による情報収集機能をいかに確立するかだ。この点で危険な任務につくこと
 が質の高い情報収集につながるだけに、待遇の保証は不可欠だ。国策としての覚悟が求
 められよう。

 ただ、気になるのはこうした情報機関設置で原田氏が米国モデルに疑問を呈しているこ
 とだ。とりわけ諜報の世界はその国の独自性が問われるだけに、安易な対米依存に傾き
 やすいわが国の体質を戒めるという意味ならうなずけるが、戦略的パートナーであり、
 対外情報機関の要であるヒューマン・インテリジェンス(諜報員による情報収集)にお
 ける米国情報機関のノウハウは不可欠だ。

 要はわが国がいかに戦略的な視点で対外情報機関を位置付け、国策として設けるかにか
 かっている。
    Kenzo Yamaoka
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摩擦が続く米欧関係   
   
 米国 NATOの影響力低下を警戒
独自のEU防衛能力を追求―フランス
 ブッシュ米大統領は、イラク戦争などでこじれた米欧関係の修復を二期目外交の主要課
 題の一つに据えている。ブッシュ大統領やライス国務長官の訪欧で関係は改善の方向に
 向かっているものの、イラク、中東外交その他で摩擦が存在し、外交課題は多く残って
 いる。(ワシントン・横山裕史・世界日報掲載許可)

 【NATOとEU】

 米欧間摩擦の要因の一つは、北大西洋条約機構(NATO)および欧州連合(EU)の
 役割をめぐる対立である。今年二月にドイツのシュレーダー首相は、米欧間の政策立案
 においてEUの役割を強化することを打ち出した。同首相は、NATOは「もはや米欧
 のパートナーが戦略討議・調整を行う中心的媒体ではなくなった」とし、EUがより重
 要な役割を果たすことを主張した。フランスもこの見解には基本的に同調している。E
 Uは、市場の統合から通貨の統合、行政、外交の統合へと進んできた。独仏に限らず、
 多くの欧州諸国は、米欧間の外交、経済課題はNATOよりもEUを通した方がより効
 果的に対処できると考えている。

 ブッシュ政権のシュレーダー首相の提案への反応は冷淡で、ブッシュ大統領はNATO
 が「米欧関係の要」であると強調し続けている。ブッシュ政権当局者は、米国が強い発
 言権を持ち、投票権も持つNATOを今後も米欧関係の軸にしたい。EUの比重が増え
 るにつれ、NATOの影が薄くなることを警戒している。ただ米政府内にも、フランス
 とオランダの国民投票で欧州憲法が否決されたこともあって、EUが米欧関係でNAT
 Oに取って代わる事態はまだまだ心配しなくていいとの見方もある。

 【欧州防衛力整備】

 米欧間の重要課題の一つは、欧州の安全保障能力の拡充である。米国の行政府、議会共
 に、欧州域内、域外の安全保障問題で役割分担を拡大できるよう欧州の防衛力強化を呼
 び掛けてきた。とりわけブッシュ政権は、対テロ戦、大量破壊兵器拡散防止などの多様
 な任務に対応できる機動性および相互運用性に優れた軍隊の開発をNATOに求めてい
 る。EUは軍事部門として、欧州安全保障防衛政策(ESDP)を拡充させようとして
 いるが、ブッシュ政権はそれがNATOと不可分の関係を維持するという前提でESD
 Pを支持している。

 これまでにEUは、六万人規模の欧州緊急展開部隊(RRF)を設置し、昨年十二月に
 ボスニアの平和維持活動の任務をNATOから引き継いだ。二〇〇七年までに千五百人
 構成の戦闘グループを十三設置して緊急展開能力を強化する方針だ。ブッシュ政権は、
 フランスなど一部欧州諸国がNATOから独立したEU防衛能力を追求し始め、米国の
 欧州での安全保障面での影響力が衰退する可能性を警戒している。

 【テロ対策】

 テロ対策は、米欧間で協調と対立が同居している分野。9・11テロ以来、欧州は米国の
 テロとの戦いにおける積極的パートナーになってきた。米国とEUは、警察官の情報共
 有、犯罪者身柄引き渡し、相互法律補助、コンテナ警備、航空機旅客データ交換などの
 新しい合意を達成した。ただ現実には、欧州の米死刑適用への反対、個人情報保護に関
 する懸念などが米欧間の協力を阻害している。またイラクのアブグレイブ刑務所やキュ
 ーバのグアンタナモ米軍基地の収容者処遇をめぐる人権問題でも、欧州諸国は米国のや
 り方に反対している。このほか、米国はハマス系列の慈善団体やヒズボラもテロ組織リ
 ストに含めているが、EUはそこまでリストを拡張することは支持していない。一方、
 米国はEUが域内のイスラム教徒の移民対応を誤っており、それがイスラム過激派の勢
 力拡大を助長しているとの懸念を抱いている。

 このほか、イランの核兵器開発問題への対応、中東和平政策、天安門事件以来の対中武
 器禁輸措置の解除問題でも、米欧間には温度差があり、調整が難航している。
    Kenzo Yamaoka


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