YS/2004.10.23 最新日本政財界地図(18) ふたつのハルマゲドン ■ジェイコブ・シフが小国日本を救った理由 1874年1月、ドイツ系ユダヤ人としてフランクフルトに生ま れたジェイコブ・シフは18歳の時にニューヨークに渡り、ブルッ クリンやマンハッタンで古着の屋台店を開いて小金を貯え、やがて クーン・ローブの娘と結婚、38歳でクーン・ローブの代表となっ た。このジェイコブ・シフが日本を支援したのは、エドワード・H ・ハリマンと共にユーラシア大陸横断鉄道に進出することによる鉄 道の世界制覇に向けた野望以外に理由があった。 日本への金融協力には、クーン・ローブ・グループ以外に英国の ロスチャイルド家、ドイツのウォーバーグ家、フランスの銀行家ア ルベール・カーンなども関わっているが、これら欧米金融界のエス タブリッシュメント達が、商売上のこととはいえ日本を手助けした のは、彼らがいずれもユダヤ系であり、ユダヤ人を迫害していた帝 政ロシアに対する強い反発があったからだ。そして、ジェイコブ・ シフも当時米ユダヤ人会の会長を務めていた。彼らは、果敢にもユ ダヤ人を迫害するロシアに立ち向かった小国日本を助けることで、 一矢を報いることができると思ったのである。 また同時に英国は、英皇室のロシア皇室との縁戚関係や有色人種 支持ともとられかねない外交上の問題から、米国のクーン・ローブ ・グループを参加させたいとの狙いもあった。 ■ネオコンとジャクソン・バニク条項とロシア系ユダヤ移民 実はこのロシアのユダヤ人政策はイラク戦争にも深く関わってい る。1974年に米国はユダヤ人などの移民の出国を制限している 共産国家への最恵国待遇や政府信用供与などを制限したジャクソン ・バニク条項を制定している。これはソ連がイスラエルへ移住しよ うとするユダヤ人に対して、事実上出国を禁止したことに対する制 裁措置として、民主党のヘンリー・スクープ・ジャクソン上院議員 とチャールズ・バニク下院議員が提案したものだが、このヘンリー ・ジャクソンを支持し、ジャクソン・バニク条項の草案づくりに関 わった人物こそが、イラク戦争を主導したネオコンのリチャード・ パールである。 このジャクソン・バニク条項は大きな成果を上げ、ソ連から57 万人以上のユダヤ人、エヴァンジェリカル・クリスチャン、カトリ ック教徒が米国へ移住し、約100万人のユダヤ人がイスラエルに 移住した。その多くがブッシュ共和党政権、そしてイスラエルのア リエル・ブルドーザー・シャロン首相率いるリクードや極右政党の 支持者となっている。 つまり、リチャード・パールらネオコンがソ連からの大量のユダ ヤ移民票を米国とイスラエルに振り分け、当時にブッシュ政権とシ ャロン政権をつなげる役割をも担っている。そして、このネオコン のユダヤ戦略の賛否をめぐってユダヤ系の金融機関や名門一族が大 きく割れる結果となっている。 また、ロシア系ユダヤ人を引き入れることがエゼキエル書に基づ くロシアの参戦を意味することから、ハルマゲドンとしての世界最 終戦争を演出し、かつ煽りながら、ブッシュ政権とキリスト教右派 を一体化させているのである。 ■高橋是清と森有礼とスウェーデンボルグ主義 ここで高橋是清とキリスト教との関係も触れておきたい。 高橋是清を見出し、キリスト教思想の影響を与えたのが日本初の 文部大臣となる薩摩出身の森有礼である。森は英国留学中にスウェ ーデンボルグ主義の教団のカリスマ的指導者であったトーマス・レ イク・ハリスに出会いクリスチャンとなっている。 批判的な意味合いも込めてキリスト教神秘主義と称されてきたス ウェーデンボルグは、スピリチュアリティ(霊性)という言葉が頻 繁に登場するようになった今、「ニューエイジの父」として再び注 目を集めつつある。 スウェーデンボルグ研究の高橋和夫によれば、『スウェーデンボ ルグは、最終戦争(ハルマゲドン)も人類の滅亡もないと説く。そ れどころか、人類の宗教的自立を意味する「新しい教会(宗教)の 時代」が訪れると予測し、新しい時代には、個々の宗教や教会は普 遍的な宗教原理−−つまり彼の有名な言葉「あらゆる宗教は生命に 関係し、宗教の生命は善を行うことにある」で要約される原理−− のもとに、その形式や教義・信条の差異を超えて共生し続ける(1 995年4月30日付産経朝刊)。』としている。 ハリスは、この「新しい教会(宗教)の時代」の「新しい地上の エルサレム」がアフリカのどこかか、日本に生まれることを確信し、 日本の神道に大きな関心を寄せていた。そして、ハリスの影響から 使命感を抱いて帰国した森は、後に文部大臣としてキリスト教の賛 美歌をもとにして作られた「蛍の光」「庭の千草」「隅田川」など の唱歌を日本に導入しながら「新しいキリストの道」を目指したの である。 ■ふたつのハルマゲドン スウェーデンボルグが目指した宗教間の共生の中にはユダヤ教も 含まれていた点が重要である。高橋是清もキリスト教思想に影響さ れ、終生聖書を手元に置いて生きた。高橋はクリスチャンにはなっ ていないとする見方が定説になっているが、恩師である森有礼の影 響からスウェーデンボルグ主義のクリスチャンであったことを隠し ていた可能性すらある。少なくとも、高橋とジェイコブ・シフの信 頼関係には、スウェーデンボルグ主義が寄与したと見るべきだろう。 ハルマゲドンを回避するために、宗教間の共生の必要性を説き、 「新しい地上のエルサレム」を目指したスウェーデンボルグのネッ トワークの中に森有礼や高橋是清がいた。 一方でハルマゲドンを待ち望むネオコン主導のキリスト教右派と ユダヤ教右派との強力なネットワークの中に、現在の日本は完全に 組み込まれている。 そして、これを象徴するかのように10月16日、ブッシュ大統 領は2000年同様に勝敗の鍵を握るフロリダ州を訪れ、「反ユダ ヤ主義が現代の世界で居場所を見いだすことがないようにする」と 語り、国務省の反対を押し切って、世界の反ユダヤ主義を監視し、 各国のユダヤ人に対する扱いの善し悪しを毎年評価することを義務 づける「全世界反ユダヤ主義監視法(the Global Anti-Semitism Review Act of 2004)」に署名したことを明らかにした。 ともにユダヤ人が深く関係するものの、その目指す方向がハルマ ゲドンをめぐって大きく異なるものであることを日本人は深く認識 しておくべきだろう。 しかし、小泉首相が「ブッシュ大統領とは親しいからね。頑張っ ていただきたいね」と言ったかと思えば、「ブッシュ大統領でない と困る」発言(自民党武部勤幹事長)まで飛び出すこの国は、ハル マゲドン・プレイヤーとして、自ら進み出る覚悟を決めたようだ。 ただし、ブッシュ再選は米欧の国際派エスタブリッシュメント達 も歓迎しているようだ。ブッシュ政権の継続が米国の衰退を決定づ けるものになることを過去4年の実績から認識しているからである。 ブッシュ政権が思い描くハルマゲドンが「ブーメラン効果」となっ て移民国家である米国自らに襲い来るシナリオを見越しているのだ ろう。つまり、ハルマゲドン自爆テロによって米国は超大国から普 通の大国へと転がり落ちていくのである。 ブッシュ政権再選支持を打ち出す小泉政権は、心中覚悟で米国を 過去の国へといざなう役割を担っている。太平洋戦争での多大の犠 牲によって米国の世紀を生みだした日本が、今まさに米国の世紀の 終わらせようとしているかのようだ。 ▼参考引用 反ユダヤ主義監視法に署名=米大統領 http://news.goo.ne.jp/news/jiji/kokusai/20041017/041016204846.4ndw73v.html Bush signs bill to monitor anti-Semitism http://www.jpost.com/servlet/Satellite?pagename=JPost/JPArticle/ShowFull&cid =1098018533349