1894.バランシングORバンドワゴニング?



バランシングORバンドワゴニング? アルルの男・ヒロシ

 アルルの男・ヒロシです。
私の運営する掲示板「アメ政」に英字読売の以下の記事の紹介があ
りました。この記事については、日本の新聞でも一部紹介されてい
ます。

元記事
http://www.yomiuri.co.jp/newse/20050205wo03.htm

(引用開始)

中印台頭、アジアの世紀に 日本は選択に直面と米報告

 【ワシントン14日共同】米中央情報局(CIA)などで組織す
る国家情報会議(NIC)は13日、2020年の世界情勢を予測
した報告書を発表。「世界の新たな主要プレーヤー」として中国と
インドが台頭することにより、21世紀は両国に率いられた「アジ
アの世紀」になり、「日本は中国に対抗するか、追随するかの選択
を迫られる」と指摘した。

 アジア地域の火種である朝鮮半島、台湾海峡のいずれの情勢も
15年以内に「重大な局面が訪れる」と予測。これをどう解決する
かによって、アジアにおける米国の将来の役割、日本の地位が規定
されると強調した。

 報告書は20年の時点でも「米国があらゆる次元の力を持つ最も
重要な国家であり続ける」として米国中心の構造は維持されるとし
ながら、中国とインドの台頭は19世紀のドイツ、20世紀の米国
に匹敵し、地政学上「劇的なインパクト」を与えると指摘。両国の
台頭に伴う摩擦をいかに抑えるかが世界安定化の鍵になるとの見解
を示した。
(共同通信) - 1月14日16時17分更新

(貼り付け終わり)
まあ、この程度です。書いている記者が全文に当たっていないのか
もしれないですが。

全部はここです。長いのでサマリーだけもいいでしょう。
http://www.foia.cia.gov/2020/2020.pdf

>POLITICAL PULSE / Japan neglects pursuit of knowledge at its peril

いきなり、読売さん煽っておりますなあ。「日本は、てめえが危機
にあるってことを無視しちょる」ですか。

>Yoshio Okubo

この記者は知りません。ワシントン総局の方でしょうか 

>I am referring to a report issued in mid-January by the 
>National Intelligence Council, an advisory panel to the director 
>of the U.S. Central Intelligence Agency. 

ここがやった研究ですな。NICというのは、エズラ・ヴォーゲル
さんもここにいたことがあります。

http://www.cia.gov/nic/NIC_globaltrend2020_meth.html

>Titled "Mapping the Global Future," the report is an overview 
>of the world's prospects in 2020. 

でたー。シミュレーションだ〜。MITのリチャード・サミュエル
ズは日本専門のシミュレーション要員です。

まず、中国とインドの勃興を述べていますね。
そして日本については???

>As for Japan, the NIC report says the country faces an 
>"aging crisis(高齢化社会) that could crimp its longer run 
>economic recovery" and "may have to choose between 'balancing' 
>against or 'bandwagoning' with China," 

うぎゃー、でた!でた!国際戦略コラムのコバケンさんのいったと
おりだあ。この辺の用語はちゃんと理解しておかないと非道いこと
になりますね。前者「バランシング」(→バカポチ保守を煽って
アメリカが中国に日本をぶつける)、後者「バンドワゴニング」
(→東アジア共同体で日中連携)という風に読むのですかね。日本
がアメリカにバックパッシングできないということは、日本がバラ
ンシングする(覇権国アメリカから見れば、日本にバックパッシン
グ指させると言うことになるんじゃないかな?)

>The report states that it does not represent the views of 
>the administration of U.S. President George W. Bush. 

ブッシュ政権の方向性ではなくて、今後中期の予測(願望)ですか
ら当たり前ですな。

ただよく分からないのですが、以下の部分は、CIAの見解なのか
、読売の記者さんの見解なのか。ただ、いずれにしても、荒木懇談
会やマイケル・グリーンの意向を強く感じますがね。

>Japan needs to build up power in diplomatic, economic and 
>cultural areas--a particularly important area is science 
>and technology. 

>Because Japan is short on natural resources, knowledge is 
>its only means to elevate itself. Sophisticated scientific 
>technology ahead of those of other countries could contribute 
>to resolving problems common to all mankind. 
>Advanced technological strengths also could function as 
>a potential security deterrent. 

この辺の日本へのアドバイスは正論でしょう。日本は技術的に比較
優位をタモツしかありませんもの。

>Science and technology are too important to be left to the 
>private sector--the state to build a national policy that 
>under its own steam, implements long-term research and 
>development projects that are beyond the resources 
>of private businesses. 

むむ。ここも正論です。竹中平蔵やその提灯持ちのNTT解体論の
ジャーナリスト町田徹氏に聞かせてやりたい。

>Also indispensable is the state's participation in the promotion 
>of international cooperation in science and technology. 

しかし、単純なテクノナショナリズムはだめだよ、とクギを指して
いますね(笑)ここはマイケルの薫陶よろしきを得ている。

>However, most Japanese political parties and politicians have 
>little interest in scientific and technology policy. 

お前らがそうさせたんだろう、と思わないではありませんし、こう
いう技術開発推進論をいうことで、アメリカの下請けをやらせたい
という意図もあるのでしょう。

>An example of political apathy is a supercomputer called 
>the Earth Simulator, completed three years ago by the 
>Japan Marine Science and Technology Center (JAMSTEC) at 
>its Yokohama Institute for Earth Sciences. 

地球シミュレーターの話ですね。べーカー大使がびっくりたまげた。
アメリカは国家戦略の2番目にスパコンを置いている(一番目は核
融合らしい)

>The United States sees supercomputers as important because 
>they have an extremely significant military impact. 

やっぱり!

>The progress made in information and communication technologies 
>in the 1990s dramatically changed the military. 
>Supercomputers will become more important in the future 
>in many areas, including the development of nuclear weapons 
>and defense against cyber terrorism. 

ここはじっくりと読んでおきましょう。先日紹介した、
http://mitpress.mit.edu/journals/pdf/99003.pdf
と一緒にね。

>Because of its pacifist stance, Japan has separated military 
>objectives from benefits to people's livelihood in its quest 
>for science and technological development. 
>A direct example includes the principle of space exploration 
>solely for peaceful purposes. 

ほーら、やっぱり、下請けに使いたいんだネ!

>Okubo is the political news editor of The Yomiuri Shimbun. 
(貼り付け終了)

参考
1841.「バック・パッシングについて」
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/k6/161218.htm

未来ビジネスを読む 浜田和幸(シミュレーションの重要性について論考した本
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334933505/kokusaisenrya-22/

Encyclopedia Of United States National Security
Richard J. Samuels (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0761929274/kokusaisenrya-22/

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ミツコ              アルルの男・ヒロシ

 クーデンホーフ光子伝
木村 毅 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4306092054/kokusaisenrya-22/

蝶の埋葬―クーデンホーフ・ミツコ伝説
吉田 直哉 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000013831/kokusaisenrya-22/

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クーデンホーフ・光子(ミツコ)・・・・黒髪の伯爵夫人

http://homepage2.nifty.com/TAMACHAN/MItsuko/Mitsuko.htm
ヨーロッパで最も有名な日本人というと、ミツコでしょうね。本名
:青山ミツ・・・明治時代、骨董屋の娘だった18歳の光子は、日本
に赴任してきたオーストリア・ハンガリー帝国の外交官:ハインリ
ッヒ・クーデンホーフ・カレルギー伯爵に見初められて結婚します
。二人が知り合ったきっかけは、クーデンホーフ伯爵が日本に着任
草々、乗っていた馬ともども凍った道で転んだ時に、光子に親切に
助けられた、とのこと。伯爵も美男ながら、光子は以前、舞姫をし
ており、美貌の主だったので、「シンデレラ物語」いや、「エリザ
ベート物語」ですね。

 1896年、22歳の時に、伯爵の帰国に伴ってウィーンへ向かい、社
交界へもデビューします。そして、その後、チェコのロンスペルク
城へ移ります。彼女は日本で生まれた二人の子供を含め、7人の子供
に恵まれます。しかし、1906年、伯爵は突然の心臓発作で亡くなり
ます。ボヘミアの広大な領地を所有するクーデンホーフ家の全てを
引き継ぐに当たり、異国の人間に相続させることを望まない親族と
の間で裁判になりますが、それに勝ち、クーデンホーフ家の当主と
なります。そして1908年ウィーン・ヒーツィング地区の大邸宅へ移
住すると共に、「黒い瞳の伯爵夫人」として、ウィーンの社交界へ
も復帰します。
 しかし、1914年の第一次大戦によって全てを失い、ウィーン郊外
へ移住し、病魔とも戦いながら、1941年、67歳で亡くなります。光
子はウィーン・ヒーツィング墓地(後述)に埋葬されました。彼女
は渡欧して45年間、一度も日本へ帰らなかったと云われています。

 所で、その子供達は皆、立派な教育を受け、東京で生まれた次男
が、「欧州連合の父」と云われたリヒアルト・栄次郎・クーデンホ
ーフ・カレルギー伯爵です。伯爵は80年前に欧州統合を主張し、
EUの概念を訴えた人物ということで、最近見直されているようで
す。(栄次郎をモデルにした映画が名作「カサブランカ」です。こ
れについてはウィーン映画のページをご覧下さい。)

 所で、ずっと昔、ゲラン社の「ミツコ」という香水を知った時に
、「どうしてこういうネーミングになっているのだろう」と思った
のが光子に関心を持ったきっかけです。なお、ミツコは有名な香水
で、楽天市場とかで買えます。どこか東洋的な香りがする、淑女を
思わせる、大人のための香水です。なお、市販の香水解説本では、
「ミツコ」はフランスの小説に出てくる日本軍人の妻の名前である
、とされてますが、この香水の発売が1921年なので、当時の社交界
の華だった光子から取ったと考えたいですね。

おまけ) 光子が住んでいたヒーツィング地区・マキシングシュト
ラッセ12番地は高級住宅街で、シェーンブルン宮殿の日本庭園
(以前はチロルガーデンと呼ばれていた場所)のすぐ近くです(上
の墓地へ歩いていく途中の右側です)。。日本庭園の完成は1913年
で、丁度その頃、光子はこの地区に住んでいたわけで、社交界の華
としては当然、この庭園のことを知っていたはずだし、訪れてもい
たでしょう。

 また、エリザベート皇妃が亡くなったのは1898年で、光子がウィ
ーンへ着いた2年後ですね。二人がどこかで会っていた、なんてこと
もあったかもしれない・・・(私の想像)。この二人は、ウィーン
というより当時の古い家族観念の中で、それと闘って自立した女性
を目指したという意味で、共通するものがあるように感じました。
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「ヨーロッパ合衆国」の夢: 
http://www.musashi.jp/persons/newjinbun_pub/others/odori2/odori2-5.htm
ヨーロッパ世界をひとつの統一体と捉えて、その平和と繁栄を共同
で考えようとする試みは萌芽的には17・18世紀にさかのぼるのです
が、具体的な運動が生まれたのは20世紀のことです。1922年にオー
ストリアの貴族リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー伯という人
が「汎ヨーロッパ連合Paneuropa Union」という組織をつくりますが
、これはヨーロッパ統合の歴史にとってたいへん重要な一里塚でし
た。クーデンホーフ=カレルギー伯は、第一次世界大戦で深刻な打撃
を受けたヨーロッパ世界を一致団結して復興させ、アメリカやソ連
に負けない勢力になろうと訴えました。しかし彼が生きた時代のヨ
ーロッパは、ひとつひとつの国家や民族のほうが大事だという考え
が極端なまでに高まった時代でしたから、彼のヨーロッパ統合運動
は実を結びませんでした。そして第二次世界大戦が起こり、再びヨ
ーロッパ諸国民は武器をとって互いに殺し合いを繰り広げます。
クーデンホーフ=カレルギー伯はナチスに追われ、スイスを経てアメ
リカに亡命しました。 

ところでクーデンホーフ=カレルギーは実は「東京生まれ」で、栄
次郎という日本名をもっていました。この人の父親はオーストリア
=ハンガリー帝国の外交官で、母親は青山光子(クーデンホーフ光子
)といいます。ヨーロッパ統合の父と呼ばれる人物が日本人の血を
ひいていたとは意外ですね。 

第二次大戦後、クーデンホーフ・カレルギー伯の思想は再評価され
ます。彼の考えを受け継いで積極的な発言を行ったのはイギリスの
ウィンストン・チャーチルでした。チャーチルは1946年9月19日にス
イスのチューリヒで「ヨーロッパ合衆国」の設立を呼びかけます:
「もしヨーロッパの諸国民が団結できれば、3億、4億のヨーロッパ
人は無限の幸福と繁栄と名誉を感じるだろう。われわれは一種のヨ
ーロッパ合衆国を創設しなければならない。その実現のためにはド
イツとフランスの和解が必要である」。チャーチル演説は各国で反
響を呼び、ヨーロッパ諸国の国会議員の同盟組織や、社会主義者の
連帯組織が生まれ、それぞれ統合への運動を活発化させました。 
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原爆   
   
 国際戦略コラム 御中
35万人も虐殺されなければ解放されない民族なら解放されない方
が良かった。暴論を言いますが、いい加減にして欲しい。原爆投下
を民族解放のシンボルのように考えている。何故、治療費を日本が
負担しなければならなかったのか?
 "eya kouichi" 
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数学は面白くて奥が深い   
   
 近畿大学教授 尾和重義氏に聞く

試行錯誤と熟考が学力養う
 子供たちの学力低下が改めて指摘されている。特に理数系の現状は深刻で、日本の将来
 を心配する識者が多い。その中の一人、尾和重義・近畿大学教授は、数学離れを食い止
 めるため数学の本当の面白さ、魅力を知ってもらおうとボランティア活動も行っている。
 教育問題への見解や提言などを聞いた。
(聞き手・池田年男) 世界日報 掲載許可

「すぐに役立つ」求める現代/過程より結論急ぐ弊

○――――○

 おわ・しげよし 昭和21(1946)年、大阪府生まれ。同47年、近畿大学理工学
 部数学物理学科卒業。現在、近畿大学理工学部理学科および同大学大学院総合理工学研
 究科教授。トランシルバニア大学(ルーマニア)名誉教授。理学博士。専門書の著作や
 論文、多数。全国の学者仲間と「単葉関数論における微積分作用素の応用についての研
 究会」も主催し、昨年の同会で協議し設立したボランティア集団「寺子屋『スロー数学』
 」の関西地域代表。その講座では毎回、授業内容を考案するとともに講師役を務めてい
 る。  
 

 ――昨年十二月にOECD(経済協力開発機構)とIEA(国際教育到達度評価学会)
 の学力調査の結果が公表され、わが国の小・中学生の学力の落ち込みが著しいことが明
 らかになった。どうしてこんな事態になったと考えるか。

 まずは今の入試制度に問題があると思います。とにかく答えさえ書けばいいというやり
 方だ。これでは、問題とじっくり取り組んで考え、答えにたどり着くまでの努力が軽視
 され、真に学力を養う学習ができない。本当は、一つ一つ理論立てて考えていくからこ
 そ学力が身につくのに、その過程を飛び越えて、結論ばかりを求める。こういう傾向が
 よくないですね。

 高校も、センター試験や入試に合わせた教育、授業内容になっている。まるで受験のた
 めに学んでいるようなもので、子供たちは学ぶ意味が分からなくなる。その結果、テス
 トの点数ばかりに関心が集まり、学ぶ喜びも、疑問を抱いて自ら考え続ける努力も学校
 教育から忘れ去られてしまっていると言えます。

 なぜこうなるのだろうという疑問を持たないから、深く学ぶという姿勢になるはずがな
 い。答えは出せても、学力として身につかないから、知識を活用することもできません。

 それから、現在では高校生活の早い段階、一年生の終わりや二年生で、進学のコースを
 決める傾向がある。子供の将来の方向性を決めるのに、この段階では早過ぎます。いつ
 その子が伸びるか分からないですからね。これも大学受験の弊害です。もっとじっくり
 と子供の可能性の芽を見守り、はぐくんでいく必要があります。

 ――ある教育学者が「因数分解は自分には役に立たなかった。これからは役に立つこと
 を幅広く教えるべきだ」と発言した。これに対して、「因数分解はIT(情報技術)社
 会のセキュリティーのために不可欠で、われわれは多大な恩恵を受けている。携帯電話
 が使えるのも因数分解のおかげだ」と反論する学者もいる。

 役に立つか立たないかという、そういう表面的なことばかりに注目するから教育がゆが
 んでくるのです。すぐに役立つことを求める世間の風潮がおかしい。日本だけではない
 でしょうが、最近の若者はとかく将来性のあることをしたいと言って、基礎的な学問よ
 り、すぐ社会に役立つようなことに飛びつく。そういう考え方だから、勉強の場でもす
 ぐに答えや結論を急いでしまう。

 うちの大学でも、「答えを教えてほしい」と言ってくる学生が目立ちます。私が問題を
 与えて、解けなくてもいいから考えろと、こっちは問題を解き明かすそのプロセスの大
 切さを教えようとしているのに、彼らにとっては答えが正解でなかったら恥ずかしい、
 カッコ悪いと思うようです。一つの問題に対しては解く方法がいろいろあるし、各自が
 独創的なやり方で取り組んでほしいのですがね。

 化学にはいろんな実験があって、試行錯誤の連続です。失敗があっても、またやり直し
 てみて、そういう積み重ねの中に新しい発見があればいい。数学もそれと同じです。皆
 と同じ結果でないとダメだなんて考えるのがよくない。

 それから因数分解がIT社会を支えているという話ですが、実際に、今のITの基本も
 数学です。代数系の中には、当事者同士は理解できても第三者には分からないという暗
 号理論というものがありますが、これもコンピューター技術に関連しています。

 そもそもコンピューターは、「電気が流れる」「流れない」の二つの場合の組み合わせ
 でさまざまな処理をしているのです。つまり、二進法で機能する。コンピューターを操
 作して大いに駆使するのは結構だけれど、コンピューターの仕組みの奥にある数学の働
 きを知っておくことも大事です。

 ――技術の進歩の背景にあるのは数学だと。

 もともと数学というのは何かに応用しようとして、それを目的に研究するものではない
 のですが、数学の中にはいろんな面白い性格があります。それに気付いて、さらに興味
 を覚え、議論したりしながら理解を深めていく。そこから、応用への可能性も発見され
 るということです。

 パラボラアンテナにしたって、昔から分かっていた放物線の性格を研究して、実用化さ
 れたものですからね。

ボランティアで「寺子屋」開く/身辺の事象から不思議発見

○――――○
 ――中山文部科学相が先日、子供たちの学力向上を図るため、「国語、数学などの主要
 教科の授業時間をいかに確保するかが課題だ」と述べて、「ゆとり」路線を転換する意
 向を示したが。

 学力の基本は学校教育で養成されます。今の教育路線のままだと、国際競争で日本は負
 けるしかないでしょう。日本の資源は頭脳であり、知力なのですから、早急に日本の教
 育を立て直さないといけない。

 勉強にかける時間が少な過ぎます。今までの主要教科の授業時間を削って“ゆとり教育
 ”と銘打ったが、総合的な学習や選択教科などは多くなった。その内容は増やさなくて
 もいいから、数学などの主要教科の勉強時間を増やすべきです。そうすれば授業も深め
 られる。とにかく、一つのことにじっくりと考える時間を与えないと学力向上は望めま
 せん。

 ――大学で教鞭(きょうべん)を執る傍ら、「寺子屋『スロー数学』」というボランテ
 ィア活動も行っている。どんな趣旨のものか。

 京都で呉服会社を経営する西脇久芳さんという方の提案を受けて昨年、始まったもので
 す。西脇さんは私たちの研究会で、「日本が経済大国になったのは優れた技術力のたま
 ものであり、その技術力の基盤は数学だ。中学や高校で数学離れ、数学嫌いが進み、学
 力が低下している現状を今のうちに改善しなければ日本はダメになる」と訴え、私たち
 も同じような危惧(きぐ)の念を持っていましたから、ともに力を合わせてボランティ
 アでの教育活動を展開していくことにしたのです。

 受験勉強用ではなく、もっと数学の本当の楽しさ、奥の深さを発見してもらい、数学に
 興味を持ってもらいたい。そして、子供たちの数学離れ、数学嫌いという憂慮すべき傾
 向に歯止めをかけなければ、という使命感で取り組んでいます。

 ――寺子屋「スロー数学」という名称の意味は?

 日本の今日の発展は、江戸時代、読み書きそろばんをしっかり学んだ寺子屋教育が基礎
 になっていると言えますからね。スローというのは「肩に力を入れず、気楽に」といっ
 たところでしょうか。

 どの教科であれ、まずは考えたり、勉強したりすることが好きにならなければなりませ
 ん。そこで、今の学校や学習塾で教えてくれないことを教えよう。身の回りの事象から
 数学の面白さ、不思議を発見し、保護者とも一緒になって学んでもらおうという意味が
 あります。数学は面白いし、生きたものだから好きになれるよ、という呼び掛けですね。

 ――成果はどうか。

 京都の中学校で土曜日に出張授業を行って輪が広がるうち、京都市教育委員会が開講し
 た「みやこ子ども土曜塾」という体験型の課外授業の一つに加わるようになりました。
 人気も高く、京都府内の小中学校から依頼が殺到しています。毎回、数学が好きになる
 ような工夫をして授業を行っているので、「数学ってこんなに面白いものだったんだ」
 と子供たちは目を輝かせて勉強します。それがうれしいです。

 昨年の十二月には群馬県まで出掛けました。そこでは関孝和(注)の足跡にも触れ、私
 たち数学者の大先達ですので感銘深いものがありました。関孝和は江戸時代の数学者で、
 日本における数学の祖といってもいい人です。その「算額」が神社に奉納されています。
 昔はお寺や神社が文化の中心地で、そこが研究発表の場でもあった。関は、数学の問題
 と答えと自分の名前を板に記して、神社に納めた。それが算額です。

 ――歴史上の人物としてはあまり知られていないが、もっと評価、顕彰すべきではない
 か。

 学校でもっとこういう人物の業績を教えないといけません。そうすれば、数学への理解
 も広がるはずです。

◇
 【注】関孝和(せき・たかかず=一六四二−一七〇八)江戸中期の数学者。幕府に仕え
 た。筆算式代数学「点竄(てんざん)術」を考案、方程式論・行列式論、また幾何学の
 円理の算法などを創案。当時のヨーロッパの高等数学理論に劣らないといわれる。その
 派は関流と呼ばれ、以後、和算の主流となった。

     Kenzo Yamaoka
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いま問われる「健康」とは−根本 和雄   
   
 「スピリチュアル」の意味
心も体も良好
 「健康」という言葉は、もともと中国の五経の一つである「易経」に“体が健やかで、
 心が康(やす)らかであるように”という語に由来するのです。従って、「健康」には、
 体と心の双方が含まれた、より良い状態として用いられています。

 「健康」の概念でよく知られているのは、世界保健機関(WHO)が一九四八年に憲章
 前文に載せた「健康とは身体的、精神的、社会的に完全な良好な状態であり、単に病気
 や虚弱の欠如ということに尽きるものではない」と定義したものです。

 つまり、「健康」とは、積極的な概念であって、決して「病気、虚弱の欠如」という消
 極的概念ではないことを意味しています。この点について、日野原重明先生は、「健康
 は、単に肉体とか病気とかの問題としてではなく、人間としての全体的な活動、即ち人
 間の生活の問題として理解されなければならない」と語っています。

 最近では、「人間の尊厳」や「生命の尊厳」などをも含めた包括的な意味で「健康」を
 考える必要が指摘されています。

 例えば、九八年一月十九日に開催された第一〇一回WHO執行理事会で、健康の定義に
 「スピリチュアル(spiritual)」という言葉を加えて、「肉体的・精神的・社会的・
 スピリチュアルに良好であること」を健康の定義とするという改正案をまとめました。
 (「日本公衆衛生雑誌」第47巻・12号)

 このことは、人間の健康とは「心」も「体」も、加えて「人間関係」も良好であり、且
 つまた、「人間の尊厳」や「生の意味」や「死の意味」について考える「スピリチュア
 リティ」も良好な状態になければならないことを意味しているのです。

死生観に関連

 「スピリチュアリティ」をどう訳すかは、いろいろ意見がありますが、「生きることの
 意味」・「死ぬことの意味」を含めた人間存在の全体にかかわる精神性を含んだものと
 理解することができるのではないでしょうか。具体的には、人間が人間らしく生き、人
 間らしく死を迎えることのできる「死生観」と深くかかわっていると思うのです。

 その意味では「スピリチュアリティ」は、死と対峙(たいじ)した生き方であると思い
 ます。江戸時代の禅僧である鈴木正三は“万事を打置いて、ただ、死に習わるべし”と
 語っているし、日蓮上人は、“臨終のことを習いて、その後他事を習うべし”と述べて
 います。また、西欧ではレオナルド・ダ・ヴィンチが、“十分に終わりのことを考えよ、
 まず最初に終わりのことを考慮せよ”と語り、フランスの思想家モンテーニュは“人間
 は死のことを考え、死を受け入れる準備をしなければならない”と言っています。

 これら賢者の言葉は、表現の違いこそあれ、死を出発点として、死から生を照らした
 「死生観」であり、「スピリチュアリティ」の意味もそこにあるのではないかと思うの
 です。

 さて、WHOが健康のバロメーターとして七カ条あげているので、その内容を簡単に紹
 介したいと思います。

 一、何を食べてもおいしく食欲がある。

 二、不安や心配事がなくよく眠れる。

 三、毎日気持ちよくお通じ(便通)がある。

 四、風邪をひきにくく、ひいても治りやすい。

 五、疲れても比較的回復が早い。

 六、体重が急激に変化しない。

 七、毎日の生活が充実し人生に希望が持てる。

 以上のことを心に留めながら健やかな生活を実践したいと切に思う昨今です。「健康」
 とは何か、といま改めて問うとき、医学的微生物学者ルネ・デボスの次の言葉の意味を
 深く味わいたいと思います。

 “健康とは、その人の人生の目的をその人らしく達成することのできる状態である”と。
 (メンタルヘルス・カウンセラー)世界日報 掲載許可
       Kenzo Yamaoka


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