2003.欧州憲法の動向



フランスで欧州憲法が否決されようとしている。この検討。Fより

欧州連合が拡大されて、新加盟国であるポーランド・チェコから労
働者がフランス、オランダなど旧加盟国に押し寄せている。このた
め、オランダやフランスでは失業率が増加し、社会問題になってい
る。

真の問題点は欧州憲法の問題ではなくて、欧州に東欧を加えたため
に、労働単価が安い東欧に工場が移転したり、東欧の労働者が押し
寄せることが問題であるのに、欧州の統合度が増すことが問題であ
ると言うように問題点が摩り替わっている。

フランス国民が欧州憲法に反対すると、欧州連合の統合が停滞する
。欧州の中心はフランスとドイツであるから、その中心であるフラ
ンスが欧州憲法を否定すると、米国と同程度の政治的な力の増強が
欧州ではできなくなり、当分、米国+日本+英国+豪州の米国有志
連合の力が欧州連合より強く維持されることになりそうである。

特に英国は欧州と米国の両方に顔を向けているために、フランス国
民の欧州憲法反対は、非常に良い結果になる。もし、欧州連合の統
合度が増すと、米国から離れることも視野に入れる必要があるが、
欧州連合の統合度が、上がらないと米国と欧州の両方に顔を出すと
いう今のポジションをキープできる。

どちらにしても、欧州連合の拡大のスピードは下がることになる。
欧州連合に加盟を希望するトルコ、ルーマニアなどの国家が、欧州
連合に入れない可能性が高まる。

米国にとっても欧州連合の勢いが鈍ることは、米国との対抗勢力が
大きくならないために歓迎でしょうね。ロシアも今のロシア周辺国
がロシア離れの状態であるために、欧州連合の勢いが下がることは
歓迎でしょうね。

というように、欧州統合を進めたい仏シラク大統領には逆風が吹き
荒れることになる。中国は欧州との友好関係を深めて、米国に対抗
したいが、欧州内部のごたごたが起こると、当面欧州問題に時間を
取れて、フランスとしても中国との関係を深めることはできなくな
る。

米国はパレスチナとイスラエルとの講和を実現して、中東平和を実
現することを目指している。イラクの安定を実現して米軍を中東か
ら撤退させることが必要であり、このためにはシリアの孤立化も実
現する必要がある。分裂ぎみのレバノンにNATO軍を入れたいが
、欧州でごたごたが起こると、これが実現するかどうかは分からな
いことになる。

さあ、どうなりますか、見物である。
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欧州憲法 フランスあす国民投票 「ノン」なお優勢 否決なら統
合大打撃

 【パリ=山口昌子】欧州憲法の批准の是非を問うフランス国民投
票がいよいよ二十九日に行われる。事前の世論調査では、態度未定
の有権者も少なくなく、不確定要素も残しているとはいえ、依然、
批准反対派が優勢な状況が続いている。仮に憲法に「ノン」が突き
付けられれば、後続のオランダの国民投票(六月一日)で“否決ド
ミノ”を引き起こし、憲法の条文を見直さざるを得なくなる可能性
もあり、欧州統合は停滞しかねない。統合を終始、牽引(けんいん
)してきたフランスの欧州連合(EU)域内での威信失墜も必至で
ある。 

 フランスのシラク大統領は二十六日夜(日本時間二十七日未明)
に行ったテレビ・ラジオ演説で、「(国民投票は)フランスや欧州
の未来の問題だ」とし、憲法が否決されれば「欧州は故障する」と
警告、憲法に「ウイ」を、と国民に対し最後の呼びかけをした。

 ロイター通信によると、二十四−二十六日に行われた最新の世論
調査では、「反対」は55%、「賛成」は45%。ここ十日間ほど
の調査結果で反対は増大傾向にある。

 その背景には、失業率が一月に五年ぶりで10%を超えるという
雇用情勢の悪化に対する不満に加え、拡大欧州の統合が進めばポー
ランドなどから安価な労働力が流入して雇用がさらに奪われるとの
国民の不安がある。

 ただ、世論調査の賛否の数字は、投票方針を決めた有権者の動向
で、17%の有権者がまだ態度を決めていないとされ、なお流動的
な面もある。

 EUの前身である欧州共同体(EC)や、さらにその前の欧州経
済共同体(EEC)時代からの原加盟国フランスが憲法に「ノン」
と言えば、大統領の指摘を待つまでもなく、欧州統合は足踏みする
ことになりそうだ。
 まず、後に続く他国の国民投票に“雪崩現象”が起きる可能性が
ある。
 オランダのほかにも、デンマーク(九月二十七日)、ポーランド
(今秋)、英国(来年前半)、チェコ(来年六月)などで、統合へ
の懐疑的な気分が強まり、統合積極派のルクセンブルク(七月十日
)でも、反対派が勢い付きかねない。

 大統領をはじめ賛成派は否定しているものの、否決する国が数カ
国に上れば、憲法の条文をめぐる再協議もあり得るし、同憲法の一
部とEECを設立した際の「ローマ条約」が競合するため、条約に
さかのぼって協議する必要も出てこよう。
 大統領は演説で、国民投票は「政府の是非をめぐる問題ではない
」として投票が政府批判に利用されることがないよう訴える一方、
国民の「懸念や期待」を考慮、投票後に「新しい衝撃を与える」と
、暗にラファラン首相更迭を示唆した。
 失業率の上昇などで、首相の最新の支持率は20%に低下。後任
首相に早くも、ドビルパン内相やアリヨマリ国防相、サルコジ元財
務相らの名前が挙がっているありさまだ。
 大統領自身は憲法が否決されても辞任しないと言明しているもの
の「三選を狙うのは無理だ」(与党議員)との指摘もあり、フラン
ス政局は二〇〇七年の大統領選に向け一気に流動化しよう。
     ◇
 欧州憲法 25カ国体制への拡大で緩みがちになる欧州連合(EU
)のたがを締め直して統合を深化させるため、2004年6月に採
択され、同年10月に調印された。EU機能の強化や運営の効率化
などを主眼とし、「大統領」(欧州理事会常任議長)のほか「外相
」ポストを新設し、共通外交・安保政策に向けた調整機能を強化。
閣僚理事会での多数決方式を改定して「一票の格差」を是正し、全
会一致を必要としない政策領域を増やすとともに、欧州議会にも重
要法案に関する共同決定権が付与される。06年11月の発効を目
指すが、全加盟国の批准が必要。
(産経新聞) - 5月28日2時59分更新
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仏国民投票控えEU全体が緊張   
   
 シラク氏の政治手腕に疑問も
欧州憲法条約の批准拒否に第三の道なし
 欧州憲法条約の批准を目指す国民投票を今月二十九日に控えたフランスでは依然、賛成
 派と反対派が拮抗(きっこう)、その行方はまったく不透明と言える。拒否すれば欧州
 統合プロセスは変更を余儀なくされ、欧州の弱体化にもつながる恐れがある。賛成派、
 反対派双方が最後のキャンペーンを展開する中、シラク仏大統領の指導力のなさも指摘
 されている。

(パリ・安倍雅信・世界日報)掲載許可

 フランスでは連日、今月二十九日に行われる国民投票を前に、賛成派、反対派双方が、
 激しいキャンペーンを展開している。パリでは地下鉄の駅出入り口に、労働組合などの
 左派系活動家らが行き交う人々に「ノン」と書かれたビラを配り、反対票を投じるよう
 に呼び掛け、賛成派も、仏全土で集会を繰り返し、賛成票を投じるよう呼び掛けている。

 三月中旬から賛成が反対を上回る世論調査が報告されたフランスでは、今月に入り、小
 差ながら、反対が賛成を上回る状況に変化、ただ、どちらにも決めかねるという人々も
 多く、不透明な状況が続いている。最新の世論調査でも、賛成、反対は五分五分で、欧
 州連合(EU)域内の他の加盟国の中には、否決のリスクが高まっているとの見方を示
 す政治家も出てきている。

 先週二十日付の英紙ガーディアンに掲載されたデニス・マクシャン元英外務省欧州担当
 相(五月初旬まで)のメモには、シラク大統領の指導力や、国民への説明能力の欠如が
 指摘され、フランスが否決する可能性が高いことが指摘されていた。同メモは、四月初
 旬にブレア英首相や閣僚などに配られたものだった。

 同メモには、「イエス」キャンペーンを行うフランスの政治家たちの説明は、支離滅裂
 で説得力がなく、欧州統合深化への国民の理解を得ることができないと分析している。
 そのため、フランスは欧州憲法批准で否決する可能性が高く、そうなれば、これまで、
 非協力的としてバッシングを受けてきた英国に代わり、フランスがバッシングを受ける
 だろうと指摘している。

 EU内の専門家たちの多くが、フランスが欧州憲法批准を拒否した場合、この半世紀に
 欧州が経験してきた中では、最大の試練に直面するだろうとの見方を示している。その
 結果、EUの国際社会での政治的影響力が弱まることも予想され、これまでEUが積み
 上げてきたものが、崩壊の危機にさらされるとみる専門家も少なくない。

 最近、ロンドン訪問中のジスカールデスタン元仏大統領が「フランスが否決しても、憲
 法条約の内容を変更することは不可能」と語り、注目を集めた。同氏は、欧州憲法草案
 作成のための評議会委員長を務め、憲法作成の中心的役割を担った人物で、「同憲法は、
 加盟国間で三年間、何度も調整が図られ、交渉の上に交渉を重ねて練り上げられたもの
 で変更は不可能」と述べている。

 現在、EU議長国であるルクセンブルクのユンカー首相は「フランスがもし、否決すれ
 ば、EUは、この二十年を失うことになるだろう」と悲観的な発言を行った。フランス
 の否決でEU内のブロック化が始まり、経済的に近い国々や、防衛的に共通課題を持っ
 た国々がブロック的に集まる可能性も指摘されている。

 また、ソラナEU共通外交・安全保障上級代表は、フランスが拒否した場合、二十五カ
 国に拡大したEUの行動能力が深刻なダメージを受けることになるだろうと警告してい
 る。昨年十五カ国から二十五カ国に拡大したEUは、発展途上の中・東欧諸国を抱える
 ことになったが、欧州憲法は、その統合運営の柱となるとみられていた。

 仏国内の政治状況は、欧州憲法をめぐり、過去になかったねじれ現象を起こしている。
 テレビ討論で、賛成派に並ぶのは、与党中道右派政党、国民運動連合(UMP)のサル
 コジ総裁や、与党第二勢力の仏民主連合(UDF)のバイルー総裁、それに最大野党社
 会党のオーランド第一書記らで、反対派には、右派国民戦線(FN)のルペン党首や、
 共産党(PC)などの極左政党代表が並ぶ。

 本来、政敵のはずの党首らが、そろって賛成や反対を訴え、議論を戦わせる構図は、国
 民に混乱をもたらしていることは否定できない。サルコジ総裁は、フランスの発展は欧
 州の発展によってもたらされ、フランスはEUを変える能力もあることを主張、オーラ
 ンド氏は社会主義の価値を高めるために欧州憲法は必要と説いている。

 本来、犬猿の仲であるはずのFNとPCは、それぞれの立場から、欧州憲法はフランス
 に利益をもたらさないと説明、極左政党もそれに加わっている。フランスでは通常、左
 派陣営がまとまると、それぞれ異なった利益で集まる右派以上に強力な力を発揮すると
 言われている。加えて今回は、党として賛成を表明している社会党内の五割近い党員が、
 反対に流れていると言われている。

 二十一日に発表された世論調査会社IFOPの調査では52%が反対、48%が賛成で、
 反対が上回った。同時に半数近くが、態度を決めていず、意見を変える可能性も示唆し
 ている。仏専門家の中には、憲法内容を理解できない多くの国民がいることに不理解の
 シラク大統領が、国民投票を選んだことが最大の間違いと指摘する声もある。

 常に国際的発言力確保に心血を注いできたフランスは、EU内でも常に中心的存在であ
 り続けてきた。だが、否決された場合、フランスの発言力が弱まることだけは否定でき
 ない。国民投票まで、残り一週間を切っている。

    Kenzo Yamaoka
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【正論】英コラムニスト ジェフリー・スミス EUの命運握るフランス国民投票   
   
 避けるべきは民意無視した批准  《世論調査はノーの可能性》
 欧州各国政府のほとんどはここ数日中に行われる二つの国民投票を固唾(かたず)を飲
 んで見守っている。

 まず五月二十九日には、フランス国民が欧州連合(EU)で協議された憲法の批准賛否
 を表明する。その三日後には、オランダの有権者が同じく憲法に対する判断を下す。も
 し両国が「ノー」の判断を下した場合(世論調査は、オランダ、フランスとも「ノー」
 の可能性が予測)、欧州は深刻な政治的危機を迎える。オランダの某大臣は、戦争の可
 能性にすら触れている。

 これはもちろん大げさだが、半世紀近く前に、欧州経済共同体(EEC)が設立されて
 以来、最も深刻な事態を招くことは間違いない。

 国民投票には実質的で象徴的な意味合いがある。まずEU憲法は全加盟国の承認が必要
 だという実質的な問題がある。もし反対が、ある小国一カ国だけなら、それは不都合で
 はあるが、必ずしも悲観的な状況ではない。過去の例を見ると、一九九二年にデンマー
 クがEUのマーストリヒト条約を拒絶した際、次回は正しく投票すべく再投票を命じら
 れた。その数年後にはアイルランドがニース条約を拒絶し、同じく再投票が行われた。
 いずれの場合も二度目の結果は「イエス」であった。

 今回、もしオランダが「ノー」と判断した場合は、再投票が即行われるかもしれない。
 また同国の場合は、この投票は厳密には議会投票の参考という位置づけしかない。

 しかしフランスが拒絶した場合、状況は全く違う。フランスはオランダとともにEEC
 創設六カ国の一つであり、それ故に特別な位置づけにあるばかりでなく、大きさでもE
 U最大国の一つである。国民は当然、簡単には言いなりにはならない。特にオランダも
 同じ方向に投票した場合、「ノー」は象徴的に大変な重みを持つことになる。

 欧州外の人々は、国民投票は単に法的、技術的な問題だととらえがちだ。しかし来年予
 定されている英国の国民投票では「ノー」が予測されているだけに、欧州内ではフラン
 スとオランダの「ノー」は、EUそのものへの不信任ととらえられることになる。

《浸透せぬ欧州統合の恩恵》

 各国でのこれだけ激しい反対にはさまざまな理由があるが、中には欧州統合と無関係の
 ものもある。多数の欧州大陸の国々の経済は不振を続けており、失業率は高く、政府へ
 の不満は激しさを増している。国民投票はいわばこういった状況への反発の表明の機会
 ととらえられている。しかし不満のはけ口だけが「ノー」の根深さの理由ではない。

 ここ何年もの間、欧州統合に熱を入れてきたのは国民ではなく各国政府であった。政府
 にとって統合実施の恩恵は多い。一体として交渉することにより国際舞台で増す重み、
 国境が取り除かれることによる規模の経済、市場拡大による機会の増大などだ。

 しかし統治される側の国民にはこういった恩恵は漠然としか伝わらない一方、それらに
 伴う不利益ははっきりしている。職を巡る競争の激化、統治組織が地理的にも責任分野
 でもより広域にかかわることによる国民の政府との隔絶感、そして文化、言語、伝統が
 異なる人々と一体に扱われることによる自己の喪失などである。

 特に最後の点は深刻である。欧州統合市場はわずか六カ国から始まった。EUは今二十
 五カ国である。拡大のもたらした意義は大きいが国民の支持を得られているとはいえな
 い。フランス人もオランダ人も英国人も、まずは自国民であるという意識が厳然とあり、
 欧州人という意識ははるかに薄い。ところが、EU政府の権限は年ごとに拡大し、より
 力を増してきた。ほとんどの欧州市民は分厚いEU憲法草案を開けてもいないが、憲法
 はEUを巡るこの問題を体現していると映る。

《「拡大」がもたらした変化》

 憲法批准を巡る悲観論が現実のものとはならず、無事加盟各国で批准されたとしても、
 こういった欧州市民の憂慮を考慮すべきである。長く無視されればされるほど、この感
 情は広く深くなる。

 加盟国が二十五に増えた連合体を、六カ国当時と同様に切り回すのは不可能である。
 「ノー」が勝った場合、即対応が必要となる。EU崩壊を必要以上に深刻に騒ぎ立てる
 人も出るだろう。

 しかし各国の指導者たちが国家により大きな行動の自由を与えれば、何もEU崩壊に至
 ることはない。EUはしばらくは荒い道を歩むことになろうが、それでも、まるで人々
 が懸念を表明しなかったかのように強引に憲法を推進することこそが、避けなければな
 らない最悪の道である。(Geoffrey P Smith)
      Kenzo Yamaoka
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3期目ブレア英政権の課題   
  
 弱い政権基盤で完投へ/重要な外交課題も注目せよ
経済評論家 鳴澤 宏英
党左派の造反で過半数割れも  (世界日報)掲載許可

 三期目の英国ブレア政権が正式に始動した。前二期は、下院における圧倒的な多数を占
 める順風に乗って、第三の道を存分に追求することができた。しかし米国に追随して、
 いち早くイラク戦への積極参加に踏み切り、多くの犠牲を出したにもかかわらず、戦後
 処理はいまだに泥沼から脱却できず、駐留英軍の撤退への見通しは全く立っていない。
 世論のきびしい批判という逆風のさ中、総選挙で辛うじて過半数の議席を確保し、三期
 目を迎えたとはいえ、先行きは多難、視界不良と言わざるを得ない。

 そうした判断を下す背景の第一は、政策路線に一段と右傾化が顕著にみられ、党内左派
 の抵抗が高まる可能性が大きいこと。与野党の議席差は六十七、三十四人の造反が出れ
 ば勢力の逆転が起きる計算となる。第二は、辛勝とはいえ選挙での勝利をかち得たのは、
 かつての盟友(今はライバル)のブラウン財務相(左派の領袖)の選挙戦協力に負うと
 ころが多い。両雄の間で、党首・首相の禅譲の合意があったとの観測はほぼ間違いない
 とみられており、ブラウン陣営にしてみれば、いつまでも待つことはできないとの思い
 が強いことは想像に難くない。そして第三は、ブレア政権が内政面の優先課題として掲
 げる項目すなわち、治安の改善、教育、医療をはじめとする公共サービスの改革の多く
 が、保守党のサッチャー元首相の断行した革命の副産物、負の遺産の処理であること。
 サッチャーの後継者を自認し、期待を背負って登板したブレア首相がその後始末という
 役回りを担うことは皮肉な巡り合わせと言うほかない。サッチャー革命は荒療治で英国
 経済の再生を果たしたものの、公教育の荒廃、家庭内暴力の横行など、多くのひずみを
 生み、よき時代の英国を知る者にとっては、今昔の感を禁じ得ない。

中東和平で主導的役割を狙う

 ついでに付言すれば、多発する鉄道や地下鉄の事故も、さかのぼれば、サッチャー政権
 下の規制緩和、民営化にたどり着く。過日のJR西日本の列車事故は運転ダイヤの厳守
 という伝統にこだわり過ぎて、肝心の安全がおろそかにされたのが原因とされているが、
 英国の鉄道や地下鉄では時間の遅れは日常茶飯事。フォームに列車の来たときが到着時
 刻と言っても過言でない。辛抱強い国民性のせいか、諦めによるものかはともかく、乗
 客の不平不満はほとんど聞かれない。福知山線の列車事故は英国でも大きなニュースと
 して伝えられたが、国民の間ではたかが九十秒の遅れがなぜ事故につながったのか、素
 朴な疑問が提起されている。英国の実情からすれば、当然のことだと思う。

 転じて外交面でも、重要な日程の数々が待ち受けている。その第一は、今年後半のEU
 議長国を英国が務めること、また七月の主要国サミット(スコットランドのグレン・イ
 ーグルが開催地)の主催国になることである。ブレア首相としては、この機会をフルに
 利用して、米欧間の仲介、橋渡し役を果たしたいところである。第二は、世界の貧国撲
 滅を主導したいとの思いである。そのためブレア首相は、国際協力によるアフリカ基金
 の創設、将来の拠出をも引き当てにした巨額の市場資金の調達をもくろんでいる。アフ
 リカのサハラ砂漠以南(最貧国が集中している)に対し、旧宗主国として救いの手を差
 し伸べるものは、いかにも英国らしい発想だが、日本や米国を含めて合意を得られるか
 はさだかでない。そして第三は、パレスチナ和平への積極参加である。中東和平へのロ
 ードマップは、国連、米国、EUおよびロシアが共同で作成したものだが、これまで宙
 に浮いていた。アラファト前議長の死去、穏健派のアッバス議長の登場で、歩み寄りへ
 の期待が高まっている折から、かつての宗主国である英国(今日のパレスチナ紛争の種
 を蒔いた張本人でもある)の首相として、米国とともに主導的役割を演じたいと考える
 のは、肯(うなず)けるところである。

ユーロ圏参加の推進力に陰り

 最後に二つの懸案について言及しておきたい。そのひとつは、EU憲法の批准問題。英
 国内では大陸ヨーロッパとの間に一定の距離を置きたいとの伝統的考え方が今なお根強
 い。まずはフランスやオランダの国民投票の結果を見定めようというのが今の姿勢。そ
 れに批准の最終期限まであと一年弱の時間的余裕がある。

 もうひとつは英ポンドの放棄、ユーロ圏への参加という難問である。これまで、ユーロ
 圏外にあることのマイナスは何ら表面化していない。そればかりか、ユーロ取引(為替
 ・金融取引)についてロンドン市場の地位低下を懸念する声もあったが、それは杞憂
 (きゆう)に終わり、実際にはいぜんユーロ取引の優位が保たれている。ブレア首相自
 身はかねてユーロ参加の推進者であったが、今では、世論に逆らってまで、強行策には
 しるのは避けたいとの判断がある。これも先送りの可能性大と考える。
    Kenzo Yamaoka

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