1922.縄文人の意識で生き抜けろ



人類文明の終焉の時代を縄文人の意識で生き抜けろ : 
きまじめ読書案内 山田昌弘著「希望格差社会」(2004年、ちくま書房)

・かつてのようにはいかない時代

 ここ数年、多くの日本人が実感しているように、これまで安全だと思ってい
た企業の終身雇用、大学生の雇用機会、銀行預金、はたまた家族の絆といった
ものが、それぞれ不安定でリスクを抱えたものになってしまった。自己責任で
対応せよと言われるけど、どうしてよいかわからないというのが大方の本音で
はなかろうか。

 また、「一億総中流」と思われていたものが、勝ち組・負け組、金持ち層と
貧乏層、結婚して子どものいる標準家庭と離婚や未婚のシングル家庭に二極化
している。都心の高級マンションの販売が増える一方で、ホームレスや自己破
産の人数も増えている。

 高度成長期は、まじめに働いていれば、給料も上がっていったし、会社の中
での昇進もあった。結婚して子どもを持つことが当たり前だった。かつてのよ
うにいかない時代に入ったのだ。

 この厳しい現実を、さまざまな統計資料を示しながら、明らかにしてくれる
のが本著、「希望格差社会」である。残念ながら、問題解決の道筋は明らかに
していない。

 著者は、数年前に「パラサイト・シングルの時代」という本の中で、親と同
居することで生活費を節約し、ういたお金で人生を楽しむ若者たちを紹介した
ばかりであるが、1998年以降、本書に紹介しているような暗い現実が目立つよ
うになったとする。

 私はこれまで漠然と感じていた経済や社会の閉塞感が、統計として示された
ことはよかったと思う。とくに昨今の幼児虐待の原因を、経済的自立も十分で
ない若者カップルが「できちゃった婚」によって子どもを授かる事例が増えて
いるところに求める点において、統計資料は説得的であった。

・ 時間目盛り(Time Scale)が狭すぎる

 本著に刺激を受けて多くの人が紹介や感想をウェブ上で公開しているので、
ここではあえて本書の長所やよいところにはあまり触れずに、本書の問題点を
指摘し、本書が論じていない解決策について考察してみようと思う。

 本書が現在の諸問題を論ずるにあたって、その比較対象を高度経済成長期に
求めている点は、はたして妥当であろうか。現在の閉塞状況は人類の文明史の
中で位置付けるのが妥当でないか。また、今後の状況についての中長期的な見
通しが欠けている。

■ 高度経済成長期こそが異常な時代であった
 
 著者は昭和32年生まれであるので、もの心ついてから大人になるまで一貫し
て、経済的には高度経済成長の時代であり、政治的には、自社55年体制という
政権党と野党の立場が固定した、政権交替のまったくない安定期であった。自
衛隊の合憲性違憲性をめぐって自民党と社会党がお互いに対立した意見を表明
してはいたものの、自衛隊を海外に派遣せよとの同盟国からの要請もなく、平
和の念仏だけ唱えていれば平和運動といえた時代であったといえる。

 そのような時代しか知らない著者の世代(私を含む)にとって、ついつい高
度成長時代が考察の基準になってしまうが、人類史・文明史的には、おそらく
高度成長期こそが他に例をみない異常な時代といえるのだろう。

 経済が成長するためには、常に外部から新しい資源や価値が持ち込まれる必
要がある。極端な話、地球上で経済成長がいつまでも続くためには、地球も
いっしょに大きくなる必要がある。毎年、新しい資源が見つかり、人口が増大
し、高速道路や新幹線の新路線の工事が行われなければならないのである。そ
れを実現するために国家財政もどんどん膨らむ必要がある。そんなことは不可
能だ。

 したがって、高度成長の時代と比べて、現代の閉塞状況を憂えることは、必
ずしも正しい行為とはいえない。あの経済状況の再来は、むしろ望んではいけ
ないことであると思う。

■ 二極化・リスク化は地球規模の文明的現象

 また、社会階層の二極化は、1980年代はじめに、長銀総研(当時)の小沢雅
子氏が「幕開ける階層消費社会」という報告によってはやばやと指摘していた
ことだ。日本人がまだ一億総中流と思っていたときに、社会の階層分化は着実
に進んでいたのである。パラサイト・シングルという現象は、むしろ表面的、
一過性のものに過ぎなかった。

 社会のリスク化も、今に始まったことではない。これまで資本主義社会は、
社会の中で開発・搾取し尽くせる限りの資源を利用し尽すたびに、大航海時
代、植民地獲得、世界大戦などのイベントを起こして、新たに開発・搾取でき
る資源を手に入れてきた。行き詰まると、イベントを起こしてフロンティアを
開拓するという歴史の繰り返しであった。

 1986年にブラックマンデーを迎えたころ、西側資本主義圏は、新たな限界に
達していた。この時期に東西対話が急に増加したことから考えると、経済の行
き詰まり状況を打ち破るために、東西対立は終局を迎えることになったと思わ
れる。

 BRICとしてひとくくりにまとめられるブラジル、ロシア、インド、中国が、
昨今急激な経済成長を遂げているのも、新たな開発領域として世界資本主義に
取り込まれたからであろう。そして、1991年から10数年間、BRIC諸国は、環境
にも生態系にも社会の公平性にも配慮しないまま、がむしゃらな経済発展を続
けてきた。21世紀に入って、BRIC諸国の成長に陰りが見えてきて、いよいよ地
球上にはどこにも開発されるべきフロンティアがない開発不能の時代に入った
のである。

 これは地球規模で人類文明が行き詰まったということである。

■ 現在の閉塞感は過渡期的なもの、状況はもっともっと悪化する

 こう考えると、著者が示す暗い現実、現代社会を覆う閉塞感は、おそらく過
渡期的なものであろう。多くの人が感じていながらも口にすることを恐れてい
るように、これから急激に状況は悪化するだろう。

 すでに石油資源は枯渇する傾向にあり、世界的に油価が上昇している。温暖
化、砂漠化、異常気象が進み、世界の穀物生産は不安定化して、食糧不足の時
代を予感させている。

 中国の経済成長により、中国で排出される大気汚染や海洋汚染が偏西風や黒
潮によって日本にやってくる。日本社会の少子化・高齢化は、ますます進み、
地域は社会として成り立たなくなり、強盗団や窃盗団がのさばるようになる。
年金や健康保険の財源が不足する一方で、消費税が増税される。

 日本で引きこもりや集団自殺をする若者が増えているのは、日本の若者たち
の感受性が鋭く、未来を予見しているからかもしれないと、私は思っている。
日本は、文明の最先端を走っているのだ。

・ 人口減少を恐れるな、縄文人の生き方を模索せよ

 本著は、ひとつの解決策として、若者のために逆年金を与えて自活できるま
で保護することを提案しているが、数百万人のフリーター・ニート相手にそん
なことができるはずもない。そんなことが解決につながらないことは、著者自
身も気づいておられることだろう。

 稚拙ではあるが、私なりに解決策を考えてみた。

 おそらくこれから日本の人口はますます減少する。エネルギー危機や食糧危
機が発生すれば、海外からの化石燃料や穀物・魚介類・肉類の輸入が一気に難
しくなる。おそらくそれは逃れようもない現実として、数年か十数年後にやっ
てくるだろう。

 そうなったらそうなったまでのこと、気に病むな。あるがままの現実に肩の
力を抜いて適応するまでのこと。運悪く若くして死ぬとしても一回きりだ。そ
のときには、勝ち組も負け組もない。お金があっても、買うものが足りなけれ
ばお金のもつ意味も変わってくる。年金なんて、あてにするな、計算するだけ
時間の無駄。

 暖房や冷房がなくても、人間は死なない。毎日おいしいご馳走を食べなくて
も、生き延びることはできる。酒やタバコなどの嗜好品がなくなり、電気がな
くなって夜更かしをしなくなれば、今よりよほど健康な生活を送ることができ
るだろう。

 自己実現は、経済的なものと無縁なところに求めよう。どんな時代になろう
とも、人の役に立てるような能力を身につけるのだ。あるいは俳句や短歌のよ
うな伝統的な詩作に励めば、心は豊かで感動多いものとなる。

 生まれてきた以上、精一杯生きてみよう。そのために、縄文時代にこの列島
に住んでいた先人たちのように、太陽や大地・海などの自然を畏れ敬い、自ら
の五官を働かせて生きていくことを心がけるべきである。

 未来に希望をもつ必要はないが、絶望する必要もない。ただ生きよ。

(拙文を二二六事件の将校と兵士達の霊に捧げる。2005.2.26 得丸久文)
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「地球に謙虚な」様々な活動
                  平成17年(2005)2月28日
         「地球に謙虚に」運動代表     仲津 英治

 連日雨か曇りの日がここ台湾北部では続いています。日本海性気
候に近いのでしょうか。ご多用の中、お世話になっています。今日
は私が所属したりしている活動を一部紹介させてください。忙しい
方はパスしてください。

1.びわ湖自然環境ネットワーク
  よしよしプロジェクト          寺川 庄蔵代表
私が属しています、びわ湖自然環境ネットワークでは、水の浄化力
を持つヨシ(葦)の復活を目指すよしよしプロジェクトなど、琵琶
湖とその周辺の自然回復運動に取り組んでいます。

 最近ではは霞ヶ浦において粗朶(柴)消波工を使った水辺の回復
プロジェクト(アサザという水生植物による浄化)が大規模に実施
されてきたことから、その成果と課題などについてNGOと行政が連携
して現場を見学し、次のステップにつなげようとしています。

具体的には移植ヨシを湖岸に安定させる竹筒つくり、移植ヨシが根
付くまで琵琶湖の波から守る粗朶(柴)消波工つくりなどです。
応援方をお願いします。
ご関心のある方は、寺川庄蔵さんまで  
Eメール t-shozo@mx.biwa.ne.jp
 ご参考    アサザ基金          飯島 博代表
        http://www.kasumigaura.net/asaza/

2.気候ネットワークと関連セミナー
     自然エネルギーの促進       浅岡 美恵 代表
 **持続可能なエネルギー政策の実現戦略**
−新しい環境エネルギー政策パラダイムへの政治的リアリティを目指して−

 日時:平成17年(2005)3月6日(日)13:00〜16:45
 参加費:1000円
 場所:国立オリンピック記念青少年総合センター 国際交流棟国際会議室
                       (東京都渋谷区)
 講演者・パネリスト:
  エリック・マーティノット(米ワールドウォッチ研究所上級研究員、中国精華大学)
  飯田哲也(「自然エネルギー促進法」推進ネットワーク代表)
  吉岡斉(九州大学大学院教授、原子力長計策定会議委員)
  逢坂誠二(北海道ニセコ町長)
  畑直之(気候ネットワーク常任運営委員)他
 申込み:電子メールで「gen@jca.apc.org」へ
 問合せ:「自然エネルギー促進法」推進ネットワーク  TEL:03-5318-3332
 気候ネットワーク URL・http://www.jca.apc.org/kikonet/

3.「路面電車再生トラスト」運動
                         ホリ さん
 岐阜市内の路面電車お存続の運動が続けられています。その担い
手の ホリさん(いつもカタカナのお名前です)からのE-Mailをご
紹介します。

【岐阜未来・勝手に通信】255・岐阜の路面電車と街の未来を
平成17年(2005)3月末での名古屋鉄道の岐阜市内路面電車撤退は決
定しています。しかしながら、関係各所の合意に基づく路面電車再
生の具体的場面の到来を祈念する住民感情があるのも確かです。私
たちは、路面電車再生に望みを託しうる環境作りを目指し「路面電
車再生トラスト運動」を実行します。
「路面電車再生トラスト」運動のHP
 http://www.mirai.ne.jp/~design/trust/

以上
仲津 英治
「地球に謙虚に」運動代表

E-Mail ekona-e@kdr.biglobe.ne.jp 
「地球に謙虚に」運動ホームページ No.1
http://www.hpmix.com/home/ise/kenkyoni/ 
「地球に謙虚に」運動ホームページ No.2
http://www5f.biglobe.ne.jp/~kenkyoni/
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日本美の特質、清らかさの美意識   
   
 ほほえましさなど楽天性が深層に/自国の素晴らしさ語れない日本人
日本画家 鳥居 礼
儒仏伝来以前の固有の美意識
 
 (世界日報)掲載許可
 もし欧米人に日本文化とは何かという質問をすれば、すぐに「武士道」「サムライ」と
 いう答えが返ってくるだろう。日本のことをもう少し深く知る人は「侘(わび)」「寂
 (さび)」と答えるかもしれない。しかし、当の日本人に同じ質問をしたら、明確に答
 えられる人はほとんどいないだろう。日本人ほど自国のすばらしさを語れない民族も希
 である。

 そもそも「侘」とは茶道の精神を表した言葉で、初期の茶人村田珠光によって物質的な
 不足によってもたらされる精神的充足感を求める侘茶(わびちゃ)が唱えられたことに
 起因する。また「侘」とは「正直に慎しみ深き人をいう」ともされる。利休の侘茶は
 「和敬清寂」の四文字で表されると言われており、和は仏教の六和、敬清は人の性格、
 寂はさびしさの情操に加え禅宗の悟道である「寂(じゃく)」の意を表したものとされ
 る。

 「寂(さび)」もまたこの「和敬清寂」の思想に基づくものであり、やがて俳諧に取り
 入れられ芭蕉の「侘」の様式となり、さらに茶道と結びついた水墨画なども寂の絵画と
 解釈されるようになった。

 「武士道」は鎌倉時代以降、儒教思想に裏づけられて大成した道といえるが、「侘」
 「寂」も含め、外国人が良く知るそれらの日本の美意識は、ともに禅や儒教などの外来
 思想の強い影響下に成立したものといえよう。

 それでは、それらの美意識の深層に流れる日本古来の美意識とは一体何なのだろう。神
 道思想や祭祀、社殿、あるいは美術作品の中で特に日本化しているものを熟視すること
 によって、日本美の特質がわかってくる。儒学伝来や漢字使用、仏教伝来などはたかだ
 か三世紀以降のことであり、また千七百年ほどの歴史しかない。その表層文化の下にあ
 る日本固有の美意識を削ぎ出すことは、それほど難しいことではないのである。

稲作文化などに由来した特質

 まず日本美において最も重要な特質は「清らかさ」であるといえる。神道でも清めると
 いう行為が極めて重んじられ、それは日本固有の肉食禁忌(きんき)の伝統を生み出し
 ている。神道における「清め」の思想が、日本人の生活のあらゆる部分に浸透しており、
 それが清らかな美的表現を生み出す原動力になっているといえよう。日本には遙か古代
 より固有の稲作があり、それが宮廷と民衆が一体となった祭祀と生活の根本原理となっ
 ていた。美しい水と美しい稲による清らかな仕事を最高の生産手段としていたことが、
 日本美において「清らかさ」が最も重要な特質とする原因となっているだろう。稲作が
 伝来のものであるなら、このような根本原理となることは絶対にない。稲作を伝えたと
 される大陸では、なぜ稲作が根本原理にならず、肉食禁忌が行われないのだろう。この
 日本固有の「清らかさ」という美意識は、常に自然と一体のものであることも忘れては
 ならない。

 次に日本美の中で注目すべきは「初々しさ」である。霞の中から立ち登る朝日のごとき、
 あるいは産まれ出た赤ん坊のごとき初々しさ、これが日本美の根本にある。日本美術史
 上、最高峰に位置する俵屋宗達の描く、水地蓮禽(すいちれんきん)図の画中の鳥の表
 情は、これ以上初々しくほのぼのとしたものは無いようにも思える。また御伽草子(お
 とぎぞうし)や大津絵に見る何か拙くなつかしい表現にもこの初々しさを感じることが
 できよう。

 さらに宗達作品、御伽草子、大津絵には、共通するもう一つの特質がある。それは「ほ
 ほえましさ」である。作品に登場する人物や動物達の表情はみなほほえましい。こまっ
 た鬼の顔でさえ何かおかしげである。「ほほえましさ」の表現は日本が本来楽天的であ
 るのと深い関係がある。土着的な人たちのみがもつ楽天性である。

 「明るさ」も日本美の特質の一つである。清らかな夜の表現もあるが、とりわけ朝の明
 るさを日本人はめでる。日本美術では朝の明るさが表現されていなければ一流とは言え
 ない。戦後はこの日本独有の明るさが美術から消えてしまった。

 「まろやかさ」も日本の美的表現上の大きな特徴の一つとして挙げられよう。この「ま
 ろやかさ」 は大和絵の表現に一番顕著に現れている。対象を文様化し単純化してまろ
 やかな線で仕上げる。それは日本人が古来、心のまろやかなることを尊んだ証しである。
  

「めでたさ」に大成する日本美 

 日本美の中で忘れがちなのは「豊かさ」である。これは侘た禅の美意識と全く異質の情
 緒である。日本の神々は五穀豊穣なることを最も喜び、稲穂の稔は「黄金色」として表
 現された。この豊かさの重要性を尊んだのが織田信長と豊臣秀吉であり、両者は金箔の
 絢爛たる桃山文化を生んだ偉人である。伊勢神宮の社殿は平明で一切無駄がないが豊か
 である。決して侘しくない。

 そして、これらの日本美が一体となって完成されたとき、それは「めでたさ」となって
 表れる。「めでたさ」は日本特有の情緒で、翻訳不可能と言われている。この「めでた
 さ」がさらに洗練され昇華し「神々(こうごう)しさ」となり最高位の表現となるので
 ある。
Kenzo Yamaoka
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京都議定書の発効と今後の対策   
  
 CO2大国米国の取り込みがカギ/環境先進国日本は主導的役割を
経済評論家 鳴澤 宏英
遺憾千万な米国の議定書離脱 かけがえのない地球の環境保全は、人類共通の重要かつ喫
緊の課題である。二酸化炭素(CO2)をはじめとする地球温暖化ガスの排出量削減を目
指す京都議定書の発効は、この壮大な目標に向けての第一歩として評価される。ただその
内容には欠陥が多く、効果は限定的だ。この点については、内外のメディアが詳細に報道
しているので、ここでは重要な論点に絞って私見の一端を披露してみたいと思う。
 (世界日報)掲載許可
 (1)、米国の離脱。〇一年、就任直後のブッシュ大統領は、米国経済の利益に反する
 との理由で、早々(はやばや)と議定書からの離脱を表明した。同国の単独行動主義の
 端的な表れであり、遺憾千万と言うほかない。世界の温暖化ガスの約四分の一を占める
 米国は、議定書によって九〇年水準より7%の削減(〇八−一二年まで)を義務づけら
 れていたから、米国離脱の影響は甚大だ。

 二期目に入っても大統領は路線変更は頭にないようだ。わが国は欧州連合(EU)と協
 調して米国の議定書への復帰を求めるべきだが、それと並行して第二段階(一三年以降)
 の枠組み合意に米国を取り込むことも重要である。なおオーストラリアが米国に追随し
 ている事実も見のがし得ないところだ。

 (2)、発展途上国の立場。議定書採択の時点で、途上国側は、地球温暖化をもたらし
 た張本人は先進国であり、そのツケを途上国に回すのは不当、との論理をたてに、強硬
 に反対した。たしかに環境(公害)問題を巡っては、汚染者負担の原則(Polluter 
 Pays Principle・PPP )があり、途上国側の主張はその国際版として一理あるのは
 事実。結局、途上国には削減義務を課さないとの妥協が成立した。

 爾来、中国やインドは、温暖化ガスの排出を顧慮することなく、工業化を進め、今や先
 進工業国と並ぶガス排出国となった。両国を除外した枠組みではあまりにも抜け穴が大
 きい。

ロシア、EUは「濡れタオル」

 (3)、ロシアの批准と議定書の発効。ロシアは途上国ではないが、削減負担はゼロで
 ある。その背景は、九七年当時、同国経済は低迷し、温暖化ガス排出量が落ち込んでい
 た上に、広大な森林のもつCO2吸収効果が大きいという特殊事情だ。議定書批准に踏
 み切ることで、排出量の55%を占める締約国の批准という条件が充足され、米国抜きで
 の議定書の発効が実現することとなった。それ自体歓迎すべきことだが、その裏には、
 同国の冷徹な計算があった。

 ロシアは今後省エネ、環境負荷の軽減によって排出量の削減を図る余地が大きい。「濡
 れタオル」の論理で、絞ればいくらでも水が出てくる。それを排出権取引に乗せて外国
 に売却し、外資を獲得する道が開かれる。しかもいざというときには、離脱という選択
 肢がある。どのみち損はないとの読み筋である。

 (4)、EUの立場。それに比べるとEUの立場はきびしいものがある。まず削減のノ
 ルマが8%で最大である点については、やはり濡れタオルの論理が当てはまる。西欧諸
 国は総じて石炭への依存度が高く、石油さらには天然ガスに転換することで、環境負荷
 を軽減する余地が大きかったからである。加えてEUは元来環境への関心が格段に高く、
 風力、太陽光、バイオマスなどのエネルギー源の開発を積極的に進めてきた。その結果、
 九〇年水準維持はともかく、排出ガス量の増加を最小限に抑えることに成功した。しか
 し今後の課題は重い。EU内でも慎重論が台頭し、足並みの乱れも現れている。なおド
 イツの場合は、旧東独が褐炭(brown coal)を多用していたという特別の事情もあり、
 排出ガス削減への「のりしろ」は英仏より幅広いという利点があった。またEU諸国で
 は、企業間の排出権取引、そのための市場制度の面でも他に先行している。この点も見
 のがしてはならない。

CDM活用と環境税の検討を

 (5)、わが国の重い課題。EUに比べるとわが国の背負うノルマはきわめてきびしい。
 九〇年比の削減率は6%だが、現在の排出量はすでに8%上積みされており、〇八−一
 二年までに14%の削減を求められている。

 この目標達成はきわめて困難と言わざるを得ないが、それにもまして問題なのは、わが
 国が、二度にわたる石油危機を経験して、省エネ努力を極限まで進めてきたこと。その
 結果、「乾いたタオル」―が現実となった。「濡れたタオル」との対照的な事態は、皮
 肉にもわが国の負担を加重する結果をもたらしたのである。

 それに対応するには、正攻法とみられる各種の対策とともに、ふたつの有力な方策があ
 る。その第一は、京都メカニズムの活用である。「クリーン開発メカニズム(CDM)」
 とは、わが国が対外投資なり技術移転によって、相手国の温暖化ガス排出削減に貢献し
 た場合、それをわが国の実績としてカウントできるという方式である。もうひとつは環
 境税(炭素税)の導入。これについては、北欧の先例が参考となる。ノルウェーの環境
 担当大臣は、筆者に対して、炭素税導入についてふたつの狙いを強調した。@価格メカ
 ニズム(経済原則)による省エネ効果を期待したもので、税歳入増が目的ではない。A
 それゆえ税収は一般財源とし、それに見合う減税によって、歳入中立化を図った――の
 二点である。示唆に富む先例だと思う。
     Kenzo Yamaoka
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H2A成功/宇宙開発の進展に夢ふくらむ   
   
  気象衛星「ひまわり5号」の後継機で航空管制機能を持つ運輸多目的衛星(MTSAT)
 1号機を搭載した国産の主力ロケットH2Aが種子島宇宙センターから打ち上げられ、
 成功した。
 二〇〇三年十一月の失敗から一年三カ月ぶり。開発を手掛けてきた宇宙航空研究開発機
 構(JAXA)の関係者の喜びはひとしおだろう。ロケット技術の信頼回復への道筋を
 付けたことを喜ぶとともに、日本の宇宙開発に大きな弾みがつくことを期待したい。

ひまわりの後継機が誕生

 わが国の国産ロケット開発は、H2からH2Aへと引き継がれてきた。H2時代五回の
 成功の後に一九九八、九九年と二度失敗。H2A時代を迎えて、五回成功したが、〇三
 年に失敗して大きな損失を出した。

 天気予報の雲画像でなじみだった気象衛星「ひまわり」が姿を消した後、〇三年から寿
 命を過ぎた米国の中古衛星「ゴーズ9」に頼って気象観測を続けてきた。今回のMTS
 ATの成功は待ちに待った出来事だった。

 成功の最大の理由は、前回のH2Aの失敗の原因を徹底的に追求して、改善を図ったこ
 とだ。

 政府の情報収集衛星二機を搭載して打ち上げられた6号機は大型補助ロケットの噴射口
 が損傷した。具体的には、噴出口が二千から三千度の燃料ガスにさらされて穴が開き、
 分離用の導火線が焼き切れて、補助ロケットを分離できなかったのだ。

 JAXAは今回、噴出口の形を円錐型から、ふくらみのある釣り鐘型に改良して高熱ガ
 スにさらされにくいようにした上、その板を厚くし強度を高めた。ロケットの燃料圧力
 を下げるという措置を施した。JAXA関係者のこうした課題の克服が結実したのであ
 る。

 MTSATが軌道に乗ったことで、ひまわりの後継機が誕生したことになる。十日後に
 は静止軌道に乗り、梅雨前の五月末にも気象観測を開始する。

 昨年末のインド洋大津波をはじめとして、全世界的に異常気象が続いている。わが国も
 昨年は集中豪雨と中越地震などの災害が相次ぎ、その観測のための新しい気象衛星が望
 まれていた。

 今回の成功で台風などの観測精度が向上する。また、年末ごろには航空管制機能も運用
 をスタートし、太平洋上や山間部を飛行する航空機の一層の安全運航が期待できる。

 気象衛星やその他の商業衛星の必要性はいうまでもないが、何よりも衛星を打ち上げる
 主力ロケットの安定が不可欠だ。今回、安定した主力ロケットが確保できたのかといえ
 ば、まだまだ不十分だろう。一層のコストダウンも求められよう。

 今回の打ち上げ前に、一時的なトラブルがあった。これは基礎的な技術面での不具合が
 各所にあるとの「警告」であるととらえたい。

 JAXAは今後、MTSATの2号機を今秋に、月周回衛星を来年度に打ち上げる予定
 だ。さらに〇七年度には超高速インターネット衛星、〇八年度に準天頂衛星、〇九年度
 に全球降水観測衛星などの打ち上げを目指している。

国家目標達成へ支援を

 こうした、政府やJAXAが目指す、宇宙航空開発の成否はひとえに、主力ロケットH
 2Aの精度の向上に掛かっているといえよう。宇宙開発には巨額の資金を必要とするが、
 次代のわが国の科学技術創造立国という国家目標の達成には、不可欠である。国民も、
 より大きな夢と希望を求めてバックアップしていきたい。

衛星ビジネスに追い風  三菱重、受注活動再開へ
H2A成功
 H2Aロケット7号機の二十六日の打ち上げ成功は、商業衛星打ち上げビジネスへの参
 入を目指す三菱重工業や関連業界に追い風となる。今回失敗すれば「ロケット製造能力
 なしとみなされるのは確実」(三菱重)とされていた。三菱重は同日「H2Aの信頼性
 が確認されたと考えているが、さらなる信頼性向上に努める。打ち上げサービスの受注
 にも力を注ぐ」とのコメントを発表。現在中断している受注活動を早期に再開する方針
 だ。

 国産ロケットの製造、打ち上げは二○○六年に宇宙航空研究開発機構から三菱重に移管
 される。同社は、移管後をにらみ○三年から商談をスタート。しかし、同年十一月の6
 号機打ち上げ失敗で、技術面の信頼性が大きく揺らぎ、事実上凍結状態が続いた。受注
 活動再開に対する期待は大きい。

 昨年の通信・放送の衛星打ち上げ市場は、全世界で十四基と低迷したが、三菱重の幹部
 は「商用衛星市場は冷え込んでいるが、次第に回復する」と予想。「その時に備え力を
 蓄えたい」と意欲を示す。

 ただ打ち上げ価格は、競争激化で五十億−七十億円程度に下落している。八十億−九十
 億円と割高な日本にとり、コスト削減など受注獲得に向けた課題も少なくない。

開発強化に期待−奥田会長
 奥田碩日本経団連会長は二十六日、H2Aロケット7号機の打ち上げ成功を受け「停滞
 が続いていた日本の宇宙開発の再起に向けた朗報であり、まことに喜ばしい」などと歓
 迎するコメントを発表した。
 同会長は「宇宙技術は、通信・放送、気象観測、安全保障などの社会基盤となっている」
 と指摘。「国として維持向上していかなければならない重要な基幹技術の一つだ」と述
 べ、政府の取り組み強化を求めた。世界日報 掲載許可
 Kenzo Yamaoka
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首都直下地震/近隣の自主防災組織を見直せ   
   
  経済被害は最大百十二兆円、避難者は最大七百万人。驚くべき数字が並んだ首都直下型
 地震の被害想定の最終報告だった。
 政府の中央防災会議の専門調査会が公表した同報告は、生産力の低下などの間接被害額
 を割り出し、さらに昨年十二月にまとめた人的被害に新たに鉄道や高速道路などの事故
 死亡者数を加え、最大死者数を約一万三千人に上方修正している。

訓練参加数が減る東京

 それでも実際の被害はこの数字を上回るのではないか。例えば、地下街での死者は都心
 西部直下型(新宿直下)で約四十人と想定されているが、火災が発生した場合は果たし
 てこの程度で済むのだろうか、そんな疑問も浮かぶ。

 政府は最終報告を踏まえて今夏までに被害軽減対策を策定し、本格的に地震対策に乗り
 出すとしている。さまざまな角度から対策に当たってもらいたい。だが、国任せでなく
 国民レベルでも喫緊の課題であると自覚しておきたい。

 阪神大震災では亡くなった六千四百三十三人のうち、約八割が倒壊建物の中での圧死か
 焼死だったが、首都直下型でも全壊建物が約八十五万棟に上り、死者一万三千人のうち
 八千人が火災、三千三百人が建物倒壊によると想定している。それだけに住宅の耐震化
 をなおざりにしてはなるまい。

 それと同時に重要になるのが、近隣の助け合いシステムだ。震災では道路がマヒし、消
 防隊による救急・消防活動といった公助が寸断され、まずは自助と近隣による共助が重
 要になるからだ。

 実際、阪神大震災では町内会活動が活発で、日ごろから付き合いの多い地域ほど犠牲者
 が少なかった。倒壊した家屋に誰がいるか掌握でき、救出活動がスムーズに進んだのが
 その理由である。

 神戸市では町内会で自主防災組織を作っていたのは10%にも満たなかった。長く革新市
 政が続き、防災組織を「戦前の隣組の復活」として拒否され、自衛隊との防災訓練も皆
 無だった。それ故、町内会活動が活発なところでも、日ごろの訓練も器具もなかった。
 倒壊家屋から助け出そうと必死で瓦礫(がれき)を取り除こうとしても素手ではびくと
 もせず、ついに救い出せなかったという悲劇が数多くあった。日ごろから斧やジャッキ
 などの使い方をマスターしていれば多くの命を助けられたはずだ、との反省が生まれた。
 これが自主防災組織が必要な背景である。

 そう考えると首都は心配だ。隣に住む人の顔も名前も知らずに暮らし、同じ町内にいて
 も連帯感も互助精神もないケースが少なくない。首都直下型の被害想定では住宅密集地
 での被害が甚大だが、こうした地域では狭い道が多く、公助が期待できない。その分、
 被害が大きくなる。だから自助と共助がより重要になるはずだ。

 東京では自主防災組織作りは進んできたが、最近は形骸化が目立つ。東京消防庁による
 と、防災訓練に参加した人は阪神大震災の九五年には約百三十万人いたが、〇二年には
 百万人、〇三年には九十万人と年々減少している。また防災訓練や防災組織への参加経
 験のない人が都民の半数を超え、高齢化で防災組織を運営できない町内会も急増し、地
 域共同体の崩壊現象が進行している。

「阪神」の教訓を生かそう

 首都直下型の被害想定がまとまったのを機に、改めて近隣の自主防災組織がどうなって
 いるのか、見直しておきたい。防災や減災のみならず、復旧においても欠かせない。阪
 神大震災の教訓を風化させてはなるまい。世界日報  掲載許可
      Kenzo Yamaoka


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