1987.インドの可能性



インドの可能性を検討しよう。    Fより

中国が日本の邪魔をするなら、日本は善隣友好で行きたいが、中国
の出方が反日的であるなら、日本はインドというカードを用意する
しかない。ASEAN諸国も日本と中国を天秤に掛けているが、そ
れにインドも入れて、三角関係にすることで安定化を図ることはい
いと思う。

しかし、中国もインドとの国境線交渉を進めて、インドに譲歩して
支持を取り付けるようであり、どうなるか分からない。

しかし、インドの発展は民主主義と英語で成し遂げているのが中国
と違う。その意味では安定している。
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日印首脳会談 アジア主導権争い
経済、人口に大きな潜在力

 小泉純一郎首相とインドのシン首相は二十九日の首脳会談で、日
本とインドが戦略的な結びつきを強めることで合意した。アジアの
発展には、両大国の協力は欠かせないとの判断によるが、日本にと
っては台頭著しい中国をけん制する狙いもある。アジアの巨象をめ
ぐり日中間の激しい綱引きが始まっている。 (ニューデリーで、
政治部・岩田仲弘=首相同行)

 日本がインドとの関係強化に取り組むのは、インドが急速に経済
成長し、国際社会でも発言力を強めているからだ。

 インドの国内総生産(GDP)は、情報技術(IT)産業の発達
などにより約六千億ドル(二〇〇三年度)と、アジアでは日中韓三
カ国に次ぐ規模にまで拡大。米国家情報会議(NIC)が一月に出
した報告書は「インドのGDPは二〇二〇年までに欧州に並ぶ」と
まで予測している。

 にもかかわらず、日本とインドの経済交流は高い水準にはない。
日印の貿易額は約四十億ドル。これに対し、中印の貿易額は百億ド
ルを超え、中国に二倍以上の水をあけられている。このため、小泉
首相は会談で、自由貿易協定(FTA)を視野に入れつつ、貿易額
の「飛躍的増加」をシン首相に強く働き掛けた。

 インドは安全保障面でも重要な国だ。インド沖は、中東と東アジ
アを結ぶシーレーン(海上交通路)。日印とも石油資源に乏しく、
シーレーンは経済の生命線。特に日本の場合、インド洋からマラッ
カ海峡を通って運ばれる原油は、輸入量全体の八割を占める。両首
脳は会談で、シーレーンを海賊や海上テロから守るため協力関係を
強化することも合意した。

 インドの「人口力」も日本にとって大きな魅力だ。国連の推計に
よると、現在約十億八千万人の人口は二〇三五年までに中国を抜き
、世界最大になる見通し。インド自ら、国連安保理常任理事国入り
を目指す根拠の一つに、巨大な人口規模を挙げている。経済成長と
人口力により、インドは国際社会から「最注目株の一つ」に見られ
ている。

 日本政府には、悲願とする常任理事国入りや東アジア共同体構想
の実現に向け、こうしたインドと手を組むことができれば、中国を
けん制できるとの計算がある。

 中国は日本の常任理事国入りに反対だ。東アジア共同体構想でも
、日本と主導権争いを演じるのは確実だ。「日本とインドの戦略関
係を日米同盟と同じレベルまで高めたい」(外務省筋)との声さえ
政府からは出ている。

 とはいえ、日本の思惑通りに進むとは限らない。中国もインドに
急接近し、戦略的な協力関係を築こうとしているからだ。

 中国の温家宝首相は今月、インドを公式訪問し、半世紀にわたる
国境問題で幕引きを図ることでシン首相と合意した。

 中国はインドの常任理事国入りに「理解と支持」を表明。インド
は日本など三カ国と協力して常任理事国入りを目指しており、日本
とインドにくさびを打ち込む「分断作戦」との見方もある。

 そのインドは、自らの常任理事国入りに、現常任理事国の中国の
支持は大きな力となるだけに歓迎。事実上、日本と中国を両天秤(
てんびん)にかけている。

 日中のどちらが「アジア新時代」の主導権を握るのか−。インド
と強固な協力関係を築けるかどうかも大きなカギだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20050430/mng_____kakushin000.shtml 
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1996年 4月 8日
インドの可能性−中国との比較で−

日 時:1996年 4月 5日(金)
場 所:APAフォーラム
講 師:埼玉大学教授 佐藤誠三郎氏

●インドの時代か?

アジアは手前から見て、極東、東アジア、南アジア、西南アジア(
中近東)と分かれている。このうち、経済成長で脚光を浴びている
のはもっぱら東アジアで、南アジアはすっかり取り残された感があ
る。しかし戦後すぐの時代は南アジアの方が東アジアより進んでい
たし、大学の環境などはインドの方が日本より優れていたほどだ。
その後、日本人も南アジアに関心を失ったままで今日に至っている。

東アジアの中国と、南アジアのインドはいろいろな面で好対称をな
している。ここしばらくは中国優位の時代が続いたけれども、これ
からはインドの出番ではないかというのが、私の仮説である。もち
ろんインドの悪い点はたくさんある。それでも議論を刺激的にする
意味も込めて、あえて強引に両国の共通点と相違点についてお話し
たい。

●共通点

両国は巨大な途上国だ。国土面積は中国が世界第 3位、インドは 7
位。ただし面積が広大な国は、ロシアやカナダのように氷土が多か
ったり、中国や豪州のように砂漠が多かったりする。生存可能な土
地だけを比べれば、インドはかなり広い。人口は中国が 1位(12億
)でインドは 2位( 9億5000万)。どちらも相当な誤差があるらし
く、実数はもっと多いはず。ちなみに第 3位のアメリカは 2億6000
万に過ぎない。

両国は前近代には偉大な文明の中心だった。インドの方が歴史は古
く、モヘンジョ=ダロの遺跡の一番古い部分は7000年前のものだと
いう。両国とも近代は屈辱の歴史であり、その裏返しとして高い誇
りと強烈なナショナリズムを持つ。インドは1947年に独立し、中国
は1949年に新国家を形成した。インドはフェビアン主義、中国はマ
ルクス=レーニン主義と、どちらも計画経済を選択し、自給自足の
傾向が強かった。しかし中国は1978年以降、インドは1985年以降に
市場経済と対外開放政策に転換し、発展の軌道に乗り始めた。

●比較・対照点

政治的制度の面では、インドの方がはるかに進んでいる。インドは
連邦性民主主義が定着しており、将来も変わらないだろう。中国で
は、共産党が権威を失っているにもかかわらず、それに代わる統治
の主体もシステムも存在しない。地方分権化が事実上進んでいるに
もかかわらず、中央・地方関係が制度化できていない。司法につい
ては、インドではイギリス型の制度が確立しており、政権からの独
立性も高い。中国は現在でも「人治」の世界であり、司法は政治に
従属している。中国では中央銀行が機能しておらず、マクロコント
ロールができないことも問題である。

言語・宗教・身分などの点では、インドの方がはるかに多様性が高
い。それでもカシミールを除けば分離・独立運動は見られない。こ
れに対し、より社会的には同質性の高い中国では、台湾・チベット
・新疆ウイグルのように、事実上独立していたり、独立運動の炎が
燃えているところが少なくない。

電力・道路・港湾といったハードのインフラは、中国の方が進んで
いる。しかし教育・金融制度・法整備などのソフトのインフラは、
インドの方が進んでいる。特に近代文明の摂取と英語の普及に関し
ては、インドは非西欧諸国の中でも優等生といえる。

●中国の不安

産業化の実績では、これまで中国の方がインドを大幅に上回ってき
た。しかし長期的にはどうなるか、まだわからない。中国のこれま
での利点は次の 3点だった。

1.非民主的であったため、素早い決定が可能だった。「先富論」(
まず沿岸部を豊かにして、それから内陸を豊かにする)で地域的格
差を拡大しても無視していられた。
2.東アジアの高度成長地帯に隣接し、華僑による大量の投資が役立
った。
3.1960年代以降、共産圏との経済関係が希薄化していたので、ソ連
圏の崩壊によるマイナス効果がほとんどなかった。

これらの利点は、限界に来ているか、あるいはなくなりつつある。
「先富論」は、経済がテイクオフしてしまうと有効ではなくなる。
民主化するか、平等社会を維持するか、どちらかでないと経済発展
は維持できない。少なくとも情報化時代には、非民主国であること
は大きなハンディになろう。またカリスマ的リーダーの不在により
、「人治」主義が機能しない恐れもあるし、昨今の中国脅威論で、
中国への投資がとまる恐れもある。

●インドの利点

これに対し、インドの利点は次の 3点。

1.政治・法律制度が整備されており、予測可能性が高い。インドは
悪名高き官僚主義の国であるが、少なくとも透明性はある。
2.高度な技術者、経営者が大量に存在し、英語が普及している。市
場経済にも長い経験がある。中国の華僑に相当する印僑が世界に散
在し、世界各国の企業の重要なポジションを占めていることも強み
。特にコンピュータのソフト開発などには最適。外国語の習得能力
も高いので、日本語のソフトが作られるようになるかもしれない。
3.「現状維持国家」というイメージが定着した。中国の脅威論の高
まりに比べ、インド脅威論はパキスタン以外では聞かれなくなった。

これらの利点はなくならない。ゆえに21世紀には、中国の時代から
インドの時代へと向かうのではないかと考える次第である。


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