1761.財投の実態解明を優先せよ



なぜアメリカ横断ウルトラクイズの提供は「トヨタ」だったのか? 
               アルルの男・ヒロシ

私は、海外に行ったことがない。一度もない。本州を離れたことは
ないのである。そんな私が、米国外交評論をするというのも、はな
はだ僭越ではあるのだが、逆に岡目八目ということもあるだろうか
ら、それでよいと思っている。

いまのアメリカ国内のイデオロギー的分裂状況をを見たり、中西部
の宗教原理主義の実情を観ていくと、アメリカ帝国の内部に済むと
いうのもやはりかなり大変なことなのだろうなあ、と思ってしまう
。どうせ住むなら文化の街であるドイツやオーストリア、オランダ
がいい。私の好きなオペラやクラシックコンサートに毎日格安の値
段で行けるからだ。

そこで今回のテーマは、「アメリカ横断ウルトラクイズ」である。
なんでそんなものをテーマにするのか。これにはちゃんとした理由
がある。
私はぶっちゃけて言えば、この番組とフジテレビのニュース番組で
、高校から大学生時代にアメリカというものを理解した。
いまとなってはその理解がもの凄くゆがんだ日本のマスコミの作り
出した幻想としてのアメリカであると分かって愕然としている。

このアメリカ横断ウルトラクイズが始まったのは何時だったか。調
べてみると、1977年から1992年までの16回に渡って行わ
れた番組である。日本テレビ系放送で、放送期間の大部分がレーガ
ン政権の時代に入っているという事実はたぶん、いままで気が付か
なかったけれども、きわめて重要であろう。

中曽根康弘首相とレーガン大統領の関係はきわめて重要な二国間関
係としての日米関係を定義し、ロン・ヤス時代は日米関係最良の時
であった。日本はこの時期、世界の経済大国としての地位を確たる
ものにしつつあり、1985年のプラザ合意に向かうことになる。
それから先は皆さんのご承知の通り、バブル経済による自信過剰が
蔓延し、ジャパンアズナンバーワンという言説がCIAのエージェ
ントでもあった、エズラ・ボーゲルというユダヤ系知識人によって
作り出された。
 
私はこの番組の仕掛け人が誰なのかしらない。福留功男(ふくとめ
のりお)氏の手記などに書いてあるかも知れない。

大胆に断定してしまえば、このアメリカ横断ウルトラクイズこそ、
1980年代の「日米大衆文化交流」の一つの象徴であっただろう
。日本人である我々は読売新聞を読み、巨人戦を観て、そして日本
テレビの送り出した、米国文化紹介番組を観てきた。ここで描かれ
るアメリカは自由の国、差別の無い国、まさに日本人が目指すべき
理想としてのアメリカであった。

ここでは、いまはよく知られている、中西部の南部バプティスト派
の存在が物の見事に捨象されてしまっていて、アメリカ人の内部に
は人種対立も文化対立も存在しないということにされていた。アメ
リカを横断すると言うことは、西海岸のリベラルな雰囲気やテキサ
スの泥臭く、アブラくさい雰囲気、敬虔な雰囲気、そして東部のふ
たたびリベラルな雰囲気を連続して経験するという、どう考えても
カルチャーショックを受けざるを得ないはずの旅行であるのにもか
かわらず、カメラの焦点は常に日本人参加者に向けられていたため
、テレビに映っている風景はアメリカであるにも拘わらず、その内
実は高校生クイズと全く代わらないものなのであった。

印象に残るのは、日本人を歓迎するアメリカ人の姿のみである。想
えばこの番組は不均衡な貿易収支、対外収支で、緊張しかかってい
た対米関係を調整するために考え出された、大衆外交の一例では
なかっただろうか。日本の経済躍進が終わった、バブル崩壊後の
1992年以降、この番組は製作されていない。そのことは、日本
にとって対アメリカの大衆外交の必要性が薄れ、国内に誰もが目を
向け始めたことを示しているのではないか?

1998年にこの番組は再び、お茶の間に登場した。来世紀にも鬱
くられるということを臭わせていたけれども、あの2001のテロ
が起きてしまったため、それどころではなくなった。恐らく、いま
のニューヨークでは、警備上の理由で、ヘリコプターを飛ばして、
撮影することもできないだろうし、自由の女神の前で撮影すること
もできないだろう。

重要なのは、98年の番組のスポンサーがトヨタ自動車であったこ
とである。トヨタといえば、対米民間外交の要となる企業だ。盛田
昭夫氏は石原慎太郎氏と対談した「NOといえる日本」の中で、ア
メリカにノーを唱えつつも、トヨタの工場のアメリカ進出など、さ
まざまな手段で反日感情を宥めようとした企業である。ジェイ・ロ
ックフェラーとの関係は有名すぎるのでもう書かない。

さて、この番組はまた復活するのであろうか。いま、日本人のみな
らず、世界の各国の対米認識は最良の時とは言い難い。イラク戦争
をきっかけに民衆の間に反米感情が瀰漫している。いまこそ、アメ
リカ横断ウルトラクイズのような大衆外交を成功させて、日米関係
を改善していくときであるとおもうのではあるが、それは無理な相
談であろう。何しろ、民主党のケリー候補ですら、アメリカは戦時
であるという認識である。はったりの911から始まった「テロ戦
争」は終わることのない戦争になるだろう。このまま「ローマ帝国
の滅亡」に突き進む可能性はある。

アメリカでは、いま上映すべき映画は「マンチュリアン・キャンデ
ィデット」でもなく、「華氏911」でもなく、「摂氏41.11
」でもなく、ソフィア・ローレン主演の名画「ローマ帝国の滅亡」
(the Fall of Roman Emipre)であると言えるだろう。選挙までにこ
の映画を上映すれば、アメリカ人の深慮ある人々は顔を青ざめるで
あろう。アメリカは世界帝国になった以上は衰退する運命にある。
それが歴史の法則である。
その冷酷な歴史の法則の前には、トヨタの大衆外交もとてもちっぽ
けなものである。
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議論を・・・ 民間会社員
出所:2004/09/07, 朝日新聞 朝刊

郵政民営化 財投の実態解明を優先せよ 山崎養世(私の視点)

 小泉首相が構造改革の一環として、郵政民営化を行う目的は、も
ともとは郵政資金を原資とする特殊法人などを改革し、財政投融資
(財投)の仕組みを廃止することだったはずである。それが財政再
建につながるはずだった。

 財投とは、財務省が年金、郵便貯金、簡易保険などの国民の資金
を、実質的には強制的に借り上げて、特殊法人、自治体、特別会計
に貸すという制度である。戦後、財政資金が不足した時期につくら
れたもので、他国には見られない。

 日本が経済大国になった時点で、存在意義は失われた。国民の資
金を貸し付けても、特殊法人などが返済できなければ、結局は税金
で穴埋めするという負担をしているのも国民だ。にもかかわらず、
財投は国会で十分に審議されず、情報公開や監査もほとんどなされ
ていない。財務省や監督官庁のチェックも不十分だ。

 借り手の特殊法人などでは、収支や現実を無視した事業が横行す
る。「粉飾経理」や国民負担による穴埋めが常態化し、財政破綻(
はたん)が加速されている。

 40兆円の借金を抱え、損失を拡大し続けている道路4公団はそ
の最たる例だ。民営化後も、実質的に財投からの借り入れを継続す
ることが決まっている。

 財投の残高は約350兆円、民間銀行の融資総額に匹敵する。
だが、特殊法人などの過剰投資が招いた巨額損失は、民間の不良債
権を上回るとさえ言われる。

 国民が被る損失が拡大の一途をたどっている以上、実態解明と借
り手の責任を徹底して追及することが、財政破綻を防ぐためには最
重要なことではないか。

 郵政(郵貯と簡保)は、年金と並ぶ、財投資金の大口の出し手で
もある。01年4月の改革で、郵政のお金は原則的に自主運用に転
換したが、今も国債の一種の財投債を購入して、巨額の資金を提供
している。

 財投の資金の流れは「郵政→財務省→借り手」という図式になる
が、これは「預金者→銀行→借り手」の関係に似ている。財投の損
失拡大の責めを郵政に負わせるのは、銀行の不良債権問題で、預金
者に責任を問うようなものだ。

 銀行の不良債権問題で、銀行と借り手企業の実態が解明されてき
たのと同様の手続きを、財投でも踏襲すべきである。
 財投廃止までの具体的なプロセスを提案したい。
 (1)時限措置として、専門家と実務家で構成される独立機関「
    公的金融検査庁」を創設する。
 (2)貸手の財務省と、借り手の特殊法人などを検査して、結果
    は情報公開する。
 (3)企業会計原則、時価会計に基づいて、資産と負債の洗い替
    えをする。
 (4)損失拡大を防ぐため、損失を確定させる。
 (5)現在の特殊法人などを区分けして、次のように処理する。
    ▽廃止する▽完全に独立採算にして存続させる▽不採算だ
    が存在意義を認め、一般会計で負担しても存続させる。

 郵政は改革すべき点も多いが、国家財政の破綻を食い止める方が
、緊急性ははるかに高いはずだ。
 しかも、郵政3事業は現在、収益が維持され、国民負担が拡大す
る状況でもない。郵政に対する国民の満足度も国鉄や道路公団に比
べると高い。特に地方ではインフラとして、長年重要な役割を果た
してきた。
 財投の廃止に向けて、実態を解明した後で「民営化か公社存続か
」の議論を根本からやり直すべきだ。
 (やまざきやすよ 元ゴールドマン・サックス投信社長)
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財投廃止優先論には賛成、しかし下記の点で疑問がある。

検査対象が問題。3000社あったとされる特殊法人の系列企業ま
で含めるべき。同時に系列企業を含めた財投関連の従業者数(全体
の3分の1にあたる約2000万人との説もある)を把握し、雇用
面における影響を分析する必要がある

また、系列企業を含めた不良債権額(数百兆円?)を確定した上で
、その処理方法を議論した方がよい。はたして、納税者が全額負担
する必要があるのだろうか。
責任の所在を明らかにする意味でも、民営化後の事業者が一部を負
担すべきである。

上記論点を欠いた小泉改革はリスクが極めて高い。
また上記数値を把握しているであろう米国陣営が有利になるだけ。
結局、新生銀行方式につながる可能性がある。

負担が増えるだけで何もメリットがない改革って改革なんだろうか。 
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(Fのコメント)
財政投融資は、民間の不良債権整理が一段落した現在、再度どう解
決するかを真剣に考える必要がある問題だ。現在360兆円の財投
の80%以上は焦げ付いていると言われている。
実態も、石油公団や道路公団などの30兆円以上を貸しているが、
いつ返せるかメドが立たないようです。しかし、財投資金は郵便貯
金や簡保、年金などの国民の金ですので、国家予算とは違い利息を
払わなければならない資金です。この資金を返せないと、借金が増
えていくことになるのです。

この財投資金を郵政民営化で普通の銀行として、不良債権化させる
と現在郵貯に預けている金は、ほとんど返せなくなり、倒産するこ
とは確実になる。もし、このような状況で預かり資金の運用先と
運用先の評価を発表したら、パニックになるはずです。国家機関で
あるから安全と思っていたのに、一番安全でなくなるのですからで
す。どうこの資金を返すかの道筋を説明する責任が財務省にはある
と思いますよ。そこがないと郵貯は危なくて、預金退避が起こるこ
とになる。

この議論をしようとしないのは、小泉さんどうしてですかね??
民主党もしっかりしてほしい。もう1つの国家財政のガンですよ。
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小泉首相が、さしたる改革像や改革アジェンダもないままに、日本
が国連常任理事国入りする話を各国にしているのは、もともと勝算
を立てていないためではないかと思います。
つまり、常任理事国入りに失敗することを「目的」としているので
はないでしょうか。
そして、本当の狙いは、常任理事国入りができないのも憲法第9条の
せいだと騒いで、結局憲法9条だけを改憲しようと思っているのでは?

うがちすぎでしょうか?
とくまる
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津地裁勝訴御礼

「三重県人権センター偏向展示」について津市周辺に発行の三重タイムズでインタ
ビューした件で一旦、教授解任、事務職に降下されたことについて、以前このコラム
で報告させていただきました。覚えていらっしゃる方もいると存じます。

今般「言論の自由」「学問の自由」が認められ、津地裁において事実上完勝させてい
ただきました。
これもみなさまのご支援の賜物です。心から御礼申し上げます。

詳細の、六十ページにわたる判決文は近日中に日本世論の会三重県支部ホームページ
にアップさせていただきます。取り急ぎ新聞報道をお知らせします。
http://www.ztv.ne.jp/mizuya/
                       鈴鹿国際大学教授 久保憲一


読売新聞 平成16年9月17日)

享栄学園の戒告処分など無効

教授の訴訟に判決

 鈴鹿国際大(鈴鹿市)の久保憲一教授が同大を運営する「享栄学園」と同大の
教授ら二人を相手取り、戒告処分と教育活動を禁じた業務命令などの無効と、慰
謝料約500万円を求めた裁判の判決が十六日、津地裁であった。

 内田計一裁判長は「戒告処分などの理由とされた原告の発言は、学問の自由か
ら尊重されるべきであり、処分の理由はない」として、戒告処分や一部の業務命
令の無効を認め、教授ら二人に200万円の慰謝料の支払いを命じた。

 久保教授は、一九九九年十一月の地域紙のインタビュー記事で、県人権セン
ターの展示内容を「自虐史観に基づくもの」などと批判する発言をしたとして、
二〇〇〇年初めから教授会への出席や教育活動などを禁じられていた。

 久保教授は判決を受けて「言論、学問の自由が守られたということで評価した
い」と話した。一方、鈴鹿国際大は「判決文を読んでいないのでコメントできな
い」としている。


(毎日新聞 平成16年9月17日)

元学部長らに200万円支払い命令

鈴鹿国際大 訴訟地裁判決

 鈴鹿国際大学(鈴鹿市郡山町)の久保憲一教授が、ミニコミ紙上の発言などを
理由に事実上教授を解任する処分を受けたのは不当だとして、同大を経営する
「享栄学園」(名古屋中区)と元同大国際学部長らに対し、処分の無効と慰謝料
500万円の支払いを求めていた訴訟の判決が16日、津地裁(内田計一裁判長)で
あった。内田裁判長は「学問の自由は保障されなければならず、処分は懲戒事由
がなく無効」などとして、訴えの一部を認め、元学部長らに対し、慰謝料200万
円を支払うよう命じた。

 判決文によると、久保教授が99年11月のミニコミ紙上で行った発言について、
大学は「教授として不適切」と辞職を求める決議をし、戒告処分とした。大学は
その後、同教授に事務職への異動を命じ、教授会への出席や教育活動を禁じた。

 内田裁判長は判決で、「学問の自由は保障されねばならず、研究成果の発表の
自由は十分尊重されなければならない」などと指摘した。ただ、久保教授は「教
授」の身分にとどまっており、大学側が一時命じた事務職への異動命令の撤回を
求めた部分については、地裁は「訴えの利益がない」と却下した。【鈴木顕】


(産経新聞 平成16年9月17日)

「教育活動禁止命令は無効」

教授の訴えほぼ認める 地裁判決

 鈴鹿国際大学(鈴鹿市)の久保憲一・教授(五四)が、新聞記事への発言が発
端で教育活動を禁止されたことに対し、学校法人「享栄学園」を相手に、業務命
令の無効を求めた訴訟の判決が十六日、津地裁であった。内田計一裁判長は「原
告の請求は理由があり容認すべき」として、教授会出席と教育活動を禁止した業
務命令の無効など、原告の訴えをほぼ認めた。

 久保教授は、平成十一年十一月に地域紙に掲載されたインタビュー記事をめぐ
り翌年、同大学の委員会や教授会への出席、講義などの教育活動を禁止され、学
園史を英訳する事務に携わるよう業務命令を受けた。
(伊勢新聞 平成16年9月17日)

戒告処分は違法

津地裁判決 久保教授が勝訴

 鈴鹿市の鈴鹿国際大学の久保憲一教授(五四)が、地域紙での発言を理由に戒
告処分を受け教育活動を禁じられたのは不当として、同大を運営する名古屋市中
区千代田の学校法人「享栄学園」と当時の国際学部長、学生部長を相手取り、戒
告処分などの無効確認と慰謝料五百万円の支払いを求めた裁判の判決が十六日、
津地裁(内田計一裁判長)であった。内田裁判長は「発言をもって教育活動を禁
止させることは、正当な理由でない。戒告処分は違法」と述べ、教授会への出席
や講義を禁じる業務命令を無効とし、元国際学部長ら二人に慰謝料二百万円の支
払いを命じた。

 判決によると、同大は久保教授が地域紙で「県人権センターではほとんどが部
落問題で占められている」などと発言したため、教授会で「本学の教授として不
適格」と判断。戒告処分として教授会や講義への出席禁止、研究室の使用禁止の
業務命令を出した。

 内田裁判長は「ローカル紙での発言は研究成果の発表とみれるもので、大学と
して十分尊重すべきもの」として上で、発言を理由に教育活動を禁止するのは正
当でないとした。

 鈴鹿国際大学は「判決内容を見ていないので、コメントは差し控えたい」とし
ている。
詳細は日本世論の会 三重県支部のウェヴページをご覧ください。
http://www.ztv.ne.jp/mizuya/

久保憲一
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件名:大銀行の立場に立ち、郵貯・簡保解体論を根に持った日経の
急進的すぎる郵政事業民営化論  

新聞 説明尽くさぬ問題点
 今月十日、郵政事業民営化の基本方針が決まった。小泉純一郎首相が功を焦り、与党の
 了承を欠くという議会制民主主義・政党政治の精神を踏みにじる手続きだったが、朝日、
 毎日、読売、日経の大手各紙はこれに対して、声を大にして問題にするということはな
 かった。これは問題であると同時に残念である。

 それはそれとしてその基本方針の骨子であるが、@年内の専門家による検討の場でシス
 テム開発にめどがつくという結論を得れば、二〇〇七年四月の民営化当初から窓口ネッ
 トワーク、郵便、郵便貯金、簡易保険の四事業を分社化し、純粋持ち株会社の傘下に置
 くこととするが、そうでなければ別の組織形態でのスタートになるA窓口会社と郵便の
 株式は持ち株会社が全額保有するが、貯金、保険会社は最長十年の移行期間中に株式を
 売却し、民有・民営を実現B窓口会社に住民のアクセスが確保されるようにするととも
 に、郵便会社にはユニバーサルサービス(全国一律の料金制度)を課すことから、国は
 持ち株会社の発行済み株式総数の三分の一超を保有C貯金会社と保険会社は融資業務に
 参入するとともに、業務遂行に当たっては国債市場に配慮するC郵政職員は国家公務員
 の身分を離れる――などというものだ。

 さて、今回の閣議決定に当たっての一番の問題点は、毎日が十一日付の五面で指摘して
 いるように、「『なぜ民営化か』の説明は尽くされず、内閣改造を控えた政治的駆け引
 きの道具としての色合いが際立つ調整劇となった」ことだ。「公務員削減による行革断
 行なのか、民間との競争によるサービス向上か、それとも財政投融資の流れをくむ郵貯
 ・簡保の資金ルート圧縮なのか。(小泉)首相の口から改革の目的が丁寧に語られるこ
 とはなく、『民営化』のスローガンが連呼された」(同)という批判は的を射ている。

大銀行代弁する日経

 それはともかく、今回閣議決定された基本方針は、持ち株会社が窓口会社を兼任する組
 織形態を求めた総務省、郵政公社と、郵政事業の完全民営化を求める経済財政諮問会議
 の竹中平蔵経済財政担当相および民間議員の折衷案的な内容だ。それだけに、今後の法
 案化および具体的な制度設計の段階で、双方の“綱引き”が展開されよう。

 日経は明らかに後者を応援し、急進的な民営化路線への移行を強く求めている。同紙は
 十一日付の「これでいいのか、郵政改革」と題する社説で、小泉首相が明確に語らなか
 った郵政事業改革の意義として、@官から民へ金融の流れを変え、日本を官主導の国か
 ら民主導の国へ変えることA政府財政規律や財投機関の効率化の回復B巨大組織による
 民業の圧迫を避ける――などを挙げ、閣議決定の方針はまっとうな民営化の青写真を描
 いたものではないと強く批判。その上で、特に貯金、保険など金融事業の設計を急ぐよ
 う求めている。

 しかし、日経のホンネは「本来、郵便貯金、簡易保険は廃止、郵便事業は民営化が筋で
 ある」(九日付社説)というところにある。こうした大銀行サイドの考え方の下では、
 いかに制度設計を行ったとしても、貯金会社や保険会社はいずれ存続を維持できなくな
 るだろう。なぜなら、将来的には廃止せよというのだからである。その意味では民間人
 が貯金会社、保険会社の株式を購入するなどのことは愚かなことになろう。

 近年の郵貯や簡保からの資金流出を考慮すれば、将来の貯金会社や保険会社には前途容
 易ならぬものがあろう。必要なことは、新たな貯金会社や保険会社が利益を増大させて
 株式を上場できるように、投資信託の販売や融資業務への参入、新型終身保険その他の
 新規業務への進出ができるように規制を緩和することであり、かつまた公的金融機関や
 民間金融機関との業務提携や合併なども視野に入れて良いのではないか。これを“民業
 の圧迫”などというのは、民間の自助努力を放棄するものでしかないであろう。

公共財民営化は疑問

 日経はまた郵便事業も民営化せよと息巻いているが、明治以来営々として築いてきた郵
 便ネットワークは今や、国民に欠かせない公共財となっている。政府が郵便会社に関与
 することは当然である。さらに、公的金融機関など財投機関は効率化が必要であること
 は確かだが、だからといって公的金融機関は廃止して良いということにはならない。独
 立行政法人・日本学生支援機構(旧日本育英会)などの公的金融機関は、必要不可欠で
 ある。欧米でも公的金融機関は制度として保証されている。

 その他、財政の規律を回復させるためには、@景気を着実な回復軌道に乗せ、税収の安
 定的な拡大を図れるような財政政策を講じるA行政改革の徹底化B歳入増大策――など
 の対策をまず主体的に行うべきで、郵政事業を民営化すれば財政規律が回復できるなど
 という保証はどこにもない。

 大銀行の立場に立ち、相変わらず郵貯・簡保解体論を根に持った日経の郵政事業民営化
 論は疑問である。閣議決定した基本方針で制度設計を行っても、朝日が十一日付十面で
 紹介しているような、貯金会社が融資業務に失敗して金融不安が生じ、再国有化される
 というシナリオもあながち非現実的とは言えない。郵政事業の改革に当たっては、慎重
 かつ現実的に対応すべきだ。(野村道彰)(世界日報)掲載許可済み
Kenzo Yamaoka


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