2004.東アジアの戦略について



東アジアの戦略を米国のサイドに立って議論している論文を、見て
感じたことをFなりに書く。

米国の今までの立場は、「海軍力をベースにした戦略」であったが
冷戦以後、特に911以後、新しい戦略地図として、中国とロシア
を味方にしてイスラム包囲網を築くシナリオを描いていた。しかし
戦略的な構築が東アジアのことではなかった。東アジアではどんど
ん中国の経済力が増して、かつロシアの力が弱くなり、米国の地位
が不安定になっている。このように地域内の勢力バランスが変化し
てきている。このため、バランスが変化していることによる不安定
さが出てきた。

それでは、米軍幹部は東アジアをどう見ているのであろうか??
3つの紛争可能点があると見ている。千島列島、朝鮮半島の38度
線、台湾海峡の3つ。それと北朝鮮と日本の紛争。

現時点、中国の経済力が軍備増強を可能にしている。米国の味方は
今まで日本、台湾、韓国であった。この国との関係で米国の地位は
東南アジアで確立していた。しかし、米国の戦略的な混乱は東アジ
アでの地位を危うくする可能性がある。

米国は3つの戦略がある。1つが完全関与モデル、もう1つが非関
与モデル、最後に選択的関与モデル。
完全関与モデルは米国の世界支配モデルとも言い換えられるが、こ
れをやろうとしていたのがネオコンであるが、費用が掛かり過ぎる
ことと、反米同盟を世界的に作ることになり、その面でも費用が出
ていく。

非関与モデルは完全関与モデルの反対に位置する。米軍の力を海外
から完全に引き上げるか、部分撤退することである。これには戦略
的な思想が必要であり、1つが孤立主義で、もう1つがバランス主
義である。問題は米国国益を守れないことがあることである。反動
もあり、このモデルはあまり良くないと米政治家も考えている。

選択的関与モデルは前2者の中間的なモデルであり、クリアでない
分難しい。このモデルはジョージ・ケナンが考案した。しかし、米
国の目標が明確ではないなどの問題点がある分、難しい。

東アジアでは中国と日本の覇権争いが出てきている。しかし、近い
将来、米国と中国が競合することになる。と米政治家もペンタゴン
のスタッフも考えている。朝鮮半島が統一してかつ中国陣営になっ
たら、米国日本などの海軍国は大いに不利になる。朝鮮が中国に付
くと中国は断然、有利になる。このため、朝鮮半島については関与
することになる。中国とロシアは陸軍国であり連合していくことに
なると見ている。米国の戦略としては選択的関与モデルとバランス
主義に落ち着くのでしょうね。

このように中国と米国の争いを戦略学的にも予想している。このま
まにしておくと欧米流な戦略論で無用?な戦争になるような気がす
る。
ここは日本流の古神道的な共生論で、米国・日本と中国との戦いを
止めたいですね。欧米流の学問を離れる必要があると感じる。

日本の戦わないで共生していく論理をYSさん、構築して欲しいで
すね。
==============================
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成17年(2005年)5月27日(金曜日)
通巻第1134号 

米国に呼びつけられ、おそらく最後通牒的な要求がだされるだろう
韓国大統領、政治を左翼的教条主義と“遊びの延長”で展開、すべ
てが行き詰まった

 ようやく米韓首脳会談が行われる。ホワイトハウスは、ブッシュ
大統領が韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と6月10日にワシ
ントンで会談すると正式に発表した。

 マクレラン大統領報道官に依れば両首脳は北朝鮮の核問題解決に
向けた方策と、米韓同盟関係について話し合う。正式会談に続き、
昼食会が開かれる。 
 直後、いかなる記者会見をするか、ブッシュは金大中前大統領と
並んで記者会見をしたときに、「大統領」といわず、金を「この男
」と言った。それほど韓国の変心に立腹したのだ。

 盧大統領のワシントン訪問は2003年5月以来、じつに2年ぶ
り。米韓首脳会談は昨年11月以来の出来事となる。
 もとより交通事故のような棚ぼた大統領ゆえに、外交も素人で親
北路線、米国とは危険なチキンゲーム。心情的に北朝鮮の核武装を
支持し、中国とはいかなる屈辱にも耐える、まれなほどに李朝両班
(ヤンバン)的体質の韓国の政治屋が廬武玄大統領である。

 在韓米軍の移動、縮小は政治日程に乗っているが、その一方で在
韓米軍との協力を渋りだし、ひいては米国の感情を逆撫でしても北
京に土下座を続ける。このスタンス、李朝末期の韓国の政治状況に
あまりにも酷似していないか。

 米国は韓国の安全保障に不安を感じる一方で、危険な外交を怒り
をもって見てきた。韓国内の保守派もそうである。一説に軍部のク
ーデタ説も囁かれているが、もしクーデタが起これば、米国は
百八十度、外交原則を転換させてでも軍人政権を支持しそうである
。パキスタンのムシャラフを堂々と支持したように。

ともかく最後通牒的な要求をブッシュは廬大統領に突きつけること
が予想される。
==============================
太平洋の米空母   
   
 国防総省(ペンタゴン)の軍編成立案者は依然、太平洋の二つ目
の空母戦闘群をどこに「前進配備」すべきかを決定するための作業
を進めている。
 地球的な兵力配備見直しの一環として、国防総省は台湾海峡、北
朝鮮のような危険な地域の付近にもう一つの空母戦闘群を配備する
ことを決定している。

 すでに米軍は、横須賀を母港とするキティホーク空母戦闘群を太
平洋に配備している。国防当局者によると、二隻目の空母が配備さ
れるのは、ホノルルか太平洋西部のグアムだ。

 ハワイが候補として挙がっているのは、港の施設などインフラが
整っているからだ、と国防当局者は指摘した。太平洋軍司令部も
ここに置かれている。

 しかし、グアムは戦略的に有利な位置にあり、ここからなら東ア
ジアに短時間で到達できる。これは、ラムズフェルド国防長官が目
指す軍再編の重要な要素だ。

 中国が軍事力を増強していることが不安を呼び、紛争勃発(ぼっ
ぱつ)の可能性が指摘されていることが、グアム配備の根拠を後押
ししている。グアムには、最大八隻の攻撃型潜水艦も配備される。
中国が増強している艦艇、潜水艦、航空機などは、米軍の艦艇を攻
撃することを特に想定したものだ。

 その一方で、中国は精度の高い攻撃用巡航・弾道ミサイルを配備
、導入しており、二隻目の空母は安全なホノルルに配備すべきだ、
という国防総省の戦略家もいる。
(五月二十日)(ビル・ガーツ&ロワン・スカーボロー)
    Kenzo Yamaoka
==============================
米軍、ステルス戦闘機15機を韓国配備へ(nikkei)

 【ワシントン=秋田浩之】米空軍はレーダーに捕捉されにくい
F117ステルス戦闘機15機を韓国に配備する。米太平洋軍司令部
(ハワイ州)が27日、確認した。配備はあくまでも定期訓練の一環
と説明しているが、北朝鮮を刺激しそうだ。

 太平洋軍司令部の報道担当者は同日、取材に対し「F117の配
備は毎年、この時期に実施されている訓練に伴うもの」と説明。核
実験が取りざたされる北朝鮮の情勢に連動しているわけではないと
強調した。 (14:00) 
==============================
「米中新冷戦構造」に備えよ   
  
 試される「新日本国軍」へのステップ
カギとなる「2015年」
 このところ日本は明けても暮れても「イラク派兵問題」一辺倒で
ある。だが、その日本にひたひたと忍び寄る<脅威>を日本国民は
強く認識する必要があろう。

 「歴史は繰り返す」といわれる。筆者はその現実が日本の近い将
来に甦(よみがえ)ると痛感してならない。そして、それはいみじ
くもナポレオンの遺訓といわれる「敗れた国は百年起(た)てない
」と重なり合うのである。

 この遺訓からすれば、アメリカに敗戦した日本はあと四十年ほど
で甦るはずである。

 ところが、それは徐々に変化の兆候を示しつつあるアジアの力学
構造からすれば実に甘い観測といわざるを得ない状況にある。つま
り、アメリカの軍事力に急迫している中国が、ついにアメリカに比
肩するようになる時期を二〇一五年と、アメリカが判断しているこ
とに注目せねばならない。

 米中関係がその時点でどう変化しようとも、日米同盟を締結して
いる日本が両国の動静に関与せざるを得なくなるのは明白である。
換言すれば、日本がそうした事態にどう対応するか、あるいはどう
対応せざるを得ないのか、である。

 その時点で米中関係は、大別して(1)米・中が対決する(戦争
状態に入る)(2)冷戦構造をつくる(3)同盟関係となる――と
いう構図が考えられよう。うち、最も可能性の高いのは(2)であ
り、逆にその最も低いのは(3)である。

 それは、かつてのアメリカとソ連との関係と同様に、アジア・太
平洋地域において強大な軍事力を有する米中の二国が、互いを抑止
するグローバルな戦略関係を保ちながら、拮抗(きっこう)する軍
事力と経済市場の依存関係を続けていこうというものである。

 そのアメリカの考える「新冷戦構造」の理論の前提はあくまでも
<対決>と<依存>、つまり「戦争という非常手段に訴えてまで国
益を追求するのではなく、対決しつつも相互に依存の関係を保ちな
がら利益を得ていくという在り方を両国は選択せざるを得ないよう
にする」というものである。

 これは九五年二月に公表された米国防総省の「東アジア軍事戦略
理論」(元国防次官補のジョセフ・ナイ氏がそれまで提唱していた
相互依存関係の国家軍事戦略理論)がその原点となっている。

本格的な「対中包囲網」

 アメリカは現在、すでにそれに備えて幾通りものシミュレーショ
ンによって分析を続けていると推断されるが、「テロ撲滅」の名目
での<対中包囲網>は徐々に確立されつつあるのではないか。

 ちなみに、中国はさかのぼって九〇年九月、当時の陳雲国防相が
その「戦略報告」の中で、「二〇一五年には中国は日本と戦争状態
に入る可能性があり、二〇五〇年にはアメリカに比肩する空母機動
艦隊を編成し、中国は世界に影響を与える国家となる」と言明して
いる。

 問題は「日本」だ。上述した「二〇一五年」を踏まえて、日本は
日米同盟という歴然たる関係を何としてでも堅持していかねばなら
ない。日米同盟が悪化すれば、日本は国家として一大危機を迎える
という危機感と自覚を国民は持たねばならない。

 “アメリカ追従外交”と何と冷笑されようと、日本に残された、
たった一つの「選択肢」を自らの胸に秘めて「ワシントン」に走り
、全日本国民の合意も何のその、自衛隊のイラク派遣まで強行した
小泉首相のそのアメリカ一辺倒の気骨稜々(りょうりょう)たる政
治手腕に、老かいな対米外交一本槍(やり)で戦後の日本を甦らせ
た宰相吉田茂と比肩されるほどに評価されていいだろう。

 だが、これからが「本番」である。率直に言って、自衛隊は現在
、未だ同盟国としてのその「覚悟」のほどをアメリカに「試され」
ている終局段階にある。その「合格点」が得られた暁には、いよい
よアメリカの「テロ撲滅」という名目上の一環(対中国戦略的包囲
網の形成)としてその戦列に加わらなければならない。その日その
時こそが、それまで「日米安保第六条―基地提供の義務」にのみ苦
渋していたアメリカ待望の「新日本国軍」の誕生となるのだ。

 新しく誕生する「新日本国軍」の“いばら”の行く手に厳しくそ
びえ立っている「関門」は、それこそ一触即発の米中「冷戦構造」
下の<戦争>であり、「日米共同作戦」での出番である。それこそ
がこれまで日本で論じられてきた、いわば仮定法未来の有事である。

 ただ、それらはほとんどが机上での日本特有の防衛概念の座標軸
から求められた方程式であり、流動的因子が交錯する戦場の実態か
ら割り出されたものでは決してない。ましてや予測される日米の「
共同作戦」は至難を極めるものとなろう。

(外交・安全保障フォーラム代表) 軍事評論家 三根生久大  
世界日報 掲載許可
       Kenzo Yamaoka
==============================
昆虫の「智」に学べ   
   
 京都大学教授 藤崎憲治氏に聞く
食料、環境問題解決の糸口に
侮れない4億年の知恵/排除の論理脱し「共生」へ

世界でも稀な日本人の感性/季節の使者として身近な存在

 食糧危機や地球環境問題の解決に貢献する可能性を秘めているとして、昆虫についての
 科学的な研究が進んでいる。“昆虫の知恵”の活用法などについて、世界的に優れた教
 育・研究拠点づくりを目指す文科省の二十一世紀COEプログラムにも選ばれた研究チ
 ームのリーダー、藤崎憲治・京都大教授に聞いた。(聞き手・池田年男・世界日報)掲
 載許可

 〇――〇

 ――いろんな昆虫が活動、出没する時期になりました。ハエやカも発生し、夏にはセミ
 が鳴きます。改めて、昆虫とはどんな生き物なのか、教えてください。

 一言で言えば、六本足で頭、胸、腹の三部を持つ節足動物、それが昆虫の定義です。シ
 ンプルな体のつくりですが、四億年を生き抜いてきました。全動物種の三分の二ないし
 四分の三という圧倒的な数と多様性を誇っています。確認されているだけで世界に約百
 万種。毎年三千種の新種が報告され、実際には五百万種との推定値もあります。

 ――熱帯雨林などがどんどん減っていますから、発見されないまま消えていく虫たちも
 多いでしょうね。

 確かに、新しく発見される数より絶滅する数の方が多いのではとも危惧(きぐ)されて
 います。それでも現在、人類以上に最も繁栄している生物こそ昆虫にほかなりません。
 なぜ栄えているかというと、高い環境適応能力や独自のコミュニケーションシステムが
 あるからです。

 ――そういった昆虫の能力をどういう方面に生かそうとされているのですか。

 今世紀の最重要課題は食料と環境問題だと思います。この二つを同時に解決するため、
 昆虫の「智」に学ぼうという研究を行っています。食料問題と環境問題は常に密接不可
 分で切り離せません。食の安全の問題もあるし、農業を行えば、人為的なものが加わっ
 て自然の生態系を撹乱(かくらん)することも避けられないからです。総合的に考えて
 いく必要があります。

 二十世紀の科学は、どの分野も細分化されて、専門的になりすぎたきらいがあります。
 昆虫関連の研究もそうで、昆虫分類学、生態学、行動学、生理学など多方面に分かれて
 います。それらを融合して、昆虫をモデルとした新しい科学をつくり上げたい。背景に
 は、地球温暖化対策や持続型農業、昆虫産業、ロボティックスなどの社会的ニーズの高
 まりもあるからです。

 そこで、「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」というテーマを掲げ、京大大学院
 農学研究科と京大フィールド科学教育研究センターの研究スタッフ十八人が「環境適応」
 「情報伝達」「構造機能」のグループに分かれ、研究しているのです。

 ――まだ一般的には「なんだ、虫けらか」といった過小評価があるようです。

 昆虫の存在をもっと見直すべきです。何しろ、彼らは四億年といわれる大変長い歴史を
 持ち、滅びずに生き延びてきています。しかも、ただ存続しているだけでなく、繁栄し
 ている。種数にせよ個体数にせよ、圧倒的な多さです。それだけ、生態系の中で極めて
 重要な立場にあるということが言えます。

 昆虫は、私たちが生きているこの地球において、その自然を支える上で非常に重要な役
 割を果たしています。結果的に非常に賢く振る舞っている。そんなしたたかさ、生態系
 の中で占める役割の大きさを考えると、昆虫は貴重な知恵を持っているに違いない。そ
 れを科学的に解明して、そこから学ぶべきものがあれば、うまく活用しようという研究
 です。同時に、このプロジェクトを通して、従来の自然観、生命観を変えていきたいと
 いう思いもあります。

 ――昆虫の「智」の活用法として、どんなものが期待されますか。

 例えば、気候変動の予知があります。昆虫というのは変温動物だから、温度変化の影響
 を受けやすい。南方に生息しているアブラムシやハマキガは、暖かくなると繁殖回数が
 増えたり、発生が早まったりします。その辺のことについて綿密に観察を続ければ、地
 球温暖化を鋭敏に察知することができます。一方で、昆虫は侮れない存在ですから、人
 間社会との衝突も生じます。それが害虫です。昆虫は昔から農作物に被害を与えてきま
 した。現在でも虫被害で失われる農作物は生産量の三割以上とされ、大変な損失です。
 対抗策として数々の農薬が開発されてきましたが、残留成分による生態系破壊や人体へ
 の悪影響など、別の問題を引き起こしています。

 そういう悪循環をなくすためには、従来の排除の論理から脱却しないといけない。共生
 していくため、農薬など毒物を使わずに済む方法を確立する必要があります。それが天
 敵との関係を使うやり方であり、害虫問題を解決すれば食料の増産にもつながります。

 〇――〇

 ――早く具体化してほしいですね。

 まだ実用化の段階ではありませんが、こんな研究が進んでいます。ある植物はイモムシ
 に葉を食べられると、虫の唾液(だえき)に含まれる化学物質に反応して揮発成分を放
 出する。その香りがいわばSOS信号となってイモムシの天敵である寄生バチを呼び寄
 せる。ハチには香りのパターンを学習し、イモムシに食べられた植物を認識する複雑な
 情報処理システムがある。その仕組みをまねて人工的に天敵を誘い出すようにすれば、
 環境にやさしい害虫防除ができて食料問題解決の糸口にもなるというわけです。さらに、
 昆虫の鋭い嗅覚をまさにセンサーとして利用して、麻薬成分や地雷から発生する物質を
 検知する装置が開発できるかもしれません。これも研究中です。

 ――ほかにも昆虫の利点はありますか。

 子供たちに生物と環境のかかわりを教える場合など、そのモデルとして昆虫に勝るもの
 はないでしょうね。象とか牛、馬だと大きすぎて扱いに困るし、ウイルスや菌となると
 顕微鏡を使わないと目にすることができないほど小さい。その点、昆虫は大きさもちょ
 うどいい。ただ、最近の子供たちは昆虫に対する好奇心があっても、里山や野原など自
 然環境が少なくなってしまったから、自然の中で昆虫をつかまえたり、観察したりする
 機会に恵まれない。可哀想(かわいそう)です。

 ――日本での研究は最先端を行っているようですね。

 少なくとも、日本人は昆虫に対して独特の見方を持っています。昆虫に対するロマンチ
 ックで芸術的な感性は世界でも稀有(けう)なものと言えるくらいです。大体、セミの
 鳴き声にしても、海外では単なるノイズ、雑音としか受け止められていません。日本人
 にとって、昆虫は季節の使者と表現できるほど、極めて身近で親しい存在です。

 日本の小説には昆虫がよく登場しています。代表的なものを挙げれば、中勘助の自伝的
 小説『銀の匙』、志賀直哉の短編の名品『城の崎にて』、映画化もされた安部公房の名
 作『砂の女』、さらには川端康成の『雪国』や三島由紀夫の『潮騒』。それらの小説の
 中で、昆虫たちは効果的なワンポイントとなっています。

 日本の古典的小説の中に登場する昆虫のイメージは一般に好ましいものが多い。それは
 昆虫たちが四季折々の自然から送られてきた季節の使者だからに違いありません。日本
 列島という奇跡のように豊かで多様な自然と共生してきた私たちの祖先の遺伝子には、
 身近な生物たちへの繊細な感性がいつの間にか刷り込まれたのでしょう。

 昆虫採集にしても、アマチュアがこんなに多くてすそ野が広いのは日本だけではないで
 すか。ですから、こういった日本人の特性は、昆虫との共生を実現していくのに向いて
 いるのです。

 ――専門的な研究を深める中での目標は何ですか。

 私たちは共生原理に基づく新たな世界観の構築を目指しています。それに基づいて、生
 物学の教育や環境教育、農学教育、そして文科系と理科系を融合した教育も重要になっ
 てくる。また、複眼融合的な思考ができる人材の育成にも取り組んでいきたい。それが
 国際社会への貢献ともなるからです。昆虫科学の研究を進めていけばいくほど、そうい
 う人材育成の必要性を痛感しています。

 ――昆虫科学が発信する現代社会へのメッセージはどういうものですか。

 人類の未来を託すということで月や火星に住めるようにしようなどと宇宙にフロンティ
 アを求める考えがありますが、もっと足元を眺め直せと言いたいですね。フロンティア
 は生き物、特に昆虫です。そこには未知の世界、可能性が大きく広がっています。単純
 な生物と侮らず、大切にしなければいけません。

 ふじさき・けんじ 昭和22(1947)年、福岡県生まれ。同45年、京都大学農学
 部農林生物学科卒業。沖縄県農業試験場主任研究員、岡山大学農学部教授を経て、平成
 12年、京都大学大学院農学研究所教授。農学博士。昨年から、21世紀COEプログ
 ラム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」の拠点リーダー。主な著書に『カメム
 シはなぜ群れる?−離合集散の生態学』『昆虫類における飛翔性の進化と退化』など。
       Kenzo Yamaoka


コラム目次に戻る
トップページに戻る