1978.ブッシュ政権と科学界の対立



ブッシュ政権と科学界の対立    S子   
   
 2004年11月4日、米国ブッシュ大統領の再選が決まり、「アメリカ
史上、戦時に再選を求めた大統領が落選した例はない。」(「アメ
リカ 過去と現在の間」p225)ということが見事に証明された
結果となった。このことにより、少なくとも9・11事件以降の米
国が戦時体制下にあり、向こう4年間も戦時体制という現状維持を
米国民が支持し、対テロ戦争をブッシュ大統領とともに戦い抜いて
ゆくことを米国民が受け入れた、ということが明らかになった。

そのブッシュ大統領の再選により向こう4年間戦い抜くという意味
においては、科学者もまた同じだった。「ブッシュ政権はこの4年
間、政策に都合がよい主流派の理論を取り入れ、広く認められてい
る科学的な研究成果を無視しているというのが、科学者たちの主流
だ。これに対して政府側は、科学者は研究を政治目的に悪用してい
ると反撃している。」(「ブッシュ政権と科学界の対立、2期目は
どうなる?」(第一回))

ブッシュ大統領は米国南部のテキサス州出身で伝統的保守主義の流
れをくんでいる。米国南部と言えば、バイブル・ベルト地帯(米国
南部から西部にかけての一帯)と呼ばれるキリスト教原理主義勢力
があり、今回のブッシュ再選には大きく貢献しており強大な力を持
っている。

バイブル・ベルト地帯におけるこのキリスト教原理主義は聖書絶対
主義の立場をとっており、終末論やキリストの再臨を信じている。
もちろんブッシュ大統領自身も同立場にあり、その信仰心と宗教指
導者による導きによって、自らのアルコール依存症から脱出するこ
とができた。そのことがブッシュ大統領に「生まれ変わり」を強調
させ、個人的回心の重要性が国家のリーダーから語られることによ
って、宗教と政治の結びつきを深める結果となった。

歴代の米国大統領であるレーガンやクリントンも「生まれ変わり」
を自称し、宗教と政治の結びつきが見られたが、ブッシュ現大統領
の場合はそれが際立っており、宗教と政治の一致がより濃厚となっ
ている。それゆえに、ブッシュ政権支持基盤となっているキリスト
教原理主義勢力は不可欠な存在であり、今後のブッシュ政権への影
響は、彼らの意向を色濃く反映したものになるだろうということは
想定内である。

1970年代、近代産業主義の勃興により米国北部は都市化が進み
、文化的にも発展を遂げ、聖書の解釈にもリベラルで科学的な動向
が見られるようになった。反面、そういった近代産業主義から取り
残された米国南部の貧しい人々の間には、反リベラル、反科学とい
った米国北部への反発姿勢が自然と醸成されていった。そうしてよ
り伝統的、保守的なものにとらわれ、疎外感や貧しさからくる精神
的救いを宗教に求める気持ちが強くなり、米国南部は聖書絶対主義
へと傾倒してゆく。

ブッシュ政権支持基盤にあるこのような背景とブッシュ大統領自身
の回心とが相乗効果となって、ブッシュ政権の反科学的姿勢、特に
ダーウィンの進化論は教育上好ましくないと否定的に受け止められ
ているようだ。この世の全ては神の被造物であるとする聖書絶対主
義者にとっては、近代主義の過程において登場した進化論は、聖書
そのものを否定するとして脅威とみなされている。

「遺伝子関連の研究と政策に特化したシンクタンク、「遺伝子・公
共政策センター」のキャシー・ハドソン所長は「ブッシュ政権と科
学や科学者はとても不安定な関係にある。同政権が政治的な目的に
合わせて科学をねじ曲げているのではないかという、疑惑があるた
めだ。また、科学に対する心からの情熱が同政権に欠けていること
も理由の1つだ」と現状を説明する。」(「ブッシュ政権と科学界
の対立、2期目はどうなる?」(第一回))

特にES細胞研究に関してはブッシュ政権と科学界の溝は深く、「ブ
ッシュ大統領は01年8月、「受精卵を壊してつくるES細胞は倫理
的に問題だ」として、新たに作ったES細胞を使う研究への連邦予算
の支出を禁じた。」(asahi.com 国際ニュース 南北アメリカ 「
幹細胞研究「厳しい倫理を」全米科学アカデミー」 2005年 
4月 27日 より)

また、温室効果ガスの排出と地球温暖化には深い関連があることも
、過去4年間の調査結果から科学者たちは確信を強めてきている。
が、京都議定書は経済効果に悪影響を及ぼすとして環境問題に積極
的ではないブッシュ政権への失望は大きい。それどころか気候変動
に加担していると思われる産業分野への規制は、同政権下では今後
ますます緩くなるだろうと言われている。

さらには、化石燃料業界を利する研究開発予算は増加しているにも
かかわらず、太陽エネルギーやバイオマス・エネルギー等の環境に
優しいエネルギーに関する研究開発予算は削減されている。

このようにブッシュ政権と科学界の対立関係は悪化する一方だが、
その背景には宗教と政治の一致が色濃くあることは避けられない。
ブッシュ政権と科学界の対立は、米国南部と米国北部の対立であり
、キリスト教原理主義と近代主義進化論の対立であり、宗教と科学
の対立であり、互いに相容れないもの同士が反発しあっていること
がわかる。

今後4年間ブッシュ戦時体制下において科学界は、より窮屈で厳し
い状況を戦い抜いてゆかなければならない、ということは明らかだ
。では、なぜこのような対立関係が生じてしまったのかを私なりに
考えてみたいと思う。

米国を考える場合、宗教の自由を求めて脱ヨーロッパ、反ヨーロッ
パとなり、新天地へ移住したピューリタンの存在はどうしても欠か
せないだろう。そして、その行為こそに他者とは明らかに違うとい
う彼らの存在の特異性、優越性、選民思想が既に潜んでいる。とい
うか、彼らピューリタンの自己認識にこれらの天啓的要素は欠かせ
ないし、それが強くある。

そして、米国が歴史の浅い非歴史国家であり、その国家形成の根源
が宗教に端を発している宗教国家であることの事実は、米国の存在
意義を考える上で重要だ。米国が非歴史国家であるからこそ寄るべ
きものが希薄となり、宗教への依存がより深まっていると言える。

それが聖書絶対主義へとつながり、伝統的で保守的な思考へと米国
を向かわせており、そういう土壌を作り出しているのが冷戦を勝ち
抜いた米国型資本主義という競争原理主義である。

米国型資本主義という市場原理をグローバルに推進することで、富
める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなってゆくとい
う極端な二極社会構造が米国内に生じる。その結果、一部少数の富
める者と大多数の貧しい者とがひとつの国家に共存しなければなら
ない。同じ米国民でありながらそこに生じる不条理や矛盾は、両者
間に埋めようのない深い溝を作り、特に貧しい者には未来への可能
性を閉ざしてしまいかねないほどの高い障壁となる。

米国型資本主義がもたらした貧富の格差拡大による多数派の貧しき
者は、否が応でも国家形成の原点である宗教に救いを求めなくては
ならなくなる。そして今や米国型資本主義優位という状況下、米国
南部のバイブル・ベルト地帯のようなキリスト教原理主義勢力がや
がて全米を凌駕してしまうかもしれないのである。

宗教の自由を求めて新天地へ向かったピューリタンは、その純粋性
、正当性、優越性が非歴史的に証明されたかたちとなり得ても、彼
らが精神的に辿り着き、落ち着いた先は、結局、聖書絶対主義とい
う超保守的なものでしかなかった。反ヨーロッパとなり新たな自由
を求めたはずが、結局は超保守主義となった矛盾をどうとらえたら
よいのか。

新大陸へ移住した当初は宗教のもと平等であった人々の間に、近代
化や都市化が進むにつれて、聖書の解釈も徐々に変化し、対立や差
別が生まれた。そして、冷戦終結で米国型資本主義の勝利が自明と
なり、グローバリゼーションとともに世界に浸透してゆく。そこか
ら新たな対立や差別が世界に広がってゆく。

米国型資本主義が世界で容認、受容されればされるほど、米国内だ
けでなく世界中に新たな対立や差別が広がってゆくという矛盾は、
ピューリタンが宗教の自由を求めて新大陸に移住し、自分達の正当
性を証明し得たとしても、現実、彼らピューリタンが辿り着いた先
は聖書絶対主義という超保守主義だったという矛盾とどこか似てい
る。

米国が自らの正当性、優越性を強く主張し、米国の言うところの自
由を拡大すればするほど、世界は対立や差別を深め徐々に自由を失
ってしまう。この矛盾を米国はどのようにとらえているのだろうか
。

しかし、この世界はコインのように相対するものが表裏一体となり
、そうした矛盾を内包しつつも存在している世界でもある。そのあ
るがままを米国はどうしても受け入れられない。二元論思考でどう
しても自分達は優位でいたい。その優位を裏付けるためには、「神
によって選ばれた民」である必要がある。だから聖書絶対主義の立
場を取らざるを得なくなる。

そうなると、ダーウィンの進化論における突然変異の遺伝子の変容
が進化の原動力のひとつとなっているという説は、到底米国には受
け入れられないのである。

米国が生み出したあらゆる矛盾を内包した世界をあるがままに受け
入れ、時にはその矛盾と対峙し、心に葛藤を生じさせながらも、自
らを鍛え、あらゆる困難を乗り越え生きてゆく精神力を身につける
には、米国の歴史はまだ浅すぎるということだろうか。

参考文献 「アメリカ 過去と現在の間」 古矢 旬著 岩波新書
     「空気の研究」 山本七平著 文春文庫

http://www11.plala.or.jp/jins/newsletter2004-9.files/senryaku.htm
アメリカン・メシアニズムの陥穽
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/technology/story/20041119303.html
ブッシュ政権と科学界の対立、2期目はどうなる?(第一回)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/technology/story/20041122309.html
ブッシュ政権と科学界の対立、2期目はどうなる?(第2回)
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041124304.html
ブッシュ政権と科学界の対立、2期目はどうなる?(第3回)

http://www.asahi.com/international/update/0427/003.html
国際ニュース 南北アメリカ
幹細胞研究「厳しい倫理指針を」全米科学アカデミー
http://www.jafta.or.jp/keyword/biomass.html
バイオマスエネルギー
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米国の減退について
                       Fより

どうも米国の衰退が覆い隠せなくなっている。軍事技術でも電磁兵
器は英国企業が開発したものであったし、RMAに必要な電子兵器
もイスラエルで開発したものである。新しい技術はどんどんバイオ
の世界になっているが、この研究を米国は禁止する可能性が出てき
ている。

このため、財務赤字、貿易赤字、家庭の赤字の3つの赤字と新技術
の開発をしないという対応を米国がするなら、米国の優位性を失く
すことになり、経済面での復活もできないことになる。

金融的にもドル暴落を起こさないために、金利を上昇させている。
このため、ホーム・ローンもその金利を上昇させているし、金利が
低いことで家を買った家庭のローンが大きな負担になる。

この傾向を後押しするのが、バイオなどの研究の禁止や開発費の補
助をしないことで、製品での優位性をなくして米企業が衰退するこ
とになると、米国の衰退が決定的になる。日本の自動車メーカに米
ビック3は負けている。米国の開発力が落ちていることが原因であ
る。

S子さんによると、エコビジネスも米国では発展しない。しかし、
このエコビジネスが次の産業になる可能性もある。しかし、そこの
産業はないために、そこでも利益は確実になくなる。米国はどこに
いくのであろうか??

日本は米国に追従しているために、米国の衰退は日本の負担を増す
ことになり、他人事と見過ごすことができない。


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