1769.我が国の安全保障の今後



雪の少ない島2
                平成16年(2004)9月28日 中秋

 台湾では中秋節の日、名月を楽しむだけではなく、仕事も学校もお休みです。
旧暦に基く生活習慣が続いている中国人社会では、旧暦の春節(正月)、端午
節、そして中秋節が三大行事で、連休の時となります。

  さて去る8月25日に「雪の少ない島」と題して地球温暖化により、日本列島の
 台湾化が進行しており、冬季の雪が雨となって水害がオールシーズン化する
 可能性があると警告いたしましたところ、下記のような疑問のご意見を友人
 から頂きました。

友人意見
冬季の日本海側の降雪がもし雨になったとしても、1時間に20〜30mm、1日に
100mm程度ではないかと思われます。中略。この程度の降雨であれば、現在
の日本の河川や港湾、斜面は十分耐えられると思います。

 私も折角の機会ですので、勉強することとしました。気象庁がホームページで
過去の気象記録をかなり詳しく公表してくれております。過去に大きな雪害をも
たらした実例としては昭和38年(1963)と昭和59年(1984)の豪雪が有名です。そこ
で青森、秋田、新潟、魚津、富山の日本海側各主要都市の両年の降雪記録を調べ
て見ました。

 これら5都市の地方気象台の記録によりますと最大の降水量は昭和38年1月、
富山市における1ヶ月降水量543.1mm、そして1日最大降水量は同じく1月の46.9
mmでした。そしてその年、富山市では5月―8月に降雨量が多く、一日最大は同年
8月に98.8.mmを記録しています。富山以外の都市でも一日最大降水量はいずれも
6−9月の方が冬季よりかなり多めであることも判りました。昭和38年の富山市の
総降雪量は547cmで最深積雪量は186cmです。1月の31日間中29日間が雪の日だっ
たようです。この冬、日本海側では交通機関が途絶し、多くの市町村が長期に渡っ
て陸の孤島と化しました。雪崩による犠牲者も多く出ました。

 しかし仮に日本列島が台湾化してこれらの雪が全て雨であったと仮定しても、
友人の言われる通り、一日当たり40-50mmの雨であれば、冬季の水害はあまり心
配なさそうです。

 問題は日本海側に冬の間、雪と言う個体の形で貯水してくれている天然のダムが
無くなることによる影響でしょう。太平洋側もこの日本海側の積雪による貯水の恩
恵を大いに被っているのです。雪は雨水のごとく一挙に流れるのではなく、春から
じっくりと解けて大地に滲み込んで、地下流水ともなり、綺麗な真水となって我々
に恵みをもたらしてくれます。
 
 台風が水の恵みを運んでくれる場合には、マイナスもあります。台湾北部の石門
水庫では、台風17号(8月24&25日来襲)の豪雨でダムの水が濁り、大量の濁水を
放水し、かつ透明な水を得るために別途対策を行なわざるを得ませんでした。
 
 日本列島は良く地下資源の少ないところだと言われますが、こと水に関しては上
質な水が得られています。農業のみならず、工業国日本を支える貴重な資源が水な
のです。遠くは4大古代文明においてもそれらを支えたのは、ヒンターラントにあ
る高山の積雪であったとのこと、雪のお陰で絶え間無く流れる河川が文明をサポー
トしたのです。

 また日本列島が台湾化した場合、降水の在り方が、今と同じパターンであってく
れるかという懸念を私は持ちます。台湾に住む前は、台湾の冬も北から西にかけて
季節風が吹くものと思い込んでいました。日本同様ユーラシア大陸と太平洋の間に
挟まれているからです。
 ところが、風向きは北から東にかけて吹いて来ます。この冬の季節風の影響を受
け、台北近郊の山々の東側斜面に生える樹木は少なく、かつ、低木です。日本列島
を吹き抜けた冬のモンスーンは太平洋に抜けて右回りして南下し、台湾に来る頃には
東風に変って強く吹きつけると台湾大学の先生から教わりました。
そして毎日曇天が続きます。
 
 最近の国立環境研究所の予測によれば、日本列島において2100年には30度Cを超え
る真夏日が今の50日から120日以上になるとのことでした。まさに台湾並みです。
列島の南半分が熱帯になったときに冬の気圧配置は今の日本列島周辺と同じでしょう
か。仮に気圧配置が変れば、風の吹き方、降水のあり方も大いに変るでしょう。

仲津
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【フードリンクニュースMM237】

イラクからアメリカが撤退するってことがありえるのでしょうか。
ケリーが大統領になったとしても、そうなる感じがしないのですが。

いずれにしても、この先ますますいろいろなことが起きるのでしょうね。

外食関係のメルマガで、メキシコとのFTAの記事が出ていました。
メキシコから牛肉ってのは、アメリカから陸路で運ばれる牛が素性を
隠して輸入されるのかなと、穿ってしまいました。

世界人口が63億人いる現在、金さえ出せば海外から食糧を買えると
考えるのは、危険ですよね。大東亜戦争後の食糧難の時代に、お札
を口にくわえて飢え死にした人がいたという記述を何かの本で読みま
したが、お金は「概念」あるいは「記号」でしかないですからね。

とくまる

●規制>>>メキシコとの自由貿易協定FTAに署名。
オレンジ、豚肉が安価で流入。
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来年4月にも発効する見通し。豚肉、牛肉、鶏肉、生オレンジ、オレンジ果汁
の
5品目に低関税枠が新設される。日本政府は東南アジア各国ともFTA交渉を
続けており、今後、安価で様々な農畜産物が日本市場に輸入されることは必
至。

 ●政府>>>食料自給率目標45%達成を断念。
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 農水省は、2010年までにカロリーベースの食料自給率を現在の40%か
ら
 45%にアップさせる計画を2000年に作成。コメの消費が減り、農作物
の輸入が
 増えたことにより、目標達成は困難と判断。2015年に先延ばし、45%
を再度
 狙う見込み。食料自給率は1999年から40%で横ばい。

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「我が国の安全保障の今後 −米軍撤退と核武装の是非−」

ブッシュ政権は、冷戦体制から対テロ戦争等への戦略シフトとして、ドイツと韓国を
中心に欧州とアジアから約7万人を撤退させる米軍再編を進めている。
一方、我が国では、先月沖縄の普天間基地周辺で起きた海兵隊のヘリコプター墜落事
故を受け、基地移転問題が改めて浮き彫りになっている。
また、6カ国協議は現在継続中だが、切羽詰った北朝鮮が暴発を起こす可能性等も捨
て切れない。
取り巻く環境の変化を考えれば、我が国は今、安全保障の基本戦略を仕切り直す局面
にある。
しかし、個別問題、短期的視点からの議論はあるが、我が国の立場からの中長期的、
包括的な議論が殆どないのが現状である。

筆者は、今後の安全保障の全体像として下記の拙案を示す。

−基本方針−
◆北朝鮮の不安定性、及び将来的に拡大されると予想される中国等の脅威に対抗す
 るためには、日米同盟の維持強化と現時点での米軍の日本駐留は不可欠と見なす
 べきである。
◆しかしながら、他国に防衛を依存する情況は、主権国家として本来在るべき姿で
 はなく、今以上に米国の戦略に組み込まれる事は、日本の防衛・外交の自由度を
 損ない中長期的な国益にそぐわない。
 なかんずく、極東の範囲を越えた米国の戦争に実質的に自動参戦するような形は
 避けるべきである。
◆そのため、長期的には同盟関係を維持しながら漸次米軍の日本からの撤退を図り、
 日本が自主防衛能力を高めこれに置き換えて行くべきである。
 また、将来的には米国が負担軽減のためアジア全体から更なる撤退を図る事が予
 想される。
 その空白を埋め、少なくとも東アジアの安全保障は国力から見ても日本が中心と
 なって担うべきであり、必要なら改憲をすべきである。
 
−核への対応−
◆米軍が撤退しても、日本が米国の核の傘に守られる情況は変えるべきではない。
 即ち、日本はNPT(核不拡散条約)に則して核武装しない選択を継続し、それ
 を事ある毎に内外に表明すべきである。
 その一方で、米国と周辺諸国を牽制するため、図らずも国際情勢が日本を核を持
 たざるを得ない情況に追い込んだ場合には核武装を選択肢に入れる事を予め宣言
 して置き、IAEAの査察に耐えられる範囲内で核開発、弾道ミサイルに比較的
 短期間に転用可能な技術を保持充実させるべきである。
◆また、核と弾道ミサイルを持たない代りに、日本は弾道ミサイルを迎撃するミサ
 イル防衛を拡充させるべきである。
 現在、ミサイル防衛技術は開発途上にあり米国が保持しているが、この技術移転
 を要求し将来的には国産化を目指すべきである。
◆更に言えば、本来、矛(弾道核ミサイル)を持っている国は、楯(迎撃ミサイル
 システム)を持つべきで無く、矛を持たない国こそが楯を持てる事を原則化し、
 この牽制機能の上に核の縮小均衡・廃絶を目指す事が理に適っており、NPTの
 精神にも沿う。
 米国からの技術移転の進展を睨みながら、この方向に国際世論を誘導して行くべ
 きである。

−その他−
◆実質的に、中国等を将来的な仮想敵国とし防衛力の充実を図りパワーバランスを
 実現させつつも、これらの国を加えた東アジアの集団安保体制の枠組を構築する
 と共に官民の交流を盛んにし、硬軟両面で地域の安定を図るべきなのは言うまで
 もない。
◆日本は、国連の常任理事国入りをし世界の安全保障維持についても相応の負担を
 すると共に、「錦の御旗」としての国連の権威と調停機能を高めて行くべきであ
 る。
◆沖縄の米軍基地負担については、前述した米軍の日本からの撤退により削減して
 行くが、台湾海峡が近いなどの戦略的重要性のため代りに自衛隊が引き続き相当
 規模駐留する必要性が予想される。
 しかし、本土で代替可能なものは本土で負担すべきである。

筆者は、国際的な大義は長期的な国益に繋がり、国益と大義、現実と理念のバランス
を図る事が安全保障の構築に不可欠であるとの観点から上記のような拙案を示した。

また拙案には、それぞれの期限等が入っていないが、安全保障等の国家の基本戦略を
決めるには、包括的な概要を示してぶつけ合い大きな方向性を確認した後、次段階と
して期限や規模、実現順位を肉付けする議論をする段階を経るべきだと考える。

瑣末、断片的なものに留まる事を避け、是非とも各方面から我が国の安全保障につい
て様々な全体像が提示され、責任ある議論が行われる事を期待したい。

                                   以上
佐藤 鴻全
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Re:パリーグの問題。   堀田大作
   
>赤字というが、完全な球団単体での黒字化などというのは馬鹿げて
>おる。
>広告宣伝費効果・経済波及効果は、たいてい数値化されておる。
>その分は、ちゃんと計算されておるのかの。

日本の野球界は産業として弱い。スポンサー企業に背負われなけれ
ばやっていけない。第二軍まで含めて日本にはプロ球団が24個ある
が、アメリカには200球団以上ある。

お金持ちの球団に人気選手が集中するシステムを作ってしまったの
が、日本野球に暗い影を落としている。

・選手への報酬が一定額を超えたら、超えた分と同額を協会に収め、
 貧乏球団への支援資金とする
・翌年の選手獲得交渉にて、再開球団に最優先交渉権を与える

など、アメリカの野球界に習うべき点がいくつかあるだろう。
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イチロー、で盛り上がる国民感情。    虚風老

この前から、プロ野球談義がいろんなところ(朝まで生テレビとか
ね)でするので、基本的な問題の所在が見えて来たんじゃがの。

プロ・社会人・学生が読売・毎日・朝日というメディア系列の縄張
になっている為という指摘もおもしろかったの。(そういや、陸上
マラソンの選抜も、そんな絡みがあると聞いたな)
プロ・アマ一貫した協会が必要じゃろう。それに、プロ選手の退職
先にアマ解禁の選択も必要じゃろうな。(まあ、教育への配慮や←
指導者資格・能力試験等の導入。過度訓練のチェック、人材の繋が
りの不透明性を排除などはせねばならぬがね)

アメリカとの最大の違いは、日本の野球組織には、機構としての戦
略がないということじゃろうな。
(これを、反面教師として、Jリーグは戦略を練っておる。)

日本では、それぞれの球団がバラバラにやっておる感じじゃし、巨
人の戦略も「読売」の為の戦略でしかない。野球界全体を運営する
指令塔が不在なわけじゃ。

コミッショナーは単に球団同士間でのトラブルに対する裁定業務(
それも、お飾り的権威としての)に過ぎんしの。←まあ、日本的と
いやぁ、あまりにも日本的じゃがね。
本気で、野球を事業と考えるなら、そこから変えねばなるまいの。

                虚風老
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イチロー選手の偉業を祝ふ       波江究一  

大記録更新に
眼を瞠り
偉業大屋根どよもす声
空曲冴えぬ
歩む地へ
鶴名乗れ

たいきろくかうしんにめをみはりゐけふおほやね
とよもすこゑそらわさえぬあゆむちへつるなのれ

アテネ五輪の大活躍といひ、イチロー選手の偉業といひ、日本の青
年が国際舞台の競争で昔よくいはれた「プレッシャー」なるものを
完全に死語にしてしまつたところに意義があると思ふのですが、
野球界の首脳部が、相も変らぬ内向きの論理で、巨人の放映権料の
おこぼれにありつかうとしてゐる図は情け無い。広告媒体といふ社
会人野球の延長に出たプロ野球は終りにして、数企業がリスクを分
担しながら、球団経営のスペシャリストを雇つて、利益を生み出す
構図を考へるべき時期でせう。トレード補強なく、現有戦力の底上
げのみで優勝を達成した落合監督のあり方は今後に大きく示唆する
ところあると思ひます。 
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「僕にとって重みが違う数字」イチローが喜び語る(ASAHI)

イチローはほおをやや赤らめて、記者会見場に現れた。「ビールを
かけられましてね」 

チームメートの思わぬ祝福に対する喜び、偉業を成し遂げた安堵(
あんど)感が、普段は口数の少ない天才打者を冗舌にさせたのかも
しれない。「どうぞ、今日はいいですよ」。会見を打ち切ろうとす
る球団職員を制し、新記録樹立の喜びを語り続けた。 

日本の報道陣向けの会見は冗談も交えながら、約40分に及んだ。
00年11月、初めてマリナーズのユニホームに袖を通し、「ジャ
ーン」と1回転しておどけた入団発表と、印象がだぶった。 

1回の第1打席から、4万5000人のファンで埋まったスタンド
は総立ち状態でイチローを出迎えた。異様な雰囲気の中で左前安打
を放ち、シスラーに並ぶ。そして3回の第2打席で中前へ打ち返し
、一気に抜き去った。 

「熱かったですね。僕の野球人生の中では、最高に熱くなりました
」。監督、チームメートらがベンチを出て、イチローを取り囲む。
「全く予期していなかった。うれしかった」 

日本の首位打者が海を渡ったのは01年。「どんなに実績があろう
とも、『なめんじゃねえぞメジャーを』『なんぼのもんじゃい』と
いう雰囲気をすごく感じた」 

1年目で242安打を放ち、いきなり首位打者を獲得した。 

「01年の数字とはまったく違うものと感じる。日本で94年に残
した210安打(日本プロ野球記録)もよく思い出すが、あの時は
怖さを知らなかった。今年は色々な怖さを知り、乗り越え、自分の
技術を確立した上で残した数字だから、僕にとって重みが違います」 

この日、球場を包んだ祝福ムードには、日本人も米国人もなかった。 

「4年目の今、そういう状況を作れたとしたら選手として、これほ
どうれしいことはない」 

大リーグを代表する選手にまで上り詰めた今と4年前では、明らか
に立つ位置が違う。その自負がにじんだのは、野球少年へのメッセ
ージを求められた時だ。 

「こちらに来て強く思ったのは、体が大きいことに、そんなに意味
はない。僕は大リーグに入ってしまえば一番小さい部類です。でも
、こういう記録を作ることもできた。大きさや強さに対するあこが
れが大きすぎて、自分自身の可能性をつぶさないで欲しい。自分自
身の持っている能力を生かせれば、可能性はすごく広がると思う」
 (10/02 21:26) 
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件名:イチローの快挙/新しい野球の魅力を示した  

 「快挙!」「歴史を塗り替えた」「八十四年ぶり偉業」――。大リーグ百二十九年の頂
 点に立つ新記録をたたえる、どの言葉も平凡でやや言い足りなく映ってしまう。それほ
 どの歴史的瞬間であったと言っても言い過ぎではない。

魅力あふれた安打重ねる

 世界の頂点に君臨する米大リーグで、シアトル・マリナーズのイチロー選手が前人未到
 の偉業を成し遂げた。本拠地セーフコフィールドで迎えたテキサス・レンジャーズ戦で、
 三安打をマークして年間二百五十九安打を達成し、大リーグ年間最多安打記録(二百五
 十七安打)を八十四年ぶりに更新し、新しい歴史を刻んだのである。

 従来の記録は、ジョージ・シスラー内野手(セントルイス・ブラウンズ=現・オリオー
 ルズ)が一九二〇年に打って以来、誰にも破られなかった。今季チーム百六十試合目
 (本人出場百五十九試合)で記録を塗り替えたイチロー選手は、さらに残る二試合でも
 安打を積み重ね、ベースボール史の新たなページにその伝説を書き加えていくことであ
 ろう。

 この試合、三塁手の頭上を大きく弾んで超える打球、二遊間をきれいに抜けるゴロ、捕
 球しても一塁アウトにできないゴロと、シスラー選手に並んだ二百五十七本目の安打に
 始まる記念の三安打は、どれもイチロー選手らしい魅力にあふれたヒットであった。

 今季のイチロー選手は、すでに記録ずくめである。月間五十安打以上が四度で、通算最
 多の四千二百五十六安打を誇るピート・ローズと並んだ。大リーグ初の新人からの四年
 連続二百安打以上も達成し、連続四シーズンの通算安打数も九百二十一本で、ビル・テ
 リーの大リーグ記録九百十八本を更新している。大リーグ二度目の首位打者も、二試合
 を残して打率三割七分三厘と確実にしている。

 大リーグで達成した、これら記録の一つひとつは、それ一つだけでも偉大な記録であり、
 快挙と言っていい。

 イチロー選手が、本場の大リーグ野球に新しいタイプの魅力を注入したことは、単に大
 リーグに新風を吹き込んだことにとどまらない。大リーグ野球に、新しい質の変化をも
 たらしたのである。

 イチロー選手の記録更新によって脚光を浴びることになったシスラー選手の偉大な記録
 は、同時代にまぶしいまでの光が当たったベーブ・ルース選手の陰に隠れてきた。大リ
 ーグ野球は、豪快なパワー野球であり、それを象徴する華々しい本塁打の醍醐味(だい
 ごみ)に、ファンがしびれ酔ったのである。野球とはベーブ・ルースであり、ミッキー
 ・マントルであり、バリー・ボンズであった。

 そこに日本から、イチロー選手がやってきた。その野球は、打って、バントして、走っ
 て、盗んで(盗塁)、守って、刺して(本塁封殺、進塁阻止)と、パワーの豪快野球と
 は別の新しさに彩られたオールラウンド野球の光を放った。

 従来の常識では、内野ゴロでしかない打球をヒットにしてしまう足の速さに、ファンは
 魔術を見る思いだったに違いない。バットコントロールで狙い通り自由に打球を打ち分
 け、強弱までつける。その技術の確かさと奥深さに、ファンも新しい野球の面白さを見
 つけ出したに違いない。

天才の陰に努力と独創

 周りのフィーバーにも平常心を失わず、あくまでヒットをこつこつと積み重ねて達成し
 たイチロー選手の大記録。それを喜び祝福すると同時に、その陰に天才を生み育てた努
 力と独創があることを、しっかりと見届けたい。世界日報 掲載許可済み
Kenzo Yamaoka
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件名:『中国の海洋進出』ほか  

中国の海洋進出
「戦略国境」論背景に軍事的影響力を拡大/領土保全の明確な姿勢示せ
 今月は、保守系論壇誌が中国特集を組んでいる。

 『諸君!』が「見苦しいぞ、中国」と題して中国ナショナリズムを軸に論じ、『正論』
 が「中国よ」で安全保障や教育、経済面から多角的に分析している。『中央公論』はテ
 ーマこそ「日本の領土・日本の防衛」だが、「中国」が影の主役なのは明らかだ。

 これらは八月に中国で行われたサッカー・アジア杯で日本に対する度を超した中国側の
 反日言動に触発された面はあるが、近年の国際政治や経済に占める中国の比重増大など、
 隣の大国がわが国に与えるさまざまなプレッシャーが背景にあろう。

 特に東シナ海を中心とした海域への進出はわが国にとって主権にかかわる由々しき問題
 だ。『中央公論』の茅原郁生氏「中国の海洋進出、その軍事的意図」は、そのあたりの
 中国海洋戦略の底深い狙いを明らかにするとともに、わが国のとるべき対応を促してい
 る。

 茅原氏によれば、中国の海洋進出の背景には「三元的戦略的国境論」がある。「戦略国
 境」とは、従来の地理的な国境線とは異なる自国の支配権のフロントを指すが、中国は
 これを海洋、深海、宇宙の三元的空間に拡大している。昨年十月に有人衛星「神舟五号」
 を打ち上げ、米ロに次ぐ世界第三の宇宙大国を確保していることもその表れだ。

 その海洋戦略には防衛面と開発面があるが、防衛戦略では第一列島線(日本列島から南
 西諸島、台湾、フィリピン)内のシーコントロール、次いで第二列島線(小笠原諸島、
 マリアナ諸島、グアム)内のシーデナイアル(他国の自由使用を拒否する)を追求する
 というものだ。

 いわば、西太平洋海域での米海軍の自由行動を牽制(けんせい)し、沿岸地域を巡航ミ
 サイルの射程外に置くことで、将来中国が台湾を攻撃する場合でも米軍の来援や介入を
 阻止する狙いがあるという。資源探査をはじめとする海洋開発戦略も、これと不可分の
 戦略といえよう。

 さて、これに対するわが国がとるべき対応だが、国家としての海洋戦略を確立し、海洋
 国家として総合的な海洋政策を展開する。当然のことだ。

 第二には領土保全の措置を講ずること。尖閣諸島へ不法上陸した中国人を送検すること
 もなく強制送還でお茶を濁すなど弱腰外交の感は免れない。領海侵犯や不法上陸に対し
 ては例外なく強制措置を執行して、わが主権の存在を明示する必要がある。さらに中国
 の不法な調査活動に対しては国連海洋法条約に基づき、中止させるなど沿岸国の権利を
 断固として行使すべきだとしている。同感だ。

 茅原氏は言及していないが、やはりこうした離島、沿岸海域の防衛に対しても実効的な
 防衛(軍事的)措置が迫られてこよう。

 なぜなら、先の中国共産党の四中総会で党中央軍事委員会には主席の胡錦濤氏を除き他
 の委員すべてが軍人で占められていることだ。軍の発言力はこれまで以上に強くなり、
 中国の海洋進出は軍事的にもさらに活発化し、日本の抗議はますます無視される傾向に
 あるからだ。政府はこのような深刻な状況をどこまで受け止めているのか。 

異彩放つ海保のアジア連携 

 一方、こうした海洋の安全保障に関連した好論文が、同じく竹田いさみ氏「日本が主導
 する『海洋安全保障』の新秩序」だ。安全保障と言えば自衛隊が主役だが、海の安全保
 障に関してはこれを底から支えているのが海上保安庁だという。むしろそのアジア連携
 は異彩を放っている。

 今年六月に東京で「アジア海上保安機関長官級会合」が開かれたが、海賊対策と海上テ
 ロ対策でアジアの海洋安全保障に関する最前線の首脳会議として特筆すべき会議だ。

 とりわけこの分野で注目されるのはインドとの密接な関係だ。両国は海上での連携訓練
 を毎年実施しており、巡視船や警備艇の派遣も定例化している。

 竹田氏は「日本とインドにとって共通の国益は、東南アジア海域からインド洋にかけて
 の海賊対策ばかりでなく、巨大化する中国とのバランスをいかに作り上げるかによる」
 と指摘するが、こうした米国だけでないインドや東南アジア諸国との戦略的パートナー
 シップといった、重層的な海洋安全保障の構築が今後ますます求められてこよう。

小泉外交の危うさ
過度な世論依存は道誤る 

 『諸君!』十月号で京大教授の中西寛氏が「小泉首相は外交を『見世物』にした」と題
 して、対外政策と国内世論との関係の在り方を中心に論じている。

 第二次小泉改造内閣が発足したが、もちろん、内外に多くの課題が山積している。内政
 の「郵政民営化」はさておき、いろいろある外交案件でも小泉首相は「拉致問題」の決
 着による北朝鮮との国交正常化に熱心なように見受けられる。

 確かに、その大きな障害となっている「核・ミサイル問題」「拉致問題」はわが国にと
 って喫緊の懸案であり、その意味での「北」重視は間違いではない。だが、これが世論
 の支持率上昇を企図したものであればこれほど危険なものはない。

 それが杞憂(きゆう)ではないと思えるのは、「拉致」問題への姿勢である。外交常識
 を無視した二度目の訪朝に象徴されるように、北朝鮮との国交正常化を急いでいるので
 はないか。例えば、小紙のウィーン小川特派員によれば、訪米の際、首相が日本国連大
 使主催のパーティーで北の外務次官と短時間接触したことを北は「日本側の焦り」(北
 朝鮮消息筋)と受け止めているという(二十五日付)。

 中西氏は明治の外交官・陸奥宗光の言を引いて、小泉外交の危うさを論じている。首相
 は内政の「郵政民営化」論に見られるように、「抵抗勢力」=悪に見立てて、善玉悪玉
 論で分かりやすく世論を味方につけようとの狙いがうかがえる。

 「小泉首相の訪朝外交はそうした危惧を抱かせる要素がある」とも中西氏は警告する。
 民主主義国において首脳外交への期待を高めすぎることは一般的に危険であり、「こう
 した世論の期待は、政治指導者に強い圧力をかけ、指導者が世論に頼ろうとすればする
 ほど、功を焦ることになりかねない」というわけだ。

 「言葉を通じた参加と説得こそ、古今を問わず政治の本質であり、外交を見世物ではな
 く、人々の営みとする最も基本的な方策」と結論付けているが、まさにその説明責任が
 問われているのである。 世界日報・編集委員−黒木正博  掲載許可済み
Kenzo Yamaoka


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