1746.中国の現状分析と今後



中国の政策は、現在までの政策は非常に優れていた。今後の中国も
どうかを検討する?           Fより

日本国家主義者や似非右翼、親米派の人たちは、中国の政策が優れ
ているいうといやな顔をするようであるが、事実を確認すると、
トウ少平から今日までの中国の政策は非常にいいと評価せざるを得
ない。勿論、天安門事件のような世界に衝撃を与えた事件もあるが
、大枠としては優れている。

この証拠に、現在世界第2位の位置を確保した状況になっている。
オリンピックの金メダル数、高速道路の距離、インターネット人口
など米国の次に大きい。そして、経済規模は世界の第4位。米国、
日本、ドイツの次。これも2005年にはドイツを抜かして第3位
になるし、2015年には日本を抜かしている可能性が高い。

中国軍の装備も米軍ほどには大きくないが、米国が中国に攻め込め
ないような装備を独力で開発している。これが核搭載の大陸弾道ミ
サイルである。しかし、旧ソ連のような軍拡競争はしない。大陸弾
道ミサイルを5000発も持つようなことをしない。10発程度と
少ないが抑止力としては十分であるレベルで持つ。台湾に対しての
脅しとしては中距離ミサイルを800発も持っているのにである。

そして、その他の軍備はロシア製であり、今まではあまり金を掛け
ていない。そして中国陸軍は200万人と規模は大きいが、装備が
貧弱で外国との戦争・中越戦争で負けている。勿論、国家経済規模
が増したが、それでも規模との比較では米国より随分と少ない。経
済規模が大きくなっているので、陸軍の人員を削減して装備も増強
拡充するようであるし、軍事費の拡大のスピードも高いが。

労働賃金が安いメリットを生かして、外資を導入して技術を貪欲に
取り入れている。そして、その導入した技術を基に新規に自己開発
して、どんどん世界に輸出している。そして経済規模を拡大してい
る。高速道路や空港など当初は日本のODAで作ったが、経済規模
が拡大して、自分で建設できるようになっている。これも、技術は
日本や世界から導入している。

またソ連・ロシアと違って急に自由民主主義政治にはしなかった。
このため、無用な混乱が起きていない。政治的には共産党独裁も
そのままである。開発独裁としてシンガポールのリー・クワンユー
がしたような政策をして国内開発をしている。そして徐々に村や町
の選挙を自由選挙に行う方向である。自由化の速度を調節している。
この独裁体制のため、上海を近代的ビルが立ち並ぶ世界有数な都市
にまたたくまにしている。高速道路網の整備も同じ理由から加速が
ついている。
ロシアのプーチンは逆に国家独裁主義にロシアを戻しているような
印象を受けている。

中国人のビジネス能力は高い。金儲けに対する執着心も大きい。特
に個人的な能力は日本人以上である。中国の有能な経営者は世界を
飛び回って、ビジネスを取っている。中国の武器である安価な人件
費を最大限に活用している。相手の要求に合わせて、自分の金儲け
をどうするかというセンスが高いため、世界が中国に多くの物を発
注している。

中国の労働者個人を見ても同じで、かならず労働者の成績を表示し
ている。そして、成績の悪い人は首にすると言っている。
このため、米国の企業と同様なスタイルで経営ができている。ここ
が、中国と米国が似ていると感じる点である。このため、米ビジネ
ススクールが中国で馴染むようである。多くの米ビジネススクール
が中国に分校を建てているし、多くの中国人学生を集めている。
このためかどうか中国人と米国人の感じ方や物の見方もよく似てい
る。意気投合しやすい関係にある。

このようないい点によって中国は発展しているが、どうも弱点も見
えてきた。個人的な能力は日本人以上であるが、組織能力は非常に
弱い。社員個人の能力に依存しているために、その社員が退職する
と、スキルが継続されていない。そして、3年もすると初期のメン
バーがほとんどいないという状態になる。これも米国・台湾企業と
同様な問題であるが、中国はマニュアル化などの防止策もないため
に、どうすることもできない。大きな仕事を長期に組んでやること
が難しいという問題点があると思う。

ドイツと日本は長期に雇用を契約して、組織的に安定しているため
に、瞬発力はないが徐々に技術を蓄積して、差別化した製品を作っ
ている。このため、ドイツ企業も日本企業も生き残っているように
感じる。
これに比べて米国・中国型の企業は、創業者がしっかりして、かつ
コンセプトが他と差別化していると大きくなるが、ある程度大きく
なるとそれ以上の規模にはできないように思う。韓国も日本的な企
業であるので徐々に製品が改良されている。

もう1つ、最近の中国・江沢民氏を見ると分かるが確固とした主義
主張がない。このため、昔米国との経済的な関係を重視していたは
ずの江沢民氏でも軍事委員会主席になると、軍事中心の反米主義に
なってしまう。確固とした主義を持って将来を見通したトウ少平の
ような人は、中国でも少ないのであろう。胡錦涛主席は現時点では
親米的な対応をしているが、どういう人がまだ判断できない。
しかし、トウ小平から信頼されているようであるので、米国に変わ
って世界を指導できるような大人の対応をする人であると期待し、
かつ反日の中国を大人の中国に変革してほしいものである。

米国からの覇権移譲は、欧州連合ではなく中国・日本などの東アジ
ア共同体になるように感じる。この東アジア共同体における中心的
な位置に中国はなるように感じる。勿論、日本も東アジア共同体の
重要なメンバーであるが、覇権を取れるメンタリティや戦略性が日
本には無さ過ぎである。中国は昔から戦いがあり、その手の戦略研
究が盛んである。このため冷戦以後、中国はその戦略を成功させた
のです。

しかし、日本人は直ぐに陰謀論を持ち出す。自分たちを被害者する
。このため、政治的に有名なサイトのほとんども陰謀論に埋まって
いる。敗者になることしか考えない。世界の見方が全般的に受動的
でありすぎる。どうしたら、どう世界を日本の思い通りにするかと
いう能動的な考えをしない。このため、このようなメンタリティで
は世界の覇権は取れないように感じる。

米国のリアリストたちの理論は、どう米国が世界をコントロールす
るかという議論が中心ですよ。陰謀をどう仕掛けるかの議論をして
いる。このような理論も議論も日本には紹介さえされていない。
この手の学者もシンクタンクもない。ここのサイトぐらいしか、こ
のような議論をしない。これではダメである。

「地政学」を出版した現在英国にいる奥山さんが心配して、日本で
も その手の本(リアリストの基礎理論)を出版してくれる計画が
あるようです。楽しみである。
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中国の高速道路3万キロ突破=世界2位、5年間で3倍以上に

 【北京11日時事】新華社電によると、中国交通省幹部は11日
までに、「今年8月末までに高速道路の開通距離は3万キロを突破
した」と語った。世界では米国に次ぎ2位だが、中央政府は「国家
高速道路ネットワーク計画」に基づき、2020年には8万2000
キロに拡大させる方針だ。
 中国では1988年10月、上海市内に距離わずか約18キロの
高速道路が開通。98年末の高速道路総距離は8733キロで世界
第6位に躍進し、99年10月に1万キロを突破した。
 2000年末に世界第3位になり、01年末に第2位に。02年
10月に2万キロ、03年末には2万9800キロに達し、わずか
5年間で総距離は3.4倍以上になった計算だ。 
(時事通信) - 9月11日7時1分更新
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江沢民氏が夏に軍事委主席辞意 胡総書記ら議論先送り(ASAHI)

 中国の江沢民(チアン・ツォーミン)中央軍事委主席(前国家主
席)が今年夏、軍事委主席を辞任する意向を文書で共産党政治局に
伝えたが、胡錦涛(フー・チンタオ)党総書記(国家主席)らが江
氏の辞任問題は議論しないと決めたことがわかった。共産党関係者
が明らかにした。江氏の引退は中国指導部の権力構造に大きな変化
を引き起こすため、胡氏らは政権安定を最優先する立場から、江氏
の進退の議論を先送りしたとみられる。 

 党関係者によると、一連の動きは7〜8月にあった。江氏が文書
で辞意を伝えた後、軍高官らが(1)国家の安全(2)軍の発展
(3)台湾問題への対応――の観点から「江氏の留任が望ましい」
とする文書をまとめ、やはり党政治局に届けた。 

 この後に開かれた政治局会議で、胡氏が江氏から届いた文書を読
み上げた後、江氏の進退問題を議題としない考えを表明し、同会議
全体の意思として了承したという。 (09/10 07:07) 
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欧日協会:時の話題
新たな世界強国
中国
http://www.ohnichi.de/Toki/toki94.htm

□ 世界政治
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問: 拡大されたEUは新たな世界勢力となりますか?

答: (EUは)経済的に重要で、多大な潜在能力のある地域で、強い
ユーロはドルに十分対抗出来ることを示しています。人口面でも巨
大です。
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問: しかし世界政治においては小人ですか?

答: そんなことはありません。例えばイラク問題では独仏の連合だ
けでも、アメリカに妥協を強要する力のあることを示しました。ア
メリカは「古きヨーロッパ」という笑止千万なキャンペーンを引っ
込め、シュレーダーへの罵倒も止み、ドイツをリビアやキューバと
同列に置くこともなくなり、ヨーロッパに協力を「請い願う」よう
な状況になって来ています。
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問: しかし、ヨーロッパの軍事力がアメリカ近づくことは絶対にな
いでしょう。

答: アメリカの海軍、空軍の軍事力は絶大ですが、陸軍は驚くほど
弱体で、米軍がイラクで行ったことは、ヨーロッパ軍の方が、少な
い物資で、うまくやれたと思います。戦後処理の戦略プランも貧弱
で、ヨーロッパの方がうまく出来たでしょう。それ故、共同決定権
もなく、アメリカの独壇場となっているNATOからヨーロッパは引き
上げるべきです。
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問: ということは新世界勢力EUの誕生ですか?

答: 残念ながら、そうではありません。というのも、拡大により
EUは弱体化するからです。多数の政治家は認めようとしませんが
、(拡大したEUは)ドイツ再統一同様の過程をたどり、拡大は経済
力喪失と表裏一体をなすでしょう。
加えて、新たに加盟した諸国は「良きヨーロッパ人」とは言えませ
ん。例えばポーランド政府は----以前、ソ連に対するのと同様----
アメリカに忠義立てをしています。国民の意思に逆らってです。
バルト諸国も、EU加盟を喜んでしかるべきですが、(今回の)ヨー
ロッパ議会選挙の投票率は貧弱の一語に尽き、民族主義政党に投票
しています。これらはすべて(新規加盟諸国が)西ヨーロッパ諸国の
ような政治的成熟度に達していないことを示しています。トルコ、
ウクライナ、白ロシアが加盟すれば、EUの終わりです。
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問: 経済ブームの渦中にある中国、インドのような国の方がアメリ
カの対抗勢力ですか?

答: 毛沢東、インディラ・ガンジーの時代から、両国のトップ争い
が激烈に行われていました。
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問: どちらが勝ちますか?

答: 私は中国が現在でもアメリカに次いで世界第二の強国であると
考えています。ロシアが軍拡の結果廃墟と化したのに反し、中国は
賢明で、「力の均衡」の達成には、(アメリカまでの射程距離のある
)核ロケット10基で十分と考え、5000発の核弾頭をもつようなことは
していません。
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問: 現在の状況がこのまま続けば、近い内にインドは世界最大の人
口保有国となりますが。

答: その通りですが、インドでは裕福さの恩恵を受けるのはカース
ト上層部の特権階級だけで、一般大衆は貧困のままです。こうした
驚愕に値するカースト制度が存在するため、「世界最大の民主主義
国」を自称するのはシニカルです。経済、技術が成長しても、同時
に無権利で、惨めな大衆が増大するのでは何もなりません。これに
反し中国は産児制限の必要性を理解しています。インドは、ロケッ
ト、コンピューターの分野で成功は収めていても、(経済的)成熟は
見られません。
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問: 再三にわたり、戦争の瀬戸際にまでエスカレートしている中印
対立の原因はどこにあるのですか?

答: インドはすべてモンゴル的なものを蔑視し、優秀民族を自認し
、人種意識が非常に強い国で、時とすると笑止な印象を与えるほど
驕慢です。中国も自意識が非常に強く、《世界の中心》を自認し(中
華思想)、ヨーロッパ人、アメリカ人に対しても優越感をもっていま
す。
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問: 中国はアメリカを追い越すでしょうか?

答:そうなると思います。現在では誰もがそう考えています。
中国では辺境地域すら急速な成長を遂げ、中国人は一人一人が企業
家で、勤勉かつ野心的です。遅くとも50年後には中国がアメリカを
圧倒するでしょう。
(tv Horen und Sehen)
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件名:常任理事国入りに明確な意志持て  

日本は国連分担金第2位の資格国/集団的自衛権の憲法解釈は変更を
外交評論家 太田 正利 
国連の現実は国益追求の戦場

 アーミテージ国務副長官やパウエル国務長官が日本の国連安保理常任理事国への立候補
 に関し、憲法九条の問題がその制約になると言ったとか言わなかったとか取り沙汰され
 ている。アメリカの態度を見て、常任理事国に立候補する以上、憲法改正は絶対必要だ
 と活気づく向きがあると同時に、憲法を改正してまで立候補すべきではないという向き
 も多い。この際、この問題を政治的のみならず、法律的見地からも取り上げてみたい。 

 そもそも、国連は価値観を異にする多数の国がそれぞれの国益を追求する戦場ともいう
 べき修羅場で、国連の正義は加盟国の数だけある。誰もが国連を自国の利益追求の場と
 して利用しているのが現状で、日本も、ただただ、国連中心主義を叫ぶだけではならず、
 進んで常任理事国に立候補する意志を明確にして外交活動を活発化すべきである。 

 日本は国連で米国(22%)に次いで19・5%、他の安保理常任理事国、英・仏・中・露
 の合計14・3%より多くの分担金を払っており、この面でも日本は有力な資格国である。
 そもそも、国際連合の正式名称は「ユーナイテッド・ネイションズ」、「連合国」(憲
 章の中国語正文では「聯合國」)であることからも明らかなとおり、戦勝国が牛耳る大
 戦末期の情況を未来永劫に維持しようとしたものだ。日本は憲章文言上、旧敵国で安保
 理の決議なしに武力制裁を受けうる法的可能性を持っているなど、一筋縄にはいかない
 のである。このいわゆる「旧敵国条項(第七七、一〇七、五三条)」は一九五五年の総
 会で死文化が確認されてはいるが、まだ、正式に憲章から削除されていない。そのため
 には、安保理の変革(例えば常任理事国の増加)と同様憲章改正が必要だが、五つの常
 任理事国が拒否権を行使しないことが最低限の条件である。 

根強い軍事ただ乗りへの警戒 

 常任理事国立候補につき、問題は国内世論(特に政治家、マスコミ等)だった。曰く
 「常任理事国になると軍事的役割が…」とか「自分からでしゃばるのではなく是非日本
 をと推薦されるべきだ」ということで外務省もビビッてしまった。が、第一に常任理事
 国になったからといってすぐに軍事的義務を負うことはなく(憲章第四三条)、事実今
 まで中露二国が国連の軍事的役割を果たしたことは記憶にない。また、国際場裏では
 「俺が俺が」というのが当たり前で「日本的」な謙譲の美徳など通じない。また、憲法
 九条が禁止している「武力行使」は「国際紛争を解決する手段として」のものである。
 マッカーサー原案では、自衛のためのものも駄目だと明記してあったのを想起すべきで
 ある。 

 ただ、この際、次の点だけは頭の中に入れておく必要がある。日本が常任理事国への立
 候補について当時のクリントン政府は歓迎したのだが、米議会は反対だった。その理由
 は「常任理事国となった日本が、自分には禁じていることを他人にさせるという立場に
 なる」というのである。米上院では「日本が普通の軍事行動ができるようになるまで日
 本の常任理事国入りを支持してはならない」という趣旨の決議が成立した。九三年七月
 末のことで、全会一致だった。 

 この決議が現在も有効であるか否かは承知していない。しかも、この決議案の先頭に立
 ったのは知日派のウィリアム・ロス議員だった。…「日本は憲法の独自の解釈により国
 連安保理の活動の中心となる地域的安保体制や軍事行動を伴う平和維持活動、平和執行
 活動に参加できなという制約を自らに課している」、「日本が参加できないとする国際
 安保理活動なしには安保理は通常の機能を果たせない。日本は現状のままでは常任理事
 国の責任や義務を果たせない、その結果、日本は自国が参加不可能と分かっている国連
 の軍事行動を決定し、左右し、アメリカなど他の国のみの軍人の生命を危険にさらすこ
 とになる」というのであり、反対の心はよくわかる。 

 このようなジレンマから脱却するためには憲法を改正するのが最善だが、「集団的自衛
 権は持っているが、これを行使するのは憲法上許されない」などという変な政府解釈は
 止めた方がいい。 

時代に適さない解釈は改めよ 

 これは林内閣法制局長の見解だったが、岸総理もこれを踏襲している。六〇年安保はそ
 の前文に国連憲章上の個別的・集団的自衛の固有の権利の保持を明言しているのだが、
 この条約を国会で通すことが先ず頭にあったため、このような変則的解釈ですり抜けた
 のであろう。そもそも、法には書き込むべき規範と、書き込むか否かにかかわらず「法
 律」以前に存在する法ないし権利がある。これを「自然法」ないし「自然権」という。
 米国憲法や米国起案に係る日本国憲法にもこの思想が出ている。一九二八年の「不戦条
 約」では戦争が非合法化されているが、起案者の一人米国代表が、「自衛戦争」につい
 ては条約に言及されていないが、各締約国がこの権利を持つのはアッタリマエだとして
 留保しているのを想起する必要がある。憲法改正に時間がかかるなら、内閣はこのよう
 な変な議論はやめるべきだ。 

 事実、民主党の斉藤勁参議院議員が、核兵器についても「性能」によっては憲法上保有
 可能という内閣法制局長の解釈(七三年…従来からの政府の立場)に対して、「政府解
 釈を変更すべきではないか、核兵器は違憲だと解釈を変更すべし」と迫っているほどで
 ある。政府も憲法改正を待つまでもなく、民主党のこの議論に従い、次の通り言ったら
 よい。「昔、法制局長官が言い、政府もこの解釈を踏襲してきたが、事態も変わり、現
 在ではこれは誤りであったと言える。現行憲法上、集団自衛権があるのだから権利を行
 使できるのは当然である。所有しているが、行使できない権利など無意味である」。も
 っとも、だからといって無闇に武力行使をしてもよいという意味では決してない。 

 【略歴】 太田 正利(おおた・まさとし) 昭和六年(1931年)、東京生まれ。
 (旧制)一高を経て昭和二十八年東大教養学科卒、米ブラウン大学留学、三十一年同大
 学院(経済学博士)。同時に外務省入省。ロンドン大学院留学。条約局、国連局歴任後
 在スイス公使、文書・電信課長、昭和天皇ご通訳(兼任)、内閣総合安保室長、在ザン
 ビア大使、在南アフリカ大使。平成五年、杏林大学・大学院教授、東海大学講師等。著
 書論文等多数。 (世界日報)掲載許可済み
Kenzo Yamaoka
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件名:どう守る日本の海洋権益―  

どう守る日本の海洋権益―自民党「海洋権益に関するワーキングチーム」座長・武見敬三
参院議員に聞く
戦略確立し中国と対峙を
担当閣僚の設置が必要
 海洋権益をめぐり日中間の対立が深まっている。中国が東シナ海で建設を進めている天
 然ガス田の採掘施設は、日中中間線のすぐ近くにあり、日本側の資源まで奪われかねな
 い状況だ。そこで、自民党「海洋権益に関するワーキングチーム」の座長である武見敬
 三参議院議員に、日本の海洋権益を守るために取るべき施策などについて聞いた。(聞
 き手=政治部・早川俊行)

 ――中国が中間線付近で資源開発を進めている現状をどう見るか。

 これはただ単に、エネルギー資源をめぐる対立だけではない。台湾の問題や中国の新た
 な海洋戦略など、さまざまな要素が絡まっている。まず全体をしっかり把握し、わが国
 も海洋戦略を確立して中国に対峙(たいじ)することが求められている。そして、でき
 る限り話し合いを通じて、平和的に解決するという大きな枠組みをつくっていかなけれ
 ばならない。

 ――中国の海洋戦略に対する日本政府の対応はどうか。

 残念ながら問題が多い。そもそも海洋権益という概念自体が、政府内で明確になってい
 ない。縦割り行政の弊害で、どの省庁も海洋権益問題に責任を持って取り組んでこなか
 った。このことが、中国の動きに対して常に後手後手に回り、わが国の立場が侵食され
 る流れをつくってしまった。

 これを改めるには、政府内に海洋権益に関する政策決定機能が必要だ。そのためには、
 どうしても閣僚クラスの会議と調整権限を持った閣僚が必要になる。

 われわれは「海洋権益に関するワーキングチーム」の最終報告書でこのことを主張した。
 だが、内閣はこれを真剣に受け止めなかった。二橋正弘官房副長官の下に局長クラスの
 連絡会議を設置し、必要があれば、将来閣僚クラスの会合を設けてもよいという、まさ
 にお茶を濁したような対応だ。これではとても日本の海洋権益は守れない。

 ――日本政府もようやく、七月から日中中間線付近での資源調査を開始したが。

 中国が開発する天然ガス田「春暁」は、わが国が主張する中間線からわずか四`の所に
 あり、海底で日本側とつながっている可能性がある。調査の結果と分析を待って、中国
 側にしっかり申し入れを行う必要がある。

 既に外務大臣が正式に情報提供を求めているが、中国側は完全に無視している。こうし
 た段階では手の打ちようがない。わが国の立場を強化するためには、調査を徹底して行
 うことが必要だ。

 ――日本側海域に資源の存在が確認されたら、試掘に移るのか。

 その次の中国側の対応次第では、試掘の問題が出てくることは当然だ。

 ――中国が誠意ある対応を示さなければ、試掘を行うということか。

 そうだ。試掘を含めた予算要求が経済産業省から既に出されている。

 ――その際、中国の反発が予想される。政府の決断が求められるのでは。

 それは必要になる。ただ、わが国としては当然の権利の行使だ。さまざまな問題が起き
 ることが想定されるとすれば、それに対処し得るあらゆる手だてを事前に打っておくこ
 とが必要だ。

 ――ワーキングチームが六月にまとめた提言では、平時から有事へ移行する「グレーゾ
 ーン」への対応を強化すべきだと主張しているが、具体的には。

 かつて、尖閣諸島近海に大量の中国漁船がデモンストレーションでやってきたことがあ
 る。また、不審船や武装漁船など、戦時とまではいかないまでも、平時とも言い切れな
 い事態が起きる可能性がある。そういう状況に対して、海上保安庁と自衛隊、警察が連
 携して柔軟かつ迅速に対応できる態勢を整えておくことが必要だ。それによって事態の
 拡大を未然に防ぐことができる。

「尖閣は同盟の適用対象」、米政府に確約求め続けよ
重要性高まる沖縄の基地
 ――日中の立場には大きな開きがあるが、平和的解決の枠組みを構築することは可能か。
 そのための土台づくりを、わが国の外交・安全保障上の政策として組み立てなければな
 らない。軍事力を含めたこの地域の勢力バランスを維持するには、米軍の円滑なプレゼ
 ンスや日米同盟が土台となる。わが国も自衛隊の在り方を含めて、海洋権益を守るため
 の安全保障体制を整備していくことが求められる。

 つまり、抑止の枠組みをきちんと確保しながら、同時にエネルギー資源問題を紛争の種
 にせず、むしろ協力の対象として位置付けし直すことができれば好ましい。ただ、わが
 国の基本的な立場が確立していない時期においては、最初に共同開発ありきという考え
 方はあってはならない。

 ――中国が提案する共同開発案とはどのような内容なのか。

 まだ具体的な提案はない。ただ、中国は非常に巧みだ。一九六〇年代後半、国連の調査
 で尖閣諸島および東シナ海にエネルギー資源があることが判明すると、中国は突如とし
 て尖閣諸島の領有権を主張し始めた。また、領海法を制定し、東シナ海の海洋権益につ
 いて自分たちに都合のいい主張を繰り返している。

 ”小平氏は「次の世代に任せよう」と領有権問題の一時棚上げを提案したが、中国はそ
 の間、着実に海軍力を強化している。東シナ海では公船(中国政府所属の船舶)による
 調査活動から始め、日本の反応を見ながら、これならいけそうだと判断したときに海軍
 の演習を部分的に行う。こうして、軍事的プレゼンスを徐々に確保していった。潜水艦
 の航路確保を加味した海洋調査が、東シナ海からいよいよ太平洋側まで拡大してきてい
 るのが今の状況だ。

 ――中国が太平洋まで活動範囲を広げる狙いは何か。

 太平洋の西側海域を勢力圏内に置いて、台湾を自国領土として併合するとともに、ペル
 シャ湾から北東アジアまでのシーレーンに対しても影響力を拡大することが、中国の海
 洋戦略にあるのではないか。

 ――中国は相手より軍事的に優位になると行動を起こすパターンを繰り返している。中
 国は軍の近代化を進めており、軍事バランスが崩れたら尖閣諸島も危ないのでは。

 非常に危険な状況になるだろう。それも含めて米国の効果的かつ円滑な軍事的プレゼン
 スは重要だ。沖縄県民には大変申し訳ない面もあるが、やはり沖縄の米軍基地は今後、
 確実に重要になってくる。

 尖閣諸島や東シナ海の海洋権益を守ることは、日米同盟の適用対象であることを、米政
 府に常に確認させていくことが重要だ。なぜなら、クリントン政権時代に一時、政府高
 官が適用対象外であると言ったことがある。

 尖閣諸島の問題は、日米同盟が発動される最初のケースになるかもしれない。これはま
 さに、日米同盟の信頼関係にかかわってくる。私は米国の政府関係者に対して、常にこ
 のことを言っている。大統領自身が適用対象であると発言するところまで持っていくこ
 とが必要だ。

 ――東シナ海の日中の境界線を画定するため、国際司法裁判所に訴えるという選択肢は
 あるか。

 それも一つの手だと思う。尖閣諸島の領有権も含めてだ。ただ、現状では、尖閣諸島は
 わが国固有の領土であって、領有権問題は存在しないという立場にある。

 たけみ・けいぞう 昭和26年生まれ。東海大教授などを経て、平成7年、参議院議員
 初当選。外務政務次官、参院外交防衛委員長などを歴任。現在、参院憲法調査会幹事な
 どを務める。2期目。(世界日報)掲載許可済み
Kenzo Yamaoka
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件名:アジア海洋連合の展望  

近畿福祉大学教授 岡本幸治氏に聞く
日本はインドと連携強化を
中国への一辺倒は危険/台湾・ASEANとも結んで

海洋国家へ転換した印/潜在力示すITの強さ

 反日ナショナリズムが根強い中国、韓国を牽制(けんせい)しながら、米国に対抗し得
 るアジア経済圏をつくるにはどうすればいいか。インドでの研究経験のある岡本幸治近
 畿福祉大学教授は、日本は台湾、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドを結ぶア
 ジア海洋連合を目指すべきだと提案する。

 (聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)

〇――〇

 ――イラク戦争をどう評価するか。

 米国がイラク戦争を始めた大義名分を私は全面的には支持しないし、信じていない。

 大量破壊兵器の保有が問題ならば、イスラエルが核兵器を持っていることは軍事専門家
 の間では常識で、中国、インド、パキスタンなども保有している。また、テロリストと
 の関係には確かな証拠はない。民主主義に反する点では北朝鮮の方がイラクよりもひど
 い。

 開戦の大義名分は、要するに国益の表現だ。フランス革命までは軍人は特別な階層の人
 だけだったが、ナポレオンのフランスが初めて国民に兵役の義務を負わせ、国軍を創設
 した。そこで、国民に命を投げ出させるための大義名分が必要になった。

 米国がイラク戦争を始めた本当の理由は二つあると思う。第一は、石油利権の確保だ。
 親米だったサウジアラビアが揺らいでいるので、イスラム産油国に米国の影響力を保持
 したいと考えた。第二は、イスラエルの安全確保だ。

 米国のイラク戦争に大義がないのであれば、日本は自衛隊を派兵すべきでないというの
 が普通の考え方だが、私は派兵すべきだと思う。最大の理由は米国に貸しをつくること
 だ。

 戦後の日米関係は占領下の支配・服従の関係から始まり、日本の独立後も上下関係を引
 きずっている。国の安全も最終的には米国に頼っているため、米国が強い態度で要求し
 てくれば、日本は従わざるを得ない。

 イラク戦争で米国は仏独に反対され、非常に苦しい状況だった。だからこそ、日本がで
 きる限りの協力をすれば、米国にとって大変ありがたいことになる。それによって、上
 下関係を是正することが、日本の将来の国益につながる。

 さらに、自衛隊のためにも派兵すべきだ。自衛隊が国内だけで訓練していたのでは、強
 くならない。それを、いつ攻撃されるかもしれないという厳しい状況の中で鍛える。

 イラクの復興支援をするのは経済大国としての責務でもある。最近、イギリスの調査会
 社が行ったイラクの世論調査によると、どの国に復興支援をしてほしいかという問いに、
 三分の二が日本を挙げている。国民のことを第一に考える民主的な政権を誕生させるた
 めにも、自衛隊が民生の安定に貢献することは大きな意義がある。

 ――日米関係を対等に近づける上でアジアとの関係はどうなるのか。

 国際政治の力関係は、それぞれの国力の反映である。日本は経済力は米国に次ぐが、政
 治的な発言力がアンバランスに小さい。このギャップをいかに埋めていくかが今後の大
 きな課題だが、対米関係だけでは難しい。

 私は日中国交回復をした外交を善意に解釈すると、戦後、米国一辺倒であったのを、中
 国にもう一つの軸足を置くことで解消していこうという狙いがあったと思う。加藤紘一
 元自民党幹事長は日中米を正三角形の関係にしないといけないと言っている。

 ところが、ミイラ取りミイラになり、過剰に中国の言い分に屈服している。中国に甘く
 見られ、米国に対して中国カードを使えるような状況ではない。最近の尖閣列島への不
 法上陸や、日本の経済水域近くでの天然ガス試掘、サッカー・アジアカップでの日本に
 対する過剰なブーイングなどに、それが現れている。

 さらに、太平洋の日本の経済水域に出てきて、事前に通報するという紳士協定を無視し
 て、調査をしている。潜水艦が太平洋に出るための海図作りといわれているが、それら
 に対して日本の抗議は弱く、中国政府は聞き流すばかりだ。七兆円ものODA(政府開
 発援助)を出しながら、少しも感謝されていない。

 日本はアジアに関して新たな取り組みをする必要がある。日本は大陸に深入りすると必
 ず失敗したという歴史がある。秀吉の朝鮮出兵、韓国併合、満州国建国、シナ事変もす
 べて失敗だ。今は経済活動ならいいだろうと、どんどん中国に企業が進出している。こ
 れもいずれ痛い目に遭う時が来るだろう。アジアの中で中国だけにのめり込むのは、米
 国依存と同じ問題をもたらす。反対に大陸と距離を保っている時の日本は、輸出志向の
 高度成長期のように非常に順調だ。

 そこで私は、日本はアジア海洋連合を目指すべきだと提唱している。日本は中国に過剰
 にのめり込まず、また圧力を受けないために、もう一つのアジアの基軸を設ける必要が
 ある。日本、台湾、ASEAN諸国、そして西の押さえがインドだ。今年二月には、自
 衛隊OBも含めた日印の民間フォーラムを開いて議論した。インドからは、元軍人、元
 高級官僚・外交官らが出席し、私の提唱に対してインド側の反応は非常に良かった。

 〇――〇

 インドは三方海に囲まれているが、歴史的に内陸志向だった。アレキサンダー大王以来、
 インドを侵略した勢力はどれも陸から来ているからだ。帝国主義時代に初めて英仏が海
 から来たが、海への備えがなかったインドは、簡単に英国の植民地になってしまった。
 独立後、インドは長年、ソ連と親しくし社会主義政策を取ってきたが、一九九一年から
 自由化政策に切り替えた。海洋国家への転換で、輸出産業を振興し、外貨を稼ぐことで
 発展を目指している。それが今、成功しつつある。

 さらに、海外に居住するインド人「印僑」が米国のシリコンバレーをはじめ大きな力を
 持つようになっている。印僑の中には成功者も多いのに、九一年までは投資が来なかっ
 た。インドには規制が多く、投資の魅力がなかったからだ。ところが、数年前からイン
 ド政府は印僑のネットワークを活用するようになり、「印僑の日」も設け、海の外に目
 を向け始めている。

 私はインドの知識人に対して、地図を見るとインドは三方を海に囲まれている、本来イ
 ンドは海洋国だ、と言っている。海洋国という自覚を持ち、外に目を向けた時にインド
 は発展した歴史がある。東南アジアを舞台にインド商人が活躍した。インドネシアの宮
 廷芸術の影絵芝居はインドからもたらされ、バリ島にはヒンドゥー芸術が残されている。

 最近、インドではルックイースト政策を取り、ASEANと自由貿易協定(FTA)を
 結んでいる。インドにとってのイーストは日本ではなくASEANだ。このように、イ
 ンド、ASEAN、台湾、日本を結ぶアジア海洋連合は現実的な基盤がつくられつつあ
 る。

 ――韓国はどうなるのか。

 今の韓国は北帰行をしている。戦後、分断下の韓国は外に目を向け、海洋国家的行動を
 取ることで高度経済成長を遂げていた。ところが中国、北朝鮮への志向を強め、昨年、
 対中貿易が対米貿易を上回るようになった。盧武鉉政権は北朝鮮寄りの政策を強めてい
 る。韓国が今後もその選択をするのであれば、韓国は大陸国家とみなさざるを得ないが、
 本来は海洋国家だ。

 ――インドの人口は二十一世紀前半に中国を追い抜く勢いで経済発展も著しい。

 昨年は8%の成長を遂げた。新政権も、今後五年、7−8%の成長を目指している。こ
 れは確実に達成できるだけの力を持っている。

 しかも、台湾、ASEAN、インドはどれも親日的だ。インドは、日本が大東亜戦争を
 やってくれたので独立を三十年早く達成することができた、と大統領が公の場で述べて
 いる。もし、戦争がなかったら、一九四七年の時点でイギリスがインドの独立を認めた
 とは思えない、と。マハトマ・ガンジーの独立運動はアジア諸国の中で一番組織的だっ
 たが、植民地体制という家の柱を食い荒らすシロアリ程度の役割を果たしたにすぎない。
 それに対して日本は軍事力で家の土台を揺るがし、柱を倒し、インドの独立を一気に速
 めた。

 ――日本の経済投資も中国に集中し過ぎの感がする。

 現状では中国に問題が起きた時の反動が大きい。しかも、経済失速の恐れは出始めてい
 る。インドと中国を比較すると、中国は直線的に発展し、問題が起きると直線的に崩れ
 る。インドはらせん型に発展し、問題が起きても衝撃は少ない。例えば、インド人民党
 中心の与党は、経済成長に成果を上げ外交的にも全方位外交の功績を残したのだが、五
 月の総選挙で敗北した。自由化で貧富の差が拡大し、貧民層に足元をすくわれたのだ。
 インドは民主主義社会で、言論、報道、結社の自由があるため、共産党の中国と違い、
 揺り戻しはあるが、緩やかに上昇している。いつも問題を抱えているように見えがちだ
 が、柔構造の強さがある点を評価すべきだ。

 日本のインド観は冷戦時代のままで、牛の歩みのようにしか発展しないと思っている。
 町には路上生活者があふれ、スラムがあるから無理もないが、短期間の旅行者はインド
 に良い印象を持たない。しかし、IT(情報技術)の強さは、インドの潜在的力を示し
 ている。日本のインド情報は何か異常な事件が起こると増えるが、平時の情報が欠けて
 いる。日本の将来にとって重要な国なので、インドにもっと注目する必要がある。

 おかもと・こうじ 昭和11年京都市生まれ。35年京都大学法学部卒業。三井物産勤
 務後、京都産業大学講師、大阪府立大学助教授、インド国立ジャワハルラル・ネルー大
 学客員教授、愛媛大学教授、大阪国際大学教授を経て、平成12年から近畿福祉大学教
 授。法学博士。日印友好協会会長。主著は『インド亜大陸の変貌』『骨抜きにされた日
 本人』『北一輝、転換期の思想構造』『脱戦後の条件』など。(世界日報)掲載許可済
 み
Kenzo Yamaoka
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件名:《ドイツの緻密かつ狡猾な外交戦術を見習い日本は真のアジアのリーダーとなれ!》  

 約3年にわたったこの「Weekly Business SAPIO」が9月末をも
 って閉じる。
 ヨーロッパを担当し、ここユーロの拠点フランクフルトから、ユーロを中心に、ドイツ
 及びヨーロッパの政治や経済情勢を日本へ向かって発信してきたラストバッターとして、
 今回は、ユーロテクノラート、とりわけドイツの長期的かつしたたかな世界戦略情報を
 読者にご紹介し締めくくろうと思う。

 一つは、先週末9月22日、ユーロ下落に歯止めを掛けるため、日米欧によって、奇襲
 作戦ともいうべき協調介入を実施したこと。
 二つは翌日23日、プラハで欧州中央銀行総裁も参列し開催された主要7カ国蔵相・中
 央銀行総裁会議で、原油価格高騰による世界経済後退を懸念し、産油国への原油増産を
 呼びかけ、米国に対しては、前日22日には同国の戦略石油備蓄3000万バレルを取
 り崩し、約1か月にわたってその放出の決意を取りつけることに成功したことである。

 先ず前者だが、ユーロ通貨導入がスタートしたのは1999年1月1日のことである。
 以後、ユーロは下落の連続で、一時はどうなることかと気をもむシーンが見られた。そ
 れなのに今回はどういうわけか、珍しくアメリカを初め、ユーロ導入に消極的な姿勢を
 続けるてきたイギリス、さらには日本も一肌脱いで、いっせいに歩調を合わせこのユー
 ロ下落防止のために結束した。

 なぜそうしたのか。その理由だが、当地では次のように見ている。
 つまり、いかにドル・円・ユーロ、さらにはポンドが競合関係にあるとはいえ、最終的
 に世界経済は「持ちつ持たれつ」の関係にあり、互いに思惑に捕らわれエゴを剥き出し
 ていては、逆に、自らの足をすくわれ共倒れになりかねないと気づいた、ということな
 のだ。
 特に今年になってからの世界景気は、経済成長率で見ると、世界平均+4.7%(アメ
 リカ+5.2%、日本+1.4%、EU+3.5%、ドイツ+2.9%、開発途上国+
 5.6%)と上向き傾向にある。しかもこの好況は来年も継続するとの見方が強い。そ
 れなのに各国が国益という名のエゴに執着し、これ以上ユーロ安を見放して知らぬ顔を
 決め込んでいては、せっかくの世界景気上向きに水をさすことになる。

 特に11月に大統領選を控えたアメリカは、現政権が、ゴアを大統領候補に立てて政権
 を維持するために、「強いドル」によるアメリカ好景気イメージが選挙戦でプラス材料
 になると考え、少なくとも選挙直前まではユーロ安を黙認しようとした。ところが、ド
 ル高によるアメリカの対ヨーロッパ輸出の伸び悩みは深刻で、その影響をもろに受けた
 国内関連企業からの「何とかしてほしい」という性急な突き上げには勝てなかった。無
 論、現在のところ、ゴア陣営の形勢がややブッシュ陣営より有利な上、この程度の協調
 介入では「強いドル」が揺らぐことはないと見ていることもある。
 一方、イギリスでもポンド高の影響で欧州大陸への輸出が伸びず、イギリス進出日本自
 動車企業から、「ユーロ通貨圏に加入するか、もしくは対ユーロ安への介入を強く要望
 する」との声が高まり、その要求を無視するわけには行かなかった。

 そういう点では、当地では、「今回の協調介入はまさに絶好のタイミングであり、もっ
 とも効果的な時期を狙って行なわれた」とし、その結果「改めて、ユーロの地位が固ま
 った。世界の方向として、何よりもユーロの存在を潰す方向でなく育てる方向で一致し
 た」と見て、ユーロに対する自信を強めている。

 では、後者についてはどうか。
 一つはその強力な裏付けにある。つまりOPECに譲歩させる切り札がドイツにはある
 こと。その切り札とは、いうまでもなく原油である。1973〜74年、オイルショッ
 ク当時のドイツのOPECへの原油依存度は60%だった。ところが、1993年にな
 ると原油輸入の1位はOPECだったものの、その比率は44.3%と減少している。
 ちなみに2位はノルウェーの18.4%で、以下、3位がロシアを中心とした旧ソ連の
 独立国家共同体で17.4%、4位英国12.4%、5位その他7.5%だった。
 1999年になると、1位はロシアを中心とした独立国家共同体の30.7%に譲り、
 OPECは2位で、その比率も27.6%と落ち込んでしまった(註:3位ノルウェー
 20.0%、4位英国13.4%、その他8.3%)。

 二つは、今回の原油高騰によりヨーロッパ各地で展開された、貨物自動車を中心とする
 ドライバーたちの高速道路通行止めという実力行使を、ドイツは未然に防いだこと。フ
 ランスに次いでイギリスにもその火の粉は飛び、あわやドイツもというその寸前で食い
 とめられたのは、この時期、ドイツ庶民の不満をプラハの蔵相会議がうまく吸収した形
 になったからだ。つまり、庶民サイドの中央政府への原油高騰反対突き上げを、OPE
 Cに対する原油増産呼びかけという形で、少しでも和らげたようと画策したのだ。

 ちなみに、ドイツにおける貨物自動車による運搬は、1999年では全体の81%を占
 め、鉄道の7%に比べて圧倒的に多く、今年はさらに+4.4%が見込まれている。そ
 のため「実用車」製造業社は笑いが止まらないといわれているくらいで、昨年の生産台
 数は37万8000台、今年はその上を行くといわれている。うちヨーロッパ内輸出が
 90%を占める。そのような中で、ここフランクフルトでは欧州一といわれる“実用車
 見本市”が9月23日から30日まで開催され、出展国は42か国、出展企業1311
 社と盛況である。

 ところが、貨物自動車の販売業績が好調だからといって、貨物運搬業もその追い風に乗
 って好調なのかというと、実はその反対なのだ。貨物運送業者は競争激化の波にさらさ
 れ、今や青息吐息といわれている。理由は「ベルリンの壁」崩壊と共に、東西交流が自
 由になったことにある。東欧諸国、特にポーランド、チェコ、スロバキアからの格安運
 搬業者のドイツ進出で、ドイツの運送業者はダンピングの直撃を受け、すでにドイツ国
 内でこの事業に携わる40万人が、リストラすれすれの危機的状況にある。ドイツの貨
 物自動車ドライバーの月収は税込み3200マルクから5000マルクといわれている
 が、競争激化で残業も多く、つい無理をする。そのため1999年には4万5000件
 もの事故があり、死者は1615人に上っている。

 というわけで、今回の「ユーロ安」と「原油高騰」騒動だが、よく観察してみるとどう
 やら、どの国も知らず知らずのうちに、ドイツのペースに巻き込まれてしまっていたよ
 うだ。これには、今年から国際通貨基金(IMF)の番人である専務理事にドイツ人の
 ケーラーが選出され、彼がドイツのためにうまく立ち回ってくれたことや、今回の会議
 がドイツとは地理的にも歴史的にも近いチェコ・プラハで開催されたこと、そのチェコ
 はできるだけ早い時期でのEU加盟実現を希望しており、そのことに対してドイツが積
 極的に手を貸していることなど、比較的ドイツ側にとって有利にことを運ぶ要素が揃っ
 ていたことが挙げられる。その点では今回の一連の騒動、ある意味でドイツの作戦勝ち
 だったといっていいのかもしれない。

 そういえば偶然、今日28日は、デンマークでは、ユーロ参加の是非を問う国民投票日
 である。ちょうど1か月前、知人のデンマーク人ジャーナリストと会う機会があったの
 でその予測について訊ねたところ、「どちらともいえない」という答えが返ってきた。
 この結果が、欧州通貨同盟加盟の次の待機組であるイギリスやスウェーデンの国民投票
 に影響を及ぼすことは間違いないだろうが、だからといって結果がどうなろうと、ドイ
 ツはジタバタしない。通貨統合のような世紀の大事業である。最初からそう上手くこと
 が運ぶとは思っていないからだ。とはいえ、ドイツ人のことである。たとえこの事業が
 21世紀に持ち越されることがあっても、気長に実行しようと考えている。

 いずれにしてもこのドイツの深謀遠大、しかも緻密かつ狡猾な国際問題における外交戦
 術を、日本も見習う必要があろう。これらは決してヨーロッパ国内の問題に止まらず、
 日本にも当てはまるからだ。日本は、G7の中からも、アジアのリーダーとして、その
 手腕に大きな期待が掛けられている。今回、プラハにおけるG7蔵相会議の様子をドイ
 ツ・テレビの中継で見たが、ユーロ協調介入で多大な役割を果たした宮沢蔵相にドイツ
 のアイフエル蔵相が、親愛の情を込め握手をしているシーンを見て、心底そう思った。

 さて、このレポートはここで終わる。日本に対する使命感もあって、私なりにこのレポ
 ートにはかなりの時間を割いて打ち込んできたつもりだ。お陰さまで、沢山の読者から
 いろいろと貴重なご意見をいただいた。また政権の中枢にありながら、途中激務で倒れ
 急逝された故小渕首相、親しくしていただいている竹村健一氏、三浦朱門・曽野綾子両
 氏からも、ときどき励ましの言葉を賜わり勇気づけられた。
 最後にこのレポートの機会を作って下さった小学館、「SAPIO」編集長・竹内明彦
 氏、直接担当編集者としてフォローして下さった前半竹原功氏、後半村田直人氏に心か
 らお礼申しのべ、このレポートを閉じることにする。
 なおこれらのレポートは小学館「サピオ」の了承を得て、私のHPhttp://www8.tok2.
 com/home/TakakoKlein/ にて公開することにした。ときどき開けてみて下されば幸甚で
 ある。ありがとうございました。クライン孝子女史 著者の掲載許可済みです
Kenzo Yamaoka
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件名:我が国の基盤的防衛力低下を憂う  

低い国防費、兵員数の対国力比/耳には快く響く「機能する自衛隊」
軍事評論家 竹田 五郎
防衛努力弱いうえに予算抑制

 昨年、テロ、弾道ミサイル等の新脅威に対抗するために、防衛費の抑制を前提に、三自
 衛隊の装備、編成の大幅見直しが閣議決定された。一部マスコミの報道によれば、総理
 の諮問機関「安保、防衛懇談会」は戦車、火砲は三割、戦闘機、哨戒機等は一割と、主
 要装備の削減、および隊員十六万人の据え置きを了承したようである。「大綱」の主旨、
 および中・露の軍事力の増強等については、七月七日付け本欄で述べた。長期的に見て
 わが国の安全確保に疑問はあるが、わが国の防衛努力は、十分と言えるのだろうか。

 各国の防衛努力の評価基準として、@国防費の対GDP比率、括弧内の国民一人当たり
 国防費分担額(単位はドル)と、A兵員の国民総数に占める比率―、を選択しても異論
 はあるまい。これらについてわが国と他の七カ国を比較すると次の通りであり、日本の
 防衛努力は強いとはいえない。

 @ 国防費について

 日本一・〇(二百九十)、米国三・三(千百三十八)、英国二・四(五百九十)、ドイ
 ツ一・五(三百八十三)、フランス二・五(六百三十六)、ロシア四・八(三百三十三)
 、中国四・一(三十七)、韓国二・八(二百六十六)。

 戦後日本は「平和憲法」を隠れ蓑として、国防を軽視し、経済偏重政策を進めてきた。
 その結果、経済大国に成長はしたが、「町人国家」の地位に甘んぜざるを得なくなった。

 軍事力の裏付けを欠く外交は弱く、国家としての尊厳をも失いかねない。GDPの成長
 にともない、軍事費大国ではあるがGDP比率、個人負担額はともに低い。しかも、そ
 の内容は、人件費がおおむね総額の45%を占め。装備費は僅かに20%以下である。

 A 兵員数(現役のみ)ついて

 日本〇・一九、米国〇・五、英国〇・三五、ドイツ〇・三六、フランス〇・四四、ロシ
 ア〇・六九、中国〇・一八、韓国一・四六。

 日本は中国とほぼ同じであるが、予備役を含めると中国に劣る。

低い国防意欲、外人雇用論も

 衆知の通り米国の当初占領政策の基本は日本の弱体化、非武装であった。国内には偏向
 した反戦平和思想が普及し、その後遺症として未だに自衛隊は軍隊ではなく、その地位
 は低く、さらに、学校教育にも波及しており、隊員募集には苦悩してきた。政府は年金
 問題に関連して少子化対策に大童(おおわらわ)であるが、防衛関係者は、かねてから
 将来の隊員確保を憂慮して、ごく一部とはいえ外人雇用論すらもあった。

 昭和三十二年、閣議決定された「わが国の国防の基本方針」は、第二項で「民生を安定
 し、愛国心を高揚し国家の安全保障に必要な基盤を確立する」と定めている。その後約
 六十年間、政府は愛国心の高揚について積極的であったとは言えまい。

 ようやく教育基本法も改正の機運にあるが、愛国心の語句をめぐって偏狭な国粋主義を
 誘発するとの愚論さえもある。国民はオリンピックで日本選手の健闘を期待し、国旗掲
 揚、国歌演奏を喜ぶのは、素朴な愛国心の萌芽といえよう。

 八月は、原爆の日、敗戦記念日と続き、観念的平和祈念の声が溢れ、疎ましい月である。
 かつて、著名な文芸評論家が、夭折した寺山修司氏を追悼し、彼が詠んだ句「マッチ擦
 るつかの間海に霧深し 身を捨つるほどの祖国はありや」を最高傑作として賞賛した。

 しかし、祖国日本はそれほど低級な価値無き存在なのか。まさに「平和ボケ」の戯言と
 いえよう。歴史教科書は与謝野晶子の「君死に給う事なかれ」の句を掲げてはいるが、
 大東亜戦争において出征する四男に贈った「水軍の大尉となりてわが四郎、み軍に行く
 猛く戦え」の句があることは言及していない。

 政府は愛国心教育に止まることなく、さらに一歩を進め、平和一辺倒の教育から脱却し
 て、愛する祖国を守るためには自己犠牲をも厭わぬ「義勇奉公」の尊さを教育すべきで
 ある。近隣諸国の内政干渉とも言える靖国神社、歴史教育問題等に毅然として対応する
 外交もその一環である。

自衛隊主任務は武力侵攻阻止

 新「大綱」で採択されるであろう大量破壊兵器や弾道ミサイル防衛は、専ら米国に依頼
 したいわば欠落機能であり、また、国際協力やテロ対策は従来不足していた分野に対す
 る補完である。これらは優先し、早急に実現すべきであろう。抑制された防衛費の中で
 は、当面、そのしわ寄せが、いわゆる正面兵力の中心ともいうべき高価な重装備に及ぶ
 のもやむを得まい。

 「機能する自衛隊」のキャッチフレーズは国民の耳には快く響くであろう。しかし、自
 衛隊の主任務は軍事的進攻の抑止、排除にある。従来の「大綱」の基本である基盤的防
 衛力構想は、緊急時の隊員および装備の急速取得は可能との前提の上に成り立つ。わが
 国の現状は、予備自衛官は僅かに四万八千人、防衛産業基盤は脆弱であり、それらを取
 得し、戦力化するには、短期間では不可能である。長期計画の指針であるべき「大綱」
 策定において、長期展望を欠き、一般戦力の削減に走ることは危険である。

 「天下平らかなれども戦いを忘れては必ず危し」(司馬遷)。政府は防衛軽視の政策か
 ら脱皮すべく発想の転換が必要である。(世界日報)掲載許可済み
Kenzo Yamaoka


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