2011.欧州連合の今後



欧州連合の今後を検討したい。   Fより

フランスについで、オタンダでも欧州憲法についてNOという開票
結果になり、欧州連合の今後に暗雲が立ち込めている。欧州統合に
否定的な国民感情がある英国は、国民投票自体を行わないとしてい
る。

欧州連合の拡大が負のイメージを与えている。中・東欧の安い労働
力に企業が工場などを移転したり、労働者が先進的な独仏などの欧
州に出稼ぎに来て、先進地域の労働者の失業問題が起こっている。

十五カ国から一挙に二十五カ国に拡大したEUの政策にNOを先進
地域の国民は意思表示したことになる。なぜ、拡大したかと言うと
米国や発展するアジアとの地域間競争に勝つために、経済規模を米
国以上にして、共同通貨のユーロにすれば、企業間の競争が起きて
欧州企業の効率が高まり、アジアの企業や米国の企業との競争にも
勝てるようになると規定して、EUの拡大を行った。

しかし、逆に先進地域の企業は工場などを独仏蘭などの地域から中
東欧にシフトして製品の価格競争に勝てる仕組みを利用している。
また、日本企業なども欧州市場を狙い、ポーランドなどに工場を進
出させている。

欧州の中心的な市場としての独仏蘭は経済成長率が落ちて、失業率
も高水準な状態にある。福祉国家であった欧州先進地域の企業が労
働賃金が安い東欧に行き、高い賃金を支払うことが出来なくなって
いる。そういう意味では正常化されて、米国的な経済になり、企業
の効率は高まるはずであるが、欧州の高福祉ができなくなる方向に
ある。

この社会民主主義的な福祉国家の存続を先進地域の国民は望んでい
るとしたら、欧州は米国やアジアとは企業の経済面では争えないこ
とになる。また、国家が国民福祉に深く関与していくことになり、
自由市場経済主義との決別が必要になる。そして、その行く先は、
中国からの繊維輸入を止める保護主義になるが、それを先進地域の
国民は求めているように感じる。

ここでも、自由市場経済が問題になっているのです。どうも、自由
市場経済が幻想のような気がしている。次の経済の形を見つけない
と、このままでは世界は行き詰まりになるような気がするが??
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「否決の連鎖」を警戒感 国民投票控えたEU各国(ASAHI)
2005年06月02日23時49分

 フランスに続いてオランダが1日、欧州連合(EU)憲法条約を
国民投票で否決した。反対が予想以上に伸びて61.6%に達し、
投票率も62.8%と高かった。EU中核国での反対派の圧勝だけ
に、これから国民投票を控える各国は「否決の連鎖」が現実のもの
になりかねないとの懸念を強めている。 

 EU議長国ルクセンブルクのユンケル首相は1日夜、ブリュッセ
ルでの記者会見で、7月10日に予定している自国の国民投票につ
いて「気がかりだ」と珍しく弱気なところをみせた。欧州きっての
親EU国だが、04年10月の世論調査では24%だった反対が、
今年5月の調査では41%に増えたからだ。 

 9月27日に国民投票を予定しているデンマークは、92年に欧
州連合条約を否決し、再投票でようやく可決した経験がある。いま
のところ世論調査では賛成が上回っているが、態度未定が多い。 

 ラスムセン首相は1日、地元テレビで「国民投票は憲法条約を問
うものだ。それ以上でもそれ以下でもない」と述べ、憲法の是非と
政権批判とを分けて投票するよう訴えた。 

 このほかポルトガル、ポーランド、アイルランドが国民投票を予
定。チェコも実施する可能性がある。この中で可決が確実視されて
いるのはポルトガルぐらい。「否決の連鎖」が現実化すれば、憲法
は「お蔵入り」が避けられない。 

 16日と17日にブリュッセルで開かれるEU首脳会議では、将
来の仏とオランダの再投票・可決の道を模索しながら、仏独首脳ら
が主張する「批准手続きの続行」を申し合わせるとの見方が強い。 

 だが07年に大統領選を控えるフランスのシラク大統領の求心力
は弱まっている。チェコのパロウベク首相は、06年11月の憲法
の発効目標を先送りするよう求める構えだ。仏が体制を一新しない
限り、打開は難しいとの計算があると見られる。 

 EU憲法の発効には加盟25カ国の批准が必要とされている。た
だ、憲法には「加盟国の5分の4が批准し、批准に困難な国があれ
ば首脳会議で対策を検討する」と、加盟国の批准失敗を想定した付
則がある。再投票などの対策を含め、首脳会議の裁量を認めた条項
だ。 
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中道右派が政権奪回の公算   
   
 初の女性首相誕生も
独首相、総選挙前倒しの意向
トルコのEU加盟論争、再燃も必至

 重要な州議会選挙での敗北を受け、シュレーダー首相は議会の早期解散と総選挙の前倒
 しを明らかにした。シュレーダー政権は退陣し、中道右派陣営が七年ぶりに政権を奪回
 する公算が大きい。政権交代によってドイツはどのように変わるのか。
 (ベルリン・豊田 剛・世界日報)掲載許可

 西部ノルトラインウェストファーレン州での社会民主党(SPD)敗北は事前に予想さ
 れていたが、総選挙前倒しは各政党にとって「寝耳に水」だった。シュレーダー政権が
 二〇〇二年に再選されて以来、国政与党が州議選で政権を失ったのは七州目だ。

 SPDの牙城であったシュレスウィヒ・ホルシュタイン州に続く敗北は大きな痛手とな
 った。首相の故郷であるニーダーザクセン州や旧東独各州でもSPDは政権を失ってい
 る。北部および東部の「赤」(SPDのこと)が、徐々に黒(キリスト教民主同盟=C
 DU)に塗り替えられている。シュレーダー政権のSPDと90年連合・緑の党は地方
 から完全に姿を消した。国民はシュレーダー首相が推進する構造改革を完全に拒否した
 形だ。

 州代表で構成される連邦参議院(上院)でSPDは少数派。上院と下院の「ねじれ現象」
 が生じ、両院での承認を必要とする法案通過は困難な状況に陥っている。

 ラフォンテーヌ前財務相の辞任に見られるように、SPD内部では社会福祉や労働市場
 など諸改革に不満が噴出。首相には混乱・分裂する党内を一気にまとめたい狙いがあっ
 たとされる。ベルリン自由大のトーマス・リッセ政治学教授は、「首相の“奇襲作戦”
 は成功しないであろうが、任期を一年縮めることでみじめな退陣を避けることができた」
 と解説。引き際の良さを評価した。

 総選挙前倒しはまた、首相候補を一本化できていない保守陣営にプレッシャーを掛ける
 ことになった。

 選挙後、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、メルケルCDU
 党首(女性)を擁立することで一致団結した。政策で似通った中道リベラルの自由民主
 党(FDP)との連立政権となる可能性が高い。世論調査によると、国民の約七割がC
 DU・CSUとFDPの連立誕生を確信している。

 ドイツのメディアは「ドイツ初の女性首相の誕生へ」などと表現し、政権交代ムードを
 歓迎している。公営第二放送(ZDF)が選挙後に行った調査によると、首相候補が直
 接対立した場合の支持率で、メルケル党首が50%でシュレーダー首相(44%)を上
 回った。一九九八年にシュレーダー首相が就任して以来、初めてのこと。

 政権交代は内政よりも外交面で大きな変化をもたらすと期待されている。

 シュレーダー中道左派政権は、イラク戦争に反対し米国と袂(たもと)を分かった。米
 独関係が悪化する中も、メルケル党首は積極的に訪米するなど、米国との関係改善に努
 めてきた。ただ冷戦の終結後、ドイツはアフガニスタンや旧ユーゴスラビアで独自の形
 で貢献しており、「単なる“米国追従型”に戻ることはない」(リッセ教授)であろう。

 ドイツの親ロシア・親中国政策もトーンが和らぐことが予想される。シュレーダー政権
 は両国に対し、国際社会の安定化よりも経済成長に比重を置いてきた。これに対しCD
 Uは、対中武器禁輸措置には強く反対。両国の人権状況を問題視している

 欧州連合(EU)政策では、欧州憲法には賛成するものの、トルコのEU加盟は声を大
 にして反対している。CDUは、イスラム教文化圏のトルコはEUになじまないとし、
 「特権的パートナー」にするよう提案した。トルコ最大の大衆紙ヒュリエトは「トルコ
 のEU加盟にとって暗いニュース」「ドイツにおける地震」と見出しを付け懸念を表明
 した。

 内政に目を移すと、CDUはシュレーダー政権による一連の構造改革をさらに加速させ
 たい意向。特に、解雇法の緩和や課税制度の簡素化を求めるなど、経済成長を重視する。

 エネルギー政策ではシュレーダー政権とは一線を画している。メルケル党首は、脱原発
 を白紙に戻すことも示唆。風力発電のための助成金も削減する意向を示している。

 政権交代は一時的な「起爆剤」となり得るかもしれないが、長期的に見て景気や雇用情
 勢に大きな変化はないとみられている。慢性的な高失業率と低成長、財政赤字に挑戦し
 なければならない新政権の前途は多難だ。
       Kenzo Yamaoka
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「ノン」の波紋−欧州憲法批准の行方(1)   
   
フランスの国民は、欧州憲法条約の批准を大差をもって否決した。
欧州統合の支柱となってきたフランスだけに、統合プロセスに深刻
なダメージを与えることは避けられまい。
欧州連合(EU)主要国への波紋と今後の展望を探った。
(パリ・安倍雅信世界日報) 掲載許可

フランス 国内の政治不信を反映
反対派 福祉崩壊・失業増大訴え 
 仏国民の明確な「ノン」の判断は、政治家や欧州エリート官僚に
よる急ぎ過ぎた欧州統合と、国民の意識のギャップを如実に物語る
ものだ。
 欧州統合の牽引(けんいん)役を自負し、経済統合から、政治統
合へ向かうことを強く望むフランスが、その要となる欧州憲法条約
を否決したことは、EU加盟各国の統合推進派に大きな動揺を与え
ている。今後、オランダで予定される国民投票で否決されれば、同
憲法条約は死文化するとも言われている。

 昨年五月、加盟国が十五カ国から、一挙に二十五カ国に拡大した
EUは、冷戦時代に分断された中・東欧をのみ込み、シラク仏大統
領は「欧州分断の時代が、本来の欧州の姿を取り戻した」と感慨深
く語った。冷戦を知る古い政治家にとっては、イデオロギーによる
分断の歴史の終了を意味した。

 ところが、フランスでは、そんな欧州全体のことより、自国の利
益を最大限優先する現象が、国民投票のキャンペーンで表面化した。
反対派は、同憲法条約が批准されれば、米国型自由市場主義がEU
を支配し、戦後、築き上げた社会民主主義を基盤とした福祉国家が
崩壊し、過度の競争社会が訪れ、弱者は貧困にあえぐと警告した。

 さらに政治統合が進み、安い賃金で長時間働く中・東欧に企業が
移動し、10%前後という高失業率にあえいできたフランスは、
さらに失業者を増やすだろうと批判した。

 一方、賛成派は、欧州憲法はフランスに押し寄せる米国や中国の
経済脅威を守る盾となると説明。むしろ、フランスの信じる社会シ
ステムをEU全体に浸透させる機会となると説いた。

 賛成派、反対派共に、欧州全体の平和や和解、経済発展というEU
の大義名分には、程遠い自国の利益のみを語ることに終始した。反
対派を主導した極右や極左を支持する人々は、仏国民の二割にしか
すぎないことを考えれば、その他の態度を決めかねていた人々によ
って否決が決定づけられたと言える。

 フランスでは、二〇〇二年五月、大統領選挙の決選投票で、右派
・国民戦線のルペン党首と争ったシラク氏が、先進国ではあり得な
い八割を超える得票率で勝利した。足元に発足した中道右派ラファ
ラン政権も圧倒的支持を得た。だが、それは反極右票がシラク氏に
流れ、治安を悪化させた左派政権への嫌悪感が、ラファラン政権に
集まったにすぎなかった。

 ラファラン政権は、国民の苦痛を伴う社会保障制度改革などを断
行し、その一方で、高い失業率を抑え切れず、景気も足踏み状態が
続き、人気は急落した。シラク大統領周辺の政治腐敗も表面化し、
金持ちや権力者、エリートだけを優遇する政権というイメージが、
シラク大統領を覆っている。

 今回の否決は、シラク大統領への不信任票であり、憲法条約の中
身や、EUの将来への議論にまで至らなかった。配布された百九十
一ページに及ぶ憲法条文を読む国民も少なかった

 フランスの主権維持や、フランスの伝統・文化を守ろうとするナ
ショナリスト、EUの経済政策を嫌う極左の声が、シラク政権への
不信と重なった形だ。同時に、EU統合深化拡大を目指す憲法制定
には、機が熟していないことを示す結果ともなった。
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「ノン」の波紋−欧州憲法批准の行方(2)   
   
 英国 次期議長国に重い課題
国民投票回避の可能性高まる 
 欧州憲法条約のフランスでの否決は、英国にとっては渡りに船といった趣もないではな
 い。英国民の間には欧州懐疑派が多く、来春予定の国民投票を否決するのは確実だとい
 われているからだ。しかし、欧州連合(EU)の機構改革、経済自由化やトルコ加盟に
 熱意を示しているブレア政権にとっては大きなダメージだ。
 ストロー外相は二十九日、フランスの否決は憲法条約にとどまらず、今後のEUの在り
 方に関する根本的問い掛けだと指摘し、「他の世界からの挑戦に直面している欧州は、
 いかなる社会的、政治的、経済的改革をする必要があるのか」と語った。ブレア首相も
 三十日、滞在先のイタリアで「グローバリゼーションと技術変化の圧力にどう対処する
 か。欧州経済が強く、繁栄することをどう保証するかという深い問題がある」と語り、
 EUの将来が先行き不透明になったことを示唆した。

 仏国民が否決した大きな理由の一つとしては、憲法条約が自由競争主義のアングロサク
 ソン・モデルに過度に譲歩していることが挙げられている。マックシェーン前欧州担当
 相は、「憲法条約の拒否は、フランスとその他欧州で保護主義者、孤立主義者の政治的
 経済的勢力を解き放つことになる」と述べて、今後大陸諸国で経済自由化後退の恐れが
 あると警告した。

 欧州憲法条約の批准作業をこのまま進めるか、条約内容を見直すかなど、今後の具体的
 対応に関しては六月半ばのEU首脳会議で協議される予定だが、英国は七月から今年後
 半のEU議長国であり、EU全体の混乱を収拾する重い課題を担うことになる。EU改
 革を進めたいブレア首相にとっては、EUによる規制拡大を嫌う英国内の反対派だけで
 なく、大陸諸国の既得権を守ろうとする左右の保守的勢力(社会主義者、民族主義者な
 ど)も大きな障害として立ちはだかっている。

 英国では、憲法条約がこのまま死文化した場合には国民投票を回避する可能性が大きい。
 ストロー外相は、六日の下院議会で実施有無に関する声明を発表すると述べているが、
 否決が確実な国民投票をあえて実施するメリットは何もなく、回避する方が賢明だ。ま
 た、回避すればブレア首相の政治生命も引き延ばすことになる。これに対して、欧州憲
 法反対の野党保守党は、批准手続きを中止するか、しないのであれば直ちに国民投票を
 行うよう要求している。

 今回のフランスの拒否によってEU全体の政治統合化にストップが掛かったとみられて
 おり、欧州統合反対派は歓迎している。だが、フランスとドイツが政治的連携を強める
 など、逆に加盟国間でそれぞれ独自のグループ化を進める可能性もあると懸念されてい
 る。

 こうした方向は、英国やスウェーデン、東欧諸国など、経済自由化推進による共通市場
 の拡大統合化を重視する加盟国にとっては好ましいものでない。EUの行方には今、暗
 雲が垂れ込めている。(ロンドン・行天慎二・世界日報)掲載許可 
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「ノン」の波紋―欧州憲法批准の行方 3
ドイツ/対仏蜜月関係に危機感
トルコの加盟問題が再燃
 ドイツで人気の政治討論番組の二十九日夜の議題は「前倒し総選挙」だったが、話題が
 欧州憲法のフランス国民投票に及んだ。番組の中で与党、90年連合・緑の党のビュテ
 ィコファー党首は欧州連合(EU)の官僚主義を痛烈に批判した。ドイツは上下両院で
 欧州憲法の批准を決定したが、願わくば「議会が決めるのではなく、EU加盟二十五カ
 国が同時に国民投票を行うべきだ」と提案した。

 一九九八年のシュレーダー政権発足以来、フランスと急接近しているドイツにとって、
 フランスの国民投票の結果は対岸の火事ではない。両国を軸とするEU統合プロセスに
 疑問符が付いたといえる。

 EUの前身である欧州石炭鉄鋼同盟(ECSC)はフランスのシューマン元外相が提唱。
 一九五八年に発足した欧州経済共同体(EEC)は、西ドイツなど六カ国が加盟。仏独
 両国はEUの統合・拡大の「牽引車」として自負があった。中・東欧、スカンディナビ
 アの小国は、大国主導型のEU統合プロセスに反感を抱いている。常にフランスに追従
 した外交を行っていることから、シュレーダー首相やフィッシャー外相は「シラク大統
 領のプードル(犬)」と揶揄(やゆ)されている。

 両国は、欧州単一通貨ユーロの導入を推進、EUの中・東欧拡大においても中心的役割
 を果たした。米主導のイラク戦争反対でも意気投合した。シュレーダー首相は、投票直
 前にフランス南西部を訪問し、シラク大統領と二人三脚を強めていただけに責任を痛感
 している。

 ドイツでも政治的危機が訪れている。五月二十二日、最大与党・社会民主党が西部ノル
 トラインウェストファーレン州議会選挙での敗北を受け、シュレーダー首相は前倒し総
 選挙を表明した。フランスとドイツの「ダブル敗北」と言える。

 経済低迷と政府の不人気は、EUにマイナスの印象を与えている。経済紙ハンデルスブ
 ラットは、フランス国民は欧州憲法そのものに反対したのではなく、EUの不明瞭さと
 国政にノーと言ったと解説した。

 両国では政府への不信と倦怠(けんたい)感が強く、経済低迷と高失業率に加え、EU
 拡大に伴う拠出金の増加を強いられている。スウェーデンやイタリアでも同じことが言
 える。

 これに勢いづいているのが、保守系野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)
 だ。フランスでの国民投票否決はトルコのEU加盟問題に疑問符を突き付けたとの認識
 を強めている。グロスCSU議員団長は声明で、憲法否認の責任はシュレーダー政権に
 もあると述べた。トルコのEU加盟を確約することで、フランス国民の不安を駆り立て
 たという。CDUはトルコのEU加盟を拒否する代わりに「特権的パートナー」を提案
 しており、統合・拡大のスピードを緩めるよう躍起になっている。

 トルコのギュル外相は、国民投票の結果がEU加盟のためのプロセスには関係ないと強
 調する。だた、トルコのメディアは「EU加盟にとって大きな障壁」として大きく報じ
 た。加盟候補のルーマニア、ブルガリア、クロアチアも、否決によるマイナス的影響を
 懸念している。欧州委員会のバローゾ委員長は十月三日の加盟交渉開始に変化はないこ
 とを強調しているが、CDUはEU首脳会議で加盟交渉の再考を求める意向だ。

 シラク大統領は憲法否決の責任を取って内閣を刷新した。ドイツは九月中旬の総選挙で
 中道右派が七年ぶりに政権を奪回する見通し。欧州の政治勢力図は大きく変わる。仏独
 を中心としたEUの統合・拡大プロセスは大幅な見直しを迫られるだろう。
(ベルリン・豊田 剛)

▼欧州憲法、オランダも否決
成立ますます困難に
 【ベルリン1日豊田剛】欧州憲法批准の是非を問う国民投票が一日、オランダで行われ、
 反対過半数で否決した。オランダは仏独と並ぶEU草創期からの中核国家。フランスに
 次ぐ国民投票否決で、憲法成立はますます困難になった。
 開票80%時点の暫定集計結果によると、反対票は62%でフランスを上回る大差で否
 決された。投票率は63%に達した。

 熱心に賛成を呼び掛けたバルケネンデ首相は、「国民投票の明白な結果を尊重する」と
 述べ、オランダの結果いかんにかかわらず欧州連合(EU)各国の批准は続けられるべ
 きと強調した。国民投票に拘束力はないが、主要政党は、投票率が30%を超えれば国
 民投票の結果を受け入れることで一致している。

 バルケネンデ中道右派政権に対する不満やユーロ導入に伴う物価上昇が反対派を勢いづ
 けたという。

 また、国民は、トルコ加盟問題を含めたEU拡大のスピードに加え、安楽死や同性愛結
 婚などリベラルな政策がEUによって拘束されることを嫌ったとされる。

 デンマークでは九月に国民投票が予定されているが、連続否決の影響は避けられそうに
 ない。ポーランドとチェコでも反対派が気勢を上げている。世界日報 掲載許可
    Kenzo Yamaoka
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「ノン」の波紋―欧州憲法批准の行方 4   
   
 イタリア/議会批准では不十分の声/欧州エリート官僚への反発も
 フランスが欧州憲法条約を国民投票で否決したことは、すでに議会での批准を済ませて
 いるイタリアに、大きな衝撃を与えている。伊中道左派の指導者で、欧州連合(EU)
 の執行機関である欧州委員会のプロディ元委員長は、「非常に落胆した」と述べた。
 プロディ氏は「われわれは、不安のシグナルを熟慮し、耳を傾ける必要があるが、同時
 に、粘り強く欧州統合を継続する必要がある」と語った。一方、ラマルファ欧州伊担当
 相も「結果は否決だが、欧州は立ち止まらない」と述べ、悲観的空気が流れるのを防ぐ
 のに必死だ。

 イタリアは、すでに議会での批准を終えているが、フランスに続き、一日にはオランダ
 の国民投票で否決されたのを受け、与党の一角をなす北部同盟が、国民投票での採決を
 再度行うことを主張している。北部同盟の主張は、イタリアはフランス同様、EUの主
 要国の一つであることを理由としている。

 北部同盟所属のロベルト・マローニ伊厚生相は、「EU自体が、イタリアにおいても、
 良くない影響をもたらしていることは、はっきりしている。ユーロの高騰は輸出を鈍ら
 せ、ビジネスに困難を与えている。イタリア国民は、もう一度、彼らの意見を表明する
 機会を持つべきだ」と語り、国民投票を呼び掛けている。

 フランス同様、イタリアでも、EU官僚が、加盟各国の国民との擦り合わせを十分に行
 うことなく、権力を行使しているという印象を強く持っている。伊マスコミの中には、
 フランスやオランダでの否決を「欧州エリート官僚に対する勝利」と位置付ける記事も
 登場している。

 左派陣営は、特にその色彩が強く、緑の党の指導者、スカニオ氏は「否決は、欧州が市
 民と、より密接であり、人権を重視する必要があることを警告している」などと述べて
 いる。イタリアもフランス同様、極右や極左勢力が、欧州憲法に強く反対しており、フ
 ランスやオランダの否決を歓迎している。

 左派系日刊紙ラ・リパブリカは「憲法条約は、二度と日の目を見ることはないだろう」
 と書き、死文化されると断言している。また、単一通貨ユーロに参加するイタリアは、
 参加条件である財政赤字が、国内総生産(GDP)の3%を超えないとする財政安定化
 政策を守る情熱を失うだろうとも指摘されている。

 旧中・東欧に隣接するイタリアは、不法移民、不法就労に悩まされてきた。欧州統合の
 深化拡大は、安い賃金でも働く中・東欧の加盟国からの労働力の移動が予想され、その
 一方で工場の移転などで、産業の空洞化が加速することが懸念されている。特に高失業
 率に悩み、産業界の不振が続く状況下では、国民の不安は大きい。

 その意味では、イタリアは議会で批准したものの、国民投票には掛けていない。そのた
 め、フランスやオランダでの否決は、イタリア国民に強いインパクトと動揺を与え、ベ
 ルルスコーニ伊首相の政治運営に悪影響をもたらしそうだ。

 イタリアは、フランスほどに反アングロサクソンの感情が強くなく、米国型の自由主義
 経済に対しても前向きといわれている。

 だが、労働組合も強く、統合が失業率を増加させ、景気回復につながらないことを懸念
 する声も根強い。また、欧州内で分裂が始まり、ブロック化が進んだ場合の、イタリア
 の立場は微妙といえる。(パリ・安倍雅信・世界日報)掲載許可
    Kenzo Yamaoka
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「ノン」の波紋 欧州憲法批准の行方 5   
   
 新欧州像に世代間でギャップ
大きい統合拡大の代価
 フランスやオランダが国民投票で、欧州憲法条約を否決したことで、欧州内には、統合
 プロセスに対して、さまざまな議論が始まっている。その中で、古い世代に属する政治
 家と二十一世紀を担う政治家の意識の差が議論されている。イラク戦争でパウエル米国
 務長官が言及した「古い欧州」とも重なる議論だ。

 二十世紀の大戦の記憶を持つ世代が少なくなる欧州だが、昨年、二十五カ国に拡大した
 欧州連合(EU)を前に、フランスのシラク大統領が語った言葉は、古い世代を代表し
 たコメントでもあった。同大統領は「長い間東西に分断された欧州を、ようやく一つの
 欧州に取り戻すことができた」と語ったのだった。

 欧州は二度の大戦で欧州全土が戦場化し、ナチスドイツによって深い傷を負わされた。
 戦後の冷戦時代は、ソ連の支配を受ける東欧との緊張関係が続き、イデオロギー闘争に
 明け暮れた。欧州内ではドイツ封じ込めが最大の課題とされ、戦争の再発防止と、敵対
 する国々の和解が、最大の政治課題とされた。

 昨年十月、EUの元となった欧州経済共同体(EEC)設立調印式典が行われた同じロ
 ーマの市庁舎で、欧州憲法条約の調印式が行われた。和解と協調による平和な欧州構築、
 経済的繁栄という二つの願いが込められた統合プロセスは、単一通貨導入後、中・東欧
 への拡大を機に、新たな段階に入る重要な式典だった。

 欧州憲法条約は、既に和解と協調による平和の土台のできた加盟十五カ国を中心に練り
 上げられた。成熟した民主主義社会、先進国を自負する文明を持つ国々が議論し、「欧
 州の価値」を体現するための憲法条約を準備する中、新加盟の中・東欧が加わるシナリ
 オだった。

 共産主義体制から民主主義社会に移行して、間もない中・東欧のEU加盟は、時期尚早
 との見方もあったが、加盟を急がせたのは、「古い分断された欧州」を知る古い政治家
 たちの焦りでもあった。たとえ貧しくても、一つの欧州に取り込むことで、確固たる安
 全保障が確保され、市場の拡大は経済繁栄につながると信じられた。

 欧州は統合の深化・拡大を繰り返すたびに調整が図られ、表面化した問題に対処し、そ
 の都度、必要とされるものが付加されてきた。欧州憲法条約の制定も、その一環として
 出てきたものだ。近年の課題は、移民問題とリンクした反ユダヤ、反イスラム教問題、
 不法移民、労働賃金の安い中・東欧への企業の移転による産業の空洞化などだった。

 政治家たちは、統合が強化されれば、解決する問題と説明したが、「人と物の移動の自
 由」を保障したEUの基本理念からすれば、貧しい国々を抱えた代価は大きいと言える。
 新世代の政治家たちは、「古い欧州」がこだわる社会民主主義を基盤とする福祉国家と
 いうビジョンでは、到底グローバル化に対処できないと叫んでいる。

 フランスの次期大統領候補と目されるサルコジ国民運動連合(UMP)総裁は、「フラ
 ンスは、この十五年間、高失業率を一度も解決することができなかった。欧州も同様で、
 誇るべきことではない。新しいフランスと欧州建設のために欧州憲法が必要なのだ」と
 説いた。新しい世代に属するサルコジ氏の支持者は多い。

 本来、加盟各国民の文化や歴史、アイデンティティーの違いを尊重しながら、共同体と
 して団結を目指す欧州憲法の理念は、理想的であると同時に、その共有化がどこまで可
 能なのか疑問視されていた。フランスの否決には内政的な要因が強いといわれるが、加
 盟各国民への理解がなければ、これ以上の統合深化は難しいことも否定できない。

(パリ・安倍雅信・世界日報)掲載許可

=終わり=
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欧州小型車膨らむ市場 燃費規制追い風/中東欧に需要(sankei)

 欧州の小型車市場が活性化している。温室効果ガス削減に向けた
欧州連合(EU)の政策的な規制から燃費効率のいい小型車に追い
風が吹くとともに、中東欧の経済水準が上がるにつれて小型車の需
要が拡大するとみられるためだ。自動車メーカー各社は生産拠点を
中東欧に移してコスト削減を進めつつ、これまで「もうからない」
と敬遠してきた小型車市場に熱い視線を注いでいる。
(ローマ 納富優香)

 先陣を切ったのは、仏ルノーの「ロガン」。自動車が急速に普及
し始めた地域で先駆けようと、中古車とも対抗できる五千ユーロ(
約七十万円)の低価格帯を狙って開発された。昨年夏から中東欧を
中心に販売したところ、顧客の反応が良かったため西欧でも年内に
発売する。西欧では安全装備としてエアバッグなどを追加するため
、七千五百ユーロ(約百五万円)程度となる見込みだ。

 高付加価値・高価格路線で業績低迷を招いた独フォルクスワーゲ
ン(VW)は「ルポ」を刷新し、価格を抑えた「フォックス」とし
て夏から発売する予定だ。昨年発売開始した伊フィアットの「パン
ダ」や韓国・起亜自動車の「ピカント」なども好調を続ける。

 競争が激化する市場に新たに投入されるのが、トヨタ自動車と仏
プジョー・シトロエングループ(PSA)が共同開発・生産した姉
妹車だ。

 足回りなど基本性能部分は完全に共通化しながら、「外装はドア
一枚を除きすべて別々」(チェコトヨタの生駒仁志社長)となって
おり、トヨタの「アイゴ」、プジョーの「107」、シトロエンの
「C1」として大都市で先行販売された。値段は九千ユーロ(百二
十六万円)前後と他社製品よりも若干高めだが、装備の充実などで
魅力を訴えている。

 もともと欧州市場は道路の狭さなどから、小さいエンジンで小回
りが利く小型車の需要はあったが、単価が安いことから「もうける
のは至難の業。狙った台数を売り切る自信がないと参入できない」
(内川重信欧州トヨタ副社長)という難しい市場だった。

 転換点となったのが、地球温暖化対策からEU欧州委員会とAC
EA(欧州自動車工業会)が合意した平均燃費自主規制だ。二〇〇
八年からメーカー各社が新車乗用車の二酸化炭素(CO2)平均排
出量を一キロ当たり百四十グラム以下にすることを目標としており
、一九九五年の平均燃費と比べ約25%削減というかなり厳しい内
容となる。

 メーカーにとって現在の車種構成で各車種の性能を改善して達成
できる水準ではなく、各社とも燃費の良い小型車の比率拡大やディ
ーゼル化などを急ぎ始めた。たとえば、アイゴのCO2排出量は約
百九グラムと少ない。トヨタでは、アイゴやもうひとつ上のクラス
の「ヤリス」(日本名「ヴィッツ」)などの台数を増やすことで、
燃費は悪いが利幅の大きいSUVや高級セダンを売り続けながら、
自主規制の目標達成を図る。

 小型車の需要が増えるなか、各社は少しでも利益を増やそうと、
生産拠点を中東欧などに移してコスト削減を急いでいる。中東欧諸
国は残業時間の規制など労働条件が緩いうえ西欧よりも人件費が安
い一方、EU加盟による関税撤廃の恩恵も受け、距離も近いため輸
送コストも抑えられる。ルノーはルーマニアの子会社ダチアで、ト
ヨタとPSAはチェコでの合弁工場で小型車を生産。VWはブラジ
ルからの輸入により価格競争に臨む方針だ。

 中東欧は自動車の普及が急速に進んでおり、市場としての潜在力
も期待できる。今後も東欧への生産シフトは避けられそうにない。

http://www.sankei.co.jp/news/morning/05kei001.htm 

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