1866.米国の外交シフト



米国の外交シフトが起きているようである。それを見よう。Fより

ブッシュ政権に転機が訪れている。津波の支援にコア連合を作り、
国連ではなくて米同盟国(米英日豪+インドのシーパワー連合)で
インドネシア、タイ、スリランカ、モルジブに対する援助を行おう
とした。

しかし、援助金額は欧州全体の方が上であり、被害者数も米国、日
本より欧州の方が多い。スウエーデンだけで3000人以上が被害
に会ったというし、プーケットにあるフランス系ホテルにフランス
人が多数宿泊し、犠牲になっている。

それに中国、欧州を除外したために、欧州から大反発が起きて、反
米のインドは支援を辞退するし、インドネシアは英グルカ兵の派遣
を断っている。このように米同盟国の支援に被災害国も米国のやり
方に不満があり、とうとう欧州、中国を含めた国連が介入した支援
になった。

このように中国や欧州などを除外した米国の一国主義的な同盟国家
群が、東アジア諸国からも受け入れられないことが明白になった。
このように東アジアでも米国外交は評判が悪い。これでは米国は東
アジア地域での覇権確保外交ができない状態になったと思うしかな
い。それだけ、中国の影響力があることも知ったようである。

この事実を見て、ライス新国務長官が外交のパートナーとして選ん
だのが、ゼーリック氏である。ゼーリック氏はビルダーバーグの会
員であり、欧州との協調主義者である。米国の言う国際協調外交と
は、欧州とうまくやる外交をすることであるから、米国外交をシフ
トした可能性もあるように感じる。

欧州ユーロ対米ドルの通貨戦争を一旦中止して、米国の今後の外交
目標がEUと連携した東欧拡大になったように思う。東アジア諸国
は中国との関係が重要になっているために、中国と米国もアジアを
諦めて、戦争から経済にシフトする可能性がある。

攻撃的なリアリストとネオコンが組んだブッシュ政権から、ネオコ
ンを抑制した欧州・米国連携で中国とも敵対関係にしない外交にな
る可能性がある。どうも、ロシアの拡大とEUの拡大がぶつかり、
その地域分捕り合戦に欧米連合で対応する可能性が高いように感じ
る。

ロシアは中国と連携しようとするが、米国は中国と友好関係を保つ
し、欧州は中国市場確保のために絶対、中国といい関係にいるはず
である。このため、欧米でロシアと中国分断に出た。インドとロシ
アの分断も欧米は仕掛けるはず。ロシア孤立作戦になる可能性があ
り、今後の米国外交から目が離せない。
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国務副長官にゼーリック氏 米外交、国際協調の可能性

 【ワシントン7日共同】ブッシュ米大統領は7日、ゼーリック米
通商代表(51)をアーミテージ国務副長官の後任に指名すると発
表した。
 副長官には、北朝鮮やイランの核開発問題で強硬姿勢を示してき
たタカ派のボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)が指
名されるとの観測もあった。
 同次官でなく、穏健な現実主義を取るゼーリック氏が副長官に指
名されたことは、米外交がタカ派路線と距離を置き、国際協調路線
に向かう可能性を示している。
 ゼーリック氏は2001年に通商代表に就任、米国の2国間、地
域自由貿易協定拡大などに務めてきた。現大統領の父親、ブッシュ
元大統領の政権で国務次官(経済・農業政策担当)を務め、日米経
済摩擦で対日強硬姿勢をとったこともある。
(共同通信) - 1月8日6時16分更新
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インド洋大津波 「周辺国」か「国連」か 米欧、救援態勢できしみ

 【パリ=山口昌子】インド洋大津波の被災地救援の態勢作りをめ
ぐり、米国が周辺主要国を中心にした態勢を立ち上げたのに対し、
欧州は国連中心の態勢を唱えるなど、米欧間に微妙なズレも生じて
いる。記録に残る自然災害としては史上最大とされる今回の事態に
国際社会が一体となって取り組めるか否かがかかるだけに、大西洋
両岸の調整は急務だといえる。

 欧州連合(EU)議長国、ルクセンブルクのディバルトロメオ保
健・社会保障相は一日、ジュネーブの世界保健機関(WHO)本部
で、あくまで「国連中心」の救援を行うべきだと主張した。
 ブッシュ米大統領が昨年末に、日米、オーストラリア、インドの
四カ国により「コア(中核)グループ」を創設して被災地救援・復
興に当たると発表した構想に、暗に反対を表明したものだ。
 「有志連合」を組んでイラク戦争に突き進む米国を、「国連中心
主義」を掲げて引き留めようとする欧州という、同戦争前夜に鮮明
になった双方の立場の相違が今回も反映されているようだ。
 EUの執行機関、欧州委員会のミシェル委員(人道・援助担当)
は昨年暮れ以来、被災地の「経済的、医学的、社会的な空白」を回
避するため、国際緊急支援復興会議を開催すべきだと主張。
 一日からスリランカとインドネシアを視察し、六日にインドネシ
ア・ジャカルタで開かれる緊急首脳会議に参加した後、EUが七日
に開く人道支援担当相らによる緊急会合で視察結果を報告する。
EUはこの報告を踏まえ、ジュネーブで十一日に開催予定の国連主
催支援会合で救援態勢を協議することにしている。
 フランスのシラク大統領も年末の演説で、「国連が平和維持軍を
組織したように、真の緊急人道部隊を組織するなら、フランスは参
加する」と述べ、国連による救援部隊結成を提唱している。
 イタリアのベルルスコーニ首相が、被災国の対外債務免除などを
議題にした主要国首脳会議(G8)の緊急会合をG8議長国の英国
に提案したのに対し、英政府もG8より国連で行うのが筋だとの考
えを示している。
 欧州が「国連中心」の態勢作りにこだわる背景には、欧州の観光
客の死者、行方不明者が多数に上る状況に加え、「死者だけで十五
万人にも達し被災国も十カ国余に達する未曾有の災害には国際的規
模の支援が絶対必要だ」(マテエ仏赤十字総裁)との認識がある。
 欧州側には、「国連不信が強く、欧州嫌いのブッシュ大統領が意
図的に両者(国連と欧州)を外した」(仏記者)との反発も上がっ
ており、イラク戦争以来の米欧関係のきしみもうかがえる。
(産経新聞) - 1月4日3時21分更新
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外国の支援、かたくなに拒否   
   
常任理目指す大国の意地?−インド
 スマトラ島沖地震に伴うインド洋大津波で、インドネシアとスリ
ランカに次ぐ犠牲者を出したインドが、外国からの支援をかたくな
に拒んでいる。インド政府は国内の資金で十分に対応できると繰り
返し主張。ただ、南部の被災地からは支援を求める切実な声が上が
っており、それにもかかわらず援助を固辞する政府の姿勢には、国
連安保理常任理事国の座を目指す地域大国としての意地も垣間見え
る。

 インド政府は津波による国内の死者・行方不明者が一万五千人を
超す中、被災直後から各国からの支援の申し出を断る方針を表明。
AFP通信によると、外務省高官は五日、「援助は必要なら受ける
。ただ、スリランカなどすぐに支援を必要としている国があり、そ
ういったより不幸な国に援助を差し向けるべきだ」と強調した。

 インドは援助を受け取らないだけでなく、スリランカやインドネ
シア、モルディブに食料や医薬品を送るため、艦船や航空機を派遣
。二千三百万ドル(約二十四億円)の資金援助も表明し、大国とし
ての存在感をアピールした。

 その一方で、インド政府は当面の国内の被災者救援対策に五十億
ルピー(約百二十億円)を拠出する方針を決定。首相府スポークス
マンによると、民間の企業や個人からも、三十億ルピーを超す義援
金が寄せられているという。

 とはいえ被災地では、これだけの資金では復興はおぼつかないと
の不満が高まっている。最も被害が大きかった南部のタミルナド州
では、被害額が十億ドル(約千五十億円)を超すと見積もられてい
る。ジャヤラリタ州首相は中央政府のシン首相に書簡を送り、今回
の災害は「多くの命を奪った空前の悲劇だ」と強調。政府に復興費
用の増額を要請した。

 インド洋に浮かぶアンダマン・ニコバル諸島でも、百億ルピー
(約二百四十億円)の被害が出たと伝えられる。国境なき医師団や
オックスファムなどの人道支援組織は、インド政府が外国援助団体
の活動すら認めないことを非難している。(時事)
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米国のサウジアラビア症候群   
   
  ▼米紙「ニューヨーク・タイムズ」
 あなたが次にファミリーカーの購入を検討するとき、ガソリン代
は最終的にどこに消えるのか考えるかもしれない。ガソリン価格の
一部は、間接的にではあるが、テロ攻撃を正当なものと考える狂信
的なイスラム教を広めている世界中のモスクや宗教学校の資金に充
てられている。一年間に何十億jにも上るこの資金は、石油輸出で
年に約八百億jもの収入があるサウジアラビアの政府と民間慈善団
体から出ているのだ。

 サウジアラビアからの石油は米国の石油輸入の15%しか占めて
いない。だが石油は、世界市場で互換性があるから、米国の石油輸
入は、それがベネズエラからのものでも、ナイジェリアやメキシコ
からでも、世界最大の石油輸出国であるサウジアラビアが受け取る
石油代金を押し上げる結果となる。米国は現在、消費する石油の半
分以上を輸入に頼っており、米国の石油消費の半分以上は自動車燃
料だ。

 アルカイダの攻撃を受けているサウジアラビア政府は、テロに資
金を出しておらず、9・11以降、米国の圧力に応えてテロ・グル
ープへの慈善資金流入を規制している。だが、政府と市民が献金を
義務付けられている宗教的慈善団体は、依然として、サウジアラビ
アで支配的な、好戦的で非寛容のワッハーブ派イスラム教を支援す
るモスクや学校、イスラム・センターの世界的なネットワークに金
を出している。こうした石油資金に基づく寛大さの結果、インドネ
シアやパキスタンなどでは、より寛容で人間的なイスラム指導者た
ちが地歩を失っている。

 サウジ症候群は、米国民がエネルギー節約にもっと真剣に取り組
まなければならない唯一の理由ではない。だが、それは極めて重要
な理由なのだ。(一月一日付)
     Kenzo Yamaoka
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必要なのは陸軍の強化だ   
   
 ▼米紙「ニューヨーク・タイムズ」
 米国民はイラクで死傷した軍服姿の男女を一人また一人と悼んで
いる。しかしもっと大きな状況を知り、心配する必要がある。わが
国の軍と軍事的準備態勢は過大な負担を強いられ、永続的な打撃を
被る危険があるのだ。
 二十五年前、米陸軍ははるかに大きく、やることは少なかった。
今、はるかに小さい軍隊がイラクで必要とされる任務に対処しよう
としており、そのイラクにおける戦闘要員は恒常的に不足している
。過去二年間の大半、米国の前線部隊の多くは、予想もせず、その
ための物資も与えられていない、終わりのないゲリラ戦に巻き込ま
れている。これら陸軍兵士や海兵隊員たちは、機甲やその他の装備
の不足、強制的な従軍期間延長の中でも、勇気と決意を示してきた
。イラク戦争に終わりは見えないが、ペンタゴン(国防総省)の戦
況維持を可能にしてきた彼らの不屈の精神も、無限に続かないこと
は誰の目にも明らかだ。

 今、正規陸軍の半数以上がイラクで従軍したか、現在、従軍中か
、近くイラクに行くことになっている。部隊の交代は速度が速まり
、すでにイラクで従軍した部隊が二度目の兵役に戻っている。

 だからと言って、米国民は米国が無防備になったと心配する必要
はない。アルカイダがサウジの油田に脅威を与えたり、パキスタン
のイスラム過激派将校が核兵器を奪ったり、中国が台湾を攻撃する
ような新たな危機が発生すれば、ワシントンは強力で断固とした対
応を取れるだろう。しかしだからと言って、より広い米国の安全保
障上の利害が代償を払わないで済むわけではない。外国で新たな交
戦状態が発生して数カ月間以上続き、大量の地上軍を必要とすれば
、予備役の招集が拡大され、徴兵制の復活も必要となるかもしれな
い。(一月二日)
     Kenzo Yamaoka
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(Fのコメント)
米国でもやっと、サウジのワハーフ派がイスラム過激派に資金を提
供しているという報道がなされたようである。これは今後米サウジ
関係を悪化させることになると思う。

このコラムでは昔からサウジの金がイスラム過激派に出ていると言
っている。
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中国共産党60年の失政史   
   
  本欄で折に触れてご紹介している日本政策研究センターの「明日への選択」誌の新年号
 に、非常に面白い論文が載っている。
 題して「中国教科書が書かない共産中国の『悲惨』とその責任」。筆者は同センター副
 所長、岡田邦宏氏。世界日報  掲載許可

 非常に面白いと言ったのは、中国の高校用近現代史教科書の中で、どんな偽りが綴られ
 ているかを明らかにする在来のリポートと異なり、六十年に及ぶ中国共産党の失政の歴
 史を記述しながら何に触れていないかを検証するという、その着眼点が斬新だったから
 だが、岡田氏が取り上げられた失政の歴史は、次の四件である。

 @一九五〇年の「土地改革運動」と「反革命鎮圧運動」A一九五七年の「百花斉放、百
 家争鳴」運動と、その後の「反右派闘争」B一九五八年の「総路線」「大躍進」「人民
 公社化」C一九六九年から十年続いた「文化大革命」。

 例えば、私も朝日紙上で、密植された稲の上に子供が座っている写真を見かけた憶えの
 あるBについても、教科書には、それが《毛沢東と党の一部の指導者》が《軽率に》
 《客観的な経済発展の法則を無視していた》とは記述されている。

 が、その結果、「最低千三百万、最高三千五百万という『人類史上最大の、少なくとも
 二十世紀最大』の餓死者が出たことは全く触れられていないし、うまくいかなかったの
 も「自然災害とソ連の背信」のせいだという。

 もっとも、それも道理。この国定教科書は岡田氏によると、「文革終息後の八一年六月
 の中国共産党第十一期六中全会が決議した『建国以来の党の若干の歴史問題に関する決
 議』を下書きに書かれたというべき」で、その歴史決議は、三回目の失脚から復権した
 ★(★=都の者を登)小平氏主導の下、四千人が一年間討論して作ったものだそうだが、
 「彼は、この決議の起草段階で」こう指示したとある。

 「毛沢東思想という旗印はなくすわけにはいかない。この旗印を下ろすことは、われわ
 れの党の輝かしい歴史を否定することだ」

 シナ大陸に生まれ、滅びていった各王朝の歴史は、次期王朝の史官によって書かれたと
 昔、教わったことがある。歴史を鑑にせよと責められる私たち日本人も、今年こそは、
 中国の故智にならって、鑑にするのは中国共産党がなくなった後のにすると言い返して
 やろうではないか。 (土田 隆)
       Kenzo Yamaoka
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東アジア安保/今あるミサイル危機に対処を   
   
  新年を迎えたが、国際情勢は諸国民の願いに反して悪化しつつある。中でも最も混乱要
 因を抱えているのは、日本の安全と国益が大きく関わっている北東アジアだ。
 こうした状況下で日本の安全保障政策は、全く政策論議がないまま変更された。これで
 は、混迷が予想される北東アジアにおけるわが国の安全は極めてリスクの大きいものに
 なる。

願望と現実を混同するな

 政策論議の大前提とすべきは、法解釈、財政事情ではなく国際情勢である。この情勢判
 断の際に最も回避すべき態度は「願望」と「現実」を混同することだ。かつて、わが国
 は冷戦下でソ連の二、三個師団の侵攻を食い止める防衛能力しかなかった。それがいつ
 の間にか、「予想されるソ連軍の侵攻規模は二、三個師団」となり、「防衛計画の大綱」
 を決定する際の大前提とされた。

 そこでは「ソ連軍の侵攻は二、三個師団以下であってほしい」という「願望」が、「二、
 三個師団の侵攻しかない」との現状認識にすり替えられた。その上、今回の新「防衛計
 画の大綱」策定時には、「従来の防衛力は本格的な武力侵攻に備えていた」という、現
 実と懸け離れた認識が大前提とされ、自衛隊の大幅な戦闘力削減が実施されたのである。

 この国際情勢は日本の行動でなく、主に諸外国の行動によって変動するという点を忘れ
 てはならない。そこで承知すべきは、現在の国際社会の特徴の一つは軍事力の役割が非
 常に増大している点だ。

 昨年末に発表された中国の「国防白書」では人民解放軍の優先課題として海洋権益の擁
 護を取り上げ、積極防衛策を採用すると強調している。ここでいう「積極防衛」は攻撃
 的戦略を意味し、その一環として水陸両用作戦能力の向上をうたっている。そこで念頭
 に置いているのは、日本の南西諸島周辺の海域である。

 的確な国際情勢の把握の次に必要なことは、その情勢に対応した最適政策の策定である。
 仮にその政策が既存の法と抵触するならば、改めるべきは法の方であって政策ではない。
 法は目的、道徳でもなく、手段にすぎないからだ。また、国家が存続し得て初めてその
 法も効力を持つからである。

 わが国の安全保障論議では、法解釈に次いで財政上の事情が最優先される。だが、財政
 上の問題は、最適政策の策定後に初めて登場すべき問題である。それは換言すれば、最
 適な政策実現のために、自衛隊の戦力構造をいかに安上がりに構成するかの問題である。

 北朝鮮の「ノドン」への対応策は、優先課題の一つだ。だが、政策論議抜きで弾道ミサ
 イル防衛(BMD)システムの導入が決められた。中距離弾道ミサイル、巡航ミサイル
 などの報復力の保有とBMD採用を比較して、いずれの選択肢がより効率的で、少ない
 財政負担で所望の「ノドン」対策ができるかという論議を行う必要があったのだ。

危険な戦闘能力の大削減

 問題はその所用経費、効果との絡みでの優先度である。兆円単位の予算を必要とし、現
 時点では地点防御能力しかなく、撃墜能力も低いBMDだけの導入で適切だったといえ
 るのか。

 日米同盟上の政治的判断もあり、また長期的施策として必要だが、当面の弾道ミサイル
 対策も急務だ。なのに、財源確保策が自衛隊の戦闘能力の大削減だとすれば元も子もな
 い。
 このような結果を招いたのは政策論議の欠如であり、今後の安全保障政策策定の教訓と
 すべきだ。世界日報 掲載許可
     Kenzo Yamaoka
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東南アジア経済−潜在的成長力は健在   
   
 活況呈するベトナム
新大統領には正念場−インドネシア
今年も減速傾向続く−タイ

通貨制度など課題に−マレーシア

 東南アジア経済は今年、原油高や調整局面にある中国などの影響を受け、概して下降ぎ
 みと予想されるが、それでも欧米諸国などの低成長ぶりからすると、一段高い成長力を
 保持している。とりわけ元気がいいのがベトナムだ。また、新政権が発足したばかりの
 インドネシアもユドヨノ大統領の力量次第では、安定成長への足掛かりをつかむことも
 夢ではない。(バンコク・池永達夫) 

 タイは昨年、鳥インフルエンザの感染拡大や一年間の死亡者数五百六十人を超えたイス
 ラム過激派による犯行とみられる南部の治安悪化、さらには年末、スマトラ沖の巨大地
 震による大津波によって多大な犠牲を強いられた。また、原油高の悪影響を受けやすい
 経済構造や調整段階を迎えた中国経済も響き、タイ経済は二〇〇三年第四・四半期をピ
 ークに鈍化に転じ、昨年第一・四半期の国内総生産(GDP)前年同期比伸び率6・7
 %から第二・四半期には同6・4%、第三・四半期には同6・0%と徐々に落ち込み、
 通年の成長率は6・2%となるもようだ。

 こうした経済の減速傾向は今年も続く見込みで、タイ政府は今年の成長率を6・0%と
 予測している。タイは今年二月、総選挙を実施するがタクシン首相率いる与党・タイ愛
 国党が単独過半数を制するかどうかが注目される。単独過半数を割り込んで連立政権を
 余儀なくされるようだと、さらなる減速もあり得る。現在でも連立与党内での横紙破り
 など、政策の自由度が抑制されがちなことから、連立となれば首相主導による政策推進
 力がそぎ落とされかねないからだ。

●

 フィリピンは昨年、成長率6・2%(予想)を記録し前年比1・5%増となったもよう
 だ。ただ、今年はピークアウトし、5・5%となる見込みだとアジア経済研究所ではは
 じいている。アロヨ大統領が昨年八月、財政危機を宣言するなど解決すべき課題は山積
 している。

●

 一方、一九九七年のアジア通貨危機以後、大きく落ち込んだ反動もあって高くはないが
 経済回復軌道に乗りつつあるのがインドネシアだ。インドネシアでは昨年の総選挙で、
 メガワティ前大統領率いる闘争民主党が国会第二党に転落し、スハルト元大統領の独裁
 政治を支えたゴルカル党が第一党に返り咲いた。

 初の国民直接投票となった大統領選挙は、九月の決選投票で民主党のユドヨノ氏が地滑
 り的勝利を果たした。メガワティ前政権下での経済的低迷状況や高失業率に失望した国
 民の票が、軍出身ながら清廉な改革派として定評のあるユドヨノ氏に流れたためだ。

 アジア最大の石油輸出国であるインドネシアは、原油高に助けられただけでなかった。
 選挙期間を通し暴動などの治安悪化を回避したことで、民主政治の定着を印象付け海外
 資金の流入を促し、経済再建に一役買った。

 インドネシアの一昨年、昨年の成長率は4・5%、4・9%(予想)だったが、アジア
 経済研究所の予想によると、今年は5・2%が見込まれるという。ただ、昨年末のスマ
 トラ半島北部の巨大地震の被災処理を早期に済ませるだけでなく、外資優遇策やインフ
 ラ整備など政治的課題は多く、今年はユドヨノ政権にとって正念場の年となりそうだ。

●

 なお、安定成長路線をひた走っているのがべトナムだ。ベトナムの成長率は一昨年が7
 ・3%、昨年が7・6%、今年が8・0%と予想されている。とりわけ注目されるのが
 越僑資金の流入だ。ベトナム政府は当初、反政府集団との認識から越僑に対し敵対意識
 が強かったが、一九九〇年代後半、越僑の経済力を活用するため優遇政策に転じたこと
 で、越僑の資金取り込みに成功しつつある。

 ベトナム中央銀行によると、同国の金融機関を通じた越僑からの昨年度送金額が三十億
 ドルに達した。この額は、二十八億ドルのODAや外国企業からの新規投資額(認可ベ
 ース)を上回る。

●

 また世界銀行は先だって、マレーシアの二〇〇四年のGDP成長率を7%と上方修正し
 た。民間消費・投資や外部環境とも健全な状態にあると指摘している。ただ世銀は、マ
 レーシアの今年の成長率は6%と予測している。中国経済の減速や原油価格高騰、輸出
 額の五割を占める電子・電気製品の世界市場での需要減退が主な理由だ。

 さらにマレーシアではアジア通貨金融危機以後、ドル固定相場を維持している通貨制度
 が長引くドル安で実体経済にそぐわなくなっているという通貨問題も浮上している。今
 年、ポスト・マハティール二年目を迎えるアブドラ政権は、昨年の総選挙で大勝し国民
 の信任を得た格好だが、なかなか進まない国営企業の民営化や通貨システムの再構築な
 ど課題は多い。

●

 シンガポールでは昨年八月、建国の父リー・クアンユー初代首相(現顧問相)の長男で
 あるリー・シェンロン副首相が首相に就任した。ゴー・チョクトン前首相は、重症急性
 呼吸器症候群(SARS)問題などで低迷した経済を立て直した後に、リー・シェンロ
 ン副首相に政権禅譲すると言っていたがその言葉通り、シンガポールでは昨年、成長率
 が前年比7・1%増の8・2%(予想)を記録した。ただ、今年は4・7%と一服感が
 強くなると見込まれている。世界日報  掲載許可
       Kenzo Yamaoka


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