1607.日本国の刷新・再生



◯ 「日本国の刷新・再生」(21) ―21世紀研究会―
(nss0404.txt)
                   n21cq@yahoo.co.jp

★ ★『米国の世界戦略の変化と日本の対応』★


★ 『本文の項目の要旨』

 1、現米国は、ネオコン・ブッシュが主導している。リアリスト
戦略と対比する。
 2、米国は一枚岩ではない、種々のグループがある。WASPの
ためだけの国家ではない。
 3、武力で制圧した国家の統治(支配)は、被制圧国(敗戦国)
の状況による原理原則がある。

 4、ネオコン・ブッシュのイラク統治方針は大幅変更寸前。米国
の警察官役後退(モンロー主義化)は、「群雄割拠・戦国時代」の
再来を招く。日本が最も不得意な分野(外交と諜報)が最重要とな
る。
 5、世界の「巨大資金」の本拠を、日本へ呼び込むための事前対
応策、安全・自由・安い税・高度技術が肝要。


★ 後半に、江田島孔明氏と合意の上、同氏の論文『地政学的大失
策が引き起こす、米国の衰退と世界の戦国化』を掲載しております
。長めですが、示唆に富んだ優れた内容でございます。是非ご一読
をお奨め致します。


★ 『本文』

◇ 1、現在の米国の世界戦略を主導しているのは、ブッシュ大統
領とその政権基盤となっているNeo Conservative(ネオコン、新保
守主義、ラムズフェルド国防長官・チェイニー副大統領等の、国益
追求のため軍事力行使を厭わない高官等のグループ)であります。

 1-1、前項の根底には、WASP(white, anglo, saxon, protes
tant)のキリスト教原理主義(ピューリタン精神)に基づいた単純
な善悪二元論(例、サダーム極悪人論)があります。

 1-2、一方、リアリズム(rialism、現実主義)を思考の基盤とす
るリアリスト達は、勢力のバランス(balance of power)を重視し
、ネオコンとは相当趣(オモムキ)を異にしています。

 1-3、今回のイラク侵攻を例にしますと、ネオコン(ブッシュ大
統領)は、シーパワー国家の圧倒的軍事力を背景に、海と空から開
始したイラクの全面的占領制圧を断行し、傀儡政権(亡命した西欧
型インテリ層が中心、イラク大衆に人気なし)を樹立して、全土の
継続的長期支配を目指しておりました。

 1-4、リアリスト達の案では、テロゲリラの資金源を断つため、
石油産出地域に限り、制圧(軍事侵攻)を断行したと思われます。
しかし、他の大部分の地域は、イラク内部の勢力(スンニ・シーア
・クルド・亡命した西欧型インテリ)抗争に当面任せ、イラクの三
分割案をにおわせます。お互いが主導権争いで疲弊した時期に、国
連の承認を取りつつ、乞われる(お願いされる)形式で収拾(軍事
的支配)に乗り出す計画であったと推測しています。

◇ 2、米国は、合衆国と言われる通り、多数の国からの移住で成
立しており、完全な一枚岩ではありません。カトリック信者も多数
います。国内には「有色人種」という潜在的なWASP嫌いを、相
当数抱えている点も見逃すことができません。

 2-1、英国・仏国・独国・伊国・西国・露国・東欧諸国の欧州系
ばかりではなく、アジア系の二世三世のインテリ層(学者・弁護士
等)や富裕層(経済人等)、更にヒスパニック・黒人系(混血を含
む)の有力軍人・高額所得者(スポーツ選手・芸能人等)も増加し
ています。

 2-2、米国の背後に君臨すると言われている「巨大資本グループ
」のユダヤ系は、共和党より民主党を支持する人が多く、本年秋の
大統領選挙を目前にして、ブッシュ政権の泣き所となっております。

 2-3、米国の戦争加担にうま味を有する「軍産複合体」は、米国
のイラクへの軍事突入を歓迎し、その背後には、ユダヤ色の企業の
存在を指摘する人もいます。しかし、ブッシュ大統領側の息のかか
った企業の方が利得をする、との情報も多数あります。

 2-4、イラクの復興支援を米国で独占しようとしている態度に対
し、欧州等の各国の不満が錯綜・増大し、米国(ネオコン・ブッシ
ュ)のイラクでの孤立化を促進しています。

 2-5、ネオコン・ブッシュの軍事強硬策の結果、イラク駐留占拠
が長引く程、米国の財政赤字累増と兵士の損害(死傷)が増加し、
米国の国民・メディア・世論の嫌戦ムードの高まりにより、方向転
換必至の情勢となって来ました。

◇ 3、武力で制圧した国家の統治(支配)は、被制圧国(敗戦国
)の状況に応じて、兵法上次の方式が適当と言われています。

 3-1、被制圧国(敗戦国)にトップと官僚機構が残り、統一され
ている場合。1945年の日本の場合が、その典型であります。
―施策― トップ(日本場合は天皇と内閣首脳)を抑える、ことで
す。戦勝国の意向にトップを完全に従わせれば、統治(占領政策)
が成功し、日本の場合のように、敗戦国が見事に再生する可能性が
高まります。

 3-2、被制圧国(敗戦国)のトップが混乱し(行方不明、国民の
信頼なし)、官僚機構・治安機構(警察)不鮮明、国内が分裂して
いる場合。今回のイラクが、その典型であります。
―施策― 優勢勢力のトップを懐柔して(金品その他の方法で抱き
込んで)、他の勢力を制圧して行く方式が、兵法の原理原則であり
ます。

 3-3、イラクの最大(優勢)勢力といえば、人口の60%強を占め
る「シーア派」となります。ところが、「シーア派」は、米国の大
嫌いな「イラン」に直結します(イラン・イラク戦争で敵対、イラ
クの米国大使館がイラク人に占拠され、大使館員が長期に拘束され
た)。たとえ一時的にせよ、「シーア派」にイラクの統治を協力さ
せることは、トラウマ心理(精神的外傷)で到底踏み切れなかった
と思われます。

 3-4、イラン(シーア派の本拠)は、米国の長期中東石油戦略の
制圧対象国(いずれ制圧したい国)であります。そこで、ネオコン
・ブッシュは、米国一国による陸軍力主体によるイラクの占拠継続
を、国連を無視しても強行した、と見ております。

 3-5、しかし、前項の戦略は、海洋国家(シーパワー)が、大陸
国家(ランドパワー)の非効率かつ損傷の激しい戦法戦術に浸った
ことになり、古今東西の多数の例を見ても、その成功は、限りなく
ゼロに近づきます。

◇ 4、ネオコン・ブッシュのイラク統治方針は、第1に財政悪化に
よる資金枯渇、第2に犠牲者増による米国国内世論の変化、第3に米
国同調国の米国離れ気運(スペインに派兵反対派の政権誕生、ポー
ランドの派兵意欲後退、韓国で嫌米の廬大統領が地盤を強化)、第
4に秋の米国大統領戦に黄色信号が灯った、等でイラク統治方針の
抜本的な変更(国連主導に接近)を迫られるに至っております。

 4-1、米国の当面の財政等の多くの問題点は、イラク出兵を軽く
し、世界の警察官としての役割を縮小すれば、概ね改善されます。
しかしながらこの変化は、モンロー主義(相互不干渉の閉じこもり
主義)に近づき、何でも何時でも米国頼りの日本の外交戦略には、
重大な影響が発生します。

 4-2、米国が自前の世界戦略を縮小させ、世界の警察官役を後退
させますと、21世紀の世界情勢は、「群雄割拠・戦国時代的な様相
」が一段と高まります。情報・諜報・謀略・工作・調略力が、軍事
力以上に重要となります。日本が最も不得意な分野が、最も肝要な
分野に変化します。

 4-3、外交力の抜本的な強化、科学技術力に注力、食糧・エネル
ギーの自給率の向上も、日本の基盤整備のため重要です。

◇ 5、世界の「巨大資金」の本拠は、現在米国が主で、英国・ス
イス・ベルギーあたりに分散していますが、うま味のある場所に何
時でも移動します。

 5-1、豊富な「カネ」と優秀な「ヒト」が、世界から集まった地
域が、必ず発展します。その条件は、次の通りであります。
 第1、安全―絶対的「治安」の良さ。犯罪の撲滅。
 第2、自由―経済活動の完全自由化、規制と詮索の完全放棄。
 第3、安い税―法人税と金融証券関連税を最低に、相続税無料化。
第4、技術―世界に誇る科学技術が集積されていること。

 5-2、日本は、周辺国から馬鹿にされない相応の軍事力は、絶対
に欠かせません。しかしながら、武力頼り(武人国家)は、軍備拡
張競争のワナにはまりますので、財政面から見ても避けなければな
りません。

 5-3、日本は、先ず最も臆病な『カネ』の集積(5-1、にあるよう
な世界のカネの集まる場所)を目指し、次いで『総合諜報力』(4-
2、後段)と『高度技術力』(モノ作り、水素核融合技術)を確立
することであります。

(米国の世界戦略の変化と日本の対応、nss0404.txt、完)


★ ”地政学的大失策が引き起こす、米国の衰退と世界の戦国化!
!”★
―江田島孔明―

△ 見出し
 背景、経済の実態、累積する膨大な赤字、有事のドル安、
地政学リスク、Evilについて、911、戦略転換、安保体制の変容、
シーパワーはランドパワーに手を出してはならない、中東直接支配、
ハートランドの罠、経緯、金融資本

■背景■
 アメリカ市民の貯蓄率がマイナスを示し、NYダウ、ドル為替も低
迷している。これは何を示しているのだろうか。過去の歴史をみる
と、戦争勃発や大統領暗殺などの外因性によるマーケットの衝撃は
比較的短期間で終結している。しかし、今回は911のショックでパ
ニックになって、その後、弱気市場が終焉したというわけではなさ
そうである。
 現に、2002年7月23日にはダウ工業株30種平均が7702ドル
まで下がり、テロ直後9月21日の底値を6.5%も下回った。その
裏には、米国の構造的諸問題、すなわち、恒常的な貿易赤字、異常
に割高な株価の維持、貯蓄率の低さ、そして軍事支出増加による財
政赤字が横たわっている。これは短期間で調整し、解決できる問題
ではない。これはアメリカからの資本逃避の兆し、つまり経済、社
会運営の条件が失われ、ビジネスを行う上での基盤が失われつつあ
ることを表してはいないか。

■経済の実態■
 具体的には、911事件以降のテロの脅威、治安悪化、治安対策
に伴う保険、物流といったコスト増大、株価低迷による消費冷え込
み、さらには移民の増大による社会の不安定化、人種、宗教、階級
闘争の激化、疫病の流布、国際的孤立、戦争の恒常化、訴訟費用増
大、経済の保護主義化、更に、経済取引や出入国への当局の監視強
化を嫌ったアメリカに対する敬遠といった兆候はかなり見られるの
である。
 EnronやWorldComの不正会計問題は米国の資本主義に対する信頼
を決定的に失墜させ、株式市場が虚飾と不正に満ちていることを表
している。更に、インドや中国への業務移転からアメリカ産業の空
洞化も進行し、NYの大停電にみられる途上国並みに劣悪な社会イン
フラといった状況をみれば、アメリカを支える経済基盤やインフラ
が非常に脆い、もっと言えば崩壊の淵にあるものであることがわか
る。
 有事に際してもドルが買われずに金相場が高騰していることもこ
の見方を裏付けている。穿った見方をすれば、米国の金融市場主導
の経済は、全てこの虚飾の上に成り立っており、実態経済として、
軍事航空通信産業など一部を除いて製造業については、当の昔に崩
壊しているといえないか。巨額の貿易赤字は雄弁にこのことを物語
る。
 もっと言えば不正な手段でしか資本市場から利益を得られないと
いうことは取りも直さず、資本市場はすでに利益を上げることがで
きない、つまり、吸い尽くされたのではなかろうか。
 さらに米国で最大の問題は社会インフラとしての「人」にある。
単純作業従事者は、英語もろくにできない移民パートタイマーに頼
り、工場の生産ラインもしかり。これで社会の運営が可能か疑問な
しとしない。しかも白人は近い将来マイノリティーになることが確
実である。今でさえ都市部では移民の増大を嫌って白人中産階級の
離脱、移民増加傾向がはなはだしい。
 一部富裕層は塀で囲った要塞町に住んでいる。全米で白人がマイ
ノリティーになった暁には、彼らの米国からの脱出が現実化するで
あろう。

■累積する膨大な赤字■
 米議会予算局(CBO)は6月9日、最新の財政予想の中で、0
3会計年度(02年10月〜03年9月)の財政赤字が4000億
ドルを超す見通しであることを明らかに した。米国のこれまでの
最大の財政赤字は92年度の2900億ドルだが、これを一気に1
000億ドル以上塗り替えることになる。
 さらに、最近の「双子の赤字」(家計も入れて三つ子の赤字とい
う人もいる。)について、急速に膨れ上がっている。2002年の
貿易赤字は前年比21.5%増の4352億ドル(約51兆円)で
過去最高であった。アメリカの負債が増え続けるのは国民の貯蓄が
ないためであり、借金は全て外国の資金で賄われている。
 しかし、このような借金体質でいながら、国民の投資は増えてい
る。貯蓄がないために外国から借金して投資を行っている。更に、
有事でありながら、ドルは円に対してもユーロに対しても安い。原
油の決済にもユーロが使われ出した。サウジがアメリカを見限った
ということであろうか。このことはドルの信用を大きく毀損させる
。やはり、経済面でのドル機軸体制の「終わりの始まり」であろう。

■有事のドル安■
 現在の有事でありながらの円高ドル安の進行の裏には、米景気の
立ち直りの遅れやEnron破たんなどを嫌った欧州や中東の資本が米
国から流出し始めた事情がある。一般に過大評価された通貨は過小
評価された通貨と比べると、一国の経済発展のスピードに鈍くなる
傾向がある。米国の貿易赤字はドル安を招く要因となっているが、
それ以上に景気回復を急ぐ米国がドル高を肯定し続ける理由はあま
りない。
 加えて、割高な米国株式や資産に対してグローバル投資家(米国
外の投資家、主に欧州中東投資家)が売り圧力を高めている。2000
年の米連邦準備理事会(FRB)統計によれば、米国の証券の65%
は、米国外の投資家が保有している。この保有率は1989年の49%か
ら大幅に上昇している。米国におけるグローバル投資家の動きは為
替のみならず、マーケット全体に大きな影響を及ぼすようになって
いる。以下は2002年8月の英紙フィナンシャル・タイムズ記事
である。「サウジアラビアの対米個人投資資金のうち1000億―
2000億ドル(約12兆―24兆円)が欧州に流出していると報
じた。米同時テロでは実行犯19人のうち15人がサウジ国籍だっ
たため米国とサウジの関係が緊張している。サウジ資金の流出は、
サウジ側が米国内での資産運用の安全性に懸念を抱き始めたためと
いう。」
 同紙によると、ある識者は「米国内のサウジ資産凍結を求める米
国のタカ派の主張が原因」と指摘。さらに、 同時テロ犠牲者遺族
がサウジ王子などを相手取り、テロ組織に資金援助していたとして
15日に起こした約1兆ドルの損害賠償訴訟で、資金流出が加速す
る可能性も指摘している。
 金融アナリストによると、王室を含むサウジの対米個人投資資金
は株式、不動産など推計4000億―6000 億ドルである。こ
れらの指標は米国の実体経済は大部分が外国人の資本によって賄わ
れていることを示している。このために、貿易赤字を増大させつつ
、ドル高政策を取らざるを得ないのだ。逆に言えば、産業競争力の
観点からは弱いドルが適正であるが、そうするとドル建て資産の流
出から、海外資本引き上げに繋がるのである。この矛盾の連鎖を断
たない限り、アメリカ経済に未来はない。

■地政学リスク■
 米国の抱える地政学的リスクを考えてみたい。対イラク戦を主導
しているブッシュ政権を支えるNeo Conservative(ラムズフェルド
国防長官、チェイニー副大統領等、米国の理想、国益追求のため軍
事力行使を厭わない高官達)とは何か。彼らの根底にはWASPの宗教
観たる、キリスト教原理主義(ピューリタン)に基づいた、単純な
善悪二元論がある。
 孫子を例にとるまでもなく、戦争が外交を含む、国家戦略の最大
の失敗であるという考えをとらず、軍事力行使に積極的である。ブ
ッシュ政権はテキサスの石油資本をバックにする、アングロサクソ
ン政権なのだ。この政権の特色は、政権内にパウエル国務長官やラ
イス補佐官といった黒人は入れても、ユダヤ人を入れていないこと
だ。ユダヤ系ネオコンのヲルフォビッツはあくまで国防副長官であ
る。そして、これらのタカ派が石油利権、イスラエル安全保障とい
った人脈と癒着しているのである。
 ユダヤ人はかってはイギリス、そして戦後のアメリカの外交政策
に影響を与え、金融資本主導のシーパワーの根幹をなした。そして
19世紀以来、中国を巨大マーケットと捉え、提携しようと試みる。
 彼らにとって外交というのは、言ってみれば国家と国家のビジネ
スである。自分に有利な条件で契約を結びつつ、相手にもそれなり
の実利を与えて、今後の付き合いに備えるという発想をする。つま
りビジネスでの交渉術に長けた者は、外交交渉術にも優れているこ
とになる。決定的な違いは、それぞれの交渉に関わる情報の中身が
違うということだけである。
 ユダヤ人が生んだ最高の外交官といえば、キッシンジャーであろ
う。もともと政治学者であった彼は、自らを巧みに売り込んで大統
領補佐官、国務長官を務め、その期間において米中和平とベトナム
戦争終結を実現した。度々秘密外交と言われた彼の手腕は、情報を
一手に集約しつつ、全ての分析を担当し、エッセンスだけを大統領
に提供して最小努力で最大効果を生み出す外交スタイルに特徴があ
った。彼は数々の成果を上げながらも、全ての花は大統領に持たせ
、なおかつ情報を独占して自己保身も図るなど、優れた人物であっ
た。
 このキッシンジャーを生んだ米国外交は、以後、共和党のWASP主
導政権における非キッシンジャー時代においては、常にカウボーイ
的外交を展開している。現在のブッシュ政権がその最たるものであ
ることは言うまでもない。始めから武力行使を辞さない姿勢を強調
し、ハードなアプローチによって交渉相手を屈服させ、それでも従
わなければ武力行使をするというものである。こうした単純な外交
が成立している背景には、歴史と伝統のあるヨーロッパ諸国が二度
の世界大戦により分割され、疲弊してしまったことに起因しており
、米国には不幸なことに対等以上の外交交渉を行う相手が存在しな
かったことにある。冷戦後、この傾向は益々強くなった。

■Evilについて■
 この傾向を端的に示すのが、ブッシュ大統領がレーガン元大統領
がソ連を指して”Evil Empire”と呼んだことに倣い、イラク、イ
ラン、北朝鮮を”Axis of Evil”と呼んだ事だ。日本のマスコミは
これを「悪の枢軸」と訳したが、全くの誤訳である。キリスト教原
理主義者にとって、Evil とはDevilであり、神の敵、悪魔を指す。
善悪二元論に立ち、どんな手段をもってしても、殲滅しなければ神
の意思にそむくということなのだ。
 つまり、「交渉の余地の全くない、どんな手段を用いても殲滅す
べき神の敵たる悪魔連合」というのが正しい訳である。彼らの本音
は上述の二度の世界大戦からニューヨークの金融資本主導の米国を
キリスト教原理主義、州権主義、孤立主義に基づく建国の理念に戻
すことだ。ブッシュ政権が国連やWall Streetと疎遠なのはこの文
脈で考えるべきである。世界大戦以来シーパワーであったアメリカ
をランドパワーに引き戻そうとしているのである。

■911■
 このような保守政権が成立している時に起きた、建国以来三度目
の本土に対する攻撃(一八一二年の英米戦争、太平洋戦争時の風船
爆弾)はアメリカの諸矛盾に火をつけ、国家政策を大転換させた。
すなわち、対テロの脅威を事前に排除するための海外への米軍展開
より本土防衛の優先、そして米国にとって危険と認定した国家への
先制攻撃オプションの採用である(ブッシュ政権は2002年9月
20日、大量破壊兵器を持つ敵への先制攻撃を正当化し、他国の追
随を許さない軍事力の圧倒的な優位を堅持することを打ち出した政
策文書「米国の国家安全保障戦略」を発表した)。
 この実現のため、米国防省は総額3799億ドル(45兆6千億
円)の2004年国防予算を発表した。さらに05年から09年ま
での5年間に、毎年年間200億ドル増額する中期計画も提示した
。米国の国防費は2001年の実績で見ると、世界最高額ばかりか
、2位〜11位までの合計した国防費に等しい。またミサイル防衛
では地上発射の迎撃ミサイル10基を配備するとしているが、これ
は北朝鮮の弾道ミサイルに対抗する狙いがあると明記した。
 今回の国防予算が掲げているのは、対テロ戦の勝利、米軍の変革
、部隊と兵員の質の維持の三本柱である。このため特殊部隊予算は
、15億ドル増の45億ドルになった。また無人偵察機や戦闘用無
人機(UCAV)なども14億ドル計上した。なお、今回の予算に
は約1000億ドルといわれている対イラク戦費は含まれていない。
 このような軍事費増大は、テロ支援の疑いがあるといった国家に
はアメリカが先に攻撃する、すなわち西部劇を実現するためである
。元々そのような傾向が非常に強い国家ではあったが、911はそ
れに火をつけてしまったのである。上記のような環境でビジネスが
できるかといえば私は悲観的にしか考えられない。資本逃避は現実
に始まっていると考える。そうするとますます、米国が世界におい
て唯一競争力を有している分野である軍事力で国際政治を左右する
。これは無限地獄しか生まない。

■戦略転換■
 現在本土防衛省を新設して国土防衛に躍起だが、これもコストが
かかるだけで無駄に終わる可能性が高い。なぜなら、世界に冠たる
米軍は大規模紛争には対応できても、テロのような低緊張紛争につ
いての対応は難しいのである。さらに、CIAもクリントン政権下で
予算が削減され、組織を維持できなくなっている。
 又、国内に「有色人種」という潜在的反米主義者を多数かかえて
いる点も問題である。国土防衛に追われると海外の米軍も縮小され
るだろう。欧州、韓国ではすでにその動きが顕在化している。
 又、「先制核攻撃ドクトリン」は要するに疑わしいと判断したら
玉石ともに破壊するということでこれは理論上全世界を破壊しない
とアメリカの防衛ができないというジレンマに陥いる。アメリカは
、ソ連脅威論から解放された後、とくに湾岸戦争を契機に、常識的
理解を超える対外脅威認識を育みつつある。すなわち、アメリカの
国際経済支配を万全なものにすることを目標とし、この目標実現に
妨害要因となる要素をすべて脅威と見なす発想である。911以降
この傾向は加速された。その結果アメリカは、自国の国益に影響を
及ぼしうるあらゆる要素に対処する戦略を追求し始めた。特にアメ
リカが警戒するのは、アメリカの言うがままにならない国家(「ご
ろつき国家」)と、アメリカの途上国支配に反発するグループ(「
国際テロリズム」)である。

■安保体制の変容■
 こうした脅威に対抗する手段としてアメリカは、欧州諸国及び日
本に対し、元来は対ソ防衛型軍事同盟だったNATO(北大西洋条約機
構)及び日米安保を、「域外適用」(NATO)、「周辺事態」及び「
対テロ特別措置」対処(日米安保)を重点とする攻撃型軍事同盟へ
と変質強化する方針を呑ませた。
 またアメリカは、「ごろつき国家」の核ミサイル奇襲攻撃に対処
するためとして、NMD(国家ミサイル防衛)及びTMD(地域ミサイル
防衛)構想を推進する構えだ。更に、湾岸戦争からイラク戦まで米
国が推し進め、実験を繰り返してきた「軍事における革命」(RM
A=Revolution inMilitary Affairs)は最小の犠牲と補給で最大
の効果を挙げるという点で軍事行動の敷居を非常に低くした。これ
はITや衛星と歩兵や戦車、飛行機などを総合的に組み合わせ、情報
の共有をし、ネットワークにより軍を指揮し、精密誘導兵器でピン
ポイント攻撃を可能にするのである。このシステムは現在米軍にし
か存在しない。裏を返せばNATOや自衛隊などと情報共有ができなけ
れば、同盟の意味がかなり失われ、単独行動にならざるを得ないの
である。
 このような世界最強の軍事力を誇るアメリカが、他国に対する軍
事干渉に最も積極的である。アメリカが21世紀国際社会の紛争の
根本原因となる可能性は大きい。仮にある国家がアメリカに1発や
2発のミサイルを撃ち込んでも、次の瞬間には、アメリカと同盟国
(NATO・日本その他)の反撃で壊滅させられる。その可能性を脅威
として、これを先制して軍事的に攻撃する戦略を採用したアメリカ
こそが、国際社会の平和と安定に対する重大な脅威となること可能
性が高い。
 まさしくこのままでは全世界に対する宣戦布告しか残されてない
。これは理論的に破綻している戦略である。さらに「シーパワーは
大陸内部に嘴を突っ込んではならない」というのは歴史を貫く大鉄
則である。大英帝国はその最盛期にも欧州内部に進出しなかったし
、大日本帝国の朝鮮半島および大陸経営もコストがかかり、中ロ米
との対立を招き、破局の根源となっただけであった。戦後日本の発
展はこれら大陸部における植民地、占領地といった負債を一掃した
ところから始まったのである。
 戦後の欧州は植民地問題に悩まされ、移民問題をいまだに解決で
きないでいる。これに対して、日本は敗戦というハードランディン
グにより、強制的に海外植民地のリストラができた。半島や満州な
ど利益をもたらすより持ち出しが多くかつ、安全保障上の問題も惹
起したため、当の昔に不良債権化していたのである。バブルを経験
した我々は土地支配が容易に不良債権化することを学んだ。

■シーパワーはランドパワーに手を出してはならない■
 古来、シーパワーは大陸内部に手を出してはならないという鉄則
の観点から現在、米国が推し進めているユーラシア大陸内部への進
出(アフガン、パキスタン、CIS諸国そしてイラク)は、崩壊への
第一歩といえないか。
 逆に言えば、ブッシュ政権下、ランドパワーとなったため、この
ような国策を採用したのだ。一説によるとアメリカはイラク戦争後
の占領について、GHQによる戦後の日本占領をモデルに考えている
という。とんでもない思い違いである。
 島国である日本と大陸国であるイラクの地政学的条件の差、更に
日本には敗戦当時友好国は存在しなかったが、イラクには50カ国
以上のイスラム諸国という友好国がいる、叉、重要な点としてイス
ラエルの存在等条件が違いすぎる。戦費の問題もある。アメリカは
戦費のための補正予算を組む方針であるが、その額は直接戦費と関
連経費(周辺国への支払いなども含む)だけで600〜950億ドルに達
するとされる。これは湾岸戦争時の760億ドルを上回るものである
。これまで短期決戦の場合に想定されていた300億ドル程度をはる
かに上回る金額である。今回は湾岸戦の時と異なり日本を始め友好
国が戦費負担に応じるか否かは不透明である。

■中東直接支配■
 さらに、戦争後の軍政による米軍直接イラク統治が、かえってイ
ラク国内や周辺国との関係を不安定にさせる恐れが大きいことから
、戦後長期間に渡り発生すると考えられるイラク占領や復興、防衛
関連のコスト(米軍10万人体制)が見込まれる。
 その費用は5年間で最低でも数百億ドル、イラク国内設備の崩壊
程度によっては数千億ドルに達する可能性も見込まれる。この様な
出費に悪化した財政(03年度4000億ドルの赤字)が耐えられ
るのかどうか疑念無しとしない。
 イラクの原油利権を手にしたところで、回収できるかどうか不明
である。むしろ、アメリカの真の戦争目的は、イスラエルの安全保
障のための中東直接支配と、原油支配によるドル決済システムすな
わちドル機軸体制維持であろう。 基軸通貨としてのドルが危機に
瀕し、終焉もかえつつあることは上述したが、これは、アメリカに
どのような影響をもたらすのか。つまり、ドルが基軸通貨でなくな
れば、アメリカの赤字はファイナンスできないということである。
逆にいえば、基軸通貨であれば、いくらでも貿易・財政赤字を累積
できる(お札を増刷すればよいだけ)のである。
 そして、アメリカの産業構造が空洞化している以上、この機軸通
過の立場をユーロに奪われれば、アメリカの経済破綻は確実であり
原油決済はその額の大きさから基軸通貨の必要条件である。イラク
にユーロ決済を求めたフランスの真意はそこにある。
 要するに、現状の赤字体質を維持する上で基軸通貨としてのドル
は必要であり、そのために、イラクの原油を支配し、ドル決済を維
持しなければアメリカは経済破綻を迎えるということである。これ
が、イラクを中心に中東諸国全域を民主化という名の下に直接支配
する理由である。

■ハートランドの罠■
 バグダットが短期に陥落した後、対米テロ激発している。過去の
戦史をみても、ランドパワーは首都を落とされても降伏せず、消耗
戦を続けるケースが多い日中戦争はその代表だ。独ソ戦において、
モスクワは落ちなかったが、落ちたとしても抗戦を続けたであろう。
 真の戦争は陥落後に始まったのである。むしろ、イラクとしては
米軍を駐留させ小規模な一般市民を巻き込んだテロを続発させてい
く戦術であろう。米軍の過剰反応から市民の犠牲も避けられない。
これは市民によるテロを呼ぶ。現在のファルージャを巡っての戦闘
はテロリストVS米軍ではなく市民VS米軍につながる可能性を秘めて
いる。こうなったら絶対にアメリカには勝ち目はない。
 まさしく独ソ戦や日中戦争と同じ惨状が繰り返される。独ソ戦を
例に引くと、ドイツは150個師団300万人でソ連を攻めたが、
敗北した。最大の理由は占領政策の誤りにより、現地住民を敵に回
し、かつソ連の地形や気候を甘く見過ぎていたためである。米軍は
この例に学ぶべきだがそうしていない。
 更に重要な点として、イラクは近代的意味の国家ではなく、各部
族をバース党が強権支配していただけである。それぞれの部族は外
国勢力と結びついている。よって、イラン、シリアを始め、他のイ
スラム諸国についても、戦線拡大して直接管理下に置くという方針
もあり得る。むしろ、イラクを占領、統治する以上、そうしなけれ
ばならなくなるだろう。地政学的に見た場合、中近東エリアの攻勢
終末点はインダス川、
 地中海そして紅海を結ぶ線である。お気づきであろうか、アレキ
サンダー大王が制圧したか、制圧しようとしたエリアと重なるので
ある。ここまでを確保しないとこの地域は安定しない。
 そしてアフガン戦争以来、アメリカはそれを目論んでいる。つま
り、当初からアメリカはこの地域全域を制圧するつもりなのであり
、それは絶対に不可能だと断言する。
 すなわち、大陸内部への際限のない防衛線拡大が必要になるので
あり、この場合のコスト、リスクは計り知れない。まさしく、大日
本帝国陸軍やナチス・ドイツを始め、歴史的にランドパワーが陥っ
て崩壊を招いた罠に嵌る可能性が高いのだ。
 上述のNeo Conservative達が、石油利権に則って中東全域を直接
支配することを考えているとしたら、これは絶対に失敗に終わる。
軍事や地政学の常識を無視し、資源確保という理由で内陸部へ戦線
拡大すると失敗するのは戦前の日独を例に引くまでも無く、歴史の
鉄則だ。
 私が、アメリカの衰退を予想するのは、彼らがこの資源に支配さ
れていることが明白であるからだ。非常に危険である。更に、史上
、ユーラシアのハートランドに手を出して無事だった帝国は存在し
ないし、イスラム教徒をキリスト教徒が支配してうまくいった例も
無い。十字軍やソ連のアフガン侵攻を見るまでも無く、常に凄惨な
殺戮に終始している。アメリカは複数の戦略的過誤を犯している。

■経緯■
 付言するならば、アメリカの今日のユーラシア大陸ハートランド
地域への進駐の契機は、場当たり的で破綻した中東政策を補うため
のサウジアラビアへの軍事駐留であった。
 これが911のテロを呼びさらなる軍事介入へと連鎖が続いてい
る。私にはまるで、戦前の日本陸軍の行動を見ているようにしか見
えない。サウジ駐留米軍は関東軍であり安全保障理事会に”Good B
ye”を言おうとしているNeo Conservativeという人たちは陸軍皇道
派と変わるところはない。差し詰めCISやパキスタン、アフガニス
タン駐留は盧溝橋事件であり、イラク戦争はシナ事変である。上述
のシーパワーとランドパワーは相互不干渉を貫くべきという黄金律
に従い、アメリカがサウジへの駐留米軍を引き上げるならこのよう
な事態は招かなかったのであるが。
 アメリカが懸念する「大量破壊兵器拡散」についてであるが、イ
ラクを叩いたところで、その製造方法、材料が他の国にある以上、
もぐら叩きにしかならない。このままでは全世界に対して先制攻撃
しないと、テロはなくならないのである。まさしく、自家撞着であ
る。世界最初の核爆弾を作り使用したその報いであろうか、このま
まではアメリカに対する核テロは避けられない。因果応報というし
かない。
 私は、歴史を学んだ立場から、過去の世界帝国が繁栄の絶頂から
崩壊まで以外に早く推移していることを確信した。アレクサンダー
、ローマ、元、大英帝国しかりである。日本人は戦後アメリカ中心
の世界観をもつようになったが、必ずしもアメリカは絶対ではなく
、むしろ破綻の危機が内外に山積していることに気づくべきである。
 そしてアメリカが国際社会から退場し保護主義、モンロー主義(
建国の理念)に立ち入ったときにどうすべきか真剣に考慮すべきで
ある。この場合の保護主義はかっての孤立主義ではなく、アメリカ
に忠誠を誓う国家を従えた上での単独行動である。更に言えば、老
婆心ながら、イラク戦の終結はシーパワーとランドパワーの最終戦
争の始まりではなかろうか。
 アメリカによるイラク戦争は、上述の旧約聖書にある、リバイア
サン(シーパワー)とビヒモス(ランドパワー)の最終戦争の予兆
ではないか。国連安全保障理事会の議論を見ていると、米英(シー
パワー)VS中露独仏イスラム諸国(ランドパワー)の対立の構図が
浮き彫りであることは明白である。黙示録のアルマゲドンとは中東
の地名であるという。この分析が誤りであることを願うばかりであ
る。

■金融資本■
 私見であるが、米国を主導している金融資本は現時点ではアメリ
カに本拠を置いてるが、本質的には国境を有しない。Neo Conserva
tiveの暴走を含む上記の状況に鑑みてアメリカを見捨てる可能性は
十分にある。
 ここに、日本と金融資本との提携の可能性があるのである。考え
てみれば米国人の貯蓄率がマイナスを示し、不正手段を使ってしか
資本市場から利益を得られないというのはすでに金融資本が米国か
ら利益を吸い尽くしたことを示していると言っていいであろう。一
般の米国人はこのことにどれほど気づいているのであろうか。彼ら
こそ金融資本によって収奪され続けたのである。年金すらもらえず
、財産を株ですってしまった中産階級のなんと多いことか。
 現時点でアメリカの将来を悲観視する声はまだあまりないし、私
も将来の衰退を断言するだけの情報を持ち合わせていない。しかし
、最悪のシナリオとしてアメリカが国際社会から退場し保護主義、
モンロー主義(建国の理念)に立ち入ったときどうすべきかを想定
して対策を練る必要はある。
 今回のモンロー主義において、単純な孤立主義ではなく、ブッシ
ュ政権下でのアメリカが世界との関わりは経済は二の次でありイラ
ク戦で露呈されたように国際協調はありえず、米国の単独行動に賛
同する国家のみを従えた上での対テロ戦争が中心になるだろう。
 ニクソンショック(1971年年8月15日に発表されたニクソ
ン米大統領の金とドルの兌換を停止するドル防衛策。これ以降、変
動相場制に移行した。)以降、ドルが金とのリンクを切られても世
界の基軸通貨であったのは、アメリカの軍事力を核とする総合的な
国力が信用を得ていたためである。いわば、アメリカ軍事力本位制
とでもいうべき体制であった。
 イラク戦争の表面上の終結は実は対テロ、対イスラム諸国との長
期戦の始まりであると考えると、今、あらゆる指標はその国力(軍
事力)が衰退しており、戦後の国際秩序たるパックスアメリカーナ
(アメリカの支配による国際秩序安定:ラテン語のPaxはPeaceの語
源であるが、平和という意味ではなく、「強者による弱者併呑によ
り達成された安定」が正しい訳である。)は、あらゆる面で危機に
瀕していると見るべきである。
 この観点から、欧州統合は米国以後の世界を見越しての動きと見
られる。米国が戦後果たしてきた世界の警察官、パワーバランサー
としての機能はもう期待できない。すなわち世界は足利幕府が応仁
の乱で衰退した後に戦国時代を迎えたように、戦国化していく可能
性が非常に高い。日本もアメリカ以後を見据えた世界戦略を考える
必要があり、環太平洋連合はその提言である。
(江田島孔明完)

(日本刷新再生21★21世研4n04完)


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