1913.日米豪同盟



日米豪同盟成立の可能性について検討する。   Fより

中国のアジアでの覇権行動は、東アジアに勢力を持つ華僑とビジネ
ス上で関係が深い日本にとって非常に悩ましいことである。日本企
業の代理店を止めて、日本企業と競合する中国企業の代理店になる
という行動が今後大きな問題になるし、華僑たちは基本的に親中国
である。

中国のビジネス人は日本と商売をうまくやった方が得であると気が
着いている。しかし、軍部や政治家が日本を敵視しているし、民主
主義国家ではないために、いつ軍部が政治家たちを脅すか分からな
いために、中国人ビジネス関係者も海外資産を持っている。いつで
も逃げ出せる準備をしている。このような中国の現状を見ると、米
国だけではなく、豪州も日本も共産主義のままの中国とは深い友好
関係にはならないし、中国国内も安定しないと見ている。バブル崩
壊後、中国がどこに行くのかが問題である。私の見解は、資本家が
民主化を要求するようになると見ている。

しかし、米国は中国と日本が激突するように、米国の政治雑誌で尖
閣列島は中国の領土で日本の領土ではないとして、中国活動家の声
を載せる。その活動家に、日本人を核攻撃すると言わせている。米
国は欧州がロシアという敵が居なくなって、米国に逆らい始めたこ
とが日本でも起こると恐れている。このため日本と中国を敵対関係
にして、米国と日本の同盟関係を強化している。ドル防衛に日本が
必要である。欧州やロシア、中国などがユーロに移行している。

そして、ブッシュ政権は中国を将来の敵として、日本に中国の大陸
弾道弾ミサイルの迎撃を依頼するために、海上配備型迎撃ミサイル
(SM3)の開発を急いでいる。ミサイルが高速になっている大気
圏外での迎撃である陸上配備型迎撃システムはうまくいかないが、
ブーストの段階にある初速のミサイルを落とす海上配備型ミサイル
システムはほとんど100%迎撃に成功して、順調にその開発が進
んでいる。

日本もこの開発に参加しているが、この迎撃システムを稼動できる
のは日本、米国、スペイン、韓国のイージス艦を持っている国だけ
である。イージス艦の値段が1000億円以上と高いために、韓国
でもやっと1隻しか持てない。スペインも1隻であるが、日本は6
隻〜8隻に、米国も20隻程度と日本の海上兵器システムは米国に
ついで高い水準にある。もう、軍事力は人数や飛行機数や戦艦の数
ではなく、個々の兵器がシステムされて高度化されているかどうか
が問題なのです。この点、日本の海上自衛隊の装備は世界的にも米
国についで高い水準になっている。このため、日本の防衛力は攻撃
的にも高い水準にある。ここをマスコミは国民に知せていない。

この海上配備型迎撃システムは監視衛星や他のイージス艦やレーダ
サイトとのデータリンクが重要であり、このトータルシステムを構
築できるのは、日本と米国などに限られている。このため、中国の
核ミサイルの軍事力を押さえるためには、ミサイル発射の初期に発
見して、イージス艦からのSM3ミサイルでの迎撃しかない。
米国にとって日本のイージス艦と迎撃システム全体が米国の命綱に
なっている。この事情は豪州にとっても同じことである。

ハワード首相が日本と豪州の同盟を考えているようだ。中国を仮想
敵国にするのは日本と同様である。豪州は米国より東アジアに近い。
バリでの爆発テロ事件で多くの豪州人が死んでいるように東アジア
は豪州人にとっても危険である。この点、日本は安全でかつ豪州と
同様なレベルの都市文化を持っている。

このため、東アジア市場開発でも日豪協調体制を築いていくことが
必要になっている。日本と豪州は補完関係にある。農産物・資源は
豪州。機械は日本と競合しない。冬と夏が逆転しているために、豪
州人が冬のニセコに押しかけてくる。千歳空港に冬だけケアンズか
らの直行便がある。ニセコが豪州での夏、日本での冬の観光地にな
っている。このように豪州と日本が近くなってきている。豪州では
小中学校で日本語を第2外国語として教えている。このため、豪州
の多くの人が日本語ができる。日本人の退職者の多くもゴールドコ
ーストやケアンズに行っているし、住んでいる。そのための日本人
向けのビザもある。また、両方の文化レベルが同様であるために、
安心して住めることになっている。
このため、米国の入国制限が厳しくなると、ハワイやグアムではな
く、日本人は豪州に観光に行くことになると思う。

米国も日本と豪州の友好関係が深くなり、日米軍事同盟、米豪軍事
同盟を一緒にした3者間の軍事同盟にする方向になると見る。
この第一歩として、沖縄に駐留する米海兵隊の訓練基地を豪州に設
けるとした。今までは日本が米国との軍事同盟に乗り気ではないた
めに、豪州との軍事協力もできなかった。2+2の日米協議で軍事
同盟化したために、今後、豪州との軍事協力が多くなるようである。

このような背景から、豪州軍のサマワ派遣になったように感じる。

しかし、一方では英国やカナダが米国との同盟から離脱する方向で
ある。盗聴システムであるエシェロン同盟である米英豪加の同盟が
崩れるようだ。英国もカナダも明確な仮想敵国がないために、軍事
で資源を途上国から強奪し、そのおこぼれもくれない米国との同盟
の離脱を国民から迫られている。このため、カナダが迎撃ミサイル
開発から降りている。英国もイージス艦を米国から買わないし、戦
闘機もF−15やF−16ではなく、ユーロファイターにするよう
だ。英国もカナダもEUとの関係を強化するようである。

この点、豪日ともに、冷戦構造が残る東アジアの近くにいるために
、中国と言う仮想敵国がいるために、米国との関係を維持するしか
ないようだ。日本は中国との戦略対話を通じて、民主化を要求して
一日でも早く、東アジアの冷戦構造を崩すことが求められているよ
うに感じる。中国の軍事力が大き過ぎることが問題である。
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豪、自衛隊警備でイラクに追加部隊=小泉首相の要請受け

 【シドニー22日時事】オーストラリアのハワード首相は22日
、イラク南部サマワに駐留する日本の自衛隊の安全確保に当たるた
め、イラク南部に450人の豪州軍部隊を追加派遣すると発表した
。約10週間で展開するという。
 ハワード首相によると、今回の追加派遣は、イラク南部に駐留す
るオランダ軍の撤収が決まったのを受けて英政府が要請した。同首
相はまた、小泉純一郎首相からも18日夜に電話があり、要請を受
けたことを明らかにした。 
(時事通信) - 2月22日13時1分更新
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日本に米国説得を要請 6カ国協議で中国

 中国が核問題をめぐる6カ国協議に北朝鮮を復帰させるため、王
家瑞・共産党対外連絡部長の訪朝結果を受け、日本に対し、米国に
柔軟な対応を取るよう説得を要請していたことが25日分かった。
複数の協議筋が明らかにした。
 26日にソウルで開かれる日米韓の6カ国協議首席代表会合をに
らんだ要請とみられるが、日米は先にワシントンで行われた安全保
障協議委員会(2プラス2)で「協議への無条件復帰」を北朝鮮に
求めることで一致しており、日本は6カ国協議の議長国中国と同盟
関係強化を再確認した米国の間で難しい対応を迫られることになり
そうだ。(共同)
(共同通信) - 2月25日21時47分更新
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<米国防総省>海上配備型ミサイルでの迎撃実験に成功

 米国防総省ミサイル防衛局は24日、海上配備型迎撃ミサイル
(SM3)による短距離弾道ミサイルの迎撃実験を行い、成功した
と発表した。SM3の迎撃実験はこれまでに計6回行われ、5回目
の成功となった。SM3は北朝鮮などのミサイルに対抗することを
想定したもので、自衛隊のイージス艦にも07年度から搭載される。
(毎日新聞) - 2月25日19時35分更新 
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米のミサイル防衛 迎撃実験また失敗 実戦配備遠のく

 【ワシントン=近藤豊和】米国が推進するミサイル防衛(MD)
を主管する米ミサイル防衛庁は十四日、アラスカ沖から発射した模
擬弾道標的ミサイルを太平洋上のマーシャル諸島から発射した迎撃
ミサイルで撃ち落とす実験に失敗した、と発表した。
 迎撃ミサイルが発射できなかったのが原因で、地上配備型の迎撃
実験の失敗は、二〇〇二年十二月と昨年十二月に続き、連続三回目
。MD予算が削減傾向となるなかで実戦配備はまた遠のくことにな
り、議会からの厳しい反発に拍車がかかりそうだ。
 ミサイル防衛庁報道官は失敗の原因について「迎撃ミサイルの地
上機器の問題」と説明しているが、詳細は判明していない。
 昨年十二月の実験失敗も迎撃ミサイルそのものが発射できず、ミ
サイル防衛庁は「コンピューターソフトの不具合で信号送信不良を
起こした」などと説明し、早期実験再開に自信を示していた。
 迎撃時の命中精度などの問題以前に、ミサイル発射そのものに二
度も失敗したことは、MD開発が深刻な状況に置かれていることを
示している。
 ミサイル防衛をめぐっては、国防総省が二〇〇六会計年度の予算
計画で、今後六年間に総額五十億ドルを削減する方針を明らかにし
ている。
 〇六年度の十億ドルの削減方針については、弾道ミサイル発射の
初期段階での迎撃能力を高める技術の開発費用について、米議会か
ら「もっと基本的な技術の整備が必要」と強い反発があった結果だ
った。
 ブッシュ政権はすでに、アラスカ州の基地に、地上配備型六基を
配置するなどしているが、実際には、使用できる状況にはなく、
〇四年末までの実戦配備という方針は事実上延期されている。
(産経新聞) - 2月16日2時51分更新
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ミサイル防衛構想 カナダ不参加 配備遅れの米に打撃

 【ニューヨーク=長戸雅子】カナダのマーティン首相(自由党)
は二十四日、米国が協力を求めていたミサイル防衛(MD)構想に
ついて、「われわれが努力を傾注する分野ではない」と述べ、MD
への不参加を公式表明した。
 米国は今月十四日に行った弾道ミサイル迎撃実験に、昨年十二月
に次いで失敗した。実戦配備が遅れるなかでの隣国カナダの不参加
表明は米国にとって打撃となることが避けられない。
 マーティン首相は最初に政権に就いた〇三年にMD構想支持を示
したが、昨年六月の総選挙で自由党が少数与党に転落。国民世論が
参加に否定的なうえ、政権運営にはMD構想に反対する政党も取り
込む必要があるため、今回の決定に至ったとみられている。
 米国とカナダは早期警戒にあたる共同組織「北米航空宇宙防衛司
令部」(NORAD)を運営。カナダが不参加なら、NORADを
利用したMD配備は事実上困難になる。
 米国のセルッチ駐カナダ大使は「自国に向けて発射されるかもし
れないミサイルに対抗する権限をなぜ放棄するのか理解できない」
と、マーティン政権の決定を批判した。
(産経新聞) - 2月26日3時0分更新
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『波立つ日中関係』   
  
 中国への厳しい安保的視点欠く/日米分断・離間を助長
 このところ論壇では「中国」をテーマとした特集が多くなってきた。六カ国協議などで
 北朝鮮への影響力が期待される一方、原子力潜水艦の日本領海侵犯や東シナ海の石油・
 ガス田開発といった拡張主義的動向、さらに急速な経済発展などにおける存在感増大が、
 そうした背景にあるのは間違いない。編集委員 黒木 正博・世界日報 掲載許可

 その中で「論座」が「波立つ日中関係」と題して特集を組み、「アジアを舞台に21世
 紀のゲームが始まっている」で識者に語らせている。

 この座談会の顔触れは、寺島実郎、榊原英資、西部邁の三氏だ。一昔前だったら“保守
 派”のカテゴリーに属しそうな識者たちだが、その反米・親中国的スタンスを読むと、
 朝日新聞社発行のこの雑誌に違和感なくハマっていることに隔世の感を受ける。

 もちろん、三氏とも「反米・親中国」を文字通り掲げているわけではない。だが、その
 底流にある米国の対外政策や日米同盟への厳しい、あるいはシニシズム的な批判は舌鋒
 鋭いのに引き換え、中国に対する安全保障への警戒感欠如、経済を軸とした「大中華圏」
 への可能性、期待感を称揚している。相対的な中国への接近ぶり、親近感は否めない。

 例えば、寺島氏は中国に対し「歴史も含めた文明、文化の総体に向き合うぐらいの気迫
 で立ち向か」うべきだとの一般論はいいとしても、冒頭のガス田開発や尖閣諸島、原潜
 の領海侵犯などを「小骨の多い議論」と片付け、それに吸い込まれてはいけないと主張
 しているのはいただけない。

 首をかしげるのは、「アングロサクソンの分断統治」という概念だ。日本は日英同盟、
 日米同盟と二十世紀の四分の三を占めてきたアングロサクソンの国との二国間同盟を
 「成功体験」と受け止めているが、実際は「内部対立を助長して自分の影響力を最大化
 する」ことがアングロサクソンの常套(じょうとう)手段だという。米国のアジア戦略
 をみてもアジアに覇権国家をつくらず、米国の影響力を最大化することが目的だという
 のである。

 西部氏もこれに呼応して、いわゆる親米保守派が自らを正当化する際に「中国の脅威」
 を挙げて「何はともあれアメリカに抱きつかざるを得ない、という道筋で日米安保にし
 がみつく」姿勢は「根本において狂ってる」と斬って捨てている。

 榊原氏に至っては「きわめて反中国的な過激な言説というのは、たいてい親米保守の人
 から出てきてますね。こうした言説は、アメリカでは存在しないんですよ。…日本のき
 わだった特徴です。西部さんが言われた分断統治の作戦に引っかかってるわけですよ」
 と冷笑し、中国批判を没論理、異常とまで論難している。

 要するに、三氏の共通項は、米国と中国は敵対する局面はあるものの、基本的には「親
 和力」が働いており、それを中国が怖いからと米国にくっついていれば対中政策はうま
 くいくと考えるのは間違いであり、日本は日本なりの自主性を持ってアジア戦略・戦術
 を組み立てていくべきだとの主張だ。

 これを結果的に「日米分断・離間」のススメと言わずして何というべきだろう。

 中国の経済発展にしても、榊原氏は、その貧富の格差という矛盾を「ダイナミズムの根
 源」であり、それをテコに成長のプロセスを経るもので一概にマイナスではないという
 とらえ方だ。共産党支配の質は変わっており、華僑ネットワークがアジア中に広がって
 中国が再び大中華圏を形成することは十分予測できるという。

 だが、そうした経済的側面を強調する一方で、その背景にある中国の軍事的覇権的な
 「ダイナミズム」を、故意にか忘れてはいないか。
     Kenzo Yamaoka
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<チャイナ・ウォッチング>「開発区之森+中国解体新書」提供
【バックナンバー:http://www.chinatomy.com/report/archive.htm】
                     No.92 2005年2月23日
              ★アメリカ人の目に映った中国★
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ここに私がワシントン留学時代に買った一冊の本がある。「Sentimental 
Imperialists(感傷的帝国主義者)」、副題には「東アジアにおけるアメリカの経
験」という文言が添えられている。(*1)

ごく簡単に説明すると、本書はアメリカの東アジア政策が合理的判断ではなく、
それを超えたところにある人間の「情」に支配されてきたことを明らかにしよ
うとした著作だ。

● アメリカにとっての中国とは?

実はこの本、大学院で受講していたクラスの文献リストに入っていたものでは
ない。授業で使う教科書や参考書の類が多数売られている市内のクレイマー書
店に出向いた際、アジア関係の本が並んでいる書棚でたまたま見つけたものだ。

ワシントンではこれ以外にもたくさんの本を買ったわけだが、いまこの上海に
持ってきているものはあまりない。アメリカのアジア外交に関するものとなる
と、これだけだ。

なぜ、この一冊だけを日本から持ち込んだのか?それは、本書がそれぞれ専門
領域の違う3名の学者(中国、日本、フィリピンが専門)による共著であると
いう点も関係していれば、アメリカと東アジアとの関係が始まった18世紀末
から現代までの長い期間を比較的概略的に、またわかりやすく説明していると
いう理由もある。

それ以上に気に入っている点は、この本が「アメリカにとって東アジアとはど
のような存在なのか?どのような意味を持つのか?」という、ある意味、哲学
的な命題にこだわり、東アジアという場を通じてアメリカという国(あるいは
文明)自体を解き明かそうとしているからだ。

だいぶ長いこと本棚にしまわれていた本だが、米中関係の行方が最近気になり
始めたのをきっかけに、久しぶりに読むことにした。そして、読んでみると、
やはり面白い。

この最近気になり始めた米中関係というのは、実のところ、昨年春にメルマガ
を始めたころからずっと書きたいと思っていたテーマだ。念のため断っておく
と、米中関係を楽観的にとらえる一部の識者とは異なり、私はワシントン時代
も含めて、一貫して米中関係に真の意味での「蜜月関係」あるいは「同盟関係」
はありえないと主張してきている。

磁石に例えると、米中は根源的な部分で反発しあう力が強すぎて、N極同士あ
るいはS極同士の関係にしかなれないと考える。近年、反テロとイラク戦争で
「ないだ」ように見える両国関係も、ブッシュ2期目の今年以降は次第に摩擦
が大きくなると観ていた(最近の動きを見ると、実際、そうなりつつある)。

いわば、そうした米中関係の今後を占ううえで必要な過去を振り返るという作
業において、長い間本棚に眠っていた本書に手が向かったということだ。残念
ながら、本題のほうは今後発行する別のメルマガに譲ることにして、ここでは
本書の第一章「アメリカ人の頭にある東アジア」を紹介しながら、アメリカと
中国がかかわりを持ち始めた18世紀後半ごろのアメリカ人の目に映った中国
について触れてみたい。

● 独立戦争と高い利潤

そもそも、アメリカと東アジアの関係が始まったのは、いったい何時のことな
のだろうか?同書によると、それは1784年に「Empress of China(中国の
女帝)」と命名された商船がニューヨークとカントン(現在の広州)の間を航海
したときだとされる。つまり、アメリカと中国のつき合いは商業・貿易を通じ
て始まったことになる。

こうした米中間の商業的関係を理解するうえで大事なのは、当時のアメリカと
イギリスの関係を把握することだ。この時期、アメリカは対英独立戦争に対す
るイギリス側の報復措置により、西半球においてイギリスが牛耳っていた貿易
制度からシャットアウトされることになり、そのため新しい貿易ルートを探す
必要に迫られていたと同書は説明する。その新しいルートが中国に向かうルー
トだったのだ。

見知らぬ大文明・中国に対するイマジネーションが膨らむ一方、実際の中国貿
易がもたらす高い利潤も大きな魅力となった。上記「中国の女帝」号の航海は
25%もの利潤をもたらしたといわれ、その高い利潤を求めてアメリカ東海岸
の各港から中国行きの商船が出航するようになり、19世紀初めには年間にお
よそ50回の航海が中国向けに行われたという。

ちなみに対中貿易でもうけたボストンの貿易商の多くは、若い子息を中国に送
り込み、商売の管理を彼らに任せている。同書には、こうした若者たちが帰国
したときには巨万の富を手にしていたという立身出世物語がいくつか紹介され
ている。

ただし、彼らの仕事は所詮金儲けであって、中国と深くかかわる必要もなけれ
ば、中国について鋭い観察眼を向ける必要もない。てっとり早く儲けて、早く
本国に戻りたい、それが多くの商人にとっての本音だったと思われる。(時代は
変われども、その構図は現在の駐在員にも当てはまるのではないだろうか。さ
すがに発展した上海などにいる駐在員のなかには「できるだけ長くとどまりた
い」あるいは「本国に戻りたくない」というものが増えてきているのだろうが、
異国での仕事に慣れない人であれば、通常の任期といわれる3年程度の駐在を
終えて、さっさと帰国したいと思っている人もいるに違いない。不便な地方都
市ともなると、そうした帰国願望はさらに高まるのではないだろうか。)

同書によると、中国に渡った商人の多くが中国の文化、体制、さらには人々に
戸惑い、さらには敵意さえ感じだという。もちろん、なかには中国を深く理解
し、中国人との間に深い友情を築いたアメリカ人もいるにはいたが、「犬を食べ
る習慣や纏足(てんそく)、きしむような音楽」を「特異なもの」ととらえ、外
国人を差別的な蔑称で呼ぶ中国人の排外思想に怒りを感じている。

なかでも現在の中国との対比で面白いコメントは、当時のアメリカ人商人の感
じた「中国人との商取引において普遍的に見られる不誠実さ」に関する個所だ。
「The Unwelcome Immigrant(歓迎されざる移民)」という著書のなかでスチュ
ワート・ミラーは、中国人に騙されて木でつくられたハムを買ったアメリカ人
の話を紹介している。本物に見せかけるため表面には本物の脂肪が塗られてい
たという。オーブンに入れた「ハム」がくすぶり始めてようやくニセモノだと
わかったのだ。さすがにいまどき木製のハムを売るようなところはないが、本
質的には、いまでも十分通用する話ではないか。

こうした中国に対する反応のうち、商人たちを最もいらだたせ憤らせたのは、
中国文明からダイナミズムがまったく感じられなかったことだという。その昔
マルコ・ポーロなどに称えられた偉大なる文明はいずこに――彼らがそう感じ
たとしても仕方のない状況が当時の中国にはあったのだ。彼らのように、「外か
らやってきた人間にとって、中国社会は停滞しており、西洋人が尊ぶ英雄的で
向上心にあふれた前向きの価値観が欠けているように見えたのだった」。

ちなみに同書は、彼らが感じた中国とアメリカの具体的な違いとして、「独裁主
義VS自由主義」「停滞VS発展」「異教徒VSキリスト教徒」「意気地なしVS
英雄」「(女子供に対する)虐待VSいたわり」などを挙げている。

とはいえ、こうしたダイナミズムの欠如も商人にとっては「特殊でイライラす
るもの」と認識されたに過ぎない。表面的といえばそれまでだが、基本的には
「仕事が終わればさっさと帰る」ことの許された商人からしてみれば、深入り
までして中国社会とかかわろうとするほうが異常だろう。そこまでやるインセ
ンティブはよっぽど中国にほれ込まない限り、ありえないことだ。

● 宣教師の鋭い観察眼とその影響力

そんな彼らとは対照的に、中国にどっぷり浸かることを要求された集団がいる。
中国布教の使命を帯びて本国から派遣された宣教師たちだ。現地の言葉や習慣
をマスターし、その社会に深く入り込み、彼らの心をとらえてキリスト教に導
き入れるという難しい課題を背負って中国入りした連中だ。

当然、彼らの中国を観る目には鋭いものがあり、実際のところ、宣教師たちが
本国に送った情報は、後々、アメリカの対中政策およびそれの裏返しとしての
対日政策に大きな影響を与えることになる。

その影響力について書かれた本としては、大学院時代にブックレポートを書い
た「The Missionary Mind and American East Asia Policy(「宣教師の考えとア
メリカの東アジア政策」)、1911-1915」という本がある。これを読むとアメリカ
国民、マスコミ、政策担当者に宣教師の与えた影響がいかに大きかったかとい
うことがよくわかる。(*2)

また、三井物産戦略研究所の寺島実郎所長による「ふたつの『FORTUNE』」と
いう著書も非常に参考になる。本書は、日米戦争に向かう過程、そしてその後
のアメリカのアジア政策において大きな影響力を行使した人物、ヘンリー・ル
ースの創刊したフォーチュン誌の「日本特集」をとりあげたもので、宣教師の
息子として山東省に生まれたルースの考え方や彼の与えた影響を知るうえで非
常に有益な本だ。(*3)

ちなみに、そのルースは同誌以外にもタイム誌や写真雑誌として一世を風びし
たライフ誌などを創刊、それを通じて親中国的な論戦を展開している。

● 西洋文明の最先端としてのアメリカ

では、これだけアメリカの対アジア政策に影響を与えることになった宣教師た
ちを中国に駆り立てたものとは、いったい何だったのか?もちろん人口が多く、
布教のしがいがあると感じたこともあるだろう。さらに、昔の一大文明を見て
みたいという好奇心もあったに違いない。

しかし、前掲の著書「感傷的帝国主義者」によると、より根源的な理由を知る
には、アメリカがアメリカ自身をどう見ていたか、それを考えなければならな
いという。

結論から述べるとすれば、アメリカ人は自分自身を「西洋文明(つまりはキリ
スト教文明)の最先端」ととらえ、しかも自らの体現する文明が「(歴史的発展
段階として)最もダイナミックかつドラマチックな段階にある」と見ていたと
同書は指摘する。

そのダイナミックな文明圏からやってきた商人や宣教師が中国で発見したのは、
すでに触れたように、いまではすっかり停滞してしまった文明だった。こうし
た停滞を「仕方がない」で済ませられる商人と異なり、宣教師にとってこれは
決して看過することのできない「深刻なる道徳的な退廃」と映ったのだった。
特に、「賭博、飲酒、間引き(新生児殺し)、女性差別」などが「退廃」のまぎ
れもない現れと見なされたという。

● 「汚くて容赦ない病弊」

同書のなかで紹介されている証言をいくつか見てみることにしよう。

まずは、この時代を代表する宣教師で後にアメリカにおける中国学の基礎をつ
くったといわれるS・ウェルズ・ウイリアムズは、中国を比較的、好意的に見
ていた学者であったにもかかわらず、それでもその社会を「欠陥文明」と呼ん
でいる。さらに、寧波で活動していた一人のバプティスト宣教師は1850年
の書簡のなかで、「中国人は多くの観点から見て、地球上で最も愛らしさに欠け、
最も希望のない民だ」と記している。また、別のある書簡では、中国人が「記
述不能で言葉にできない、理解できない汚くて容赦ない病弊に急速に落ち込み
つつある」と書かれている。

彼らが問題視しているのは決して「汚い病弊」そのものではない。問題なのは、
人々がその中に「容赦なく」落ち込みつつあることだったのだ、と同書は指摘
している。要するに、せっかく宣教師が救いの手を差し伸べても、彼らは地獄
に自ら落ち込んでいくわけであり、その点が宣教師にとって「きわめていらだ
たしい」ことだったのだ。

ちなみに、こうした中国社会に対する当時のアメリカ人宣教師が抱いたフラス
トレーションと対をなすのが日本に対する評価の高さだ。19世紀半ばの開国
以来、日本社会の急速な近代化を目にしたアメリカ人の多くが、「汚い病弊」か
らなかなか抜け出せずにいる中国とは異なる「優等生」を日本に発見している。
日本人を規律正しく、勇気をもって変革に臨み、道徳心豊かな民族と見なした
のだ。このあたりの「発見」については、以前のメルマガで書いたようにトム・
クルーズ主演の映画、「ラスト・サムライ」が参考になる。(*4)

予断だが、先ほどアメリカ人の対中観と対をなすのが対日観と述べたように、
1784年から始まったとされるアメリカとアジアの関係には、われわれ日本
人が受け入れなければならない、ある厳然たる国際関係の現実がある。それは、
アメリカにとって日本とは限りなく「サイドショー(つけ足しのショー、余興)」
に近い存在なのだという点だ。メインの出し物はというと、もちろん中国だ。

少なくとも私がこれまで学んだ限りでいえば、アメリカ人の頭のなかにはまず
中国という存在があって、それを中心にして日本への対応が決まるという伝統、
習性といったものがあるとの印象を持つ。決してその逆ではない。その冷徹な
現実をわれわれはもう少し冷静かつ客観的に理解しなければならないと思う。
(さらに、そこから敷衍していえることは、戦後半世紀も続いた日米蜜月時代
とは、あくまでも歴史的、地政学的な特殊環境が生み出した変則的状態だった
のではないかということだ。少なくとも私はそう思う。決して未来永劫に継続
可能な「当たり前」あるいは「天賦」の状態などではない。)

● 西から東に逆流する文明

さて、中国社会を自らの対極にある「退廃のきわみ」と見たアメリカ人、中国
人が話す言葉に対しても半ば八つ当たり的とも思えるさんざんな評価を下して
いる。いわく、中国語とは「人々を悲惨な倒錯にとどめおき、教化させないた
めの道具」として悪魔がつくった言葉だ。もっとも、こうした評価については、
宣教師だけでなく商人の間にも同意するものがいたという。

とはいえ、当時の中国の悲惨な現実は、新興の独立国として国家創造の真っ只
中にあったアメリカ人を退かせるどころか、かえってそのファイティング・ス
ピリット(挑戦心)をくすぐることになったようだ。

新教と啓蒙主義という人類史上最先端の文明を宗教的・哲学的・道義的に支え
る特徴を持った新興文明であると自覚するアメリカ人にとって、朽ち落ちてし
まう寸前に見える中国社会と人民を救うことは、いわゆる「マニフェスト・デ
スティニー(自明なる運命)」を体現する絶好のチャンスとなるわけだ。

同書のなかでは、アメリカから中国に向かった最初の外交使節団の一人の発言
が紹介されている。

「昔は東から文明と知識がやってきたわけだが、いまや、数多くの文書の潮流
によって知識は西から東へと逆流しつつあり、われわれは教師の教師になった。
私は、いってみれば、文明を代表して中国に向かうのだ」

さらに私自身が考えるのは、中国を中心とするアジアこそが、アメリカの先進
性を証明し、教化する対象として成立する唯一の地域だったのではないかとい
う点だ。ヨーロッパには狡猾で手ごわい列強がいて、彼らはとてもアメリカの
手に負える相手ではない。アメリカのお膝元、ラテンアメリカはスペインやポ
ルトガルというヨーロッパ諸国がつくりあげたキリスト教色の強い地域であり、
教化する必要もないだろう。さらに、アフリカは地理的にも人種的にも離れす
ぎている。

すると残るのはアジアだけとなる。「昔は偉大だったが、いまや退廃のきわみに
達した文明をキリスト教文明の注入により再建する」――そうした壮大な目標
が、振興国家であるアメリカのプライドと使命感をいたく刺激したことは間違
いない。

● 変わらないアメリカの本質

さて、こうしたアメリカ人商人や宣教師による「赤裸々な」書簡や報告、今回
のメルマガを通じて、初めて目にされた方も多かったのではないだろうか。感
想はいかがなものだろう。

私自身の感想は、簡単にいえば、「アメリカという国の本質は変わらないな」と
いうことだ。さすがに現在では「キリスト教化」するとはいわないわけだが、
そのキリスト教精神を基盤に据えた「自由」と「民主主義」(さらにはその経済
的体現である資本主義)を世界に広めるということは、つい先日のブッシュ大
統領の演説でもはっきりと示されたアメリカの「ミッション(使命)」に他なら
ない。この強い自意識と目的意識、使命感、意志は21世紀の今日になって弱
まるどころか、逆に強くなりつつあるといっていいだろう。さながらアメリカ
自身の「原理主義」への回帰現象だ。

ただし、この使命感を現在の中国に当てはめることには多少の無理があるだろ
う。昔の宣教師たちが見たような「汚くて容赦ない病弊」は、そのほとんどが
昔の話となり、それどころかいまの中国は、少なくとも経済的には他のだれよ
りも資本主義を忠実に実行し、発展の真っ只中にあるからだ。そうした前向き
の前進を見せる中国に好意的な印象は抱いても、唾棄すべきマイナスのイメー
ジでとらえる人は少ないだろう。

次第に世界経済を引っぱる力を持った機関車となりつつある中国に対し、多く
の人が世界の先進的勢力の一つという見方を持ったとしてもおかしくない。少
なくとも実際の中国をある程度知るアメリカのビジネスマンや知識人、そして
指導者のなかには、そう思っている人が少なからずいるに違いない。

ただし、たとえ大枠ではそうだったとしても、昔の宣教師が見た「退廃」的特
徴が完全に消えたかというと、そうではない。現代アメリカ人の中国批判に耳
を傾ければすぐわかるように、人権意識の低さやニセモノの氾濫に見られる遵
法意識の希薄さ、中国社会一般に見られる公衆道徳・モラルの低さ、限られた
教育機会がもたらす無知など、開明的アメリカ人から見れば、その使命感をく
すぐられるところは依然としてあるだろう。

だが、アメリカ人にとって最も重要な分野はあくまでも政治だ。経済がいかに
発展しようとも、ほかの何にもまして自由を尊ぶアメリカ人にとって、政治的
な民主化がいまだに達成されず、「自由を束縛している」と彼らが考える体制を
続けている中国をそのまま放っておけるわけがない。「(中国を)いつか教化せ
ねばならない」と思っている人間は、ブッシュ大統領やその取り巻き以外にも
多数いるはずだ。

補足すると、保守派の強力な支持層となっているキリスト教右派だけでなく、
キリスト教徒一般にとって、神を否定する共産主義は悪魔の所業以外の何もの
でもなく、そこにはいかなる妥協の余地もない。以前のメルマガでも書いたが、
そのあたりの「アメリカの怖さ」を中国人は十分理解していないように思う。
確かに政治とは妥協の産物ではあるが、アメリカには決して妥協できない点が
あるということを理解しなければならないだろう。

それに、これだけ中国のことが世界のマスコミでとりあげられるようになった
としても、アメリカ人一般が中国のことをどの程度知っているかというと、基
本的に無知であるという事実には変わりはないだろう。(だいぶ昔、アメリカを
旅していたときに、フィラデルフィアのユースホステルで頭のよさそうな高校
生に真顔で聞かれた。地図上で中国を指差しながら、「日本はどこにあるの?」
と。一般の多くのアメリカ人にとってアジアはいまだに遠い別世界なのだ。)

いわば昔もいまもアメリカ人一般の頭には、中国を含む世界の他地域に関する
「空白」あるいは「真っ白な領域」があるわけだ。昔その領域を宣教師の報告
が埋めたように、今後中国のイメージを傷つけるような事件が起こるか、ある
いはそうでなくても何らかの理由で中国に対するネガティブなイメージづくり
が意図的に展開されでもしたら、急速にその知識の空白は灰色から黒色で塗り
固められてしまうことだろう。1989年の天安門事件を思い起こしてみれば、
すぐにわかることだ。

● 強力に刷り込まれたイメージ

そもそもアメリカ人の頭のなかには「中国=共産国家=独裁国家」という強力
な刷り込みがなされているのであり、元々そうした危うい基盤のうえに立った
アメリカ人の対中観が、何らかの理由で一夜にしてネガティブなものになる可
能性は絶えず存在するのだ。

それに関連して、数年前、上海市内にできたばかりのアメリカ系高級ホテルの
アメリカ人幹部と話したときに彼が披露してくれた逸話を思い出す。以前、テ
キサス州からやって来た人が彼のホテルに泊まり、次のようなことを真顔でい
ったのだそうだ。

「中国では口にジッパーをしておいたほうがいいと聞いてやってきたのだが、
そのとおりか?むやみに下手なことを口走ってはいけないのか?」

要するに、前述のごとく、中国とは共産党による独裁国家であり、その国では
アメリカ人も自由にモノをいってはいけないという理解だ。あれから数年が経
ち、少しはまともな情報がアメリカのマスコミでも伝えられているのではない
かと思うのだが、たぶん田舎となれば、このレベルを超えない可能性が大だ。

いずれにせよ、昔のように宣教師がアメリカの対中国、対アジア政策に多大な
影響を与えることはなくなった。しかしながら、ある意味、大統領自身が宣教
師の一人になってしまった時代にわれわれは生きているわけであり、その意味
で、ブッシュ大統領の宣教師的マインド(考え方)が今後、アメリカの対中国
政策を強く動かしていくような気がしてならない。

(*1)”Sentimental Imperialists: The American Experience in East Asia”
      by James C. Thomson, Jr., Peter W. Stanley, John Curtis Perry,
      Harper & Row, Publishers, Inc., 1981

(*2)” The Missionary Mind and American East Asia Policy, 1911-1915”
      by James Reed, Harvard University Press, 1983

(*3)「ふたつの『FORTUNE』―1936年の日米関係に何を学ぶか」
      寺島実郎著、ダイヤモンド社刊、1993年

(*4)「ラスト・サムライと中国」 メルマガ No.3 2004年4月12日
    www.kaihatsuku.com/Extra/shreport/shanghaireport09.htm

<チャイナ・ウォッチング>提供 掲載許可済み

     Kenzo Yamaoka


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